DOCTOR WHO 青い箱の中の少年   作:ナマリ

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ドクター・フーってわりと刑務所出てくる気がしますが、舞台になるのはあんまり無いですね
まだ日本上陸してない13代目のエピソードではあるらしいです


第九話 STORM CAGE〈宇宙の刑務所〉 PART3

 

華はエレベーターを上がり、刑務所内に備えられていた食堂へと来ていた。サイの警察官に監視されながら勉強している。

「こんな状況でどう学べっていうの?」

こんなに見られていては、どうも気が散って仕方がない。そんな彼女を見かねたのか、一人の男が彼女の隣に座った。

「君、見る限り中学生ですよね?」

「あなたは……さっき上着貸してくれた人?」

寒かった時に上着を貸してくれた看守だった。深々と下げた帽子を上げて顔を見せる。

「ジェーンです。ジェーン・スミス」

「三崎華です。さっきはどうもありがとう」

「お客様を迎えるなんて久しぶりだし、特に重要な人物と聞きました。いつも以上のおもてなしをしなければと思って」

「まぁ刑務所だしね……」

「そう。迎えるのと言えば凶悪犯ばかり。久々に良い人間が来てくれて助かりました。いつも受刑者を迎える度に胸騒ぎがする」

「脱獄するかもしれないから、とか?」

それを聞いてジェーンはフッと笑った。

「まさか! ここで脱獄なんて万が一でもありませんよ。看守はもちろん、この刑務所全てのセキュリティにはハイ・デッドロックシールがかけてありますから。ハッキングしたって脱獄なんて無理」

「ハイ・デッドロックシール?」

「デッドロックシールはソニックドライバーなどといった装置でも開けられないための厳重なセキュリティシステムのことです。けど最近それすら破る技術が出てきてしまいましてね。この刑務所では次世代型、最先端のハイ・デッドロックシールを使ってるんです。逆に脱獄させるやり方が分からないくらいに」

「なら安心ね。脱獄囚に襲われる心配もなく勉強できる。世界一安全な勉強部屋ね」

そう言いながら華は目の前のテキストに目を向ける。

「僕は小学校以来学校に行ってない。だから中学生なんて羨ましい」

ジェーンは少し悲しい目でテキストを眺める。

「中学までは義務教育でしょ? どうして行ってないの?」

「あなたの時代とは違うんですよ。僕の時代ではむしろ小学校にすら行かなくていい」

「逆に羨ましい」

「学びは大切ですよ。僕は小学校を卒業した後にすぐシャドー議会管轄の警官隊に入隊しました。そこでの経験が買われて、今はここに」

「刑務所なんてむしろ勉強が必要じゃない?」

「そうですか? 頭のいい人、メディさんなんかは大学まで行ってますが、ここの人は大体が小学校に行ったか、行ってないかが多いです。仕事内容は客人を警護することと、囚人に食事を与えるのと、立つことしかありませんから」

そう言ってジェーンは華に笑いかける。

「なら私はもしかしたらここのお偉いさんになれるかも。今こうして勉強してるし」

「推薦しますよ」

「まさか、刑務所で働くのは勘弁」

そう言いながら、華はテキストの次の問題へと進める。

「ここに居たか。勉強の様子はどうだ?」

仕事が終わったのか、食堂にドクターが現れた。それを見てジェーンは華の横から離れる。

「分かんない所だらけ。走れメロスもまだ全部覚えきれてないし。そっちはどうだったの?」

「何もわからないことが分かったよ」

「なるほど。そりゃ良い収穫ね」

ドクターは頭をかきながら華の横に座る。

「けど推測は一つだけ立てられた。あれは虚空(ヴォイド)から来たのかもしれないってこと」

虚空(ヴォイド)?」

「次元と次元のはざまにある無の空間だよ。地獄とも言う。そこには空気はおろか、一切の物質が無い」

「そんな世界から来たなんてありえない」

「僕もそう思う。だけど宇宙には僕でも知らない奇妙なことがまだ山のようにある。ヴォイド空間に生物がいる可能性も完全にはゼロじゃない」

看守が持ってきたコーヒーを手にドクターはそう語った。

「それでどうするの? やっつける?」

「まさか。彼に敵意はないし、僕にできることもここまでだ。やることが終わったから帰るよ」

「えっ、解決しないの?」

華はその言葉に唖然とした。いつものドクターなら笑顔を浮かべて事を解決しようとするのに。

「僕にとってあれ以上の収穫は見込めない。前進はできたがそれ以上が分からない。それに悪い事もしてないのに倒す必要はない。そうだろ?」

「ええ、むしろドクターのおかげで一つ前に進めました。十分な収穫です」

横のメディは満足そうな目を向ける。

「でもつまんないなー、せっかく宇宙最大の刑務所に来たのに、やったことがスリジーンに会って、テストの勉強だけなんて」

「刑務所よりテスト勉強が大事だ。ターディスに戻ろう。次の船はいつ来る?」

「15分後には来ます」

「じゃ、それまでここで休憩だな。トイレ行ってもいいぞ。もちろんここでも“ビデ”使えよ」

「今は別にそんな気分じゃないからいい」

そう言って、華は頬を膨らませてシャーペンを手にテキストに挑む。それをドクターはコーヒーを飲みながら眺めていた。

 

 

「ヴォイドから来た存在か……それが何なんだ?」

モニター室。主任は頭を抱えていた。

「ドクターめ、変に問題を進めるだけ進めてとっとと帰るだと? こっちは余計に頭が混乱してるっていうのに!」

怒りが収まらない主任は、操作パネルを思いきり叩く。

「血圧が30上昇ですよ主任。怒りは抑えて」

「ああ分かったよ。薬を飲む」

手元の水が注がれたコップを持ち、血圧を抑える錠剤を水で流して飲む。それでもまだ怒りは収まりきらない。

「何がドクターだ。私の方がもっと進められる! 1021回目の実験を始める!」

そう言うと、主任は白衣を着て収容室の中に入っていく。

「今回は……そうだな、これを試してみよう」

怪物の前で、彼は一本のナイフを取り出した。

「銀で出来てる。これで刺せば、さすがに反応もするだろう? 今までは倫理的な問題で禁止されてきたが、科学というものは禁忌に手を出してこそだからな」

そう言うと、怪物の腹に向かって思いきり突き刺す。

「どうだ! 反応しろ!」

しかし、怪物は痛がる素振りを見せない。

「反応しろと言ってるだろ!」

それを抜いて、今度は横の腹に刺す。しかし相変わらず反応は無い。

「クソ……ん?」

今刺したところから、何やら液体が漏れている。

「血だ、血が出た! けど透明だ」

まるで水のように透明な血。無に近い存在なら、体液も無に近い色をしているということだろうか。

「解析してみよう! これで何か分かるかもしれない!」

持ってきた試験管に、血と思われる液体を入れて栓をする。

「これでさらに前進できる……!」

ナイフを抜き、タオルで拭きとった後、そのまま収容室から出て行こうとする。

「……ドク、ター」

声が聞こえた。後ろを振り返ると、怪物が四つの目でこちらを見つめている。

「しかも、喋った……私に反応した!」

「ドクター……ドクターだ……」

「何だ? ドクターの方がいいってのか? あんなちんちくりん、ただのイカれたガキだよ」

「ドクターに……“アレ”を奪われてはならない……」

そう呟きながら、怪物は立ち上がる。傷口をよく見ると、既に完全に治癒されている。

「おい、今度は立ったぞ! いいぞいいぞ! さらに前進したぁーっ!」

「私のものだ……“箱”は私のものだ!」

突然そう叫びながら、主任のに近づき、彼の首を強く締め上げる。

「すごいぞ……! 銀に触れていないのに実体化……している……!」

それが彼の最後の言葉だった。怪物の力はすさまじく、彼が実験の前進に恍惚している間に、その首を折ったのだ。

「ドクターは……逃がさない! 決して! ウオオオオオオアアアアアアアーッ!!!!」

怪物は突然その口を大きく上げて叫んだ。その声は遠くまで響いた。地下の底から、地上の食堂にまで聞こえるほどに。

 

「今の音何?」

「誰かがタンスに指をぶつけて痛がってるのかも」

ドクターがコーヒーを飲みながらそんな冗談をかます。しかし完全にふざけているわけではなく、コーヒーを置いて地面に耳をくっつけて音を聞いている。

「叫び声だ。今のは叫び声」

「誰の叫び声です?」

「さぁ? さっきの主任が僕に手柄取られて怒ってるのかも」

メディは無線を手に主任に連絡をしようと繋げる。

「収容室のガード主任。何かありました? 主任。主任?」

しかし、無線からの反応は無い。

「僕に貸してくれ、モニター室に繋げる」

ドクターはメディから無線機を奪い取り、その先を主任にではなくモニター室に居る他の研究員に繋げる。

「僕はドクター。下の階で何かあったか?」

《動きだし……ました……! あの生物が……!》

「何だって!?」

無線の先からは、人々の叫び声と、あたりが破壊されるような音が聞こえる。

《逃げようにもエレベーターが動きません……! このままでは……!》

「まさか、エレベーターが故障して動かないなんてことはあり得ない! セキュリティどころかあらゆる施設の点検だってしっかりしてます! 壊されることもありえない」

メディは憔悴した様子だ。

「今から僕がエレベーターに行く! 修理するからそこで待ってろ!」

《ダメです……! 私以外全員殺され……いやあああーっ!》

その言葉を最後に、無線は切れた。

「モニター室、応答しろ! モニター室!」

ドクターは無線の先に必死に呼びかけるが、もはや何の反応も無い。

「まさか、あの生物が動き出して全員殺したってこと……!?」

メディは頭を抱えた。世界最高のセキュリティの刑務所でこんなことが起きるとは。

「けど問題は無いはずだ。あそこから上階まで階段は取り付けてないから、地下からここまで上がるためにはエレベーターを使うしかない。そのエレベーターが故障してるならアイツはここまで上がってこられない。収容室とモニター室に閉じ込めてる状態だ」

「なら心配は無い?」

華はテキストを閉じてドクターに聞く。

「そのはずだ。そうだろメディ?」

「え、ええ。ここまで上がってこれる手段は無いはずです」

しかしその予想とは裏腹に、あの怪物にはとある作戦があった。

人の死体が転がるモニター室。さきほどまでここは少し和気あいあいとした雰囲気があったのだが、今や見る影もない。いくつかの機械も破壊されている。

「セキュリティ、全解除……!」

巨大なモニターを前に、怪物は手を広げた。

「ウオオオオオアアアアアアアーッッッ!!!」

 

 

「また聞こえた! しかもさっきより大きいよ!?」

食堂が揺れるほどの大きな声。それが地下から聞こえてくる。

「なぜ叫んでる? 結局閉じ込められたことに気づいて絶望したか? いや、そんなはずはないな」

ドクターは歩きながら今の声のことを考えている。

「地下までは10kmもある! そこまで声が届くなんて!」

「よほどデカい声なんだろうな。間近で聞きたくないね」

ドクターは飲みかけのコーヒーに手を付ける。

「緊急事態かもしれないのに、コーヒーなんて飲んでる場合か?」

彼に居ても経っても居られず、ジェーンが彼の事を叱りつける。

「コーヒーを飲みながら考えてるのさ。彼が叫んでいる理由をね。そう、さっきも叫んでた。そしてその後にモニター室の人間が皆殺しにされた」

「じゃああれは人を殺す合図ってこと?」

「もしくは、叫ぶことで何かをしているのかも……」

すると突然、食堂の中に取り付けてあるサイレンが藤色の光を放つと同時に警報が鳴り始めた。

「これって何?」

「警報だ」

「なんで紫なの?」

華は奇妙な色の警報が気になった。普通は赤色のサイレンのはず。

「ここは地球じゃない。紫は宇宙標準で“危険”を表す。しかしこれはかなりの緊急事態だ!」

「ドクター、こっちに!」

メディはジェーンを含めた看守を連れて食堂の隣の部屋へ移動する。

そこにはいくつものモニターがあり、南棟全体の数千の牢獄を表示している。

「緊急ケースシグマ、これはストームケージ最大の緊急事態です!」

「何が起きてる?」

「南棟全体の牢獄が……すべて開かれています!」

モニターには大きく「南棟 フォースフィールド牢開放」の文字が映し出されている。映像には何千という囚人たちが檻から出ていく様子が映し出されていた。

「ねぇドクター、ここの刑務所は宇宙で一番安全だって言ったよね……?」

「ああ、言ったな……」

「でも今の状況って……」

「間違いない、宇宙最悪の囚人や怪物が解き放たれてる!」

 

 

スリジーンの牢屋。そこも他と同じく解放されていた。

「オーグの言った通り、本当に牢屋が解放されるなんて!」

ルードは背中を伸ばして自由を謳歌していた。

「止まれ! 止まらなければ撃つぞ!」

目の前に居た人間の看守が彼女に向かって銃を突き付けている。

「止まれ? 私たちに命令するつもり?」

「いくらお前らでも撃たれれば死ぬんだろ!?」

「ええその通り。引き金を引けたらの話だけど」

「何だ……って」

上を向くと、そこには既に二体のスリジーンが彼に今まさに襲い掛かろうとしていた。

「バンゴ、アーグ、やって」

ルードがそう命令すると、二人は看守の上に覆いかぶさり、彼の体を思いきり引き裂いた。

「狩りは素晴らしい。七年ぶりだ」

「まだまだ獲物はここにたくさんいる。それにドクターって最高の獲物もいるんだ。逃がしちゃおけないね」

そう言うとルードは大きく息を吸い込んで三人に命令する。

「では作戦を始めるとしよう。私とバンゴでドクターを狙う。そしてアーグとオーグは船を奪ってこい」

「了解、ルード」

「ドクターの首を持って会いに行くよ」

そう言うとバンゴとルードはどこかへと歩いて行った。

「何ボサッとしてんだオーグ、とっとと行くよ」

そう言ってアーグは別の方向、東棟に向かって走っていく。

「ああ、今行く」

 




次回のチラ見せ

「人を喰う影だ! しかも凶暴だ」
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