時間の流れが加速している……
気付いたらクリスマスに……
「ターディス……? この桜の木が?」
怪しく佇むその巨木を見て、華は首をかしげた。ターディスはドクターの持っているような、青い電話ボックスであるはずだ。
疑問に思った華を見て、ドクターは説明を始める。
「ターディスには本来、どんな時代のどんな場所にも馴染むように擬態できるカメレオン回路というものが搭載されてるんだ。僕のターディスはその機能が壊れてるが、これは壊れてない。だからこの花の綺麗な平原に似合うように、桜の木に擬態している」
ダーレクらは、ドクターのその言葉を聞いてこの桜の木、ターディスに迫ろうとする。
「ターディスならば、我々がこれを貰う! これさえあれば、全ての時間と宇宙を支配できる!」
「確かにターディスはそれを可能にするほど強力なものだ。宇宙を破滅させることだって不可能じゃない。だがこれはもうほとんどエネルギーが枯渇してる。仮に奪ったとしても、移動できるのは星一つ分に前後一週間程度だ」
ドクターはダーレクを睨みつけながらそう語る。しかし、それを言いながらドクターの頭にはある疑問が浮かんでいた。
ターディスならば、裂け目を開いて信号を放つことは確かに可能。だが、なぜ救難信号ではなく、わざわざそこまで回りくどい方法でおびき寄せるのだろうか? それに、なぜわずかなエネルギーをそれに使うのだろう?
「操縦士でも呼ぶためか? いや、ターディスならば自力に飛行できるはずだ」
「ドクター、それでどうするの? ここなら安全って言ったって、ここから逃げられない」
華は怯えながらドクターにそれを伝えるが、ドクターはそれに耳を貸さず、考えを続ける。
「裂け目はただ無作為に開かれていたわけじゃない。グレイヴ、大知性体、ダーレク。ここには居ないがシャウターにスティールフォルムにだって。なぜ彼らなんだ?」
「ドクター!」
「今大事なことを考えてるから待っててくれ! 強い者が必要だったのか? もしそうなら……」
「ドクター……」
「だから待ってくれと」
「じゃなくて、これ!」
華は桜の木に指をさす。さきほどまでただそこに立っていただけの桜の木が、小刻みに揺れながら、地面を振動させているのがわかる。
「まさか、動き出したのか!?」
桜の木は、その枝を震わせる。やがて振動の音は、いつも聞いているあのターディスの音へと変わっていく。
「何が起きて……」
華が言葉を続けようとした瞬間、突然体中に不快な感覚が押し寄せる。
「ゴホッ、ゴホッゴホッ! 何、これ……」
華の体に、突然異常が起こり始めた。一切風邪などひいていないのに、咳が急に止まらなくなったのだ。それどころか、突然意識を失うように倒れた。
「華! どうしたんだ!?」
それと同時に、木の周りに居たダーレク、グレイヴ、大知性体らの様子もおかしい。
「警告! エネルギーレベルが急低下!」
「何だ、急に、体が……」
「まるで命が吸われているようだ! ダメだ、姿を維持できない!」
グレイヴは、頭ババアの姿から発光体へと突然退化した。
「なぜみんな苦しんでる!? これは一体……うっ!」
突然、胸の痛みが襲い掛かって来た。ドクターは華を抱えながら、うつむくように倒れる。痛みは段々と増していき、全身の免疫細胞が働くのも分かる。
苦しみながら見上げると、次第に枯れたはずの木から、花が咲き始めてきた。
その花は、ピンク色の桜の花。まるでここにある命を吸い取っているかのようにそれが綺麗に咲き誇る。
「このままじゃ……マズい!」
生命の危機を察知したドクターは、ターディスの扉に手をかけ、その中に華と共に飛び込む。すると、突然襲い掛かって来た苦しみが一気に治まった。
「華! しっかりしろ!」
揺さぶると、華がゆっくりと目を覚ます。
「ド、クタ……今のは……?」
「ターディスが宇宙のあちこちから呼んでいた理由がこれさ」
ドクターは、フォースフィールドのせいで中に入って来れないダーレク達に指をさして見せる。
「緊急時間移動不能! エネルギーが急激に吸われている!」
「やめろっ……! やめろ!」
「このままでは肉体も崩壊する!」
桜の木の周りはまさに阿鼻叫喚。突然襲い掛かる文字通りの「命を奪われる」ということに、言葉にならないほどの苦しみを感じている。
「エネルギーは確かに枯渇してた。だからこそエネルギーを求めたんだ。来た者の生命エネルギーを使ってね」
「じゃあもしかして、この村で流行ってたっていう奇病は……」
「ターディスがじわじわと命を吸い取っていたってことさ。ウイルス性のものでもなんでもない。これがターディスだと気づかなければ、どんな医者だって解明できないわけさ」
エイリアンの命を栄養に、桜の花は美しい花を咲かせていく。
「ターディスの外部からエネルギーを吸うようになってる。だが気付かれれば内部でも安全じゃなくなる!」
それに気づいたドクターは、すぐさま操作盤へと走っていく。
「ならどうするの?」
「なんとかしてこのターディスを止めるんだ。そうすれば……」
ドクターは複雑そうな手順で一つ一つのレバーを操作していく。
「おい待て、なぜこんなにも操作盤が簡素なんだ?」
ドクターは操作しながら疑問を感じた。自分のターディスと、操作盤の構造が明らかに異なるのだ。
「どのターディスも基本は同じはずなのに。一体どうして……いやまさか」
ドクターの脳裏に、ある恐ろしいことが思い浮かんだ。それを察した瞬間、ドクターはポッケの中に入れていた、自分のターディスのカギを手に取る。
「華、今すぐこのターディスから脱出するぞ」
「何かしないといけないんじゃ?」
「これはただのターディスじゃない! タイムウォーの中で作られた、戦争のためのターディスだ! 下手にいじれば攻撃と思われて武器が作動する!」
しかし、ドクターの予想以上にこのターディスは賢かった。それに気づいた瞬間、壁のあちこちから銃のようなものが出てこちらに照準を合わせてくる。
「僕の手を握って。外に出たらすぐに僕のターディスに乗り込め!」
「乗り込めったって持ってきてないんじゃないの!?」
「今呼び出した! 行くぞ!」
銃撃が開始される直前にすぐさま走り出し、この桜の木の中から出ていく。目の前には見慣れた青いポリスボックスが立っていた。銃撃の弾幕を避けながら、なんとかその中へ入ることができた。
二人は安堵してグーを合わせる。
「はぁ、カギに呼び出し機能つけておいて正解」
「ほんと、ターディスのプロフェッショナルがいて助かった」
「見直しただろ? 様子を見てくる」
ドクターはすぐに扉を開いて外の様子を眺める。
既に力尽きたダーレクが倒れていた。グレイヴと大知性体の姿が見当たらないが、元より不確定な存在であったため、完全に消えてしまったのだろう。
目の前に立っている桜の木。またの名を戦争用ターディスは、まるで春一番、満開の桜を咲かせていた。
「既に十分なエネルギーは得たはずだ。けど一体何を……」
再び桜の木は大きく揺れる。咲かせた花を少しずつ散らしながら、その大地を離れて浮かび始め、回転を始める。
そしてターディスのエンジン音と共に、目の前に
ターディスはいつものように回りながら、その
「なぜ時間移動を……まさか!」
ドクターはすぐさまモニターに飛んでいき、近くの
「もうどこかに行ったなら大丈夫なんじゃない?」
「相手は意思を持ったタイムマシンだ。しかも戦争のことしか考えてない!」
「戦争のことしか考えてないって、まさか戦争でもしに行くつもりなの? あのターディス」
「そりゃあもちろん。タイムウォーは宇宙で最も大きな戦争。ターディスを作った僕の種族、タイムロードは戦いに勝つために手段を選ばなくなっていった。その中で生まれたのがあの戦争用のターディスだ」
ドクターは操作盤に腰掛け、身振り手振りで華に説明を始める。
「あのターディスが成長の中で覚えさせられたのは、ただ戦いの事だけ。よくあるだろ? 戦地で生まれた子供は小さいうちから敵を殺すために銃を学ぶ。あのターディスも同じさ。敵を殺すこと、戦争に勝つことしか考えてない。だが既にタイムウォーは終結した。倒す相手がいない」
「なら問題ないんじゃないの? 敵がいないんじゃ戦争する意味はないでしょ」
「あれはそれほど利口じゃない。たとえそうでも戦争することをやめられないんだ。あらゆる時代を、あらゆる星を巡り敵を探す。そして単騎でも戦いを始める。それがもし過去だったら? 歴史が変わりかねない。あれはそれほど凶暴な性質を持ったターディスなんだ。だからこそ止めないと。それに僕があのターディスへの道を開いて、覚醒させてしまった。責任を取らないと」
ドクターはそう言うと、ターディスのレバーを引き下ろす。
「ドクターは悪くない。私が、ドアノブみたいなものに手をかけたりしたから……」
「君を連れてきたのは僕の責任だ。そうだったとしても僕のせいに変わりはないよ」
「だとしても、そこまで負う必要はないでしょ? さっきから、何か潰されそうになってるみたい」
「……かもしれないな。だからこそ、早く解決しないと」
ドクターはモニターを眺めながら、行き先を設定している。
「でもどこに消えたか分かるの?」
「あのターディスは若い。時空移動も数えるほどしかない。だから行き先は最近使われた経路を辿っていくしかない」
「最近使われた経路?」
「僕たちが行った場所に時代。そこをヤツは逆行してる。それを追う!」
「南棟に侵入者アリ。第七、第八警備部隊に出動を要請する」
ストームケージ、管制塔のモニターに白い船が映りこむ。
この南棟には強力な妨害電波が出されており、テレポートは不可能である。そのはずなのに、突然船が現れたのだ。
指令を受け、第七と第八部隊が南棟に現れた白い船のもとへ急行する。不法侵入には厳戒態勢で臨む。
「なぜここに船が……?」
ストームケージの署長、ジェーンが部隊の元へと急行。白い船に向かって銃口を向ける部隊の後ろから、その船を睨みつける。
「ここに囚人や物資の運搬情報は来ているか?」
「いいえ、何も来ていません」
耳につけたマイクから、管制塔からの情報を聞き出す。
「すぐにその船から降りろ、でなければ発砲する!」
隊長が船に向かって呼びかけるが、何も反応は無い。
「すぐに降りて投降しろ! でなければ……」
出現以来、沈黙していた船が突然ヘッドライトを眩く光らせた。
それと同時に、船を睨みつけていた隊員が次々と苦しみ始める。
「なんだこの光は…!?」
「息が苦しい…!」
その光はだんだんと強まっていく。それに合わせ、隊員が倒れていき、それに合わせて船のライトは明るくなっていく。
ジェーンが腰につけた拳銃を船に向けた途端、あの音が響き渡る。
「いたぞ、ここだ!」
あのエンジン音と共に現れた青い箱からは、見知った顔が出てきた。それを見た瞬間、白い船は逃げるように消えていく。
意識を取り戻した隊員たちは、それを見て唖然としていた。
「おい、すぐ逃げられたぞ!」
「せっかく追い付いたのに!」
「全くだ、逆行してると言っても違う時代に行ってる。追跡するのに時間が……おーっと、ここは宇宙最高のセキュリティ施設だったな」
ドクターがこちらに気づくと、うすら笑いを浮かべながら近づいてくる。
「やぁジェーン久しぶり。そのバッジを見るからに署長になったらしいな」
ジェーンの胸につけられているバッジをトントンと叩く。
「ドクター、どうしてここに?」
「さっきの白い船を追ってたんだ。あれはターディス。危険だから捕まえないといけないんだが逃げられた」
「さっきあれが光った時に苦しくなったんです。あれは?」
「説明したいが時間がない。ここにあるものを貸してくれないか?」
そう言うとドクターは足早にそこから去っていく。
「欲しい物って、勝手に持ち出すのは……」
そう言って、ドクターは彼らの制止も気にかけず、すぐ後ろにあった武器庫へと入って行った。
「手に入ったぞ、マグナクランプシューズだ」
ドクターは武器庫から手に入ったそれを華に見せびらかす。
「これを使って壁に登るのね」
「違う、これの成分が必要なんだ」
そう言うと、ドクターはターディスの操作盤にそれを無理やり取り付ける。
「簡単な波動調査装置だ。これでタイムボルテックスの中の次元波動を辿れる。ターディスでターディスを追うのなんて初めてだから、成功するか分からないけど」
そう言うと、ドクターはレバーを下げる。いつもとは異なるエンジンの音が響き渡り、辺りが青色で照らされる。
「それじゃあありがとうジェーン! また会おう!」
マイクにそう話すと、外に居るジェーンは手を振ってそこから立ち去るターディスを見送った。
「よし見つけた!今度こそ逃がさないぞ!」
ようやく見つけた戦争用ターディスは、ドクター達のターディスを見るなり轟音を立ててその場から離れていく。そのまま時空の渦の中に入り込むが、その波動を追って追跡する。
渦から抜けると、そこは潮の匂いが漂う大きな島があった。
ドクターはターディスの壁に取り付けてあった巨大モニターを起動させ、そこから外の様子を観察しながらレバーを上げ下げしている。
「こんなデカいモニターあったなら始めから出してよ」
「エネルギーの消費が激しいんだ。しっかりヤツを見つけておけよ」
そう言われ、華は目を凝らして画面を眺める。
「ねぇ、ここって空の上だけど、江ノ島じゃない?」
見覚えのある形。ところどころがまだ崩れて修復中のそれは、生きた島、江ノ島だった。
「あのターディスは僕たちの使った経路を辿ってるって言っただろ? ヤツは江ノ島に来たんだ」
「じゃあここのどこかに……ねぇあれ!」
華が指をさしたところには、島内に在中しているパトカー。
「まだ修復中って言っても、いるなら島の外のはずだけど」
「ならそいつがターディスだ!」
ドクターは操作盤に取り付けられたハンドルを思いきり回し、方向を転換させる。
外から見て、ドクターのターディスは回転しながらそのパトカーに激突する。その考えは当たりで、パトカーは元のターディスの姿……円形上の銀色の機械に姿を変えた。
「まずはあのターディスに乗りこんで機能を停止させよう、その後にオールシャットダウンさせて……」
準備のためあちらこちらから物品を取り出してくるドクターだったが、敵のターディスは待たない。再び浮かびながら時空移動を始めた。
「おいおい、すぐに行くんじゃない!」
「私が準備しとくから、ドクターは操縦!」
「何をすればいいか分かってるか?」
「もちろん! これとこれ、くっ付けとけばいいんでしょ」
華は手に持った赤と青のケーブルを無理やりにつなぐ。
「まぁ……それでも間違いじゃない。行くぞ、しっかり捕まってろ!」
再び逃げたターディスを追うため、エンジンをさきほど以上にふかす。
2009年の千葉県。そこの上空を二つのターディスが走っている。
「今度はどこ!?」
「2009年の千葉県だ! 殺人電波騒ぎの!」
ドクターはレバーを上へ下へと操作しながら、敵のターディスに追い付こうとする。ワイヤーで位置を固定させたまま、ドクターはターディスの扉を開け、そこから身を乗り出す。なんとかあちらの扉を開いて飛び乗ることができれば……
しかし敵のターディスはまた姿を変えた。目の前で小さな電波塔のような姿に変わったのだ。
「ねぇ待ってよ、この日の天気予報雨だって!」
「そうか、雨は好きだ!」
「そういう意味じゃなくて、雷!」
その瞬間、雷が敵のターディスに落ちた。無論、それに掴まろうとしていたドクターも例外ではない。
「ちょ、ドクター!」
すぐに華が彼の体を引っ張る。
間一髪、こちら側に倒れたことで雷に当たることは無かった。
「本当、何よりも自分の体大切にしてよ!」
「また雷に直撃するところだった」
「次直撃なんてしたら助からないでしょ……」
「さぁ、今は体を大切にしてるどころじゃない、宇宙の危機だ!」
そう言うと、ドクターは再び消えたターディスを追うためにレバーを再び下げる。
「既に多くの時代や場所に行ってる、放っておけば時空が破壊される!」
「私たちがあちこち行ったせいかな……」
「こんなこと予想して旅なんてしないさ、人生は常に行き当たりばったりだからな」
そう言うと、ドクターは汗を垂らしながらも、不安そうな華に笑顔を見せる。
「まったく、それじゃあ今回もいつも通り、ってことね!」
「そんなところだ」
「でもこのままじゃ追い付けないままだよ、 ずっとギリギリ!」
華はドクターが乗り込むための準備のため、あちかちのコードを繋げているが、それで距離が縮まるわけではない。
「どこかに定住させられればいいが……おおっと」
思いついたドクターは、ターディスの下に備え付けてある物置からキラキラと輝くものを取り出した。
「鏡?」
「タイムロードの鏡だ。この中にヤツを放り込む! その後乗り込む!」
「でもどうやってあれを鏡の中に?」
「ヤツが僕たちの経路を逆に辿ってるなら、その先で待ち伏せしておく」
そう言うと、ドクターはターディスの行き先を切り替えた。
ドクターの時空移動の痕跡を辿りながら、時間移動を続けるターディス。
様々な時代を巡り、あちらこちらへと少なからず影響を与え続ける。
弥生時代、復興していく邪馬台国の上空を、岩の姿へと変わったターディスが駆け抜ける。
「なぁ姉さん、まさかあれってエイリアンか?」
「どうでしょう、何の影響も無ければいいのですが…」
スサノオと卑弥呼が空に浮かぶ岩を心配する中、見慣れたあの青い箱が現れる。
「あれはドクターか!? おーい! ドクター!」
スサノオは現れたドクターのターディスに大きく手を振るが、ドクターは反応することも無く、岩と共に消えてしまった。
「何だよ、せっかく戻って来たなら飯ぐらい食っていけばいいのに」
「彼は忙しいのでしょう。何しろ、時の旅人なのですから」
そう言って、卑弥呼は空を見上げることをやめる。
しかしドクター達は気づかなかったわけではない。
「ねえ、せっかく手振ってくれてたのに…」
「挨拶してる暇は無いんだ、さぁもうすぐ追い越す!」
「ヤツが最終的に向かう場所は2019年だ。そこへ向かう!」
あちらこちらの学校で、桜が咲く季節。2019年の春。
「ここで待ち伏せ?」
「僕がこの周辺で最初に来た場所だからな。ヤツはそこに必ず現れるはずだ」
ドクターは準備のため、タイムロードの鏡を取り出した。場所は天ノ川中学校近くの公園。
そこにターディスから持ってきた誘導装置で円を描き、それらを鏡と接続させる。
「いいか華、もしヤツがここに現れたら、すぐにこのボタンを押すんだ」
ドクターは操作盤にある赤いボタンに目を向けさせた。
「分かった。一瞬押すだけで大丈夫?」
「ああ、一瞬でオーケー!」
ドクターは装置の前に立ち、ターディスが現れるのを待つ。
ゴォンゴォンと、あの音が聞こえてくる。
それと同時に、吸い込まれるようなのか、追い出されるかのような風が吹いてくる。
ドクター達の追っていた戦争用のターディスは、まさにドクターが設置した誘導装置の中に入るように現れた。
「今だ、ボタンを!」
その言葉と同時に、華は赤いボタンを押し込む。
その時、タイムロードの鏡は大きな光を放った。それは捕えるための網のようで、ターディスを捕らえた。
そのまま光は収縮すると共に、ターディスもそれにつられて小型化し、鏡の光が消える頃には既になくなっていた。
「今ので倒したってこと?」
華がターディスから降りながら呟く。
「いや、あくまで鏡の中に閉じ込めただけだ。危険性がなくなったわけじゃない」
そう言うと、ドクターは鏡の前に立つ。
「恐らく、あのターディスは状況を理解するために休眠状態になっているはずだ。その隙に、内部に入って工作を仕掛ける」
「工作ってどんな?」
「ターディスの活動源はボルテックスエネルギーだ。いわば燃料、もしくは心。それを奪う。そのためにこれを」
ドクターは、自身のターディスに深くつながっている巨大なケーブルを華に手渡した。
「これで僕のターディスとあの戦争用のターディスを繋げる。そしてエネルギーを全てこちらに移す。そうすればただの箱になるさ」
「大丈夫? 一人で乗り込むの?」
「あの中はターディスの中なんだ、僕たちが知っているターディスじゃない、いわば敵の軍艦に乗り込むようなものさ。危険すぎる、君を連れてはいけない」
「でも私だって」
「君には君の仕事がちゃんとある。僕の命綱だ」
そう言うと、ドクターは華に腰に括り付けたロープを見せる。
「これがターディスの操作盤と繋がってる。しっかりケーブルが外れないか、僕があちら側に取り残されないように、しっかり見守っててくれ」
「……分かった。いい? 絶対に無事に帰ってくること。元の時代に帰れなかったら困るんだから」
「ここは元の時代だろ?」
「同じ年だけど、まだあなたと会う前でしょ? 数か月の差はデカいんだから」
「言われなくても、僕はいつだって帰って来るさ。君も、気をつけて」
ドクターと華は、互いに微笑みながら、目の前で別れを告げる。鏡の前に立ったドクターは、そこに足を突っ込む。
「さぁ行くぞ……アロンジィ!」
そう言って、彼の体は見る見る間に鏡の中へと吸い込まれていった。
華はしっかり彼が中でも生きているか確認するため、時折ロープを揺らして見ることにした。
揺らすと、同じようにあちらから揺らし返される。
「良かった」
「危険なのはこれからだ、今から乗り込む」
鏡の中の世界。そこはもはやどこもコピーした空間ではなくなっており、曖昧な暗闇が広がっているのみ。そこにドクターと、電話ボックスへと姿を変えたターディスが立っている。
「壁と屋根がしっかりついてる電話ボックスか。僕のと違うのは、昭和レトロだってところぐらいか」
赤い屋根に、少し大きな窓が付いた、丹頂形電話ボックス。その姿に変わっているターディスの取っ手を掴み、その中へと入っていく。
次回のチラ見せ
「どうして……ウディークがここに?」