星々が輝く宇宙の世界。空気の存在しない宇宙空間は、人間にとっては美しくも地獄の世界である。
今から200年後の2219年。地球はまだ存在している。その大地に人、植物、動物、虫が息吹き、魚は水の中を泳ぎ続けている。
どこかで紛争や喧嘩は起きようとも、地球全体はまだ“平和”のラインから逸脱はしていない。
しかし、この200年間で大きく変わったことが一つ。それは宇宙開発が大きく進んだこと。アメリカを始めあらゆる国々が広き宇宙にその探求の目を向けたのだ。
2076年に宇宙エレベーターが完成。その後50年後には富豪は必ず自家用宇宙ジェット機を持つほど宇宙は身近な存在に。
そして一般人が宇宙に行ける日もついにやってきた。2195年、宇宙居住船ヤマタノオロチが完成。年収100万にも満たない家族でも手を出しやすい価格で宇宙物件が売りだされた。
「そんなのがあるんだ…」
ターディスの中の小さな階段に三崎華は腰をかけている。
「ああ。2112年時点ではまだ宇宙に行くことはかなりの費用がかかって大変だが、100年後はほぼ当たり前の時代だ」
ドクターが操作盤のレバーを引く。するとターディスはいつもの独特なエンジン音を鳴らしながら大きく揺れる。
「今度は宇宙旅行?」
華が手すりにつかまりながら言う。
「その通りだ。ドラえもん工場はどうだった?」
「もう最高だった!まさか本当に作られてるだなんて!漫画より高性能だと思ったし…」
「人類はこれからさらに進化していくんだ。進化の歴史を見るのも時間旅行の楽しみの一つだ!」
ドクターに連れられ2112年の未来を見学した。想像以上に“未来”と言える世界で、現在の建物が残りながらも、見たことがない高層ビルだらけであった。
それを見るのと同時に、これは夢ではないと再びその身にしみるのであった。
ターディスのエンジン音が小さくなっていく。それと同時に揺れもだんだんと収まっていく。
ドクターは操作盤の前からドアの前まで走っていき、その青い扉を開けた。
「ロボット工場の次はここだ。ようこそ三崎華、ここが200年後の宇宙だ」
華が扉の前まで歩いていく。そこから見えるのは青い地球。そして白き星々の数々。
「地球は青かった…」
つい口から漏れ出たその言葉。
「ガガーリンの言った通りだろ?」
そこは汚れていない白い壁に白い床。自分の何倍もある大きな窓のある部屋だった。
「2219年。宇宙居住船ヤマタノオロチ参号だ」ドクターはその船の名前をつぶやく。さっきドクターが話していた宇宙居住船。それに今、2005年の3月15日生まれの14歳の少女が乗っている。
ドクターは部屋を出る前に服を着替えた。青色のTシャツの上に赤いジャージ。下はデニムのパンツだ。
「変なファッション」
華がつぶやく。
「中学生用となるとこれしかない。今度お店に行って新しいのを買う」
ドクターと華はその部屋にあった唯一の扉を開いた。たくさんの扉が並ぶ部屋…ここは廊下だろうか。ドクターは華の手を握りながら廊下を歩いていく。
「人類が初めて作った宇宙居住船だ。絶対安心の設計で、地球の重力場とは真逆のものを搭載してるから地球に墜落することがないんだ」
「そういえばここは宇宙よね?どうしてぷかぷか浮かばないの?」
「ぷかぷか浮かぶ?」
ドクターは不思議な顔で華をみつめた。
「ほら、宇宙って無重力でしょ?ここが宇宙なら…」
「この船は人工の重力を発生させてる。2070年に完成した技術だ」
ドクターはジャンプしながら言っている。
「その技術の完成が、宇宙エレベーターの完全な完成の手助けをした」
「未来ってすごいんだ…本当にSFの世界みたい」
「まさにSFの世界だ」ドクターは腕を広げて言った。
「そういえば名前がヤマタノオロチってことは…これって日本製?」
「製作と運営は日本だ。でもパーツは全部中国製。」
「中国製?墜落しない?」
その言葉に華は少々不安を覚えた。
「何言ってる?中国もこの200年で技術が進化した、宇宙船事情の70%は担ってる。中国人が聞いたら怒るぞ?」
「それもそうか」
華はすこし安堵した。
ドクターと華は廊下をしばらく歩く。たまに人とすれ違うが、誰もが日本人だ。まぁ日本が運営しているなら日本人が多いのも当たり前か。
ドクターはある扉の前で立ち止まり、その横に合ったパネルのようなものをいじりだす。すると扉が開いた。そこは一面畳で、障子もはられている和室だった。
「ここが僕の部屋だ。」
ドクターが靴を脱ぎ、部屋の中へと入っていく。
「外はあんなに近未来なのに…中は和室だなんて!」
「洋室にもできるよ」
ドクターが照明のスイッチのようなものをいじると、突然ソファやダイニングテーブルが現れた。
「最先端の機能だ。これで家賃は17万。安いだろ?」
「すっごーい!私にもいじらせて!」
華がさきほどのスイッチを連打する。
「言っとくが、和室と洋室だけだから他は出てこない」
ドクターがそう言うと、華はスイッチを押すのをやめた。
「なーんだ。あっ、あれは窓だよね!?」
華はまた別の方向へ走り出した。
「ずいぶんとテンションが高いな…」
ドクターは笑いながら小さな呆れを持った。
「当たり前でしょ!初めての宇宙なんだから!」
華は窓のカーテンを開いて窓を開けようとした。しかし、窓は開かない。
「ターディスと違ってフォースフィールドが張られてないから窓を開けたら空気が飛ぶ。頑丈に作られてるんだ」
ドクターは窓をコンコンと叩く。
「でも…宇宙って綺麗……」
華が窓の外を見る。地球からは見れない、数多くの星々が鮮明に見える。
あの星に生命体はいるだろうか、あの星に水はあるだろうか…一つ一つの星々に思いをはせる。あの星も、この地球を見ているだろうか。
「ほら、あの光る星が見える?」
ドクターが輝く星を指さす。
「あれ、オリオン座?」
華がそれを見て言った。数ある星座のうちの一つだ。
「オリオンのベルトは三つの星で成っている。あの星全部に生命体が住んでいるんだ」
「もしかして、あそこの星の出身なの?」
華が質問をする。彼がどこの星の出身かは知らない。
「いや、僕の故郷はここからじゃ見えないぐらい遠くにある……オリオンのベルトに住むオリオン族の話をしようか?」
「それ聞きたい!」
興味津々なようだ。ドクターはその巧みな話術で話を始める。
「……それで奴らに塩をぶっかけてやった。やつらにとって塩はどうやら猛毒みたいですごく苦しんでた」
「ひどいなぁ」
「僕は知らなかった。もちろんそのあと助けてやったさ。殺しは好まない。しかもそのあと奴らは何を思ったか僕を神のように崇めたんだ。ドクター座なんてのが作られたりもしたし…」
「殺しは好まないけど、グレイヴは殺した?」
華が怪訝な顔で聞いた。
「非道な連中は倒さないと。この宇宙には憎悪しか持たない種族だっている。そいつらは自らを至高の存在として他の生物を殺めていくんだ。説得すら聞かない自己中な奴らに慈悲は持たない」
そう語るドクターの顔からどこか悲哀が感じられた。華は彼の手に自らの手を重ねる。
「本当に?あなたはそんな無慈悲には見えない」
「……ああ、そんな奴らを説得したこともあるし、慈悲を持ったことだって。救おうともした。だけどいつも裏切られ…罪のない命が奪われていく」
「それが耐えられない。慈悲は持たないようにしてる。……でもどうして僕はいつも、希望を持ってしまうんだ?結局ただのお人好しか?」
「お人好しかも。でもそれで私は救われた」
華は宇宙を見つめながらつぶやく。
「それでいいんじゃない?完璧じゃなくて。私だって完璧じゃない。いつも遅刻するし宿題だって忘れるし……」
「……そうだな。深く考えるとターディスから降りたくなってくるからやめようか」
ドクターは再び笑みをその顔に戻した。
宇宙を旅しているという、彼にはわからない点が多い。彼が結局何者なのかも、いまだにわからない。しかしさっき見せたその悲哀の表情に、華はどこか信用できるという気持ちを持った。
「こちらエンジン第7セクターブロック。エンジンの残量が残り30%。補充を頼む」
薄汚れたその部屋には、大きなエンジンとおぼしきものが大きな音を出している。そこでずっと働く人にとってその音は日常茶飯事なので気にしていない。
《こちら地球間船第3港。悪いが燃料船の到着が6時間遅れる》
「何だって?すでに残量が30%なんだ。省エネにしても4時間半で切れる。そうなれば三頭と四頭が停電して無重力になる。責任を負うのはこっちなんだ!」
男は声を荒げて電話の相手につめよる。
《…分かった。だが今こちらから回せるのが星燃料しかない。それで足りるか?》
「しょうがない。それで十分だ。あんまり星燃料は好きじゃないんだけどな…」男は愚痴を吐く。
《では星燃料をそちらに送る。燃料船がつき次第燃料もそちらに送る》
「了解。」男は電話を切った。
「はぁ……ゴミ燃料は燃費が悪くて、好きじゃないんだよなぁ…」
そう言いながら男は、小さな扉の前で待機する。数分後、その扉が開いた。そこには小惑星のかけらのようなものが置いてあった。
「これをあと3つか?ったく、ワンオペは最悪だぜ…」
男はかけらを両腕でひろいあげてエンジンへと向かう。男は気づいていなかった。そのかけらから一匹の、白い小さな“虫”が這いだしたことに。
ドクター・フーのシーズンに一つはある宇宙船回。シーズン2の暖炉の少女回が印象ちょいですね。あの回はシリーズ5のエイミーのとなんだか似た話だと思います。脚本家同じからだからでしょうか。