DOCTOR WHO 青い箱の中の少年   作:ナマリ

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今回で刑務所編のエピソードは終了。
本家のRTD時代を意識してシリーズ全体の前半部分と後半部分に二話完結型のエピソードを入れてみたのですがどうでしょうか。
次回は久々の1話完結型エピソードの予定です。


第十話 GREAT JAILBREAK〈大脱獄〉 PART6

 

吹き荒れる嵐の中、管制塔の電波塔。華は塔にしがみつきながら、そこまで登っていた。

「これかな……」

そこに取り付けられていた操作盤。この刑務所全体を制御するための重要なシステムだ。

「ところで、どれを押せば……」

そこにあった操作盤にはいくつものボタンがあった。赤いボタンに青いボタン、文字が書いてあるボタン。どれが囚人を戻すためのボタンなのだろうか……

「リターン……戻すって意味のはず、これのはずだよね……っ!」

RETURN(戻す)と書かれたボタンを見つけた。考えている時間はない。すぐにそれを押す。

その瞬間、刑務所全体に警報が再び響き渡る。

「まさか、間違ったボタンでも押しちゃった!?」

《緊急、緊急、ID所有の囚人を牢の中に戻します、職員の方々は引き戻しに警戒してください》

「いや、これは成功ってこと、だよね……」

今の機械的なアナウンスを聞く限り、ドクターから言われたことは出来たはずだ。

「こんなところもう居られない! 早く戻らないと……」

マグナクランプシューズのおかげで吹き飛ばされることはないが、もし履いていなかったらどうなっているのだろう。これほどの嵐の中、建物に体が叩きつけられ……想像したくもない。早く屋内に戻らなければ。

 

 

「これは何だ?」

囚人たちに付けられていたID、それは体にタトゥーのように入っていた識別ナンバー。それが赤く光り出す。

「まさか……」

囚人たちの光るIDを見るシャウター。やがて警報は落ち着くように消えていく。

「さぁ囚人共、自分の檻に帰れ」

ドクターがそう言った瞬間、刑務所中の牢が全て解放された。引き戻される囚人たちを迎え入れる準備がされたのだ。

何かに掴まれたかのように囚人たちは浮かび上がり、強力な磁石に引き付けられるように自らの檻へと戻されていく。

武器庫で未だに戦いを続けていた囚人たちも、突然自分たちのナンバーが光り出したことのパニックから、休戦状態となった。

「何だ!? 何がどうなっている!?」

一人のソンターランが、もう一人のソンターランの光るナンバーに触れる。

「ストライク隊長、おそらくこれは爆発する予兆かと」

「爆発だと!? まさかこれが……」

しかしその読みは外れた。武器庫の者達も他の囚人と同じように浮かび上がり、そのまま外へと引っ張られるように飛んでいく。

次々と囚人たちは自分たちの閉じ込められていた檻の中へと引きずり込まれ、その中に閉じ込められていく。

「ダメだ! 行くんじゃない! お前たちは私の奴隷、私と共に箱を探すのだ!」

システムを奪い取ろうと、シャウターは叫び出す。しかし、この刑務所のセキュリティを支配することはできない。声は完全にもう一つのマイナスの音波のおかげで打ち消されてしまっている。

「もうこれ以上は無駄だ、諦めろ」

エレベーターに乗り、ドクターとジェーンがシャウターのいる管制塔の上層部へと戻って来た。

「あれを手に入れなければならない、そのためにわざわざこんな世界にまで来たのだ!」

「マイナス宇宙にまで広がる裂け目とはね。確かに表の世界と裏の世界に干渉できる箱なんて、興味深くて手に入れたいって気持ちは分かる。わざわざここまで来てご苦労だったが、支配しようって言うんならそうはさせない」

シャウターに近づき得意げな顔を見せるドクター。そんな彼にシャウターは思わず彼の首を掴む。

「そうか、お前の存在を……そうさせてしまった……!」

「今の私はプラスの存在……だろう? 貴様を殺すことはできる!」

シャウターはその手に力を込め、思いきりドクターの首を絞める。

「さっきまでの不完全体と違う……っ! 最初に暴れ出した時、お前はこの世界に適応し始めていた、でもエネルギー不足で適応しきれなくなっていたと高をくくった……っ! 今のお前は……」

「お前たちに完全に干渉できる、ということだ。お前の作戦は仇となったな」

ドクターはその手を離さんと強く抵抗するが、その力はとても強い。

ジェーンはそれを見て助けに入ろうとするが、シャウターに蹴飛ばされてしまう。

「お前だけでも殺す……! 終わりだ!」

しかしシャウターがそう呟いた瞬間、後ろの扉が開き、そこから強い風が吹きつけてきた。

「何だ!?」

その扉の向こう側には華がいた。マグナクランプシューズの力で吹き飛ばされてはいない。

「ドクター!? 大丈夫!?」

「華……っ! 扉を開け続けろ!」

ドクターはその強い風に飛ばされないよう、シャウターの手ではなく後ろの操作盤のレバーを掴んだ。ジェーンも近くのものに掴まり、飛ばされないように強く握りしめる。

しかしシャウターは何も掴む者がなかった。両手でドクターの首を絞めていただけに、その強風に一番影響を受けていた。

「悪いが、お前は落ちろ!」

シャウターの絞める力がだんだんと弱まっていく。そのまま彼はドクターの首から手を離し、そして……

「ああああああーっ!」

彼は叫びながら、外の風に掴まれるようにして、外へと投げされて行ってしまう。

「華! すぐに扉を閉めろ!」

ドクターがそう叫ぶと、華は近くにあったボタンを押し、扉を無事に閉める。この部屋に入り込んだ強風は消えた。

「いいタイミングだった。扉を開けてくれて助かったよ」

「いや、たまたま開けたらあんな状況だっただけで」

「本当に? 狙ってやったのかと」

「外からじゃ見えないって。全部解決できた?」

華はドクターにそのことを聞く。ついさきほどまで外に居たので成功したかどうかはまだ知らない。

「シャウターの声を無効化したおかげで、引き戻す機能はしっかり作動した。もう刑務所内は安全だ」

「本当に!? 良かった……」

華は安堵し、ゆっくりとドクターにハグをする。

「ああ。だけど囚人を引き戻しただけ。まだアトラクシはこの星を焼き尽くそうとしてる。残り時間はあと3分ってところだな」

「じゃあまだ安全じゃないじゃん!?」

「議会になだれこんだ囚人たちも含め、全員檻の中へ戻って行った。この状況を“彼女”は見てるはずさ。ちょうど今指令室に居るはずだからね。そうだ、シャウターの声が無効化されたなら議会と直接通信できるかも」

そう言うと、ドクターは操作盤へと近づいていく。通信対象を議会の指令室に繋げる。

「おっと、しっかり映ったな。やぁ! 久しぶり、僕の活躍ぶりちゃんと見てくれたか?」

少しノイズの入ったような形ではあるが、あちら側の音声がしっかりと聞こえてきた。

《ええ、まさか本当にやるとは思っていなかった》

「議会から囚人たちも帰って行っただろ? 事態はこれで解決! さぁアトラクシに命令するんだ、もうここを焼き払う必要は無いと」

《ええ分かっています。しかしどうしてそんなに髭が生えているんですか?》

「話すと長い。それと、ここに向けて船をよこしてくれ。そっちに帰る」

 

 

シャドー議会、指令室でストームケージの様子を見ていたアーキテクトと議会の者たちはアトラクシに命令を下し、ストームケージの焼却処分をやめさせた。アトラクシたちはその結果に不服そうではあったが、一応は宇宙最大の刑務所。危機が去ったのなら捨てる必要はないと説得しなんとか焼却作戦は中止となった。

議会が要請した医療チームや救助チームの手によって、刑務所内に残っていた看守や職員たちのケアが始められた。ドクターと華はジェーンに別れを告げ、さきほどの要望通りにそのまま船で議会に帰って来る。

「懐かしいね。ずっと刑務所の中に居たから」

「ホント。たった数時間だったのに何日も居たみたい」

「まぁ、僕は実際に何日どころか何年も居たんだけど」

「何年も? 一体どういうこと?」

「ああ、そういえば君は管制塔の上に居たから聞いてなかったんだな」

「もう、いい加減に教えてよ!」

「後で話すよ。ほら、もうすぐ着く」

ドクターと華を載せた船はシャドー議会へとたどり着いた。ジュドゥーンらに案内され、議会の会議室へと連れられていく。

そこへ向かう途中、議会の姿が様変わりしているのに気が付いた。囚人がここにまでなだれこんだと聞いていたが、まさかこれほど荒れているとは。壁が破壊され、備品なども壊され、あたり一面には何なのか分からない液体や盗み出したと思われる食べ物が散乱している。もし元の檻に戻すことが出来なければ、これ以上に悲惨になっていたのだろう。

「宇宙で最悪の囚人たちが逃げ出したんだ、もしあのままストームケージを焼き払うだけだったら、被害はもっと酷かったはずだ」

華とドクターはそれらから目を逸らしながら、白いあの女性、アーキテクトのもとへ辿り着く。

「感謝するわドクター、あなたのおかげで刑務所の騒動も終わった」

「今更どの面を下げてそんなことを? 頑なに僕を刑務所へは向かわせなかったくせに」

ドクターは少しばかり不満げな顔を彼女に向けている。

「事情というものは時によって変わるものよ。何はともあれ、これですべて終わった」

「ああ終わったさ、だけど何人も犠牲になったし、囚人たちもたくさん死んだ。シャウターもそうだけど、メディだってそうだ」

ドクターはうつむきながらこの事件で亡くなってしまった人々のことを思い出す。

「彼女たちのことは残念です、新しい署長が必要ね。しかし刑務所の重役はほとんど……亡くなってしまいました」

「なら私、ジェーンのこと推薦しようかな。きっと彼ならいい署長になってくれるはず」

「しかし彼は教養が足りません」

「確かにそうね、ならあなたが教えてあげたら?」

「人柄も署長になるには大切な要素だ。さて、僕のソニックドライバーとターディス、返してもらおうか? 刑務所が元通りになった今、奪う必要も無いだろ?」

「ええ、そうね」

そう言うと、彼女はドクターのソニックドライバーを取り出し、彼に手渡した。変わらず銀に輝いている。

「どうも。ところで僕の罪は全部帳消し?」

「全部ではありません。しかし今回は見逃してあげましょう」

「そりゃありがたいね。サイに追われる前に帰るとするよ」

彼女の裏には、ターディスが置いてあった。侵入されないためのフォースフィールドは解除されている。

 

 

「何年ぶりだろう! なんだか実家に帰って来たみたいだ! 実際実家だけど。どうだ、寂しかったか? そこまででもないって? 全くお前は……」

ドクターはターディスの中に入るなり、操作盤をいじり倒している。その度に変な音があちこちからする。ドクター曰く、ターディスの鳴き声のようなものらしい。

「それで教えてよ。そんなに髭が生えてる理由」

「髭がこんなに生えてる理由か? そりゃあ剃ってなかったからに決まってるだろ。誰だって剃らなきゃこうなるさ」

「ちゃんと学校に行くまでに剃ってね。そんな長いと校則違反になるよ」

「ちゃんと剃るさ。ターディスの洗面台なんて使うの久々だ。場所がトイレと真反対にあるのが困るんだよな」

ドクターは操作盤をいじりながら、しっかりと使えるかどうかを確かめる。ちゃんと洗面台は残っているようだ。

「6年って言ってた。6年間ってどういうこと?」

華はターディスのモニターを除け、ドクターにそのことを聞く。

「スリジーンの中から出てきただろ? 僕はあの中に6年間居たんだ。議会に連れ戻された後、君を助けるためにスリジーンの皮を被って6年前に行き、スリジーンのフリして刑務所に収監された。その間はずっとシャウターやストームケージの構造について考え続けてた。しっかりとヤツらを止められるようにね」

「私の……ため?」

「ああそうさ。僕があんな危険な場所に連れて行ったんだ、助ける義務がある」

彼は変わらずターディスのあちこちに触れながら、話を続ける。

「それは……ありがとう。でも6年間なんて長いよ、そこまでして助けるなんて……」

「確かに6年間スリジーンの中は最悪だった! けど手段がそれしか無かった。唯一の懸念点は化けた元のオーグが存命かどうかだったけど、ちょうど6年前に行ったタイミングで彼は死んでた。で、僕は彼のフリができた。時間というものは流動的だ、必ず決まった結論へ辿り着くようになってる。不思議だな」

「でも6年分老けてるってことじゃないの? もしかしたら髭の中はもう大人?」

「まさか、タイムロードは老けるスピードが遅いし、僕は見た目が子供なだけさ。心配ない。髭を剃れば前の僕と変わりないよ」

そう言って、彼は目的地を設定する。

「……私ね、思ったんだ。もし死んだらどうしようって。しかも知らない場所で。もう二度と、誰かに会えなくなるなんて嫌だなって」

「そんなことにはさせない。僕を誰だと思ってる?」

「ドクター、でしょ? でもあなたでも人を助けられないときはあるんじゃないの?」

「たくさんあるさ。だけどこの手が届く限り、僕は助け続ける。だから僕はドクターという名前を選んだんだ」

ターディスのレバーを下げ、議会から去っていく。

 

 

頭の中、思考を巡るのは、自分がドクターという名前を選んだこと。そしてその名は気付けば自分の想像以上に大きくなっていたこと。

あのシャウターですら自分の名を知っていた。マイナス宇宙に存在する彼すらも。

なぜ自分はこの名を選んだのか、その記憶は長く生きる中でだんだんと曖昧になっていく。しかしそれでもその名を背負って人を、大切な存在を守り続けなければならない。

「裂け目、失われた箱。そして僕の名前。一体何なんだ……」

時の渦の中、ドクターを運んだ青い“箱”は現代の日本へ向けて飛んでいく。

 

 




『予告状 10月10日 深夜0時 宝石「ブルーティアーズ」を頂きに参ります 怪盗ドクターより』

「怪盗“ドクター”だと? バカバカしい」

「怪盗を逮捕したっていうなら人違いだ。僕は怪盗なんかじゃない」

「しらばっくれても無駄だ。まさか世間を騒がせる怪盗がこんな子供とはな」

「確かに僕はドクターだけど、怪盗のドクターじゃない!」

「怪盗ドクターの手で既にその五つの宝石のうちの二つが盗まれた。大英博物館のレッドハート、ルーヴル美術館のグリーンガイア。そして今回の三件目がこの国立科学博物館のブルーティアーズ」

「今は23時50分、深夜0時まであと10分」

「もうすぐ時間だ」

「これは明らかに僕に対する挑戦状だ。宇宙の怪盗が相手なら、宇宙一の名探偵が相手をしてやる!」

次回
THE PHANTOM THIEF'S NAME IS DOCTOR〈怪盗ドクターからの挑戦状〉
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