DOCTOR WHO 青い箱の中の少年   作:ナマリ

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ちなみにこのエピソードは運動会編と同じく前後編回のちょっとした中編になってます。今回のエピソードは比較的短いですが


第九話 STORM CAGE〈宇宙の刑務所〉 PART4

 

「あり得ない! この刑務所のセキュリティは万全のはず! だというのにこれほどの脱獄なんて……」

食堂横の監視室、メディがこの状況に驚き憔悴している。

「セキュリティが奪われた可能性は?」

まずはドクターが彼女を落ち着かせるためにこの状況を整理させる。

「そんな履歴は一切残ってません。ただ残ってるのは“開錠させる”ということだけ」

メディは操作パネルをせわしなく動かし、この事態を調査している。

「だとすれば、何か外側から巨大な力で開いたかどうかだ。たとえばソニックみたいに」

「まさか、ここにソニックは通用しないはず」

華はそれをドクターに伝えた。

「なんで君が知ってるんだ?」

「ジェーンに教えてもらった」

「ハイ・デッドロックシールです。ソニックはもちろん、宇宙のどんな力を使っても破ることができないセキュリティです。システムへの侵入もできないし、ましてや鍵を開くなんて絶対に無理なんです!」

「ハイ・デッドロックシールか。デッドロックの上位互換なんて考えたものだな。でも今実際に破られてる」

ジェーンを後目にドクターは画面を眺める。

「一体どうして……」

「恐らくだけど、犯人はあの謎の生物だ。それ以外には考えられない」

ドクターは腕を組みながら画面を収容室の画面を眺める。

「どうやって? アレはあそこから動いていません」

モニターにはあの怪物が映っている。さきほどの場から動いていない。

「なら誰がやった? スリジーンか? ステンザか? 牢屋の中で地面でも掘ってセキュリティを突破したと? まさか。それにこれを見ろ」

ドクターはみなの視線を収容室の映像に移動させる。

「ヤツは画面に映らないはずだった。けど今こうして、映ってる」

「本当だ……」

あの生物はどんな記録媒体にも写せなかったはずだ。そのはずなのに、今しっかりと映っている。もちろん目は四つ、耳が二つに口が二つだ。

「ヤツが実体化し覚醒したんだ。そして何らかの手段でこの南棟のセキュリティを全て破った」

「まさか。あそこはただの収容室とそのモニターしかない。管制塔でもないのに南棟のセキュリティに入れるはずがありません」

「声だよ。ヤツは叫んで、そして声でセキュリティを破った」

「そんなことできるはずが……」

「それが完全に正しいかは分からない。けどこの脱獄とヤツの覚醒に関係があるに違いない。僕はそう思うね」

ドクターは部屋の中を歩き回りながら、あらゆるモニターに目を通す。

「名前をつけよう。ヤツは叫ぶ者(シャウター)だ」

「今、名前は重要ですか??」

「ヤツとか生物とか怪物とか、曖昧な呼び方じゃ困るだろ? それにたぶん新種だ。だから今名付けた。シャウターだ」

そう言うとドクターはソニックドライバーを放り投げてキャッチする。

「それでどうする? 凶悪な囚人が脱獄したんじゃ逃げるのも難しいんじゃない?」

「ああ。ここに来るのも時間の問題かもな」

華の質問にドクターは椅子に足をかけて答える。

「この南棟に収容してるエイリアンや囚人の数は?」

「牢屋の数は1万。そのうち9000に収容しています」

「9000の凶悪なエイリアンの中を突っ切ってまずは逃げる。それしかない」

ドクターは立ち上がって扉へと向かう。

「突っ切る!? 自殺行為だ」

「武器はしっかりあるだろ? 僕についてくれば問題ない」

そう言うと、ドクターは扉の近くの機械にソニックをくっつける。

「南棟のエリアデータを全て入れた。囚人にはIDが付いてる。これで囚人を索敵して、かいくぐりながら逃げられる」

ドクターはそのまま扉から出て行ってしまった。

「まったく、結局トラブルになんのね……」

華はあきれ顔でドクターについていく。部屋の中に居たメディと看守たちも彼についていく。

「南棟とはいえかなり広い。人口密度はそこまで高くないはずだ。それに収容されてる中で一番危険なのはスリジーンぐらいだし」

ドクターは歩きながら進んでいく。こっちは危険そうだと言いながら右に曲がる。

「銃が通用するエイリアンはどれぐらいいる?」

「9000のうち8000は普通の銃弾が通用するはずです」

「9分の1の確率を引かないように逃げよう」

ドクターはそそくさと歩きながら先へ進んでいく。まだエイリアンには遭遇していない。

「痛ッ」

歩いている途中、一人の看守の男が耳のうしろに奇妙な痛みを感じた。軽い痛みではなく、噛みつかれるような痛みだ。

「署長、ちょっと待ってください」

看守の男が立ち止まりメディを呼ぶ。

「今は急いでいます、何かありました?」

「いや、その、体中が急に痛くて……」

「大丈夫?」

華が痛がる彼に近寄ろうとした瞬間、何の音も立てずに、一瞬で彼は白骨となった。

「危ない華! 離れろ!」

ドクターに言われ、華はその骸骨から離れる。

「何!? 今の何なの!?」

「黒い、影だ……」

男の死体の周りには、なぜか影ができていた。まるでそこだけ暗闇に覆われているかのように。

「ヴァシュタ・ナラーダだ。ここにいる!」

彼を喰らった“影”。ヴァシュタ・ナラーダと呼ばれるそれは黒い影を広げ、まだ生きている彼らに迫ろうとしていた。

「それ何!?」

「人を喰う影だ! しかも凶暴だ」

「南棟に収容していたんです! 図書館で見つけた個体を何匹か持ち帰って……」

「正気か!? あの図書館のコイツらを!?」

「捕らえて探れば弱点が発見できるかもしれないと!」

「マズいぞ華、9分の1を当てたみたいだ! しかもコイツらにIDは無い、だから索敵できなかった!」

影はだんだんと近づく。一人の看守の男はパニックになり、影に向かって銃を乱射するが、自身の影をそれと交差させてしまったためなのか、影に“感染”し、さきほどの犠牲者と同じようにただの骸骨へと変貌してしまった。

「逃げろ!」

ドクター達は逃げ出した囚人の一つ、ヴァシュタ・ナラーダに追われることとなってしまった。影はだんだんとスピードを増し、こちらへと迫って来る。しかし目の前にはT字路も迫って来る。

「こっちだ!」

ドクターとメディは左側の道へ行こうとする。しかし華とジェーンは間違えて左側の道へと向かってしまう。

「そっちじゃない! こっちへ……」

しかし、そんな彼らの間にヴァシュタ・ナラーダが挟んだ。この影を踏めば命はない。今の状態では、互いに反対側に行けない。

「ドクター! どうすれば……」

「君はそっち側へ逃げろ! 後でまた合流する!」

影がだんだんと近づいてくる。ただの影のように見えるが、何かが蠢いているのははっきりと分かる。

「僕を信用しろ! 必ず君の元へ行く!」

「……絶対だからね!」

この状況では合流できない。ジェーンと華はドクターたちと反対の方向へ逃げていく。

「さぁ来い“空中のピラニア”、あっちより僕たちの方が美味しいぞ!」

そう言ってドクターは影を引き寄せて走る。

 

 

収容室のモニター室。ドクターによって叫ぶ者(シャウター)と名付けられた怪物は、何かとテレパシーで通信していた。

「来い。来るんだ。私のところまで」

その瞬間、エレベーターは音を立てて動き出した。それがモニター室の前で止まり、その戸が開く。

そこに居たのは、一体のジュドゥーンだった。

「私を連れていけ」

シャウターは、サイと共に上階へと上がっていく。

 

 

「はぁ、はぁ、ここまで来れば、大丈夫でしょ……」

もう後ろに影は見えない。華とジェーンはなんとかヴァシュタ・ナラーダから逃げきることができたが、まだ安全なわけではない。今ここの棟の囚人が全て脱獄しているのだから。

「東棟だ、東棟に行きましょう!」

ジェーンはそう叫んだ。確かにここから東棟は近い。だが……

「でもドクターと合流しないと!」

「けどここに居ても危険なまま。幸い東棟はまだセキュリティが破られてない。そこまで逃げ込めば安全だ」

「でも……」

「ドクターは逆方向に行った。きっと西棟だ。互いに安全なところへ逃げれば必ず合流できる」

ジェーンは彼女を説得し、東棟へと向かおうとする。しかし、今度は後ろに別の気配を感じる。

「別の囚人に見つかった……?」

しかし、後ろに居たのは囚人ではなく、ここの看守も務めているジュドゥーンだ。

「なんだ、びっくりさせないでよ」

しかし、どうも様子がおかしい。こちらに向かって銃を向けている。

そして謎の言葉……ジュドゥーン語を話した後、こちらに向かってそれを放った。

「何するの!?」

しかし、ジュドゥーンの言葉は聞き取れない。

「逃げる者、殺す……そう言ってます」

「聞き取れるの?」

「ええ、この刑務所で働くならジュドゥーンの言葉は理解しておかないと」

そんなことを言っている間も、ジュドゥーンからの攻撃は止まない。

「早く東棟へ!」

今度はここのサイに襲われるとは。しかし東棟の出口はすぐ。ジェーンはその扉を越えた後、東棟の管理者に向かって無線を繋げた。

「東棟と南棟の間の隔壁をロックしろ! すぐに!」

その命令の後に、すぐに扉が閉まり、隔壁もロックされる。閉じられる最後までジュドゥーンはこちら側を撃っていたが、あちら側に閉じ込めた。

「はぁ、なんとかなった」

「なんでアイツが襲い掛かって来たの!? もしかしてジュドゥーンの囚人もいるの?」

「まさか! あんなことあり得ない。ジュドゥーンは色々面倒なヤツに違いないけど、敵じゃないはずだ」

「……私たちが囚人と勘違いされたとか?」

「それもあり得ない。だって僕はちゃんと看守の姿をしてるし、君の情報だってこの刑務所全てで共有されてる。狙うはずがない」

突然の奇行を見せたジュドゥーンに、二人は困惑しながらも先へ進んでいく。

 

「メディ早く! 今扉を閉めるぞ!」

ドクターとメディは西棟に向かっていた。ヴァシュタ・ナラーダの集団はまだ彼らを追い回している。

「さすがにここの隔壁までは越えられないはずだ!」

ドクターはソニックを操作盤に当てるが、扉は閉まらない。

「なんで効かないんだ!?」

「ハイ・デッドロックシールよ」

「そういえばそうだった。無線で閉じろと命令してくれ!」

「こちら署長、西棟と南棟の隔壁を閉めて!」

影がこちらへ到達するギリギリのところでなんとか扉は閉まった。なんとか撒いたようだ。

「脱獄に巻き込まれるなんて。とんだ災難だ」

「すぐに管制塔から全棟へ緊急避難指示を出しましょう」

「避難だけか? 南棟だけとはいえ凶悪な犯罪者が9000も脱獄した。これは最悪の危機だろ?」

「今必要なのはこれ以上被害を拡大させないこと。それに南棟には船がありません。それにこの星の特性上、南棟からの脱出は不可能です」

「ならどうするんだ? 南棟を焼き尽くす?」

「それも視野に」

「良い案だ。ともかく管制塔へ向かおう」

 

「あ、ああ……!」

南棟、一人の囚人はサイの警察官に囲まれながら、シャウターの声を“聞いている”。

「私と共に来い。私と共に箱を奪うのだ」

「箱……? 箱って何だよ……! ようやくここから脱け出せるってのに!」

「お前は今から私の奴隷だ。奴隷、奴隷、奴隷……」

「あ、あああああ……!」

頭の中に彼の声が入って来る。やがてその声は脳の全てを支配し、彼の体を奪った。

「もっとだ。ここだけでは足りない。もっとだ、もっと……」

 

 

管制塔。ドクターとメディはなんとかここまで来ていた。

「どうもドクター、私はクナンです。状況は既に把握しています。南棟の全ての牢屋が解放されたと」

管制塔のリーダーとおぼしき男がメディに話しかける。

「その通り。今は緊急事態です。すぐに南棟爆破の準備を」

「構わないよ。華なら既に東棟にいる」

ドクターはソニックに映し出された情報を見ている。そこには華が東棟まで移動したことを示している。

「いいのですか? あの生物といい、南棟を全て焼き払ってしまって」

「どちらにせよあそこにいるのは死刑囚のみ、死ぬ日が変わるだけです」

「分かりました……」

クナンは、何やら厳重そうなボタンを前に深呼吸をする。

「エネルギーの充填まで1分かかります。それまでに……」

突然、藤色のサイレンと共に警報が管制塔の中に鳴り響いた。

「なんだ、何がどうなってる!?」

リーダーの男は部下たちに状況を確認させる。

「緊急事態です! 封鎖したはずの西棟と東棟の隔壁が開いています!」

「何故だ!? ここからでしか操作できないはずだ!」

部下たちは必死に操作パネルをせわしなく操作する。しかし一切動かない。

「ダメです、なぜか全て動きません! というより、勝手に動いています!」

「まさか」

ドクターは嫌な予感がした。もしあの怪物が……

「南棟のモニター、収容室に切り替えろ!」

ドクターの命令を受け、画面に収容室の様子が映される。そこにシャウターの姿がいなかった。

「次は南棟の映像を出してくれ!」

次に映し出された場所。そこには廊下を歩くシャウターの姿が映っていた。だがそこは地下ではなく地上の牢屋前だ。

「しまった、閉じ込めてると勘違いしていた……修理してエレベーターで上がったんだ!」

「あり得ない、エレベーターを修理するには認証機能が必要だ。ここの看守などしかできないはず」

「もしシャウターの能力がセキュリティに入り込むこと以外にもあったとしたら?」

ドクターはメディの方を向く。

「人を、操る能力……?」

「それで看守を操ってエレベーターを直して移動したんだ。例えばジュドゥーンとかね」

画面に映ったシャウターはだんだんと先に進んでいく。

「何か予備電源とかサブコンピューターは無いのか? メインが奪われていてもそちらを使えばこちら側から封鎖できるかもしれない!」

「無理です、うちにそれはありません!」

「何故!?」

「宇宙最高のセキュリティ、のはずでしたから……」

クナンとメディは下をうつむいた。

「打つ手なし、か……」

ドクターは椅子に座り込んだ。その瞬間、再びあの警報が鳴る。

「署長、ドクター、大変です!」

「今度は何だ!?」

「東棟と西棟の全ての牢屋が……解放されました」

 

 

東棟、華とジェーンは東棟警備室へと駆けこんでいた。

「南棟は既に陥落だ。全ての囚人が逃げ出してる」

「それは大変な事態だ。すぐに対処せねば」

警備室の太った男性が、壁にかけてある銃を手にする。

「大丈夫、私たちは戦いのプロよ」

もう一人、小太りの女性も同じように銃を手にする。

「大丈夫、なんですか?」

「ええ。まずはあなたたちを船まで送り届けるわ。私たちが安全にね」

華に向かって女性は微笑んだ。

「東棟の人たちはベテランで戦闘経験が豊富だ。だから心配はいらない」

ジェーンが華の肩を叩いて安心させる。

「良かった。お願いします! それとドクターも……」

「ドクター?」

女性はその言葉を聞いてどこか顔をしかめた。

「彼は今どこにいるの?」

「影の怪物に襲われて、それで別々の方向に逃げたんです。東棟にいると思いますけど……」

「東棟、ね。分かったわ。あなたたちを無事に送り届けたら、ドクターのところにも行って連れて来るわ」

「それは頼もしいね」

華は女性に向かって笑顔を浮かべた。

「さぁ行きましょう」

しかしまたあの警報が鳴り響く。

「この警報は何だ!?」

男が嫌そうな目でサイレンを見つめる。

「これは……マズいかもしれない!」

ジェーンはすぐそばのモニターの映像を眺める。

「今度は東棟の牢屋が全て解放されてる!」

「何ですって!?」

女性はそれに驚いた。男性も、華も驚く。

「しかも隔壁まで元通りだ。さらに囚人が解放される!」

画面の向こう側では何百もの囚人が脱獄し始めていた。もはやここも安全ではない。

「心配するな、私たちがしっかり届けよう」

男は胸を叩いて鼓舞する。しかしその衝撃なのかオナラが出てしまった。

「おっとすまない、さっき芋を食べていたせいで……」

「私もよくある。早く行こう!」

華は東棟随一の看守と共に東棟の船着き場を目指す。

 




次回のチラ見せ

「やぁ久しぶり! 僕がドクターだ」
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