DOCTOR WHO 青い箱の中の少年   作:ナマリ

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気付けばもう八話、再開してから4話目ですね。
一応八話から全体としては後半戦って感じになります。


第八話 THE MONSTERS IN ENOSHIMA〈江ノ島の怪物〉PART4

 

「ターディスは近い、こっちだ!」

ドクターが合図をして走り出し、華たちはそれについていく。何体ものテラワームが後ろから迫って来る。エレベーターのテラワームも回復し、こちらへと向かってくる。しかし後ろからだけでなく、横からも一体来ていた。そしてそれが美智の方へ向かっていく。

「キャアッ!」

「美智!」

横から襲って来たテラワームに突撃され、美智は吹き飛ばされ道から外れてしまう。

なんとか頭は打たなかったので気を失わずに済んだが、倒れている間にテラワームはだんだんと近づいてくる。

「嫌……!」

「建物の中へ入れ!」

ドクターの助言を聞き、美智は近くの建物へと入っていく。その建物はさきほどタコせんべいやタピオカミルクティーを買った場所だ。

扉は開いており、そのまま中へ入り鍵を閉める。しかしテラワームの力は強く、扉はすぐにも破られてしまいそうだった。

「美智は大丈夫だ! このまま先へ……」

「ちょっと! 美智を放っておくの!?」

「ヤツらは何匹もいる! こうしてる間に囲まれたら手遅れだ! 船まで行けなくなる!」

アキが美智を見捨てようとしたドクターの手を掴む。確かにこのまま美智を待っている場合ではない。確かにその通りなのだが……。しかしそんな問答をしていても既に遅かった。10匹ほどのテラワームが建物沿いのドクター達を囲んだ。

「そんな……」

「屋根に登れ!」

建物の横に立ててあるはしごを立て、今度は屋根の上に上っていく。清を一番先に登らせ、ドクターは一番最後に登りきる。寸前のところでテラワームに喰われそうになるが無事に登りきれた。

「この建物、高くないしすぐに登ってこられるよ!?」

「けど下にいたままじゃ喰われるのがオチだ」

「上に来たって喰われるのがオチだろ!?」

光輝がたいまつを振り回しながらテラワームを近づかせないようにするが、一匹のテラワームがたいまつに食らいつき、そのまま折ってしまった。

「マジかよ……」

「どうするのドクター!? 何か考えがあるんでしょ!?」

「今日が人生最後の日かも」

ソニックドライバーを必死にテラワームに当ててみるが、これはあくまで機械いじりや鍵を開けるための道具。テラワームの情報しか入ってこない。

「そんなこと言わないでよ!」

「僕にだってできることとできないことが……」

一匹のテラワームが今度は屋根に食らいついた。もう上に上がってくるまで時間の問題だ。

清は猟銃でテラワームを何匹も撃っていくが、すぐに再生してこちらへと戻って来る。時間稼ぎになるほどテラワームの数は少なくはない。

「そんな、もう弾切れか……」

ポケットなどに手を突っ込んで弾が入っていないか探すが、どこにも無かった。諦めた清は銃だったものを手に、思いきりテラワームを殴る。

 

建物の中に入っていた美智は、成すすべもなく天井から聞こえてくる華たちの声に耳を澄ませるしかなかった。

「何か……何か武器になりそうなもの……」

コンロ、ジュースのディスペンサー、あとは食材……部屋の中を探すが、それしか見当たらない。包丁が無いかも探したが、この店ではどうやら使う必要が無いらしい。なぜならタコせんべいもタピオカも、たい焼きも包丁を使う必要は無いからだ。やるせなさに壁を殴っていると、ついに扉が破られてしまった。

「ひぃ……っ! 来ないで……来ないで……っ!」

近くにあった箒を手に振り回すが、テラワームは意にも介さない。美智に近づき、その大きな口を開いていく。

「嫌ァーッ!」

振り回す箒が、ある袋に刺さった。その袋の中からは粉が吹き出し、あたり一面が粉煙に包まれる。

「うぅ……」

箒を捨て、地面に座り込み頭を抱える。喰われる前のせめてもの抵抗。しかしそれも意味がないのだろうな。諦めと恐怖で何も考えられなくなり、頬には涙が流れる……

 

……そのまま数秒が経過するが、何も起きない。テラワームの腹の中ではないはずだ。電灯の明かりが目に入る。

「え……」

目の前でその怪物は苦しむようにのたうち回っていた。そしてそのまま体が溶けるように小さくなっていき、ついに動かなくなった。

「死んだ……ってこと?」

箒を拾い、それでつっつく。反応は何もない。死体となれ果てていた。

煙のように粉が広がった部屋の中で、美智は不思議に思った。弱点も何も無いはず。こちらから攻撃したはずがないのに死ぬとはどういうことなのだろうか? 部屋の中を見渡すが、何もわからない。

「何で死んだの……?」

ふと箒の先を見てみると、そこに白い粉がついていた。さっき何かの袋に刺さった跡だ。

「これってまさか」

この部屋に充満しているこの“粉”。それを見てあることに気づいたのだ。

 

既に屋根の上には二匹のテラワームが上がって来ていた。卓也は残った一本のたいまつで必死に応戦するが、これに害が無いと気づいたのかそれに食らいついて折ってしまう。

「最後の一本が……!」

「もう火は怖くないってことか? まったく虫の癖に賢いな」

賢いとはいえ単純な知能。ドクターの煽りに乗ることも無ければ退くこともない。

「そんなこと言ってる場合!?」

華がドクターの背中を叩く。

「一つだけ案がある」

「それ何?」

「僕が囮になる。その隙に君たちはターディスへ。場所は岩屋近くの海岸だ」

「囮って……死ぬつもり!?」

華は怒鳴った。

「じゃなきゃこの状況を打開できない。誰も残らずに死ぬぞ」

「だけどアンタが囮になる必要は……」

「君たちはまだ若い。僕は長く生きてる。もう十分さ」

そう言うと、ドクターはソニックドライバーを華に手渡す。

「そんなことダメだって!」

「ターディスは生きてる。簡単に君たちをこの島の外まで逃がしてくれる。だから……」

「やめてよ! 今は夏休みなんだよ? 死ぬだなんて言わないで!」

華は思いきり彼の背中を叩く。痛みでついごほっという声が出る。

「死ぬとも限らない。僕はその可能性に賭けるよ」

華以外、誰も進む彼を止めようとはしない。清はまだ大事なことを伝えてないと言おうとするが、既にテラワームの集団はドクターに近づいている。

「行くんだ早く! 行け!」

囲まれ、もう助かる術はない。長い人生ももう終わりだ。いい人生だったと胸を張って言えるだろうか? しかしそんなことを考え終わる隙に

……粉がテラワームを襲った。

「何だ!?」

粉が降りかけられたテラワームはまるで塩をかけられたカタツムリのように悶え苦しみ、そのままその場に倒れて動かなくなった。ドクターを囲むテラワームは一匹残らず死亡した。

「まさか……これって」

「仁くんは生きてるってこと」

目の前には袋を持った美智が居た。粉が体中にかかって真っ白になっている。

「どうやったんだ!?」

「私にも分からない。ただこの粉をかけると、コイツらが死ぬってことが分かっただけ。なんで死ぬのかは私も知らない」

まさかの展開に、華たちは呆然としていた。しかしドクターが無事だったことに気づくと、華は彼の近くに向かって頬に思いきりビンタをした。

「痛いな!」

「もう死ぬなんて言わないで! ただでさえ前死にかけたくせに」

「いつも死にかけてる、いつも通りさ」

殴られた頬をさすりながら答える。その様子を見て光輝は華に頬を殴られる様子を少しだけ想像した。

「それで、この粉は何だ?」

ドクターは美智から袋を奪い、そこに書かれている文字を見る。

「タピオカ澱粉……そうか、タピオカか!」

ドクターは袋を手に華たちの方を向く。

「なんでタピオカが弱点なの?」

「さっき言っただろ? ヤツらの弱点はポピレンって物質だ」

「タピオカ粉が、そのポピレン?」

卓也は折れたたいまつを手に質問する。

「タピオカ、というより厳密には“でんぷん”さ。でんぷんは星によっては強烈なアレルギー反応を示すほどの物質なんだ。地球じゃ別に問題ないけど」

そう言って粉を手に付けて一口舐める。さすがに粉だけは美味しくないのか苦々しい顔を浮かべる。

「そうか、ポピレン=でんぷんか……完全に忘れてたよ。僕も長く生きすぎてボケてきたかも」

そんなことを言っている間に、遠くから何匹かのテラワームが迫って来る。

「弱点は今この手にある。つまりこっちのが優勢ってわけだ!」

そう言って屋根から降りていく。華たちも屋根から降り、迫るテラワームを前に袋に手を突っ込んで粉を手にする。

「ヤツらが近づいたら振りかけろ」

「了解!」

テラワームの数は6匹。こちらが武器を持っていることなどつゆ知らずに迫って来る。

「1,2,3……今だ!」

全員、目の前にテラワームに向かって思いきり投げた。ふりかけられた粉に叫びながら、だんだんとしぼんで死んでいく。

「やった! ざまぁみろ虫野郎!」

卓也はさらに粉をテラワームに振りかけながら啖呵を切る。

「これで全滅?」

美智はドクターに聞く。

「島は広い。まだ何匹も残ってるはずだ。けどこの周辺にはもう居ないだろうな」

そう言いながら、今度は建物に取り付けらた配電盤を取り外し、そこに向かってソニックの光を当てる。

「これで正確なレーダーが出せる。華のスマホに接続して……よしできた! 即席のテラワーム発見装置だ。半径10kmまで探知できる」

スマホにはまだ数体のテラワームが島にいることが表示されている。

「これを避けながら進めばいい。行くぞ」

そう言ってそそくさと歩き出そうとするが、清がそれを呼び止める。

「それがあるなら、まだ船には行かなくていいんじゃないか?」

「まだ行かなくていいって?」

「アンタには話したいことが山ほどある。わしの小屋まで来てくれ」

 

 

清に連れられ、ドクター達は道を外れた森の中へと入っていた。

「この奥にあなたの小屋が?」

「ああ。わしはこう見えても江ノ島で結構な地位でね。昔の話だが……その縁でわしだけの小屋を建てたんだ。何十年も前に」

スマホを見ながらテラワームを探知する。この近くには居ないようだ。

「ねぇドクター、この穴変じゃない?」

小屋へと向かう途中、いくつもの穴のある奇妙な場所に出た。どの穴も直径1mほどだ。

「推測だが、テラワームはここから出てきたのかも」

穴を避けて森の中を歩いていく。そして古ぼけた小屋が目の前に現れる。

「ここだ。ここがわしの小屋だ」

そう言って老人は小屋の鍵を開き、中へと入っていく。それに続いてドクター達も入っていく。

小屋は見た目通り中も古く、あちらこちらに妙な書類が落ちている。

「契約書……この島のか?」

「ああ。わしは一時期、この島を所有してたんだ。今は奪われてしまったが」

そう言いながら、老人は銃をたてかけイスに座り込む。

「どうしてここに小屋を? 人間社会から離れたかったとか?」

「いいや、ここが一番“話しやすい”からさ」

「……何が話しやすいんだ?」

「島とさ」

そう言うと、地面に敷かれていたカーペットを外す。そこには床ではなく、むき出しになった地面があった。老人はその地面に手を当てる。

「すまないね、わしにはお前を守れないみたいだ。だけどようやくドクターが来てくれた」

老人は地面に向かって紹介するようにドクターを見せた。

「地面と……話してんの? この爺さんボケてるんじゃない?」

卓也が奇妙な光景に少し馬鹿にするが、他の皆は真面目にその様子を見ている。

「島と話してる、ってことか。島の声が聞こえるのはあなただけ?」

「どうやらそうみたいでな。わしとこいつが出会ったのはもう70年ほど前だが、その間わし以外にこいつと話せた人間はおらんよ」

「僕なら聞こえるかも」

ドクターは老人の近くへと歩みより、同じように地面に手を触れる。すると、声が頭の中へと聞こえて来た。

「……どうも。僕がドクターだ。君が求めていたドクターに違いないよ」

「えっ、地面と話せるの!? 本当に!?」

卓也と美智、アキは目を丸くして驚いている。

「私たちには聞こえない。ってことは……テレパシーか何かってこと?」

華の答えに、ドクターはうなずいた。

「鋭いな。この島はテレパシーで会話できる。」

地面をゆっくりと撫でながら、ドクターは笑顔を浮かべる。

「そうか……こんな珍しい生き物と会えるとは思ってなかった」

「生き物って……君にはこいつの正体も分かるのか?」

清に聞かれ、ドクターは真剣なまなざしで彼の目を見つめる。

「オオタイリクガメ。個体にもよるが島ほどの大きさで、宇宙を彷徨ってる。島の無い星に降り立って島になるんだ。そうして何十万年も生きる」

「亀って……まさか、江ノ島そのものが巨大な亀ってこと?」

「ああ。ずっとここに居たんだ。いわゆる甲羅の部分が陸に近い成分だから、簡単には正体が生き物だとバレない」

そう言いながら、ドクターは地面をさすり続ける。

「江ノ島にはある伝説がある。地震の後に一晩で島が現れたという話だ。それは彼が目覚めたからってことか」

「そういえば、今日二回起きた妙な地震。あれって……この島だけが、この島が生き物だから揺れたってこと?」

光輝がドクターと清に質問する。

「けどただ痒かったから動いた、とかじゃない。あの揺れ方は明らかに“痛みに苦しむ”揺れ方だ」

「その通り。こいつはずっと苦しんでるんだ」

清が真剣な面持ちで語る。

「テラワームは寄生虫。彼に寄生してたんだ。何十匹もね。だが氷河期の地球に降り立ち、中のテラワームと共にそのまま島は冬眠した。だけど最近の地球温暖化でテラワームは活動を開始した。そして彼の体を食い荒らし、そしてついに食い破り……体の外へと出た。そして僕たちを襲ってる」

「本当に、デカいのに寄生する寄生虫なんだな」

卓也が呟いた。

「言った通りだろ? でもまさか島がまるごと生き物だなんて予想してなかった。ところでどうして僕の名前を知ってるんだ?」

ドクターは地面……いや、オオタイリクガメの背中をさすりながら質問する。

「……箱が……何だって? もう一度言って……」

テレパシーでもはっきりとその答えは聞こえなかった。聞き返そうとするが、その瞬間再び島が大きく揺れた。

「また地震だ!」

近くの壁に掴まり、倒れないように体を支える。

「なるほど、地震だよ! テラワームとこの地震はリンクしてる!」

「それってどういうこと!?」

「中で暴れてるテラワームが体から出ようとするんだ! その瞬間は激しい痛みが伴う! だからこんな大きな地震になるんだ!」

揺れはすぐに収まる。しかし頭の中に叫び声が絶えず聞こえる。

「激しく苦しんでる! 想像を絶する痛みだ! よく耐えられるな!?」

ドクターは彼の背中をさすりながらなだめる。

「けどもう限界だ! もうこいつは耐えられない!」

清がそう叫ぶ。揺れは収まったがこの亀はまだ苦しんでいるらしい。

「よく耐えたよ! けど今ので全てのテラワームが外に出た! その数……55匹!?」

スマホを覗くと、そこには大量の反応があった。島中のあちらこちらに出現している。

「55!? あれがまだそんなにいるの!?」

「100匹超えなかっただけまだマシさ」

「頼むドクター、こいつを助けてくれ! わしにとってこいつは……唯一の友人なんだ!」

「唯一の友人?」

「わしは他の子に比べて運動も、勉強も苦手だった。だから友達ができなくて……。よく島に遊びに来ていたんだ。そんなわしにこいつは話しかけてくれた。そして友達になってくれたんだ! そんなこいつを見捨てるなんてできない!」

「大丈夫! 僕が必ず助けるさ! それにまだ聞いてない話もあるしね」

頭の中に響く“江ノ島”の声。それはまだうめき声を上げ続けている。

「痛みを抑える鎮痛剤が必要だ。島サイズの生き物にもしっかりと効くヤツ!」

「そんなのどこにあるの?」

美智が聞く。

「ターディスにあるさ。行くぞ!」

 




次回のチラ見せ

「江ノ島から逃げ出すための橋が……崩落してる」
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