DOCTOR WHO 青い箱の中の少年   作:ナマリ

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少し期間が空いてしまいましたが、ついに第10話まで到達しました。といってもあと少しではあるんですが
今回から刑務所編の後編です


第十話 GREAT JAILBREAK〈大脱獄〉 PART1

 

「やぁ久しぶり! 僕がドクターだ」

突如爆散したスリジーン。その背後に居た彼らの仲間は、突然額のファスナーを開いた。

青い光と共にそこから現れたのは、なぜかやたら長い髭を蓄えた、見慣れた顔だった。

「ドクター……だよね?」

「ああもちろん。まさか髭のせいで分かんなかった? 事が終わったら剃るよ」

髭の中に笑顔を浮かべ、華とジェーンに向ける。

「なんでそんな髭が生えてるの?」

「ずっと剃ってなかったから。それ以外に理由あるか?」

そう言うと、ドクターは近くのガラクタから使えそうな服を探す。なんとか自分のサイズに合う物を見つけたようだ。

「スリジーンの肉を浴びたんだし、君たちも着替えたら? まぁ僕はスリジーンの中にいたんだけど」

そう言いながら彼は突然服を脱ぎ始める。

「ちょ、ちょちょちょちょっと待って! 今ここで脱がないでよ!?」

「見たくなければ後ろ向け」

そう言われ、華は後ろを向き、ジェーンに話しかける。

「私たちも着替えろって……この辺りに女性用の更衣室ある?」

「いいえありません。僕たちは基本着替えませんから」

いいぞ、とドクターの合図を聞き、二人は振り返る。そこにはボロボロの服を着たドクターがいた。髭も相まって浮浪者のようになっている。

「この服、臭いけどスリジーンの中よりマシだな」

服を嗅ぎながらドクターは華たちの方へ近づいていく。

「君が無事で良かった。ずっと心配してた」

華の横顔をそっと彼は撫でる。まるで久々に会ったかのようだ。

「最後まであなたの名前を呼んでた。けど結局来ないかと」

「最後に約束しただろ? 必ず君の元へ行くって」

そう言うと、華とドクターの二人は強く抱きしめ合った。

「ところで、なんでスリジーンの中に入ってたんだ?」

咳払いをし、そんな二人に割って入るようにジェーンが質問する。

「話すと長くなる。そんなことより今は何時?」

ドクターが華に質問する。華はスマホを開いて時間を確認するが……

「ここ宇宙だよ。私の携帯じゃ時間調べられない」

「ならそこの君だ。えーっと名前はなんだっけ……」

「ジェーンです」

「そうだった。久々すぎて忘れてたよ。それ今は何時?」

「ストームケージの時間では午後4時15分です」

「となると、猶予はあと30分だな」

ドクターは急ぎ足でガラクタ部屋の中から出ていく。

「猶予があと30分って何のこと?」

「このストームケージが星ごと焼き尽くされるまでのタイムリミットだ。宇宙空間でここを監視してるアトラクシが今エネルギーを充填してる。それを放つまであと30分だ」

「ここが焼き尽くされる!? 私たちがまだいるのに!?」

「宇宙最悪の囚人が何万人も脱獄してるんだ。宇宙最大の危機、それに比べれば僕たちの命なんてゴミみたいなものさ」

「なんでドクターがそのことを知ってる?」

「だから、話すと長くなるって言っただろ? それより大事なのはこの事態を30分以内に止めることだ。囚人の脱獄を食い止め、シャウターを捕まえる。星を焼き尽くすのは囚人を外に出さないためだ。けどその囚人が全て元に戻ったらわざわざここを焼き尽くす必要はなくなるし、僕たちも一緒に殺されないってわけさ」

ドクターはそう語りながら先へ先へと進んでいく。

「船で先に脱出すれば?」

「まだ看守たちが残ってる。見殺しにはできないし、もう脱出手段は残されてない」

船着き場へとたどり着いたドクター達。既にそこに船の姿は無かった。

「既に囚人に全て奪われたんだ。逃げ出せない以上やるしかない。ソニックドライバーも無い状態でね」

「えっ、ソニックドライバー無くしたの!?」

それを聞いて華は驚いた。

「無くしたというか、取られたというか……どちらにせよここのセキュリティのほとんどにソニックは効かない。全部この手で解決する」

ドクターは刑務所の中へと戻っていく。

「それで、まずどうするの?」

「敵と戦うために何が必要だと思う? そう、武器だ」

「武器は好きじゃないんじゃなかった?」

「武器は武器でも傷つけるための武器じゃない。作戦のために必要なものさ。それが武器庫にある」

そう言って彼は早に歩いていく。それを華は追いかけていく。

「久々だな、こうやって一緒に歩くなんて」

ドクターは華に笑いかける。

「笑ってる場合?」

「じゃないな。囚人もしくはアトラクシに殺されるのが先か、もしくは成功か。その二択だ」

 

 

助けなければ。すぐに刑務所に戻って華を助けなければ。夢の中で彼女が自分の名前を呼び助けを求めている。すぐに向かわなければ……

「華!」

「ようやく目覚めたようね」

シャドー議会。メディらに連れられ、ドクターが目を覚ましたところは既にそこであった。目の前には白い肌に赤い目の女性が立っていた。

「なぜ僕を連れてきた! 僕は刑務所に残ると言ったはずだ」

目の前に彼女にドクターは凄むが、それにひるむことなくゆっくりと話を続ける。

「あなたはこの宇宙で最も重要な人物の一人。そんなあなたをあの危険な場所に置いておくわけにはいかない」

「あそこには僕の大事な友達がいるんだ。見殺しになんてできない! すぐにストームケージに向けて船を出してくれ!」

ドクターは彼女に懇願するが、ゆっくりを首を横に振られて断られる。

「いいえ、危険すぎる。ただでさえ残ったのはあなたを含めた十数人だけ。これ以上の犠牲は出したくありません」

「その犠牲に華も含まれてる! 確かにあそこは危険だ、だけど僕ならなんとかできる! 解決できるんだ!」

「無理なこと言わないで。ストームケージは星全体に作られた刑務所。それにあなたの好きなソニックドライバーはどの機械にも通用しない。あなたが行ったところで何も変わらない」

「可能性はゼロじゃない。僕を連れていけ」

二人は互いににらみ合うが、それを見ていた二体のジュドゥーンがドクターを取り押さえる。

「残念だけどあなたの願いは聞き入れられない。それに連れていくとして共に向かう看守たちが犬死するだけですから」

女性は冷徹な顔をドクターに向ける。

「離せ!」

ジュドゥーンはそれを聞いても彼を離そうとはしない。いくらタイムロードとはいえ、タフなわけではない。すぐ彼らの力に丸め込まれてしまった。

「……分かった。分かったよ。諦めるよ」

ドクターがそう呟くと、ジュドゥーンの取り押さえる力が弱まった。その隙に振りほどいて走り出す。

「どこに行くのですドクター!」

「君たちが連れて行かないなら僕一人で行く! ターディスであの星に着陸するのは簡単じゃないが、それしかない!」

議会に置いてきたターディス。そこに向かってドクターは走っていく。

「あった!」

青い箱。ドクターの相棒は最初に来たところと変わらずそこに鎮座していた。

「さぁ待っててくれ今すぐ……がぁっ!」

ターディスに触れようとした瞬間、突然電流が走った。それどころか、ターディスに触れられない。バリアのようなものが張ってある。

「フォースフィールド……僕のターディスに何をした!?」

「それはこの宇宙で最も危険な宇宙船。もし脱獄囚の手に渡れば全ての時間と全ての宇宙が危機に晒されます」

「でもこれが無ければ刑務所の中には……」

「それで直接刑務所の中に乗り込むだなんてそれこそ危険すぎる。ターディスは我々シャドー議会の管轄に置きます」

女性がそう言うと、ターディスの周りに白いリングが浮かび上がり、それに運ばれるかのようにどこかへと転送されてしまう。

「そんな……」

「この事件の終息後、三年経った後にあなたに返却いたします」

「三年だと!?」

「たとえ刑務所を焼き尽くしたとしても、星から脱出した囚人がどこかにいる可能性はあります。それらすべてを根絶やしにし、安全が確認されるまで」

「焼き尽くす!?」

女性はやれやれという顔でドクターの方を見つめて話を続ける。

「既にストームケージは放棄状態。これ以上の被害を宇宙に拡大させないため、アトラクシによって刑務所ごと星を焼き尽くします」

「囚人ごと焼き払うってわけか。まだ華や看守たちも残っているのに」

「宇宙のためです。仕方ありません」

「なら僕がここで暴れても仕方ない。ってわけだな!」

ドクターは懐からソニックドライバーを取り出し、天井にある機械に向ける。

「僕を今すぐ刑務所へ連れていけ。でなければこの議会のバリアを全て解除させる。溢れんばかりの囚人がここになだれ込んで来るぞ」

「我々への脅迫、ですか?」

「ああもちろん。僕にとってはこんなところより華の方が大事だ。ここにはデッドロックシールが使われてない。ソニックの効果はあるはずだ」

ドクターはドライバーを振り回しながら目の前の女性と、ジュドゥーンたちへ威嚇する。

「ところで、それがソニックドライバーだと?」

「何だと? どこからどう見てもソニック……」

ドクターが振りかざしていたもの、それはただのシャーペンだった。一応身に着けていたのだ。

「無い、ソニックドライバーが無い!」

ドクターは服の中を探し回る。ポケットの中にも、襟にも無い。もちろん体に刺さっているわけでもない。

「ソニックドライバーは既にあなたが眠っている間に回収しました。今のあなたにはターディスもソニックドライバーも無い。ただのタイムロードです」

ドクターは深いため息をついた。

「ただの頭が良いだけの、エイリアンなわけか」

「その通り。我々の決定に従ってもらいます、ドクター」

女性がそう言うと、二体のジュドゥーンが再びドクターを取り押さえ、どこかへ連行していく。

 

 

「まさか、刑務所のセキュリティが全て破られるなんてな……」

シャドー議会にある休憩室の中で、クナンはミレスター・ジュースを手にメディと語っていた。

「ハイ・デッドロックシールを破るほどの力とは。これはもし次に刑務所を作るならハイ・ハイ・デッドロックシールの開発をしなければな」

彼はゆっくりとそれを飲んで苦い顔をする。

「あんな状況から逃げ出したんだ。少しは苦労のおかげで美味しいと思ったが変わらずひどい味だ」

メディに笑いかける。

「ええそうね。私もそれは苦手」

メディはポケットからコインを出し、白く丸っこい姿の自動販売機で飲み物を買う。普通のコーヒーだ。

「しかし、こんな状況になってしまったのでは我々の立場は危うい。どころかクビで済めばいいが。君なんてあそこの署長だしな」

「まったくその通り。せっかく署長になれたのにあんな事件に出くわすだなんて」

「その点、前の署長の時は問題が無かった。君が悪いってわけじゃないがね」

「ええ、前の署長の方が良かったかも。代わってもらいたいぐらい」

メディはコーヒーに口をつけて熱そうにする。

「前の署長のが良かった?」

「ええ、私なんかよりずっと良かったわ」

彼女に似合わない悲観的な発言。彼女は前の署長を嫌っていたはずだ。

「運営の点では……ね。看守やスタッフに対するパワハラはひどかった。特に私は急にリーダーを任せられたし、できなければ6時間も叱られてたよ。12時間連続で叱られた君よりはマシかもしれないがね。副署長時代はひどかったんだろう?」

男はメディに聞くが、彼女はぼやっとしてあまり話を聞いていないようだ。

「そうだったかしら? あまり覚えてないわね。酷すぎて」

そう言った途端、彼女は突然大きなオナラをした。男は嫌そうな顔で鼻をつまむ。

「ひどい臭いだ。何を食べたんだ?」

「刑務所のヘドロみたいにマズい飯よ。もう少し良いのを出してくれればいいのに」

腹のあたりを抑えながら、彼女はコーヒーを飲み干した。

「ところで……」

メディはゆっくりと彼の前に立ち、顔を近づけた。

「ここに何か囚人から奪ったものとか、そういうのがある場所知らない?」

「何だって?」

突然のおかしな質問に男は少し笑って答えた。

「ここは議会だぞ? 犯罪者から押収したものなんてほとんど無い。一応ゴミ捨て場はあるがね。まぁ私も久々に来るからあまり覚えてないが。そんなとこに行ってどうする?」

「ストームケージが焼かれるまであと30分。それまで暇潰ししようと思って」

「……まぁ私も暇だ。付き合おう」

彼と共に、メディはゴミ捨て場へと向かう。

 

 

「なぁ、すまないがトイレに行かせてくれないか?」

ジュドゥーンによって監視されている部屋。ドクターは白い部屋の中で椅子に座ってジュドゥーンを見つめ続けている。

「移動は禁止だ」

「僕を三年間もここに閉じ込める間、一度もトイレに行かせないつもりか? 君たちは行っていいのに?」

「規則だ」

ジュドゥーンはそう冷たく言い放つと、不機嫌そうな目つきでドクターを見る。

「別に僕はトイレに行くって言って逃げたりしないよ。漏れそうなんだ、なんならトイレまで付き合ってくれても良いから」

ドクターはサイの警官に懇願する。さすがにサイも承諾し、ドクターと共に近くのトイレへと向かう。

「宇宙トイレ。素晴らしいね」

ドクターはそのまま“男子トイレ”の中へと入っていく。しかしジュドゥーンはトイレの前で立ったままでついてこない。

「どうしてトイレに入ってこないんだ? ……まさか君、メス?」

「そうだ」

「なるほど。すぐに出てくるから待ってて」

見た目でオスだかメスだか分からないジュドゥーン。そんな彼女がトイレの中にまでついてこなかったのは好都合だった。

「さて、アナログな手段だがここから抜け出すか」

ドクターはトイレのゴミ箱をあさり、そこから金属片を見つけ出す。トイレの便器についているボタンを取り外し、鏡についていたガムを取り外してそれらをくっつける。

「ちゃんと清掃入ってるのか? ここ」

そんなことを呟きながら、今作った道具で天井にあるダクトのネジを外す。気づかれないように音を立てずに取り外した。

「ごめんなジュドゥーン、君は少し謹慎処分になるかも」

トイレの前で監視している彼女に申し訳なさを感じながら、ドクターはダクトの中を通っていく。

ある程度進むと、考えていた目的地へと到着した。そこは少しばかり汚い場所だ。

「ゴミ捨て場。宇宙のあらゆるものがここに捨てられてるはずだ。いくつか使えるのがあるかも」

ダクトから降り、ゴミ捨て場へと着地。古今東西、宇宙の様々な場所から集められたゴミがここにある。それらを壊さないようにゆっくりと避けながら、その中から刑務所の中へ入り込めそうなものを探そうとする。

「ソニックブラスター! 壊れてる。スリジーンの圧縮装置。何に使えと? 後は何か無いか……おーっと良い物発見!」

捨てられていたものの中に、革製の腕輪のようなものを見つける。そこには操作パネルが取り付けられている。

「タイム・エージェントのボルテックス操作器だ。これで時間移動ができる。けど待てよ、これでどうやって刑務所へ入り込む? 座標が移動できるわけじゃあるまいし、過去に行って僕に忠告する? いやいや、歴史は変えちゃいけない。これもダメか」

せっかくのボルテックス操作器を投げ捨て、再びゴミを漁り続ける。今度は何やらサーフボードのようなものを見つけた。

「これもいいぞ、エクストラポレーターだ。これなら刑務所までまっすぐ吹っ飛べる! けど壊れてる。ソニックで直せば……」

ポケットの中に手を突っ込んでソニックドライバーを探そうとするが……

「そうだ、没収されてるから直せない。まったく……」

ゴミ捨て場の中に倒れ込み、少し汚い天井を眺める。

「あと20分。それでストームケージは吹っ飛ぶ。華も……

ドクターは少しだけ諦めかけていた。いつも自分の使っている道具が一つも使えない。打つ手が思いつかない。なんとか刑務所に入り込むことさえできれば……。

「まだだ、もっといいのがあるかもしれない! 例えばターディスの部品とか……」

残り時間が尽きるまで諦めない。手が汚れようとゴミ箱の中を漁り続ける。

 




次回のチラ見せ

「嘘だろメディ、僕は君の事気に入ってたのに」
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