DOCTOR WHO 青い箱の中の少年   作:ナマリ

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最近忙しくて全然更新できてません、なかなか時間が取られますね……



第十一話 THE PHANTOM THIEF'S NAME IS DOCTOR〈怪盗ドクターからの挑戦状〉PART4

 

10月13日の23時。科学未来館にできる限りの警官隊を集め、ドクター達は怪盗ドクターの登場を待ち続けていた。

警官たちが目を凝らして監視する中、ドクターはターディスの中で怪盗ドクターが使ったテレポートを解析し続けていた。

「あと1時間なんだ、早く結果を出してくれ」

操作盤を叩きながら、ターディスに結果を出せと急かし続ける。ターディスは妙な音を出してそれに返事する。

「テレポートの残留要素……、これを使えばテレポートの信号逆転も可能。そうすれば使えなくさせられる。ということなんだ、早く結果出してくれ。テレポート先はどこだ?」

ターディスを使い、上野でテレポートした怪盗ドクターの足跡を辿る。結果をせかしていると、ピロピロという音と共に、ターディスがついにその結果をはじき出した。モニターにそれが表示される。

「よくやった! なるほど、テレポート先は……上野上空? そしてそこから東京上空へ移動した軌跡がある。宇宙船に帰ったってわけか。しかし移動中の船へのテレポート、リアルタイムでするには一人じゃ無理なはずだ。となると……、怪盗ドクターは一人じゃない、協力者がいるはずだ」

その結果を考察し、ドクターはターディスから出て警部たちの元へと向かう。

「例の作戦はどうだ? 成功しそうか?」

「ああ問題はない。解析した結果、怪盗ドクターは単独犯じゃないことが分かった。きっと協力者がいるはずだ。そしてその協力者は怪盗ドクターと共に現れるはずだ」

「共に現れる? 前に出てきた時は一人だけだったはずだ」

「協力者は一緒に行動してたわけじゃない。例えるなら、逃走用の車の中に待機してる」

「つまりその車も見つけないといけないわけか?」

「そんなところだ。けど大丈夫、ターディスがあればすぐに分かる。それじゃ僕はもう少しだけ調べ物。じゃあみんな、怪盗ドクターを必ず捕まえよう」

その言葉に、警官隊はゆっくりと頷く。

ドクターはすぐに再びターディスの中に入り、操作盤をいじくり回す。

「時間軸を半年前にセット。宇宙船の痕跡を……」

モニターには地球を含めた太陽系の情報が表示された。今から半年前の宇宙の状況を表しているのだ。

その中に現れたのは、何やら厳かな雰囲気を持った、いかつい船だった。

「これは……」

ドクターがその船に焦点を当ててズームしていく。

「そうか、この船に宝石が」

 

 

「もうすぐ時間だ、怪盗ドクター」

「ええ、もう準備は万端です。この作戦ならドクターの裏をかける」

同じ頃、ロベルク、そして怪盗ドクターという女性は次の作戦のためお台場へと向かっていた。

「それじゃあね、華ちゃん。色々話せて楽しかった」

「私、あなたのために話したわけじゃないから。過去に何かあったからって、人を傷つけるようなやり方は……」

この2日間、怪盗ドクターは華にかなり興味を持ったらしく、犯行時刻までの間は退屈しのぎのためか、彼女にずっと話しかけていた。そのためか、華は脱出するような時間がなかった。しかし脱出しようとしてもここは宇宙船、出たところできっと空の上。その事実に気づいた後はおとなしく彼女の話を聞き続けていた。

「これしかないの。そうでしょ、ロベルクさん」

「ああ、君たちが動物を使ってドキュメンタリー番組を作るようなものさ、全ては娯楽のため、そしてその金で生きるためだ」

「分かってるけど……」

怪盗ドクターから彼女の身の上話を聞かされていた華は、その言葉に返す言葉が無かった。

『タイムウォー、私の種族が滅びた戦争』

「タイムウォーって一体何? ドクターからそんな話、まだ聞いたことないし……」

「それじゃあ華ちゃん、待たね」

聞こえない声量で呟く彼女を横目に、椅子に座った華にそう一言告げ、彼女はテレポーターのボタンを押した。光に包まれ彼女は消える。“仕事先”へと向かったのだ。

「さて、それじゃあ次に向かうところは……」

ロベルクは彼女がテレポートしたのを確認すると、華の元から消え、船の操縦室へと向かった。

「準備は出来てるかベルス?」

ロベルクは、そこに座っていた一人の男に話しかけた。

「いつでもオッケーです」

ベルスと呼ばれた男は船のエンジンを始動させた。ジェットは勢いよくふかされているが、全くの静音だ。しかし見た目通りの勢いで、船は高速で空を移動する。

「向かうはアメリカだ」

 

 

23時50分。怪盗ドクターが現れる時間まで残り10分となった。

「本当にこの作戦、成功するか?」

警部の男に聞かれ、ドクターは自信満々に答える。

「心配ないさ。サイレンスバイオレットを盗めたとしても、ここには厳重な封鎖機能がある。盗もうとした瞬間に施設全体を封鎖すれば、逃げられないよ」

「だがヤツはテレポートできるはずだ」

「ターディスで信号を逆転させればいい。テレポート先をここにする。そうすれば永遠に出られない。テレポート装置を外して逮捕ってわけだ」

「なるほど、それは悪くない作戦だな」

警部の男は、葉巻を取り出して火を点け、厳重に保護されているサイレンスバイオレットを眺める。

「しかしあの宝石、一体何なんだ? どうして宇宙から宝石が?」

「怪盗が狙うくらいなんだ、きっと宇宙でも特に重要なものなんだろう。加工済みなのを見ると、途中で輸送船が襲撃されたとか? けど、それを調べるのは怪盗ドクターを捕まえてからだ」

1秒1秒と時間が経つにつれ、場の緊張がだんだんと高まっていく。警官たちも、もうすぐ訪れる怪盗ドクターを探さんとあちらこちらを見渡している。

「ゴホッゴホッ……失礼」

警部の男が、葉巻を手に持ちながらせき込む。

「得意じゃないなら辞めればいいのに」

「最近禁煙しようとしててな。肺が弱くなったんだ」

「なら早く辞めた方がいい」

「けど、辞められないのがスモーカーの定めさ」

そう言いながら、彼は葉巻を口にし吸い続ける。

「あと5分か」

ドクターは腕時計を眺めながら、怪盗ドクターがどのような手口で現れるかを推察し続ける。

「ところでドクター、ちょっと一緒に来てくれないか?」

警部の男に言われ、ドクターは怪訝な目を向ける。

「どうして?」

「話しておきたいことがあるんだ。怪盗ドクターは人の姿をコピーできるんだろ? ならここに既に紛れ込んでてもおかしくない。聞かれたらマズいことなんだ」

「そうか……」

それを聞き、ドクターは何故かソニックを光らせ、その先端を眺めてすぐにしまった。

「分かった。けど時間が無い、なるべく簡潔に頼むよ」

「もちろんだ」

警部の男に連れられ、ドクターは宝石の警護されている部屋の外へと向かった。そのまま、彼についていく形で男子トイレの中へと入っていく。

「ここなら、監視カメラも何もないよな」

「ああ。あったらプライバシーの侵害だ」

「なら、怪盗ドクターにバレずに話せる」

警部はゆったりと壁にもたれかかり、ドクターに目を向ける。

「時間はもう少ない。大事なことがあるならなるべく簡潔に頼むよ」

「心配するな、すぐに終わる」

そう言うと、警部の男はゆっくりとドクターの耳元に口を近づける。そしてその口を開く前に、誰が居ないか振り返り、最終確認を行う。

すーっと一呼吸おいてから、ささやくように口を開く。

「あなたって思ったより賢くないのね」

「何?」

その言葉を聞き、ドクターが気付くのに時間はかからなかった。しかし警部の男、いや彼女が動く方がそれよりも早かった。

彼のつけていた腕時計から、人一人を簡単に包めるようなネットが放たれる。ドクターは避ける間もなく、それに包まれ、身動きがとれなくなってしまった。

「ホント、タバコって嫌い」

「あれは葉巻だ、地球の文化の事を知らなさすぎるな!」

「気づかなかったの? 重要人物に私が成りすましている可能性」

「ああ…! 考えていたはずだが実際にこう来るとは予想してなかった!」

ドクターはネットから抜け出そうともがく。しかしそれから脱け出すことはできない。ならばとソニックドライバーを取り出すが、それで切ることもできない。

「ちゃんとソニック対策してあるに決まっているでしょう」

警部の姿から、あの時逃げた怪盗ドクターの姿へと変わり、脱け出そうとあがくドクターをあざ笑う。

「サイレンスバイオレットは貰っていくわ」

彼女はそうあざ笑いながら、男子トイレの通気口へと入り込んでいく。前とは異なり、堂々と正面から盗むのではなく、裏から盗むのだろう。

怪盗ドクターが宝石を盗むまで、あと3分。

 

時刻まであと2分だというのに、警部とドクターはどこかに行ったっきり帰ってこない。警備たちはそれに不安を抱いていた。しかし、この中に怪盗ドクターが紛れ込んでいるかもしれない。もしかしたら何か秘密の作戦会議でもしているのかもしれない……、そう思って、警備達は変わることなく、怪盗ドクターを待ち構えている。

しかし、その状況は一瞬で変わった。無線から警部の声が聞こえてきたのだ。

〈怪盗ドクターを発見した! 3階だ! 屋上に向かっている! 応援を頼む!〉

焦るような声だが、間違いなく警部の声だ。それを聞いた警備たちは今の応援通りに3階へと向かっていく。しかし、怪盗ドクターの罠の可能性もある。それを感じた警備の数人はサイレンスバイオレットから離れることなく、その場に留まり、目を光らせる。

怪盗ドクターの罠……、それは彼らの予想通りだった。

「まったく、素直にみんなが動いてくれるわけじゃないのね」

警部の男の姿に化けていた怪盗ドクター。彼の声で無線に呼びかけていたのだ。

天井に張り付き、サイレンスバイオレットを囲む警備たちを眺めている。

「警備の手は薄い。今がチャンスね」

怪盗ドクターは腕時計に手をかける。そしてそのボタンを押し……

「なァッ!?」

警備の男の首に命中した。そのまま男は倒れる。それを見ていた他の警備達は倒れた彼に走り寄る。

「それじゃ、いただきます」

首についている針は麻酔針。それに気づいた警備たちは天井に銃を向ける。しかし、どこにも怪盗ドクターの姿は見当たらない。

「一体どこに……、なぁ、見つけたか?」

もう一人の警備に声をかける。しかし、返答が無い。まさかと後ろを見てみると、さらにもう一人。今話しかけたもう一人が倒れていた。

「ごめんなさいね」

その声がしたほうに振り向くと、そこには仮面を被った女性が立っていた。腕時計に手を掛け、こちらに向けている。

「クソッ!」

銃を放とうとするが、相手の方が一歩早かった。引き金を引くことなく、針を受けて倒れてしまう。

「今回も楽勝ね。ドクターさえいなけれ、ば……」

彼女はガラスで保護されているサイレンスバイオレットを眺める。光を受けて紫を放つ綺麗な宝石。ガラスを割り、それをゆっくりと手にしようとする……

しかし、その手に触れることはなかった。その瞬間に宝石は煙のように消えてしまったのだ。

「どういうこと!?」

サイレンスバイオレットのあった場所のすぐ下には、カメラのレンズのようなものがあった。

「まさか……」

「今だ、捕まえろ」

後ろから響いた声、それはドクターの声であった。まさか、あれを数分で簡単にほどくなんてあり得ない。

ドクターの声と共に、3階へ向かっていた警備達が銃を持ってこちらに向かってくる。反応する間も無く、すぐに囲まれてしまった。

「飛んで火に入る夏の虫、ってところだ。思った通りに動いてくれたな、怪盗ドクター」

ドクターは警備たちの間からそう語りながら現れた。

「一体どういうこと? あなたもどうして?」

「簡単な話さ、君の特性を利用したに過ぎない」

「私の特性?」

「人の姿を盗むスティールフォルムは対象となる相手の姿になっている間、対象となった相手は眠ってしまう。相手の脳の活動をスリープさせるからだ」

「それが何?」

「怪盗ドクターの手法として、必ず誰かに化けてから宝石を盗むというものがある。そして今回も同じような手口を使うと予想したわけだ。そしてその化ける相手はこの事件における中心人物の可能性が高い。だがそこで僕に化けて無力化させようにも、僕は注意深い。そこで2番目に重要な人物である警部を狙うと予想した。そこで、これを取り付けておいた」

ドクターは上腕に取り付けていたバンドを見せつける。

「これで眠っているかどうかを判断できる。これを中心人物何人かに取り付けた。普通の警備に化けることはないと考えていたが、その通りで助かったよ」

「それで、誰が怪盗ドクターか既に知ってた……っていう事?」

「その通り。あと数分の時点で話しておきたいことがある、と言われた時点で怪しいと思って、ちょっと確認してからその通りについていったんだ。後ろに何人か警備にもついてきてもらってた」

「それに助けられてすぐに脱出できた……ってこと?」

「そうすれば君は油断するだろ? さらに警備も手薄になれば必ずそのチャンスを狙いに来ると推測したわけだ。もちろん、盗まれないためにサイレンスバイオレットはホログラムとして表示させたけどね」

「そこまで手を回してるだなんて。さすがドクターね。サイレンスバイオレットはどこ?」

怪盗ドクターは顔色を変え、ドクターを睨みつけながら質問した。

「灯台下暗し。僕が持ってる」

そう言うと、ドクターはポケットから紫色の宝石、サイレンスバイオレットを取り出した。

「素直に出してくれちゃって……」

それを待ち望んでいたかのように、怪盗ドクターは俊敏にドクターの手からその宝石を奪い、天井に向かった。

「私を捕まえたと思って油断していたんでしょうドクター? 爪が甘すぎるわね」

「それ、本物だと思うか?」

「ブラフをかけても無駄よ、サイレンスバイオレットの本物なら何度も見てきた。触って分かるわ、これは本物」

「ああ、その通りだ」

怪盗ドクターは微笑みながら、腕時計に手をかける。

「それじゃ、また会えるか分からないけど、さようなら」

そう言って、勝ち誇った顔で腕時計のテレポートボタンを押す……

しかし、押しても何の反応も無い。

「どういうこと!? どうしてテレポートできないの!?」

「最初の話を忘れたのか?『ターディスで信号を逆転』させたんだ。まさかまだしてないと思ったのか?」

「嘘……」

その言葉を発した瞬間、ドクターの合図を受け、警備の一人は彼女に向けて網を発射した。

 

 

そのまま怪盗ドクターは連行され、警察署の取調室へと送られた。椅子に腕を縛り付けられた状態で監視されている。仮面は取られ、道具である腕時計も取り外されている。今の彼女はただのスティールフォルムだ。

「しかし驚いた。怪盗ドクター、もっと年のいった女だと思っていたが……、まだ子供だ」

マジックミラーの向こう側で、警部の男は彼女の顔を見て驚いていた。想像以上に彼女は幼い。

「スティールフォルムは人間によく似た種族だ。見た目だけでなく、寿命も人間とほぼ同じ……。見たところ、中学生から高校生ぐらいの年代だな」

ドクターは彼女の姿を見てそれを推察する。

「俺にだってそのぐらいは分かる。前から気になってたが、そこまでエイリアンにやたら詳しいなんて。まさかUNITにも所属してるのか?」

「昔ね」

「どうして今は公安に?」

「それよりも、まずは彼女と話してみたい。年齢も近い、きっと心を開いてくれるさ」

警部に軽く返事した後、その旨を伝えた。それもその通りと警部の男は了承し、取り調べにはドクターが携わることとなった。

冷たいその扉を開いた向こう側、彼女はそれよりも冷たい目でこちらを睨んでいる。

「僕はドクター。君もドクターだろう?」

「今更、そんなこと確認して何のつもり?」

「まずは簡単な世間話さ。怪盗稼業とは、宇宙も不況なんだな」

「時間と宇宙を旅するあなたにはわからないでしょう? この宇宙の苦しさ」

「ああ、あまりにもいろんな世界を見過ぎたせいで、この時代の宇宙がどれぐらい苦しいか分からないよ。でもこれだけは分かる。どの時代のどの場所も、必ず誰かが苦しんでる」

ドクターは真剣な眼差しで彼女を見つめる。彼女の冷たい目、仮面越しでは分からなかったが、それは何か苦しいことを経験した眼だ。それが2000年以上生きているドクターにははっきりと分かる。

「一つだけ聞きたいことがある。君が利用した少女、華は無事か?」

「もちろんよ。殺しは嫌いだもの……少なくとも、人を死なせたこともない」

「それなら良かったよ。ゆっくりと彼女を探せる。それでどこに居るんだ?」

「宇宙船よ。私たちが使ってる船」

「それはどこにある?」

「自分で探したら? ターディスがあるんでしょ?」

そう言って、彼女は冷たい目のまま口角を少しだけ上げて嗤った。

「全く……」

「それで、ここは捕まえた人に色々質問をする場所でしょ? 他にも何か質問したら?」

「それならいい質問がある。君は今『私たち』と言った。君だけの単独犯じゃないのは考えればすぐに分かるが、その言葉で確信した。他に仲間がいるだろ?」

「ええもちろん」

「君を助けには来ないのか?」

「きっと来るはずよ。だから私は待ってる」

「にしては、随分と遅いな。もうすぐ犯行時刻から1時間だ。よほどオンボロの船でもない限り、すぐにここまで来られるはずだが?」

「それには何か……事情があるのよ」

そう言って、彼女はドクターから視線を離し、うつむくように下を見つめる。

「……次の質問だ、どうして僕の事を知ってる? なぜ僕がタイムウォーを終わらせたことを知ってる?」

「知ってちゃ悪いの?」

「一番の疑問だ。あの戦争は僕一人で終わらせたんだ。知ってる人はごくわずか。なぜスティールフォルムの君がそれを? まさか見てたのか?」

タイムウォー。それは宇宙最大の戦争にして、ドクターにとって大きな分岐点でもある。

自らの故郷を滅ぼすのと引き換えに宇宙を救うか、救わないか……その大きな決断を迫られた戦争だ。結局のところ、故郷も宇宙も救うことはできたが、そのことを知るのは自分自身ただ一人のはずだ。

「直接見てはない。だけど私も、あの戦争に居た」

彼女の瞳は、次第に悲しい雰囲気を帯びていきはじめた。

宇宙最大の戦争。そこに彼女が居たという。

「まさか……君はタイムウォーの生き残りか? あの戦争でスティールフォルムは滅びたと聞いた。怪盗ドクターの正体が君だと思った時、別の所に生き残りが居たのだと思ったけど……」

「私以外にもう生き残りなんて居ないわ。あの戦争に私たちの星も巻き込まれた。街中の人たちが火に焼かれて苦しんでた。お父さんもお母さんも、私たちを助けるために死んだけど、そこから先、生き残れる保証なんてなかった」

「なのにどうして生きてる? 星ごと焼けたはずだ。脱出した船も無かった」

「その通り。船では脱出してない。私は裂け目から逃げたの」

「裂け目、だと?」

「ええ、時空の裂け目。どうして開いていたのか分からないけど、目の前にそれが開いていたの。そこから逃げた」

宇宙に時折開かれる時空の裂け目。タイムウォーは時間と宇宙を賭けた宇宙で最も巨大な戦争。時空の裂け目の一つや二つは開くだろう。きっと彼女はそれにたまたま遭遇して……

そうドクターが考察しようとした瞬間、彼女の一言がその考察を斬るように終わらせた。

「裂け目の中で、あなたのことを知ったの」

裂け目の中で、僕のことを知った?

「裂け目を通るときに、情報が頭の中に入って来たの。ドクターという男。そしてあなたがタイムウォーを終わらせた。そして宇宙を終わらせることができる……箱。その情報がね」

「“箱”だと?」

箱。そしてドクターの名前を与える裂け目……。それはストームケージで遭遇したシャウターの体験と瓜二つであった。

「どうしたの? 何か嫌なことでも?」

彼女から見て彼の表情は驚くものだった。それを告げた瞬間、彼の顔が青くなったのだ。

「どうして、君がその裂け目に出会ったんだ? 箱とは一体何なんだ? どうして僕の名前を裂け目は教えるんだ!?」

ドクターの突然の変わりように、彼女は少し恐怖を感じながら、ドクターを見つめる。

「私はあなたがタイムウォーを終わらせたことを知った。助かって、怪盗としての仕事であなたの名前を使った。ただそれだけよ」

「そうか、そうだよな。そう、か……」

ドクターは落ち着きを取り戻し、椅子に座り込み、困ったように顔を手で覆った。

「どうして裂け目はそこに開いたんだ? どうして君のもとに?」

「そんなこと知らないわよ……」

怪盗ドクターへの取り調べは、気付けばドクター側が憔悴するような事態になっていた。それを見かねた警部は、これ以上の収穫は無いと判断してドクターをそこから連れて行った。

「一体どうしたんだ、何があった?」

「いや、何でも……ないよ」

シャウターが体験したものと同じ、ドクターと箱を教える裂け目……

「そうだ、ただの偶然だ。宇宙は広い、偶然同じような裂け目が開くことだってあるさ」

そう言葉にして自分に言い聞かせる。

「それよりも今は目の前のことだ。華を探さないと」

「お前の仲間だっていう少女か?」

「ああ。大事な仲間さ。彼女は怪盗ドクターの宇宙船にいる。けど問題はその宇宙船がターディスでは探知できない……ってところだが、名案が思い付いた」

すると、ドクターは置いてあった怪盗ドクターの腕時計に手を伸ばす。

「これは宇宙船への短距離テレポートの機能も入ってる。これを使えば宇宙船の位置も特定できるし、直接乗り込めるかも。怪盗ドクター、君の言った通り自分で探すとするよ。この署に簡単なレーダーは?」

「あるが、使用するには上からの許可が必要だ」

「僕は公安だぞ? 権限は僕の方が大きい」

そう言うと、ドクターは警察署の指令モニターのある部屋へと向かって行った。

 

 




次回のチラ見せ
「宝石の姿をしているが、これらは紛れもない兵器だ」
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