現代とか地球が体感多かったのでなんか久々な感じですね
けどまさかの刑務所です
「えーっと、この漢字はもう覚えたから……」
「テスト勉強なんて偉いな、君にしては珍しい」
ターディスの操作室。備え付けられた机と椅子を前にいくつかテキストを用意して華は次のテストに向けた勉強をしていた。
「この前のテスト、赤点が三つもあったからさすがに勉強しないとって思って。ターディスの中なら時間を気にせずに勉強できるでしょ?」
「ターディスの有効活用だな。なんなら僕が分からない所教えるよ。前回のテスト、僕が学年一位だったし」
そう言ってドクターは彼女の横に座る。彼は世界で一番賢い人間だ。2000年も生きていたらさすがに頭も良くなるとは思うが。
「太宰治の『走れメロス』か……彼に直接会ってこれを書くのを見たよ。僕がちょっと展開に口を出して……」
「太宰治に会った自慢はいいから、テストで出るところ教えて」
ドクターは少し不満げな顔を見せ、ペンを握ってテキストを指す。
「彼は面白い人間なのに。そうだな、よくテストで出るのは……」
その瞬間、突然どこからか電話のベルが鳴った。スマホの着信音ではく、古い着信音だ。
「おっと、電話が来たみたいだ」
「ターディスの中に電話あるの?」
「当たり前だろ、外観見て気付かなかったか? これは電話ボックスだ」
そう言うと、ドクターは操作盤に取り付けられた受話器を取ろうとするが、何故か戸惑って取ろうとはしない。その連絡先を見たからだ。
「まさかそこから電話がかかってくるなんて……」
「何? まさか、昔別れた女性からとか?」
「そっちの方がよっぽどマシさ。これはシャドー議会からだ」
「シャドー……議会?」
「宇宙の警察みたいなものさ、シャドー宣言に則り色々な星を守ってる。場合によっては破壊したりもするけど」
そう言って鳴り響くベルを後目に華に笑顔を見せる。
「警察って……まさか何か法律でも犯した?」
「僕は色々宇宙の法を破ってるよ。死刑とか無期懲役にしてもおかしくないが彼らは僕を逮捕しない。なんでだと思う? 僕は宇宙にとって必要だからね」
「なら早く電話に出たら?」
「あそこのおばさん、気が強くて苦手なんだよな……」
ドクターはそう愚痴を吐きながら、ゆっくりと受話器を取る。
「もしもし、こちらドクター。良かったな、僕がまだ電話番号を変えてなくて」
《声が前とは違う。また再生したのね》
電話の先からは少し老けた女性の声が聞こえた。言葉は丁寧だが、さっきドクターが言ったように気の強さが電話越しでも分かる。
「ああもちろん。今度は子供の姿になったんだ。でも大丈夫、それ以外は前と変わらない。心臓だって二つあるし、おしゃべりなところはむしろ前よりパワーアップしたかもだけど」
そんな彼の軽口を無視し、電話の先の女性は要件を伝える。
《実はあなたに一つ頼みたいことがあります。そのためにシャドー議会まで直接来てください》
「議会に直接? 随分と急だな。まさか宇宙の危機? またダーレクがいくつかの星を盗んだとか?」
《いいえ、今回はダーレクとは無関係です。ただ、我々にとって手に負えない状況なのは確か》
「なるほど、ちょっと待ってて」
そう言うとドクターは電話を保留にし、腕を組んでその受話器を睨みつける。
「シャドー議会が僕の助けを? どうしようかな、んーとんーと……」
華の方を一瞥し、彼女の様子を見ると再び受話器を取って保留を終わらせ、返事をした。
「……分かった。すぐに向かうよ。じゃなきゃ僕を逮捕しにジュドゥーンでも差し向けるだろうし、ノーとは言えないな。それで、何が手に負えないんだ?」
《我々の管轄する刑務所のストームケージ……そこに手に負えない状況があるのです。細かい話は議会で。待っています》
そう言うと、シャドー議会の代表者の声は途切れた。
「悪いが華、テスト勉強を教えるのは刑務所に行った後になるかも」
ドクターは手に持っていたペンをポケットにしまい、ターディスのスイッチをいくつも押し始める。
「えっ、刑務所!?」
「その前にまずはシャドー議会だ。ここからは距離が離れてるな……かなり揺れるからしっかり掴まってろ!」
そう言うとドクターはターディスのレバーを引く。そしてターディスは宇宙の辺境にある場所へと向かっていく。
宇宙を取り締まる法の中心……シャドー議会へ。
宇宙に浮かぶ三つの小惑星。それらは橋で繋がれ、一つの宇宙基地のようになっている。
これこそがシャドー議会であり、本部。
「ターディスを確認。攻撃はせず、そのまま入れてください」
女性の言葉を受け、指令室を操作している者たちは議会のバリアを一時解除する。
議会の中の広間。そこにはいくつかのコンピューターが置かれていて、それらは青い光と共に画面を映し出している。
そんな広間の中に強い風が吹く。それを確認した二足歩行、黒いアーマーを着たサイのエイリアンは、それが着陸するであろう場所の前に立つ。
「まずはジュドゥーンとの合言葉だ。最近喋って無いから覚えてるか不安だ」
そこに着陸した青い電話ボックスの中から中学生の男子が呟きながら出てくる。
それを見てサイのエイリアンは銃を構え、吠えるように特有の言語を話す。それを聞いて箱の中の少年も似たような言葉で返答する。それを見てサイは銃を下ろす。
「ドクター、今の何?」
「ジュドゥーンの言葉。いざという時敵に作戦などが聞かれないように特有の言語を使ってるんだ。ターディスでも翻訳できない、だから直接その言葉で喋った」
「ジュドゥーンって……あのサイ?」
箱の中から出てきた少女は無礼にもそのサイに指を指す。それを見てサイはどこか顔をしかめる。
「サイの見た目をした警察官だ。警察だけど狂暴な一面もあるからあまりそう、失礼なことはするな」
そう言って少年は少女の手を下ろす。
「あなたがドクター? 確かに子供の姿になってるようね」
青い箱が着陸したことを知り、目の前の階段の上からアルビノの真っ白な女性が現れた。
「やぁ久しぶり! 前に会った時、君と喧嘩したと思うけど」
「ええ、あなたがシャドー議定書に違反して勝手に出て行ったから」
「ここに滞在し続けるのが好きじゃなくてね。だから帰った。僕のことを嫌ってると思ったのに呼び出すなんて」
「個人的な感情を告げると、あなたの事は好きじゃない。けどそれ以上にあなたの知識が重要なの」
そう言いながら女性は階段から降りて来る。
「アンタってよく人を怒らせるよね」
華はそう言いながら階段から降りて来る彼女を見つめている。
「直そうと思ってるけどなかなか直せなくて」
「それで、隣の女は?」
降りて来た女性は華の方を向く。
「三崎華。地球の女の子だよ。大丈夫、危害は無い。たまに怒るけどね」
「余計な事言わないで」
「ターディスの中でテスト勉強を教えている途中に電話をかけてくるもんだからそのまま連れて来たんだ」
「まぁいいでしょう。けど一番重要なのはアナタ」
そう言って彼女はジュドゥーンを連れてコンピューターのある場所へと向かう。ドクターもそれを見て彼女についていく。
「ストームケージにある手に負えない状況って?」
「三か月前、我々は惑星クロムで未知の生命体を発見しました。人間によく似ていますが目は四つで耳は二つ、口が二つ」
「心臓の数は調べた? もし二つだったらタイムロードだ。再生の際にそんな姿になったのかも」
「いいえ、それが心臓は“無い”」
「ならデラックかも。シャドー議会の手の外にあるブラムって星の野生動物だよ。肺をよく好んで食べる」
「それかと思って調べましたが、その生物特有のマークが見つかりませんでした。デラックはすべて腰のあたりに赤いマークがあるはず」
「ああそうさ。それが無いなら別の種族だな。言葉だけじゃわからないし、姿を見せてくれ。写真でもいいよ」
「それが一番の問題は写真やカメラに映らないことなのです」
そう言うと、彼女がコンピューターに手を触れる。すると目の前の画面がどこかの部屋を映した。そこには金属製のイスが一つあるだけ。
「体から光を屈折する信号とかを放ってる可能性は?」
「いいえ、光などには何の異常も。だからこそ手に負えないのです。我々の技術と知識ではこの生物を特定できない」
「特定できなければ危険かどうかも判断できない。だからストームケージに?」
「ええ。一番奥の収容施設に」
今度は画面に何かの惑星が映る。一見木星や土星のような姿をしている。
「これがストームケージ? 刑務所っていうか星ね」
「星全体が刑務所なのさ。だから宇宙最大の刑務所。けどリヴァーやクラスコがいた時とは姿が変わったな、移転したのか?」
「ええそうです。色々ありましてね。今は私たちが管理し警護しています」
「なるほど。それでその生物に何か拷問とかはしてないか? そんなことをもししてたら、怒るかも」
「していません。というよりできません。色々検査はしたのですが、全てすり抜けるのです。だから食事もしない。カメラにも映らなければあらゆるX線にも反応しない。そこに存在しているのに、まるで“いない”よう」
「なのにどうして収容できた?」
「唯一、銀だけは触れられる」
画面に映し出されているイス。あれは銀で出来ているのだろうか。
「銀以外は全て通用しない……か。そうなると僕ですら聞いたことも見たこともない生物らしい」
「あなたですら知らない?」
「ああ、2000年以上生きているが、まだ宇宙の全てを知っているわけじゃなくてね。でも興味は湧いた。その生物がどんな存在か、突き止められなくはないかも」
「では、直接あなたをストームケージのその生物の場所へ」
「そう来ると思った。ちゃんとそこまでの船は用意してある?」
「ええ、心外ですが一番セキュリティの高い船で」
宇宙最大の刑務所、そこへ行くための一隻の宇宙船がシャドー議会の外に用意されていた。サイの警察官たちがそれを守りながらドクター達の到着を待っているようだ。
「船の構成物質はリアチウム。宇宙で四番目に硬い金属で出来てる。さすがのセキュリティだな、ダーレクでも破壊できなさそう」
ドクターはソニックを当てながら船に頬を当てて何やら微笑んでいる。
「何してんの?」
「船が本当に安全かどうか確かめてる。僕と君が乗るし、常に嵐の吹いてる星に着陸するんだ。並大抵の宇宙船じゃ木っ端微塵にされる」
「宇宙警察が持つ船なんだから、安全に決まってるでしょ」
そう言いながら、華はジュドゥーンに案内され船の中へと入っていく。
「確かに」
ドクターも船に入ろうとするが、あることが気になってあの女性に話しかける。
「そういえば君は? 行かないのか?」
「私はここに常駐していなければ。案内はストームケージの署長がしてくれます」
「監獄署長か。会えるのが楽しみだね。きっとコワモテで怖い」
ドクターは軽口を叩きながら、船へと乗り込んだ。
「ウォシュレットが20種類ぐらいあったんだけど」
「ちゃんと『ビデ』にしたか? あれ以外だと尻が貫通するぐらいの勢いの水流が来る」
「私はいつもそれ派だから。え、じゃあそれ以外だと死んでたってこと!?」
「そうなった時のための医療キットがちゃんとこの船には搭載されてるから、別の選んでも心配はいらない」
刑務所へと向かう船の中は快適だった。風呂は無いが、トイレは四つも用意されていて、混雑することがない。さらに船のあちこちに取り付けられた窓からは外の宇宙が見える。
「ここからストームケージまでどれぐらいかかるの?」
「10万光年離れているが1時間もかからないさ、ワープ技術が確立されてるからね」
ドクターは船の席に座りながら、傍に用意されていたジュースを飲む。しかし不味かったのがすぐに噴き出す。
「ミレスタージュースだ! 僕は苦手」
「私も苦手」
華は窓から宇宙の様子を見ている。ターディスも宇宙船ではあるが、直接宇宙を眺める機会は少ない。
「すべてが夜空って感じ、でもこれから向かうのは刑務所。なんか趣無いな、もっと楽しい所に行きたい」
「刑務所の問題を解決して、テストが終わったら楽しい所に連れていくよ」
ドクターも華の隣に寄り添い、宇宙を眺めている。そんな二人をサイの警察官たちは監視している。彼らだけではなく、何人か人間の警備も居た。
「人の警備もいる」
「全部が全部ジュドゥーン任せじゃほころびが出るからな」
それを聞いていた一体のジュドゥーンが不満げな顔をドクターに見せる。
「彼らは元は宇宙の殺し屋。だからすぐ怒る」
聞かれないよう小さな声で華にそれを伝える。ジュドゥーンは彼から目を逸らし別の所へ向かう。
「殺し屋って……」
「シャドー議会のジュドゥーンはまだマシな方さ。心配いらない」
船は宇宙を駆ける。いくつもの恒星をすり抜け、ストームケージへと向かっていく。数十分経つと、ジュドゥーンがドクター達に話しかけてきた。
「もうまもなくストームケージへ到着する」
「早いな、まだ37分なのに」
「刑務所は嵐の中だ。突入するのに時間がかかる」
「なるほど」
ドクターと華はそれを聞いて再び窓を眺める。そこにあったのは先ほどシャドー議会で見たあの惑星だ。
「あれがストームケージ。宇宙最大の刑務所だ」
「でも刑務所って危なくないの? 凶悪な犯罪者がいっぱいいるんでしょ?」
華は少し不安だった。ドクターがいるとはいえ、犯罪者たちの巣窟ともいえる刑務所に向かうとは。
「心配する必要はないさ、宇宙最大の刑務所は伊達じゃない。ジュドゥーンが全ての檻の前で監視してるし、仮に脱走者がいても星からは抜け出せない。なんたって外は宇宙最強レベルの嵐が常に吹いてるからね。もしそれを抜けたとしても宇宙空間で監視してるアトラクシが見逃さない」
ドクターが星の周りに浮かんでいる、水晶のような体を持った巨大な目玉を指さす。あれがアトラクシ、ストームケージの最後のセキュリティだ。
「でっかい目玉」
「アレに見つめられるのはトラウマものだよ」
「総員シートにつけ、これからストームケージの港を目指す。揺れに備えよ」
サイの警察官に言われ、ドクターと華は外の様子を見ることをやめ、席についてシートベルトをつける。かなり揺れるので安全ベルトは必要だ。
ジュドゥーン、アトラクシ、様々なエイリアンが今回のエピソードで登場する予定です。一本ぐらいはゴリゴリにこういうエピソードもいいかなと。
次回のチラ見せ
「あのパッサミーアのファミリーを潰したドクターか?」