工事現場を抜け、ターディスのほうへと走っていき、青い扉を開く。
「良かった。戻ってきた」華は安堵の表情を浮かべた。
ドクターは真っ先にターディスの中心にある機械をいじりだした。
「奴らを説得しようとしたんだが無理だった。奴らは明日の朝、全校朝会を利用して侵略を開始する」ドクターは早口でまくしたてる。
「それで、どうやってグレイヴを倒すの?」
それを聞いてドクターは頭を抱えて椅子に座った。
「それは…考えてなかった」
ドクターは落ち込んだ様子だった。しかしその瞬間に再び口を開いた。
「奴らは人の情報を奪い取って形を作る。インフォメーションコネクタは頭の中に侵入して情報を読み取る装置…」
「なら奴らに別の情報を加えるべきか?そうだ、奴らをひよこに変えよう!」ドクターは思い切りの笑顔を浮かべた。華もそれを見て笑い出す。
「いや、ダメだ。そうするには時間がかかりすぎる!それに一気に脳内にイメージを送り込んでも…ひよこなんてすぐに消える!」ドクターは再び頭を抱えた。
華もどうするべきか考えた。奴らを消すにはどうすればいいのか、人の脳内のイメージから…ドクターの持っているインフォメーション・コネクタに目をやった。
「…ねぇ、それって改造できる?」
「え?ああもちろんだ。でも改造してもこの大きさだ。脳内に侵入するには時間が…」
「みんなから“頭ババア”の記憶を消すの」華が自信満々に言った。
「消す?」ドクターは聞き返した。
「グレイヴが頭ババアの姿になってるなら、みんなから頭ババアの記憶を消す。そうすればアイツらは姿を失うんじゃ…?」
ドクターはそれを聞いて、口を大きく開けて驚いた。
「そうか…そうすればいいのか…おおっ!閃いたぞ!あいつらを倒す方法!」ドクターは一気に高揚し、ターディスの中を駆け回った。
「華!君は天才だな!僕は思い浮かべていなかった。インフォメーション・コネクタを脳内に侵入し記憶を消すサイクルに書き換えれば…」
ポケットからソニックドライバーを放り投げてキャッチする。そしてインフォメーション・コネクタにそれを向ける。青い光でインフォメーション・コネクタが照らされる。
「別の情報で書き換えるよりも消すほうが簡単なんだ。作るより、壊すほうが簡単なのと同じだ!」
ドクターはあまりの気分の高揚につい華にキスをしてしまった。
「んぉ!?」華は変な声が出てしまった。
「掴まってて、朝の全校朝会に向かう!」ドクターは機械のレバーを下げた。さっきと同じようにエンジンのような音とともにターディスは大きく揺れた。
華は顔が真っ赤になったまま手すりに掴まる。
「な、なんでキスしたの!?」
「え?ああごめん。ファーストキスだった?」
「いや、セカンドキスだったけどさ…キスするならせめて一言言ってよ!」さらに顔を赤くして叫んだ。
「ファーストキスはいつ?」
「え?小学5年のころだけど…言わせないでよ恥ずかしい!」
揺れれば揺れるほどさらに恥ずかしくなってきた。ドクターは機械に掴まりながらドライバーでインフォメーション・コネクタを改造している。
「これで記憶を消すサイクルにした。あとは全校朝会でこれを使うだけ…」
そう言った途端、ターディスの揺れは収まり、音も消えた。
「さぁ華、今は5月21日の朝7時50分だ。登校するぞ」
ドクターはターディスの外へと出た。空を見ると、綺麗な青空だった。世界が滅亡の危機に瀕しているとは思えないほどに。
「本当に朝になってる…さっきまで夜だったのに」華は驚いた。
「今登校すれば間に合う。さっさと行くぞ」ドクターが華の腕をつかむ。
「待って待って!私今私服だから!」
華は来ていたデニムのズボンを引っ張って言った。
「ああそうだった。ターディスの中に女子生徒用の着替えがあるから。急ぐんだ」
「どうして女子用の着替えがあるの?女装趣味でも?」
ドクターはターディスによりかかりながら言った。
「前は女性だった」
ターディスの奥へと入り、着替えてきた華。もはや広さには驚かなくなっていた。
「少々サイズが小さいな。ピチピチになってるぞ」ドクターが華を見て言った。
「うるさい。早く学校行くよ」華がドクターの腕を掴んで歩き出した。
キーンコーンカーンコーン キーンコーンカーンコーン
既に何人もの生徒が学校に登校している。華たちもそれに合わせて学校に向けて歩いていく。華がドクターの手を握りながら。
「あれ…?華…?」
後ろを歩いていた光輝はその後ろ姿が華だとはっきり分かった。
「あいつ昨日の転校生…?どうして…?」光輝はだんだんスピードを落としながらそれを見つめていた。
校門を抜け扉へ。廊下を通って階段を上り2年B組へ。
「フォースフィールドって解除されたの?」華が教室の扉を開けながら言った。
「ターディスで抜け出した後に解除された。フォースフィールドは僕を閉じ込めるためのものだったからね」
教室は昨日と同じく騒がしく、入ってきたドクターと華はすぐに彼らの騒ぎに巻き込まれた。
「よぉ仁!あれ?どうして華と一緒に?」
すぐに男子生徒がそのことに対してつっこんだ。
「まさかー…あれー?」
女子生徒もそれに便乗し、はやしたてた。
「付き合ってるー!?」
教室は驚きの声に包まれた。アキは遠くの席から華に対して手を振っていた。
「ま、まさかそんなわけないじゃん!」華は顔を真っ赤にして叫んだ。
「でもほら、手繋いでる!」男子が二人の間に指をさした。確かに手をぎゅっと握っている。
華はすぐに離して顔をプクーッと膨らませた。
「確かに手は繋いだしキスもしたけど付き合ってない」ドクターは空気が読めないのかそんなことを言い、さらに周りを騒がせた。
「い、言わないでよそんなこと!!」
「そうなのか?」ドクターは華のほうを向き、自分が変なことを言ったことに気づいていないようだった。
それを後ろで見ていた光輝は驚きのあまり後ろに転がってしまった。
ドクターはそれに気づき、彼に対して手を振ったが、光輝はスネてダッシュで廊下を走り去っていった。
「1日でそんなことするなんてロマンチック~」女子の騒ぎも大きくなっていく。
最初に入った時に比べて2倍、3倍も教室がうるさくなった。華はあまりの恥ずかしさに体温がだんだんと上がっていく。
「みんなそろそろ席に着いたほうがいいぞ。今は7時20分だから」
学校のチャイムが鳴り、クラスメイトは全員席に着いた。ドクターは華とは離れた席。別れ際にドクターはポケットからサングラスを取り出し華に手渡した。
「これを使えば記憶は消えない。全校朝会の時これをかけてて」
「なんか…メンインブラックみたい」華はつぶやいた。
「そんなところだ。僕の分もあるから心配しなくていい」
二人が席に着くと、担任の先生が入ってきた。ドクターもみんなに合わせ、起立、礼をした。
「ねぇねぇ、どうして仁くんと付き合ったの?一日でいきなり付き合うだなんて…」アキは華に小さな声で話しかけた。
「だから付き合ってないってば。登校が一緒だっただけ」
「キスはどうしてしたの?」
「あっちが勝手にテンション上がっちゃってキスされたの。今度セクハラで訴えようかな」華は冗談交じりに笑った。
「やっぱ仁って変な奴だね」アキは同調した。
「今日は全校朝会がある。全員廊下に並んで体育館に行くぞ」
先生がそう言うと、一同は起立して廊下へと並び始めた。その途中のこそこそ話では、仁と華の話題が聞こえてきた。そしてたまにこちらを見てくる。
恥ずかしいったらありゃしない。華は下を向きながら並んだ。途中でドクターのほうを見ると、彼はウインクを返した。
「よし、それじゃ行くぞ」先生の合図で全員は動き始めた。
それをどこからか見つめる生首。頭ババアは窓の外から華とドクターを見ていた。
「我々がこの星を頂くのだ、ドクター」
3年、合わせて9クラスが体育館の中に集まった。先生も含め300人を超える数の人々が集まっている。先生たちは体育館に生徒たちを並ばせた後、体育館のステージ横で校長先生のあいさつの準備を進めていた。その中で先生たちは事務員が消えていることについて話し合っていた。
ステージが整備され、校長先生が壇上に上がる。それと同時に、体育館に何者かが近づいていた。
華は校長先生が上がったのと同時にサングラスをつけた。
「どうしたの華?」アキが聞いた。
「え?いやちょっと校長先生が…まぶしくて」そう言ってやりすごした。
「変なの…あいつといたらあんたまでおかしくなっちゃった?」
校長先生がマイクを2回叩き、話を始めた。
「えーみなさん。今日は何の日か知っているでしょうか?この天ノ川中学校が開校35年目の…」
体育館の扉をゆっくりと何かが開けた。赤くほのかな光を発しながら。
「おい、なんだよあれ…」
扉に一番近かった3年生の男子が声を上げた。
「生首…?」
それは頭ババアだった。白い目を見開き、金切り声を上げた。
その一瞬で体育館中はパニックに陥った。頭ババアは入り口の扉だけでなく体育館の窓などからも侵入した。
「キャアアアッ!頭ババア!!華、華早く逃げないと!」アキが華の腕を掴む。華はアキの肩を掴んだ。
「大丈夫。仁がなんとかしてくれるから」
「ど、どういうこと?」
頭ババア達の金切り声はとてもうるさく、窓ガラスを破壊するほどだった。
「なんだ?何が起きてる!?」校長は壇上の上であわてていた。
ドクターは人ごみをかき分け、壇上に駆け上がる。
「ごめんなさい校長先生、マイク貸して貰えますか?」
「なんだ君は?」校長はドクターを見つめた。
「いいから早く。じゃないと全校生徒全員死にますよ?」
先生たちも目の前に現れた怪物に得も言われぬ絶望と恐怖に襲われていた。
半ば強引にドクターは校長からマイクを奪った。
「こちら隅田仁だ!ほらみんなこっち向いて聞いて!頭ババアなんか気にするな!」ドクターは全校生徒に向けて叫んだ。
「ほらほらこっちを向いて。華、ちゃんとサングラスかけたか?」
ドクターが聞くと、華は親指を立ててドクターに向けた。
「よし、僕もかけよう」ドクターはポケットからサングラスをとって目にかけた。
頭ババアたちもドクターのほうを向いていた。
「お前らに最後の忠告をしよう。これなーんだ?」さらにポケットから改造したインフォメーション・コネクタを取り出した。
頭ババア達はギギギギという音を鳴らしながらドクターへと近づいていく。
「僕にやられたくなかったらとっとと体育館から外に出て宇宙船に乗ってどこか遠い星に行け。これは最後だぞ?」
それでも頭ババア達は引き下がらず、ドクターのほうへと近づく。
「僕は忠告した。自業自得だからな」
そう言うとドクターはインフォメーション・コネクタのスイッチを押した。すると真っ白い光が体育館中を包み込んだ。
「何?今何が起きたの?」アキは華のほうを向いた。
「これでアイツらは消えた…」華は安堵した。しかし空中には赤い光を放つ球体が浮かんでいた。
「消えてない…!?」
「今ので僕はみんなの記憶から頭ババアを消した。グレイヴ達はよりどころとなる姿を失った」
赤い光は怒り、ドクターのほうへと接近する。
「さぁみんなあの赤い光を見て、覚えて!」ドクターは叫ぶ。
「2回目だ。これで終わらせる!」
ドクターは再びインフォメーション・コネクタのスイッチを押した。再び白い光が体育館中を包み込んだ。
「ねぇ、ちょっとどこに行くの!」華は体育館から去っていくドクターを追う。
「僕の役目は終わった。グレイヴは一匹残らず消したよ」
「消したって?」華が聞いた。
「まず全校生徒の脳内から頭ババアの情報を消す。奴らは情報をもとに姿を作る。情報が無くなれば頭ババアの姿に化けられなくなる」
「そのあと、生徒たちにグレイヴの真の姿を記憶させた。奴らが生徒の記憶とリンクしてるうちに生徒たちの記憶を消せば…」
「奴らは本来の姿にすら化けられなくなる?」華が答えた。
「その通りだ。奴らは情報から体を精密に作り出す。再現度高くね。奴らは“無”に化けたんだ。精密に」
「でも私たちは頭ババアのことも、グレイヴのことも知ってる。私たちは覚えてる!」華は完全に彼らを消滅したとは思えなかった。
「大丈夫さ。一人二人の記憶だけでは彼らは肉体を作れない。」
ドクターは学校から出てターディスへと向かった。
「ドクター!!」華は走ってドクターを追いかけた。
「すまないけど僕はもうこの学校から去る。今度退学届けを出す」
そう言ってドクターはターディスのドアを開いた。
「じゃなくて、それって過去にも未来にも…行けるんでしょ?宇宙にだって」
「もちろんだ。でも危険すぎる。まだ中学生だし、君を連れていくことは…」
「あんたのせいで宿題ができなかった。このままじゃまた、たんまり宿題が出されちゃう」
華は腕を組んでターディスによりかかった。
「一緒に連れて行ってくれないとあんたのことすっごい恨むからね」
「…」
ドクターはそれを聞いて沈黙した。どうやら考えているようだ。
「…どの時代の、どこに行きたい?」ドクターは笑顔で華に聞いた。
「2112年!」
「どうしてその時代に?」
「えーっと…ドラえもんがさ、本当にその時代に作られてるか知りたくて」
「あー…2112年の地球は君の想像よりも科学が発展してないんだ。だから…」
華は少し落ち込んだ顔を見せた。
「…でも確かドラえもんによく似たロボットが作られたって話はうっすら聞いたことがある!」
ドクターが華を掴んでターディスの中へと入れた。
「確かめに行くか?」
「もちろん!」
華はドクターの手をぎゅっと握りしめた。ドクターは手をつないだままターディスの操作盤へ。
「さぁ一気に100年分飛ぶぞ。一瞬だが揺れは強い。しっかり、手を繋いでて」ドクターは華の手を握る。そして機械を何度もいじった後にレバーを引く。
すると大きな揺れと、いつものあの音が響き渡る。
「ようこそ三崎華、ターディスの時間旅行ツアーだ!」
「あっ、降ろす時はちゃんと私が宿題を終わらせた後ね!」
地球外生命体グレイヴを討ち、ドクターと華、ターディスに乗り込んだ二人の新たな冒険が始まった。
ターディスはいつものエンジンの音、そして大きな揺れと共に未来へと向かっていく。
第一話終了です。第二話は現在執筆中です。
恐らく次回は週明けに。
つたない作品でしたが、楽しんでいただけたようであればとても嬉しいです。