DOCTOR WHO 青い箱の中の少年   作:ナマリ

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今回から新エピソード。全体の物語もここから終わりに片足を突っ込み始めます。


第十一話 THE PHANTOM THIEF'S NAME IS DOCTOR〈怪盗ドクターからの挑戦状〉PART1

現代。東京都、上野。

国立科学博物館の地球館、地下10階。一般に公開されていないこの地下では、ある宝石が厳重に守られていた。

強化ガラスで密閉されたその青い宝石を、何十人もの警官隊が取り囲んでいる。他ならない、今日この場にそれを盗もうとする輩が現れるからだ。

 

『予告状 10月10日 深夜0時 宝石「ブルーティアーズ」を頂きに参ります 怪盗ドクターより』

 

「怪盗“ドクター”だと? バカバカしい」

一人の警部が、その『予告状』を見た後に胸ポケットへしまった。

「しかしゴンさん。怪盗ドクターは本物です」

彼の隣の刑事が彼に話しかける。

「んなこと知ってるよ。今回ので三件目だ」

警部の男は守られているガラスの向こうの宝石を眺める。

「もし今回ので捕まえられなければ、日本の警察の信用はガタ落ちですね」

「心配するな。今回は今まで以上の警備をしてある。まずここは地下30mで、警護している警官隊はこの階だけで100人もいる。あとは地上の階まで同じように続いている」

科学博物館に展示されている恐竜の化石の下までも、警官たちがせわしなく歩き回って警戒している。

「さらに、外にはパトカーが50台。このためにわざわざ上野周辺の全ての店を閉めて外出禁止令まで出してる。仮にここまでたどり着いて宝石を盗んだところで、無事に逃げることはできないさ」

そう言うと、警部は葉巻を咥える。

「申し訳ないんですけど、ここ禁煙です」

「どうして?」

「火災報知器が作動してしまいますから」

まったく……とため息をついて警部の男は葉巻をポケットに戻す。

「約束の時刻まであと30分か」

10月9日。時計は23時30分を指している。怪盗ドクターが現れるまでまもなくだ。

「いいか、ヤツはこれまでいくつものセキュリティを潜り抜けてきた。最初は大英博物館、その次にルーヴル美術館。どんな侵入者であろうと必ず捕まえる! お国の数々がそのセキュリティをドクターによって破られてきた。だが今回はそうは行かない。無事にヤツを捕まえて化けの皮を剥いでやるんだ。決して油断するなよ。既にヤツはここに……潜り込んでいるかもしれない」

警官隊はそれを聞いて互いをチラチラを見合う。もしかすると隣に例の怪盗が変装して潜り込んでいるかもしれない。

「たとえそうだったとしても、ここからは決して逃げられないがな。さぁみんな、世界に日本の警察の底力を見せつける時だ」

警部の男は手のひらをパンパンと叩き、警官隊に合図する。

「さて、俺は……と。小腹が空いてきたな。この辺りに自販機あるか?」

部下の刑事にそれを聞く。

「ありませんよ。ここは地下10階の倉庫ですよ?」

「何だよ。タバコも飲み物もダメか?」

「今の演説は何なのやら。ルールはしっかり守ってくださいよ」

部下の刑事に背中を叩かれて窘められる。へへへと笑って、ポケットから小銭を取り出して彼に渡す。

「エレベーターは二人以上同伴なら使えるだろ? 上まで行ってコーヒー買ってきてくれ」

「あと30分ですよ?」

「俺がちゃんと宝石は見守っておく。5分もあれば帰ってこれるだろ?」

彼の肩を叩き、警部は彼をパシリに使う。ため息をこぼしながら、刑事の男は警官を二人連れてエレベーターへ乗り込もうとする。

「ボスのコーヒー、だからな?」

刑事の男にそれだけを伝え、青い宝石へと視線を映す。

「まったく、毎度毎度どんな手口で……」

その瞬間、どこからともなく風が吹いてきた。最初は単なる隙間風かと思ったが、よくよく考えてみるとおかしい。ここは地下10階。エアコンこそはついているものの、これはまるでビル風かと思うかのように強い。

さらに風と同時に、奇妙な音が聞こえてきた。ブォンブォンとまるで車のエンジンをかける時のような音だ。

風、そしてその音と共に、今度は奇妙な青い箱が目の前に現れた。警官隊は警戒し、それに銃を向ける。

「なんだこりゃあ……!?」

警部の男は突然現れた奇妙な箱に呆然としていた。刑事の男もこの状況を察したのか、エレベーターに乗る前に戻って来る。

「電話ボックス、でしょうか」

刑事の男がそう呟くと、突然箱の扉が開き、その中から人が現れた。

 

 

「さて、上野の国立科学博物館だ。しかも地下10階! 常設展では出せないような、変わった展示品が見れる。真っ黒な絵画とかね」

ドクターはそう言いながらターディスのレバーを引く。いつもの音を立てながら、部屋は大きく揺れる。

「よし、到着した! ところで、どこでここの事を知ったんだ? 一般には公開されてないはずだ」

「都市伝説よ。気になったの」

華はそう言って上着を着てターディスから降りようとする。

「待て待て、僕が先だ。一応ちゃんと倉庫の中に降りたはずだけど、間違いが無いか確認しないとね。また戦場のど真ん中だったら危険だし」

華の前に立ちふさがり、ゆっくりとターディスの扉を開けて外へ出ていく。

「ほら、ちゃんと倉庫……にしては人が多い」

目の前にいるのは何十人もの警官隊。その中心にはブラウンのローブを着た警察らしき男が立っている。さらに彼らはこちらに銃を向けている。

「また場所間違えたんじゃないの?」

「そうかも……」

二人は警官に狙われながらも、抵抗の意思はないことを示すために手を上げる。

「お前、一体どうやってここに来た!?」

警部の男はドクターに向かって叫ぶ。

「えーっとまぁ、その……簡単なトリックだよ」

「それって余計な一言なんじゃない? ターディスが現れたところを見られた」

華のエルボーがドクターの横腹を軽く殴る。

「確かにトリックと言うには手が込み過ぎてるな。しかもこんだけ人がいる中で」

「お前は何者だ、名を名乗れ」

警部の男は凄んだ顔で二人を見つめる。

「僕はドクター、でこっちは三崎華。よろしく」

ドクターはフフッと笑いかけて場を和ませようとするが、警官たちはその名前を聞いてむしろざわついた。

「ドクター、だと?」

「ああ。ドクター、ただのドクターさ。銃下ろしてくれない?」

 

 

倉庫近くの事務所、ドクターは手錠をかけられ、そこのイスに座らされ、警部の男に睨まれている。

「教えてくれ、なんで僕が逮捕されるんだ? しかもこんな手錠までかけて。建造物侵入罪?」

ジャラジャラと手錠を見せつける。警部の男は揺るぎなくドクターを睨み続ける。

「窃盗罪に決まってるだろ。まさか世間を騒がせる怪盗がこんな子供とはな。あれは一体どんなトリックを使ったんだ」

「怪盗を逮捕したっていうなら人違いだ。僕は怪盗なんかじゃない」

ドクターは困り顔で警部の男に訴えるが、彼は全く見向きもしない。

「しらばっくれても無駄だ。もろもろの手続きが終わればお前はすぐ署に連行される。今まで盗んだ宝石も全部出してもらうからな」

「だから違うんだって、宝石って何のことだ?」

「イギリスの大英博物館、フランスのルーヴル美術館に展示されていた宝石のことだ。今回は盗まれる前に逮捕できて良かったよ。全く」

そう言って彼はどこからか葉巻を取り出し、火を点ける。

「ふーっ……、まるで漫画の怪盗みたいに、予告状を出して毎度毎度奇抜な犯行で盗むお前の手口には、世界中の警察が手を焼いてきた。だが今回の俺たちの張り方は見事だった。飛んで火にいる夏の虫とはお前のことだな」

「なんでこんな事に……華はどうしたんだ?」

そういえばここに連れていかれる前、華は別の場所へ連行されていった。そこからの消息はまだ知らない。

「お前の協力者か、あいつも逮捕だよ。未成年だしメディアに名前と顔は載らないだろうが」

そう言いながら、彼は灰皿に押し付けて葉巻の火を消す。

「また逮捕される目に遭ったか、華も散々だな……、何度も言っておくけど、僕たちは無実だ。ほら、この目見て」

警部の男にドクターは自分の瞳を見せる。ベテランの警部なら嘘をついているかついていないか見分けることができるはずだ。

「くだらん」

彼はそう言ってドクターの瞳を一瞥すると、再び葉巻に火を点ける。

「君はどうやら腕のいい警察じゃないみたいだな」

「なんだと? お前を捕まえたこの俺が腕の悪い警察だと!?」

「そうやってすぐ怒る。自分から腕の悪さを露見させてるね」

「この野郎、逮捕されたからって煽ってきやがって……!」

警部の男は葉巻を消し、ドクターの胸倉をつかもうとする。

「ちょっとゴンさん、怒ったところで思うツボですって」

彼の部下らしき刑事が、なんとか彼を制止させる。

「大体、怪盗の犯行現場に僕たちが来ただけで逮捕なんておかしい話だし、僕たちが犯人だという証拠も無い。逮捕なんて不当じゃないか?」

「証拠ならハッキリしてる。お前の発言だよ、怪盗“ドクター”」

「怪盗……ドクター?」

「ああ、お前の名前だ。これを見てみろ」

そう言うと、警部の男は怪盗から送られてきた予告状をドクターに見せる。

金色のレースのような模様が特徴的な一枚の厚紙に、犯行予告の文章と末尾に「怪盗ドクター」という名前と、ターディスと思われる青い電話ボックスのようなマークがそこに書かれていた。

「何のマークかと思ったが、まさかあの電話ボックスとはな。しかも堂々と出てきて自ら“ドクター”と名乗るとは。まさかこれも作戦のうちじゃないだろうな?」

ドクターはその予告状を見て目を疑った。こんなものを書いた覚えも出した覚えもない。

「こんなの……知らないぞ!? 怪盗稼業なんて一切したことない! 泥棒の知り合いはいるけど、携わったことはない」

それを見て必死に弁解するが、警察の彼らは一切聞き入れようとはしない。

「わけのわからないことを言うな。あの青い箱にドクターという名前、お前がクロだというのに変わりはない」

「確かに僕はドクターだけど、怪盗のドクターじゃない! 勘違いだ、というか間違いなくその怪盗は僕の事を知ってる! そのマーク、明らかにターディスだ。僕はたぶん……そいつに嵌められた」

「嵌められただと?」

「ああ、きっと僕を逮捕させて、その隙に盗むつもりなんだろう。推測だけど」

「そんなこと言って、俺たちを騙そうってのか? そうはいかねぇ、ただでさえ相手は世界中でお尋ね者の怪盗ドクターだ。どんな手口で盗むかわからない以上、お前の言う事は全部ハッタリだ」

「怪盗と疑われるなんて随分面倒だな。しかし相手はターディスに僕のことを知ってる……、そうなるとただの地球人の怪盗じゃないな。一体何者なんだ」

ドクターは彼らをよそに必死に考えを続ける。自分を知っている謎の怪盗ドクター。少なくともただの地球人ではないはずだ。

「その怪盗が盗もうとしている宝石って、一体何の宝石?」

「お前が一番よく知ってるだろ?」

「だから僕はその怪盗じゃないから詳しくは知らないんだ。どちらにせよ今は手錠もかけられて何もできない、教えてくれ」

「はぁーっ、仕方ねぇな」

警部の男は再び葉巻に火を点けながら口を開く。

「今から半年ほど前、世界中のあちこちに隕石が落ちたんだ。そこから発見された五つの宝石。そのうちの一つが、宇宙からやってきたこの世で最も綺麗とされるダイヤモンド“ブルーティアーズ”だ」

「宇宙から来た宝石か」

「怪盗ドクターの手で既にその五つの宝石のうちの二つが盗まれた。大英博物館のレッドハート、ルーヴル美術館のグリーンガイア。そして今回の三件目がこの国立科学博物館のブルーティアーズ。なんとか予告状が届いた三日前からここまで警備を固めたおかげで逮捕できたがな。俺の功績だ」

「だから僕は怪盗じゃないと……、しかしその宝石には興味がある。あることを条件に見せてくれないか?」

「見せろだと? そんなことできるはずがないだろう」

「まずは条件を聞いてくれ。その条件というのは例の怪盗ドクターを、僕が捕まえるという条件だ」

「怪盗ドクターを捕まえる?」

その言葉に警部の男は呆気にとられた。その怪盗ドクターというのはお前のことじゃないのか?

「ああ。僕の無実の証明にもなるし、真犯人も捕まえられる。例の時間まであと何分?」

「今は23時50分、深夜0時まであと10分だ」

「その怪盗が、まさか30分前に来ると思うか? どう考えてもこれはカモフラージュ。怪盗ドクターは時間きっかりに盗みに来るはずだ」

「確かに、怪盗ドクターはこれまで時間きっかりに現れ、盗んでいます。30分前に現れるのはおかしいです」

刑事の部下がふと呟いた。

「僕の無実の証拠を補強してくれてありがとう。そう考えると怪盗ドクターは0時きっかりに現れる、つまりそれより前に来た僕は怪盗ドクターじゃない、ただの同名の別人だ」

「だとしてもブルーティアーズをお前に見せるのは……」

「もしこれで本物の怪盗ドクターが現れて盗まれたら全部君の責任になるはずだ。そんなのは嫌だろう? いや、腕の悪い警察だし、どっちにしろ盗まれるのがオチか」

「何だと!? 誰が腕の悪い警察だ!」

その言葉に彼は憤慨した。ドクターの思うツボだ。

「だと言うなら僕にその宝石を見せるんだ。ついでに華も解放してくれ」

「いいだろう、どちらにせよその手錠の鍵は俺が持ってる、どうせ盗めやしない。好きなだけ見て、本物の怪盗ドクターとやらを捕まえて見るといい」

「ゴンさん、煽られるのに弱いんですから……」

部下の男にそう不満を言われながらも、ゴンはドクターを連れて例の宝石、ブルーティアーズへと連れていく。

 

 

「本当によろしいのですか?」

「怪盗ドクターを、怪盗ドクターが捕まえるらしい。どんなもんか見ようじゃないか」

銃を持った警官に一人にそう言われながらも、警部の男はドクターを連れてブルーティアーズの元へと訪れた。

「ドクター!」

「良かった、華、無事だったか」

なんとか再会できた二人はすぐに抱きしめ合おうとしたが、どちらも手錠をかけていたため上手くできず、結局諦めた。

「一体どういうことなの? いきなり逮捕されるなんて」

「これほど厳重な警備の前で突然現れたんだ。警戒されてもおかしくないが、逮捕されたのは僕が怪盗だと疑われたせいだ」

「怪盗? ドクターが? まさか盗みに来たの?」

「んなわけないだろ。第一ここに来たいと言ったのは君だ。これは完璧な冤罪だよ」

「それで、どうやって解放されたの?」

「その例の怪盗を僕が捕まえてみせるという条件付きでね。手錠の状態で捕まえられるかは怪しいけど」

そう言ってドクターは両手にがっちりとつけられた手錠を華に見せつける。

「それは手伝えなさそう。私もこれだし」

華も返すように自身の手錠を見せつける。

「おい、怪盗野郎。とっとと本物の怪盗ドクターを捕まえてみろ」

警部の男に手錠を掴まれながら言い寄られる。

「すぐ捕まえてみせるさ。まずはあのダイヤモンドが何なのか調べてみる」

腕の後ろで警部に腕を掴まれながら、例のダイヤモンド、ブルーティアーズの前へと歩いていく。

それは厳重な強化ガラスで閉じ込めてあり、銃弾でも破れることがないほど強靭だと分かる。青い半透明のそのダイヤは、今まで見てきた中でも抜群に美しいものだった。素晴らしい加工だ。

「これはずいぶんと良いダイヤだ。怪盗が盗もうとするのも納得だな。100億円の価値がありそう」

そんな感想を述べながら、ドクターはポケットからソニックドライバーを取り出し、そのダイヤモンドに光を当てる。

「おい! お前今何をした!」

しかし、警部から見てそれは盗もうとする合図のように思えた。すぐに彼の腕を締め上げる。

「いててっ、離してくれよ! ちょっとだけこのダイヤを調べただけだ!」

「嘘つけ、やっぱり盗むつもりなんだろう!?」

「違う違う! なぁ、このダイヤを見て疑問に思ったことはないか!?」

「疑問? んなもん特にないね。悪いが俺はあんまりこういうのは趣味じゃないんだ」

「よくそれで警官隊のリーダーが務められるな……」

ドクターは盗もうとする意志が無いことを示すため、ソニックドライバーを彼に手渡す。

「まず疑問の一つ。これはどうして既に“加工”されてる?」

「加工?」

「もしこれが隕石に付着していたなら、形はもっと歪なはずだ。だがこれは既に加工された状態。つまり誰かの所有物だったということだ」

「んなもん、落ちてきた後に誰かが加工したんだろ」

「隕石は貴重だ。わざわざ加工するなんてオリジナリティが損なわれることはしないはずだ。五つのクリスタルもおそらく加工済みで落ちてきたはず」

「じゃあ、このダイヤは誰かが落としたってこと?」

聞いていた華がドクターに聞く。もちろん彼女も警官に動けないよう腕を掴まれている。

「かもな。それと怪盗の関連性は不明だけどね。それとこのダイヤの原産地も今分かった」

「原産地? そんなものまで分かるのか?」

「相手がどこから来たか分かる手掛かりになると思ってね。それの光を当てるだけでね」

「これで?」

警部の男はソニックドライバーをまじまじと見る。

「このダイヤは惑星ミッドナイトで採れるダイヤだ。地表がすべてダイヤで出来てる星。とても綺麗な星だけど、その性質のせいで太陽光に汚染されてるんだ。だからこのダイヤは放射線を出してる。微量だから人体に影響はないけど」

「それが分かったところで、怪盗を捕まえるのに役立つか?」

「大いに役立つ。その性質が必要だから怪盗ドクターは盗もうとしてるのかも。さぁあと3分で怪盗ドクターはここに現れるはずだ。もし現れたら僕がとっちめる。覚悟しとけよ」

ドクターはそう自信を抱いて天井や地面、あちこちを見渡す。どこから怪盗ドクターが現れるのか……

「ねぇ警官さん、私もあのダイヤモンド見てみたい」

「何だって?」

自身を掴んでいる警官に華が小さな声で話しかける。

「いいでしょ? 見るだけだし」

「しかし、あなたたちは一応容疑者です」

「はぁーっ……、私ただの中学生だよ? 盗もうとして盗めるわけないじゃん」

「別に……見るだけなら構いませんが。私も同行しますよ」

「ありがとう」

中学生という立場を利用し、警官をねじ伏せた。一応女性に変わりはない。綺麗なダイヤモンドを見てみたいのだ。

「綺麗……」

「なんだ、こういうのが好きなんて意外だな」

ダイヤモンドに見惚れる華に、ドクターがそんな軽口を叩く。

「別にいいでしょ。私だって将来ダイヤモンドの一つや二つは欲しいもの。本物がどんなもんか知りたくて」

ダイヤモンドに、いまだかつてないほどの羨望の眼差しを彼女は向けている。

「まさかこのダイヤ、催眠作用でもあるのか?」

ドクターが華に話しかけるが、彼女はずっとそれを眺めている。

青く光る、この世で最も美しいダイヤモンド……

「しかし、怪盗ドクターか……、僕の名を騙るなんてね。怪人二十面相かな? それともルパン? 君はどう思う?」

ドクターがふと華にそんな質問を投げつける。

「そうだね、私はルパンだと思うな。ルパン三世かも」

「ルパン三世?」

その言葉を聞き、ドクターは訝しげな顔をする。

「なんで“ルパン”なんだ?」

「え? だって、怪盗といえば一番有名でしょ?」

「確かに知名度は抜群だ。けど僕の記憶違いじゃなければ、華が好きで特に推してる怪盗は“キッド”だ。コナンに出てくるヤツ」

「別に、どっちも好きなだけだよ」

「いいや、君はこだわりが強い方だ」

ドクターは彼女をまじまじと見つめる。

「なぁ、彼女いつから腕時計を?」

華の左手首についている腕時計。ドクターは彼女がそれを付けているのを初めて見た。

「さ、さぁ……先ほどからつけていたと思いますけど」

華を連れてきた警官の一人が震えながらそう答えた。

「腕時計を付けてたら、怪しいから手錠をかける前に外すはずだろ? だとすると……、彼女の手錠、ちゃんとかけてあるか?」

その瞬間、華にかけられていた手錠がゆっくりと外される。

「おい、24時だ。怪盗ドクターは来ないようだぞ」

警部の男がドクターに苛立ちながら突っかかる。

「いや、たった今“来た”」

華は突然振り向き、その腕時計に手を掛ける。

「みんな離れろ!」

その瞬間、腕時計から大量の煙が放たれ、辺り一面は溢れんばかりのそれに包まれ真っ白になる。

突然の出来事に、警官たちは慌てながらその場から去ろうとする。

「ゴホッゴホッ……あれ、なんだ……これ……」

しかし、その拡散力はとても高かった。逃げる隙も無く、その煙を吸った者達が、苦しむ様子もなく、その場にゆっくりと倒れ込んでいく。

やがてその煙はブルーティアーズのある部屋全てを飲みこみ、そこに居た人々を次々と倒れさせていった。ただ一人、そのダイヤを眺める少女を除いて。

 




次回のチラ見せ

「我々は盗み方にちょっとしたエンターテインメントを加えているだけだ」
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