残り14分。ドクターと華とジェーンは管制塔にたどり着いていた。
「これがメインコンピューター。これに取り付ければ……よし、完成!」
赤く光る機械を操作盤に取り付けると、光る機械が何やら奇妙なフィールドを発生させた。
「これで解決?」
「いいやまだだ。これが刑務所全体を覆い尽くすまであと10分ある。その後に発動しないと意味がないね」
「あと10分!? でもあと15分ぐらいでここが焼かれちゃうんじゃ……」
「4分もあれば十分さ。あとはシャウターがダーレクを解放しないように見張りながら、囚人たちを牢屋の中に引き戻す! それで10分経ったらこれを発動だ」
ドクターが取り付けた機械をポンポンと叩きながら髭の中に自慢げな顔を見せる。
「囚人たちを引き戻すって、どうやるの?」
「管制塔はストームケージの中心にある。だからあらゆるシステムがここにあるんだ。けど囚人を引き戻すシステムは厳重だし、何よりも囚人にその存在がバレちゃいけないわけだ。となると管制塔のどこにあると思う?」
「すっごい地下?」
「逆だ。外にある」
そう言うと、ドクターはモニターで外の様子を見せる。吹き荒れる嵐の中に、一つの電波塔のようなものが立っている。そしてその横には操作盤のようなものが。
「まさか……こんな外に出て、あれを起動するってわけ!?」
「囚人たちも危険な外にそんなシステムがあるなんて思わないだろう? 作った人はずいぶんと賢いよ。心配するな、僕が行くから」
そう言うと、モニターを閉じて再びキーボードをいじり始める。
「そういえば、一つだけ聞きたいことがさっきからあるんだけど」
そう言うと、華はドクターに顔を近づけた。
「どうしてそんなに髭が生えてるの? さっきまで生えてなかったし、どうしてここが焼かれるとかそういうことを知ってるの? それに6年間って一体……」
今目の前にいるドクターはスリジーンの中から現れた存在だ。確かに彼はドクターだとは分かる。けどなぜ彼の様子が先ほどと違うのか。それがどうしても気になって仕方なかった。
「話すと長くなる」
「それはもういい。10分あるでしょ? 一体何があったの? 教えて……」
そんな中、管制塔の下から、誰かが上がって来る音が聞こえてくる。
「ジェーンにダーレクの監視を頼んだんだ。たぶんまだシャウターはここに来てないと思うけど」
向かってくる足音はかなり急いでいるように聞こえる。その予想は正解。目の前に現れたジェーンは息を切らしている。
「み、見て来たんだ、けどダーレクがいなくて……」
「何、ダーレクがいない!?」
ドクターはすぐさま管制塔に取り付けられているモニターでダーレクが収容されている部屋を見る。そこにダーレクの姿は既に無かった。
「嘘だろ、予想以上にヤツの動きが早いな……」
「どうするの!? ダーレクが外に出たって……」
「シャウターの手中に入ったなら最悪だ、けど僕は賢い」
そう言うとドクターは突然走り出し、部屋の中から出て行った。
「ちょっと、どこに行くの!?」
「六年間、僕はただボーッと考えていたわけじゃない。あらゆる可能性、あらゆる策を考えてた。ダーレクが逃げ出す可能性もしっかり視野に入れてた。まぁ最悪の状態だからなるべく来てほしくなかったけど」
彼はそのまま管制塔の下へと向かっていく。
「それでどうするの? ここにはヤマタノオロチも何も……」
管制塔の一番下、つまり入口へ辿り着いた瞬間、突然走っていたドクターが目の前で立ち止まり、華は彼にぶつかってしまう。
「ようシャウター、って僕が名付けたんだった」
そこに居たのは四つの目と二つの耳、二つの口を持つ怪物シャウターであった。囚人たちにジュドゥーンなどを侍らせながらドクターの前に立っている。
「君の本名はまだ聞いてないな。喋れるようになったなら教えてくれ、名前は?」
「ドクター、お前がドクターか」
「だから名前を教えてくれよ。言う気が無いならそれでいい。けど僕に確認する必要はないだろ? 前に会ったはずだ。いや、君からしたらついさっきか。ハロー」
ドクターは彼に臆することなく手を振る。ジェーンと華は目の前に凶悪な囚人が現れたの事をただドクター越しに見ているしかなかった。
「お前がここに来た目的はダーレク。そうだろ? 仲間を集めて脱獄とは随分考えたものだな」
「ダーレクは私にとって最高の戦力。これさえあれば敵は居ない。貴様に“箱”を奪われることもない」
「箱、だと?」
シャウターは四つの目を睨ませながら、ドクターを見つめる。
「箱とは一体何だ? 箱……」
箱。その単語を聞いてあることを思い出した。江ノ島、オオタイリクガメから聞いたあの事。
『……箱だ、箱が失われた』
『とても危険な箱だ。この宇宙全体の危機だ』
「箱とは、失われた箱のことか?」
ドクターがシャウターにそのことを聞く。
「それは戦争の中失われた。史上最大の兵器。宇宙を支配することも、破壊することもできる」
「話を聞く限り随分と危険な箱だな。パンドラの箱ってところか」
「私はそれを手に入れる。そして宇宙を支配する」
シャウターは腕を広げ、広がる宇宙を自らのものにせんという野望を語った。
「なるほど、それじゃあ二つ目の質問だ。なぜ僕のことを知ってる?」
「私は裂け目の向こう側の箱を目指してやってきた。そこへ至る途中、お前の名前が頭に響いたのだ」
「裂け目が、僕の名前を?」
二つの口をニヤリとさせながら、変わらずドクターを見つめ続ける。
「そしてお前が最大の脅威だということも知った。お前がここに訪れたのなら、それは私が動く合図。ドクター、貴様を殺す」
「そうかそうか、正体の分からない奇妙な存在に殺されそうになるだなんて、僕は本当に運が悪いな」
ドクターはそんな風におどけながら、後ろにいる華へ小声で合図を出す。
「さっき僕が渡したあの靴を履け」
「どうして?」
「マグナクランプシューズだ。どんな状況でも足をくっつけさえすれば吹き飛ばされることも動くことも無い」
「えーっと、それってどういうこと?」
「君に一番大事な仕事を任せる。外に出て管制塔の一番上の塔に行け。そして囚人たちを引き戻してくれ」
「えっ、私が?」
「僕が注意を引いてる間にやってほしいんだ。それにコイツらが目の前に現れたなら、囮は僕が一番ふさわしい」
「分かったけど……」
「ジェーン、外への扉へ案内してやってくれ。それと、地下に何でもいいから敵を誘導してくれ」
「わ、分かりました……」
そう言うと、ドクターは突然手を大きく上げる。
「何の話をしていた?」
シャウターが訝し気にドクターに聞く。
「僕がすることといえば決まってるだろ? お前を倒し、そしてこの大脱獄を止める作戦を二人に伝えてたんだ」
「自らそんなことを言うのか? お前は見た目ほど賢くはないようだな」
「まさか、僕はすごく賢いよ。こうやって時間稼ぎをしてるんだ」
そう言うと、ドクターは近くにかけてあった時計を眺める。
「装置の起動まであと7分。3分も時間を稼げたね。それと、今僕の後ろには華とジェーンがいる。そして二人の後ろにあるのは、管制塔だ。行け」
そう言うと、ドクターの後ろから華とジェーンが走り出して行った。二人はそのまま管制塔の上層へと戻っていく。ドクターは二人が無事行ったのを見届けると、操作盤をいじって扉を閉めた。シャウターたちが管制塔へと行けないようにするためだ。
「何をするつもりだ、ドクター」
「今言わなかったか? お前を倒す作戦だ」
「扉を閉めて彼らを守ったつもりか? 私にはこれがいる」
シャウターがそう言うと、彼の後ろから見慣れた金属の怪物が現れた。青く光る一つの目。ダーレクだ。
「ダーレクまで操れるだなんて。お前はずいぶんと不思議な能力を持ってる」
「すべては箱を手に入れるためだ。ダーレク、殺せ」
「……抹殺せよ」
ダーレクはいつものように高らかにではなく、静かにその言葉を発した。
「待て待て! そう急ぐな! シャウター、ダーレクは確かにとても強力な存在だ、だけどそんなヤツにも弱点がある、なんだと思う?」
「彼らには弱点など存在しない。この宇宙で最大の武器だ。私とてそれぐらいは知っている」
「なら教えてやろう、ダーレクの弱点、それは僕だ」
「どういう意味だ?」
「つまりヤツの天敵ってわけ。そんな天敵と対峙させるなんて、失敗だね」
そう言うとドクターが突然その場でジャンプした。
その瞬間、突然彼の下の地面が消え、そのままドクターは地面の中へ落ちていった。
「なんだこれは……!?」
シャウターは突然ドクターが消えた深い穴を眺めていた。
「まさか、緊急避難用の通路か……、だが逃がさない、行け」
それを聞き、ダーレクは静かに穴の中へと消えていく。
「私はこの手で彼らを殺すとしよう」
目の前の管制塔への扉を開くため、シャウターは再び吠え出す。
管制塔の中、ジェーンは華を外に出すため、操作パネルを操作している。
「本当にこの靴大丈夫なのかな……」
「マグナクランプシューズ、聞いたことはありますけど実際どうかは……」
「じゃあ試しに……」
黒いその靴を履いて、試しに壁に足をかけてみる。そうすると、なんとそのまま壁に足がくっついて、そのまま歩くことができる。
「すごい! まるで反重力ブーツって感じ」
「反重力ではなく、触れたところの質量を0にしているんです。だから重力や風を無視できるんです」
「んー、よくわかんないけど、これがあればどんな強風の場所でも吹っ飛ばされないってことだよね?」
「そんなところです」
ジェーンが扉を開くためのコードを入力している最中、部屋の中に警報音が響き渡る。
「このままじゃ扉が破られる! 少ししか時間が稼げない」
「なら早く行かないと、外への扉開けて」
コードの入力が終了し、屋外へと続く道が開かれる。そこからは恐ろしいほどの強風が入り込んで来る。ジェーンは吹き飛ばされないよう、壁でそれを遮りながら操作盤を操作する。
「本当にここの外行くって事……!?」
ゆっくりと外へと出ていく。既にこの時点でも下が見えないほど高い。しかし目指すべき場所はもっと高い。
「大丈夫ですか?」
「だ、大丈夫なはず。私別に高所恐怖症とかじゃないし……。でもこれはさすがに高すぎるかも……」
あまりの高さに、少し後ずさりしてしまう。しかしこのままできなければ自分は死んでしまう。だからやるしかない。大丈夫だ、こんな苦難なんていつも乗り越えてきた。この程度、どうってことない。
「きっとドクターもいつもそう思ってるんだろうな」
いつも最大のピンチを前にして、ドクターは時に笑いながら、物事を解決していく。きっと今回も同じように乗り越えられると思っているからこそ、余裕があるからこそ成功にたどり着くのだろう。
「なら、今回だって行ける!」
華はその言葉と共に吹き荒れる嵐の中へと飛び込んだ。そして建物に取り付けられているハシゴに手をかけ、登り始める。
「もう侵入を止められない……! 僕が囮になります! 華さんは気にせず上へ!」
「分かった! 任せておいて!」
最後にジェーンとその言葉を交わし、華は上へ上へと登って行く。
管制塔前、シャウターはその叫び声で扉のロックをついに解除した。
「行け」
シャウターが命令すると、一体のロボットが管制塔の中へと入っていく。それに続いてシャウターが先に進んでいく。
「エレベーター、エレベーター……これだ」
管制塔に取り付けてある小型のエレベーター。一人用ではあるが、これは無事に使えるようだ。早く移動しなければヤツらがここに来てしまう。
「追い詰めたぞ。あの女はどこへ行った?」
しかし、既にシャウターたちは来ていた。一番前に居るのは三本足の奇妙なロボット。そのロボットの顔は機械というより、怪物らしい見た目だ。
「さぁ、僕はよく知りません。僕を殺すつもりですか?」
「どちらにせよ死ぬだろう? それが少しばかり早いかどうかの違いだ」
そう言うと、シャウターは目の前のロボットに命令する。
「そいつを殺せ」
「対象ロックオン、解決策、破壊」
ロボットはそう言うと、銃口を彼に向ける。
「殺せるなら殺してみなよ」
ジェーンがエレベーターのボタンを押し、扉が閉まる。しかしロボットの銃は威力が高いのか、その扉を貫通する。当たらないよう体勢を低くする。
「ついてこい!」
ジェーンがそう啖呵を切り、エレベーターのロックを解除させる。するとエレベーターはそのまま重力に釣られ下へと落ちていく。
「さっきから誰も彼も逃げてばかり。私と戦おうとしない」
シャウターは不満げにロボットに命令すると、そのロボットはエレベーターの扉をこじ開け、そこから落ちてジェーンを追いかけていく。
「だがもう全て終わりだ。全てが私の手の中にある。彼らは逃げられない」
《逃げられない? いいや、逃げる必要ないだけさ》
突然、管制塔の中にドクターの声が響き渡る。
「ドクター!?」
《無線で管制塔に放送してる。管制塔の地下からね》
「私と話している間に、貴様を殺そうとダーレクが来るぞ」
ダーレクはさきほどドクターを追っていった。こんなことをしていても途中でダーレクに邪魔されるはずだ。
《ああ知ってるよ。今逃げながら話してるところ……うわっ!》
ダーレクに襲われたのか、ドクターが叫び声を上げる。しかし間一髪、死んではいないらしい。
「何のつもりだドクター、私と最後に話したいのか?」
《そんなところだ。お前は自分が優れていて、計画が全て上手くいっていると勘違いしてる》
「何だと?」
《お前は最大にして最悪のミスを何回も犯してる。例えばそう、今地下にダーレクを送り込んだこととかね》
シャウターは耳を澄まし、無線の先の音を確かめる。
「ドクター! これでいいんですか!?」
「ああ大丈夫! 完璧だ!」
地下でドクターとジェーンは合流していた。ドクターはダーレクに追われながら、そしてジェーンはロボットに追われながら。
「例の敵、引き付けてきた?」
「ええもちろん! ほら!」
ジェーンが後ろを指さす。そこには三本足を持った、腕が銃となっている奇妙なロボットがこちらに向かっている。
「いいね、スコヴォックス・ブリッツァーだ。やはりシャウターの手の内に落ちてたか。まぁそこそこいい兵器だし、見逃すはずがない」
「アレでどうするんですか!?」
ジェーンはさきほどドクターに言われた通り、スコヴォックスブリッツァーをおびき寄せたがドクターのここからの作戦を何も聞いていない。
「スコヴォックスブリッツァーは戦争のために作られた破壊兵器だ。僕の後ろから追いかけて来るアイツとよく似てる」
ジェーンはドクターの後ろを見る。ダーレクがこちらへ向かってきている。
「どういう作戦なんですか!? このままじゃ挟み撃ちですよ!?」
「僕が何の策も無しに、挟み撃ちにされると思うか? ほら、武器庫でのこと思い出して」
ドクターはジェーンと背中合わせにダーレクの方を向く。反対側からはスコヴォックスブリッツァーが迫る。
《どちらも私にとって最高の兵器だ。ソニックドライバーも持たない貴様には何もできまい》
無線の向こう側でシャウターがほくそ笑んでいる。この状況は勝ったも同然だ。
「確かに、ソニックドライバーを持ってないからダーレクもスコヴォックスも止められない。けど止める必要なんてないんだ。それに言っただろ? お前は最大にして最悪のミスを犯したと」
《ダーレクにお前を追わせたことがミス? それのどこがミスなのだ?》
「お前は何回もミスを犯したと言っただろ? もう一つのミスは反対側にスコヴォックスを向かわせたことだ」
二つの殺人兵器が、二人に照準を向ける。
「抹殺せよ」
「破壊せよ」
二つの銃口から撃たれた弾が、挟まれた二人に近づいていく。
「伏せろ!」
ドクターはジェーンにかぶさり、二人は弾を避けるために体を伏せる。
放たれた弾は追尾性ではない。そのまま二人が避けた弾は反対側の相手に衝突し……大きな音と炎、そして断末魔を上げながら、二体の兵器はそのまま破壊された。
「はぁ、はぁ……、まさか、相打ちさせるつもりで?」
「ああもちろん。上手くいくかは……半分半分だったけど」
《どういうことだ、私のダーレクが!?》
無線の向こう側でシャウターは焦っていた。声からしてそれが分かる。
「言っただろ? お前はようやく手に入れた最大の武器を二つ使い、そして破壊させたんだ」
《バカな……》
「あ、そうそう。お前が犯したミスはまだある。それは僕に6年間考える期間を与えてしまったことだ」
《6年間、だと?》
「ああ。僕はこの6年間ずっとこの大脱獄をどう解決するか考え続けてきた。それだけではなく、お前の正体、そしてその力がどのようなものかもずっと考えてきた」
《6年間……一体どういうことだ? お前はさっき私の収容施設へ来たドクターではないのか!?》
「それは昔の僕。そして今お前と喋っているのは今の僕だ。あれから6年経った」
「ちょっと待ってください、それってどういうことです?」
そのことを聞かれ、ドクターはつい笑みをこぼす。
「本当、最悪な手段だったけどね。でもシャドー議会に連れていかれて成す術も無かった僕の前に、最高のチャンスが巡って来た。他でもない、君のおかげでね。シャウター」
シャウターは無線越しでもドクターが今笑っていることが分かる。
《私がお前に何をしたんだ!? 教えろ!》
「僕に6年間という猶予を与えた最大のミス、それはここの囚人を全て脱獄させたことだ。しかもその中にスリジーンが紛れ込んでた。そして今そのスリジーンはシャドー議会を襲撃している。僕がいる、シャドー議会にね」
次回のチラ見せ
「まさか僕に、メロスになれと言うのか!?」