日本各地のテレビが赤い電気を放ち始めていた。各テレビ局も突然放送室のテレビが奇妙な放電を始め、ただ事ではないと感じ始める。日本テレビの放送室もそうだった。
「おいおい何だよこれ……ただの電波ジャックじゃねぇぞ!?」
「今電波の発信源を辿っています! フジテレビ……いや、TBS……色んなところから発されています!」
「ありえねぇだろ!? 電波がそんなテレビ局を経由するか!?」
ディレクターの男が放送室で怒鳴っている。部下の女性にこの情報の出所を探らせているようだ。
「待ってください。これ、なんでしょう……?」
テレビには、その場に居る者達の名前がなぜか映し出されている。あまりにも奇妙だ。恐ろしい。ディレクターの男は腰を抜かしてその場に座り込んでしまう。
「前田庄司……俺の名前だ……なんで、なんでテレビにこんなのが映ってんだよ!?」
その瞬間、突然放送室の扉が開いた。そこから小さな女の子がアンテナを持っている。
「あのー……屋上まではどうやって行けばいいんでしょうか?」
その女の子は栄美だった。怯えるディレクターは震えながら突然現れた女の子に指をさして屋上への道を教えた。
「え、東の階段を上がれば……」
「ありがとうございます」
それを聞いて栄美は扉を閉めて階段の方へと向かう。
「……あのガキ、まさか幽霊じゃねぇよな?」
「マズい、既に全国に放たれた電波が動き始めてる。殺戮を始めるまであと3分ってところか……」
ドクターは雨と風が強まる中、東京タワーの外階段を登り、できる限りの高さへと向かう。
「思ったより時間がない! 早くしないと……」
雨と風に吹かれながらドクターは上へ上へと急いでいく。早くしなければ日本中のテレビの前の人間が電波に殺される。
「下は見るなよ。ここは既に300mだ」
こんな天気の中、電波塔の上に登るだなんて。ただでさえ今日は一回死にかけたというのに、今下には死が広がっている。
「よぉし、ここならちょうどいい。日本中の電波を集められる」
ドクターは電力板のようなものを見つけ、そこに機械を繋げる。あとは……
「みんながちゃんと設置してくれているかどうか。あと2分」
頼は警備員に追いかけられながらもひたすら屋上を目指していた。既に警備員は仲間を呼んで彼の事を追いかけている。
「もっと応援をよこしてくれ。小学生の……不審者が建物の中にいる!」
もし捕まってしまえばアンテナを設置できない。そうなれば日本は一巻の終わりだ。だけどもう体が動かない。階段を既に10階以上も駆け上がっている。
「もうダメ……走れない……」
いくらなんでも、屋上までノンストップで駆け上がるなんて無理だ。心臓がバクバクとしている音が体中に響き渡る。
「だけど……」
屋上まではあと少し。だけどもう体が無理だ。もうこれ以上は……そう思った時、ある言葉が頭に浮かぶ。
《……うん。でもみんなのために戦わないとって思ってる。とても怖いかもしれないけど、今は頼くんたちにしかできないの》
《それに……今は私だっているし》
彼女の言葉と顔が頭に浮かぶ。そうだ。自分はやらなければ。
「僕がやらなきゃ……お姉ちゃんのために、みんなのために!」
自分の体にムチを打って、ひたすら階段を駆け上がっていく。下から警備員たちの声が聞こえてくる。
「待て! 待つんだ!」
「嫌だ! 待たない!」
屋上の扉が目の前に現れた。その扉を開いて……
日本中のあらゆるテレビがあの番組を流している。人々はテレビに映る“自分の名前”に恐怖を抱き、テレビの前から去る者も多かった。中にはこれは一体何のドッキリなんだと思って集中して見続ける者も。
「危ないよ! 早く逃げよう!」
「何言ってるんだ? これはただのテレビだぞ?」
赤い電気を放つテレビに一切臆していない。そんな彼のことは諦め、その男の彼女は家の外へと避難する。
「すげぇ、今どきのテレビはこんなことできるのか……」
その番組は名前を映した人間を狙い続ける。たとえどこまで逃げたとしても、それから逃れることはできない。
日本テレビの放送室、怯えるディレクターの男は次第に強まっていくテレビの赤い電気の前に何もできず、ただそのテレビを見続けることしかできなかった。
「何だよ……何なんだよ…」
《あ、アアア、明日の……明日の犠牲者は……以上です おや……オヤスミナサイ》
テレビの無機質なナレーションがそう告げた途端、放送室中のテレビに走る赤い電気が一つにまとまり怪物のような姿となった。それは叫ぶように男を襲い……
《やぁ! テレビにかじりついているテレビっ子の諸君! 僕はドクターだ!》
突然赤い電気の怪物はテレビに吸い込まれるように消え、その画面には中学生らしき男が映っていた。
「ド、ドクター……?」
《今、日本中のテレビが恐ろしい番組を流してただろう? けどもう大丈夫! 僕が日本中のあらゆる放送電波をジャックしたから》
華はフジテレビの放送室に走り、しっかりと作戦が成功したかを確認しに来る。放送室の人間は誰もが奇妙な電波ジャックに怯えているが、華は違う。テレビに映るドクターを見て微笑んでいた。
「ドクター……!」
《今テレビにまとわりついた赤い電気は宇宙から来た恐ろしい殺人電波だ! 僕が妨害電波を出さなきゃ今頃みんな殺されてたよ! さぁ日本中のみんな、ドクターに感謝するんだ!》
日本のどこか、誰も知らない地下深く。その組織はテレビ画面を凝視していた。
「長官、この男“ドクター”と名乗っています」
「まさか、この男がドクターであるはずがない。彼は……英国人の男性の見た目をしていたはずだ」
「恐らく“再生”して日本人の見た目になったのかと」
「まさか、そんなことが……」
日本のどこかにある諜報・軍事機関にして、対エイリアンの特別組織……
「UNIT」の日本支部は、突然テレビに映り「ドクター」と名乗った男のことを見続けていた。
日本中のテレビを見ていた人々は、突然現れた謎の男“ドクター”に混乱していた。無理もない。テレビが突然奇妙な光を出した後に突然こんな明るい男性……というより子供が現れるなんて。
《これでもう誰も死なない! あの電波は各テレビ局に設置されたアンテナを通じて東京タワーへと送られ、そして東京タワーの真下にあるターディスに全て送り込まれる! どうだい華、僕の作戦は素晴らしいだろ? 日本中に拡散された電波をテレビ局を通じて全て東京タワーに送る! 良かったよ、まだスカイツリーになってなくて。古いアナログ電波! それがこの作戦の鍵だったってわけさ! 地デジだったらもうちょっと複雑な機械を作らないといけなくてそうなってたら間に合わなかった。アナログ放送万歳!》
「……ちょっとドクター、私の名前を全国放送で流さないでよ」
聞こえないと思うが、華はテレビ画面に向かってドクターに文句を言う。
《悪いな華、これはさっき録画した映像だから何か反応しても答えられない》
「録画のくせに反応してるじゃん」
《そうだっけ? まぁ細かいことは気にするな。この作戦を遂行できたのはそう! 少年探偵団の協力あってこそさ! ありがとうライアン! ありがとうエイミー! ありがとうミッキー!! それと千葉県警の町田警部! そして三崎華!! あ、そうそう、最後にこの映像の最後に記憶を消す光を日本中に流すから君たちは見たことを全て忘れる。だから心配するな! これで僕が電波ジャックしたことは何の罪にも問われないね》
テレビの中のドクターははにかみながら画面のこちら側を見つめる。
「ちょっと待って、ウソ? 記憶消すの!?」
「心配するな華、これつけて」
気付けば隣にはびしょ濡れのドクターが立っていた。彼はポケットからサングラスを出して華に手渡す。
「これって……」
「前にグレイヴを消した時につけてたサングラスさ。ほら、もうすぐ光るよ」
ドクターも同じサングラスを取り出してかける。
《さぁみんな準備はいいか? いち、に、さん……》
その瞬間、眩い光が日本中を包んだ。
「見てみろよ華、日本中に拡散された10Gの殺人電波が全てこのUSBに詰まってる。解放されたらたぶんすぐ僕のことを殺しに来るから、宇宙の果てに捨てないと。光の速度で追いかけてきても100億光年かかるぐらい遠くにね」
ターディスの中、ドクターはUSBを投げて華に手渡す。謎の番組の事件を解決し、ドクターの顔は晴れやかだ。
「ちょっと、アンタが死にかけたモノをこっちに投げないでよ」
華はドクターに投げ返す。一瞬受け取るのに失敗して落としそうになるが、なんとかキャッチできる。
「おいおい、これはすごく危険なんだぞ? 壊れたらどうする」
「先に投げたのはそっちでしょ。大体そんなに脆いの? そのUSB」
「まさか。5000世紀で作られた1000万エクサバイトの超大容量USBだぞ? そう簡単には壊れないさ」
そう言うとドクターはUSBをポケットの中にしまう。
「そういえば、町田警部は? あれから会ってない」
事件が解決した後、ドクターは探偵団のみんなをターディスで集め千葉へと戻って行った。そこに町田警部の姿は無かった。
「まさか、間に合わなくて死んだとか……」
「何言ってる? 彼はちゃんと生きてるよ。ターディスの中を見たら怖がって『電車で帰る』って言ったんだ」
「なんだ。けど町田さんもこれで気分が晴れたかな。奥さんが事件に巻き込まれたわけだし……」
彼は言っていた。自分の妻も2週間前に心臓発作で亡くなったと。そしてこの事件の捜査を始めたわけだ。
「きっとそうさ。今度顔を出しに行ってみようか?」
「うん。ターディスがあればいつでも行けるもんね」
「さて、『恐怖! 殺人番組』の謎も解決したことだし、次はどこへ行く?」
ドクターは操作盤をいじりながら時代と場所を設定し始める。次の行き先はどこか、華の口から語られるのを待っていた。
「卑弥呼とスサノオに会って、ドクターの死にかける場面も見たし、そろそろ私は元の生活に一旦戻ろうかな」
「また元の生活か。分かったよ2019年に設定した」
ドクターはモニターの画面を見せる。2019年の7月20日。運動会からもう1か月以上後だ。
「夏休みだってしっかり楽しみたいし。そうだ、クラスのみんなを乗せて宇宙のプールにでも行こうよ! きっと楽しい」
「それは無理だ。ターディスに誰でも乗せるわけじゃない。クラスメイト全員だと? 30人もターディスに載せたら、コイツがヘソを曲げて宇宙のプールどころか宇宙の終わりに行きかねない」
ドクターは操作盤を撫でると、ターディスが鳴き声のような電子音を上げる。
「ターディスってそういえば生き物なんだっけ? それなら仕方ないか」
「理解があって助かるよ」
この時代とおさらばし、次の目的地は現代。ドクターが時間を飛ぶためのレバーに手をかけた瞬間、ターディスにドンドンとノックがされた。
「あっ、そういえばあの子たちとのお別れがまだだった」
「そういえば約束してたな」
ドクターはレバーから離れ、扉の方へと向かっていく。
「ドクターさん! ドクターさん!」
「そう何度も言わなくてもわかってるよ。やぁライアンにエイミーにミッキー」
「その名前で呼ぶのやめて」
栄美がドクターの腹を軽く殴る。
「さすがは少年探偵団だ。都市伝説の謎を無事解決できたな」
「まさか。解決したのはドクターだろ?」
「頼がこのことを言ってくれなきゃ、僕は今頃ずっとこの時代で謎を調べてたよ」
「ああ。頼のおかげだな。こいつめ!」
翔は頼の頭をグリグリと押さえつけてじゃれあう。
「ちょっとやめてよ」
「でもドクターさんは警察じゃなくて探偵だった。なんでPOLICEって書いてある箱に乗ってるの?」
確かにその通りだ。もう彼らは小学三年生。簡単な英語なら理解できる。
「ターディスにはカメレオン回路っていうものがついててね。その場所、その時代に合わせた姿に変わる機能があったんだ。でも1950年代のイギリスに止まって、この姿になった後に壊れた。それからはこの見た目が気に入ってるからずっとこのまま。別に警察は関係無い。でもクールだろ?」
ドクターが自慢げにターディスをポンポンと叩く。
「そう? せっかくの宇宙船ならもっとギンギラギンにかっこよくすればいいのに。ミレニアムファルコンみたいな感じで」
「宇宙船らしいのは好みじゃない」
「ちょっと待ってドクター、私そのこと初めて聞いた」
「ずっと言おうと思ってたけど言うタイミングが無くて」
頼は大きく深呼吸をし、二人に話しかける。
「それで、もういなくなっちゃうの? ドクターと……お姉ちゃんは」
「ごめんね。私たち急がしいし、この時代の人間じゃないからもう行かないといけないの」
「そんな……」
頼は落ち込むように下を向いた。
「なぁなぁ! 俺たち、もっとそのターディスに乗りたい! どこの時代にもどんな場所にだって行けるんだろ!?」
翔は目を輝かせてドクターに訴えるが、ドクターは首を横に振る。
「君たちはまだ小学生だ。小学生に宇宙の旅は危険すぎる。もう少し大きくなってからだな」
「それじゃあ! 僕たちがまた大きくなったら会いに来てくれる?」
頼は大きな声で二人に訴えた。
「ああもちろん。また会おう少年探偵団」
そう言うと、ドクターはターディスの中へと消えていってしまった。華はまだターディスの玄関に残っている。
「ねぇ頼、あの事言わなくていいの?」
栄美は頼に肘でつっかかる。
「あの、お姉ちゃん、あのね……」
頼はどこか顔を火照らせながら華のほうをじっと見つめる。
「どうしたの?」
「……やっぱりなんでもない! 次会ったら、言うよ」
「何だよ頼! 意気地なしだなぁ」
翔は頼の頭を思いきり叩く。
「まさか、頼くんは意気地なしなんかじゃないよ。だって頑張って悪い電波を倒すために頑張ったしね」
華は笑顔を少年たちに向ける。みんなもそれを見て笑顔を浮かべる。
「そうだ! 最後にとっておきのマジック見せてあげる! ターディスのこと、じっと見てて!」
そう言うと華もターディスの中へと消えていく。少年探偵団の3人は言われた通り、じっとターディスを見つめている。すると……
「すげぇ! 消えた!」
ターディスはいつも通りあの音をふかせながら3人の前から消えていった。
「宇宙ってすごい!」
栄美はそれを見て口を覆いながら驚いていた。
「あっ、上見て!」
頼が指をさした先では、ターディスが空に浮かび遠くに見える月に向かい飛んで行っていた。
「ドクター」
「何だ?」
「やっぱり、あなたって優しい」
「今更気付いたのか? 宇宙一の名探偵で、宇宙一天才で、宇宙一優しい。それが僕さ」
ターディスは夜空の星の中、エンジンの轟音と共にどこかへと旅立っていった。
「江ノ島ーー!!!」
「意外。こういうのってアンタは好まないと思ってた」
「運動会とか色々やって思ったんだ。たまには青春を楽しんでみるのも悪くはないってね。せっかくの江ノ島だぞ? 存分に楽しもう」
「水というのは非常に敏感だ。人が感知できない揺れも確かに映す」
「地震!?」
「みんなこの情報に疑問を抱いてない。ここだけが局所的に揺れるなんて変だ」
「生物反応、7……」
「それって……人間だけ?」
「おいおい、なんなんだあのデケェミミズ!」
「しかもかなり飢えてる」
「ドクター! 逃げよう!」
「この島には何か秘密があるはずだ」
次回
THE MONSTERS IN ENOSHIMA〈江ノ島の怪物〉
次回の投稿は少し遅れるかもです。長くて1週間ぐらい