これから最終話スタートです
ドクターに引きずり込まれ、光輝はターディスへと乗り込んだ。
「華はターディスの爆破、すなわちヴォルテックスに飲みこまれた。そのために彼女は宇宙の歴史から消滅した」
ドクターはいつものようにあちこちの操作盤をいじりながら、それを語り続ける。
「つまり彼女は死んだんだ。そもそも爆発に巻き込まれて無事なはずがない。だが最後の希望がまだ残ってる。それが君だ」
そう光輝に指を差す。光輝も自分に向けて指を差すが、納得いかない顔をしている。
「本来であればその爆破に立ち会った人間以外は全員忘れるはずなんだ。そもそも彼女が居た証拠すら無くなるからな。それでも君は彼女の存在を覚えている! それは他でもない愛の力だ、強い想いが彼女と惹かれ合ってるんだ!」
「わかった、わかってるからそれ以上言わないでくれ、なんか恥ずかしいから」
ドクターの口づたいで華への想いがこれほど伝えられるのは、恥ずかしい事この上ない。
「もし彼女が本当に消えていたら君ですら覚えてはいられない。覚えていられるのは彼女がまだ生きていて、君に強い想いがあるからだ。そのつながりを辿って華を助けに行く! じゃあ早速ここに手を突っ込んでくれ」
そう言って操作盤から出てきたのは何やらヌメヌメした妙なもの。
「えっ、手を突っ込むってここに!?」
「そうだ、早くやれ。事態は刻一刻を争う」
ドクターの言う通り、とりあえずその物体の中に手を突っ込む。まるで内臓に直接触れているみたいだ。
「これはターディスのテレパシー回路。君の想いを読み取って、華の居る場所までのルートを探してくれる」
「なんで機械なのにこんな……生々しい部分があんの!?」
「ターディスは生き物なんだ。そこが特に生き物らしい場所。人間でいうところの側頭葉に直接触れてるみたいなもんだ」
「うげーっ!」
そんなことを聞いてしまえば、さらに気持ち悪くて仕方がない。だが華を探すためならば仕方がない。そう覚悟を決めて触れ続ける。
「いいぞいいぞ! ターディスが華のいる座標を割り当てた!」
ドクターが跳んで喜ぶ。そのまま備え付けのモニターでその場所を確認する。
「それで、華がいるのってどこ? アメリカ? 南極?」
しかしそれを見た瞬間にドクターの顔は青くなった。
「いや、そんな安全な場所じゃない。ここは……宇宙で最も危険な場所だ」
「宇宙で最も危険な場所?」
そう問い返すと、ドクターは少し震えた声で答えた。
「ダーレクの本拠地、惑星スカロだ」
「ダー、レク?」
光輝にとってその名前は聞き覚えが無かった。それにドクターは気づき、ダーレクの説明を始める。
「ダーレクは宇宙で最も凶悪な存在だ。自分達以外の存在は死ぬべきだと考えてる。現にいくつもの星を滅ぼした」
「ええっ!? そんな危険な場所になんで華がいるんだよ!?」
「僕にだってわからない! 君のテレパシーが、ターディスがそこに華がいると言っているんだ。向かうしかない」
そう言って、ドクターはレバーに手をかける。
「とても危険な場所だ。命の保証はできない。無理にとは言わない。僕一人でも華を探す」
ドクターは、何よりも危険な場所へ光輝を連れていくことにためらいを感じていた。光輝はエイリアンとの経験があるとはいえ、ダーレクとはまだない。死の危険だってこれまでより高い。
「いや、俺は行くよ。この手で華を取り戻したい」
しかし、光輝の意志は強かった。強い眼差しでドクターを見つめる。
「何があっても責任は取れない。いいな?」
「覚悟の上だ。華は俺が取り戻す。まだ話してないことだっていっぱいあるんだ」
「なら掴まってろ」
光輝はこれからターディスが動くことを警戒して、手すりにがっしりと掴まる。
「行くぞ、ダーレクの本拠地へ!」
操作盤が囲んでいる円柱、ターディスの要とも言えるそこが上下に動き、船全体が大きく揺れる。
ブォンブォンという独特なエンジンの音と共に、ターディスは宇宙を駆け、時間を駆け、華のいるスカロへと向かっていく。
青い箱が、冷たい基地の床に、風を吹かせながら現れた。
その箱の中から、ドクターが現れる。ソニックドライバーであたりを調べる。何もないことを確認し、ゆっくりとターディスから降りる。
「ここがそのスカロ? 街のど真ん中?」
「スカロにもう街は無い。あるのはダーレクの基地だけ。ここはダーレク基地の中心部だ」
「基地の中心!? 一番危険だろそんなの!?」
「心配するな、ここの基地はあくまで作戦の進行やダーレクの製造を中心としてる。それに侵入者の警報も、入口ぐらいにしかないだろう。ほら、僕たちはいきなりど真ん中から来たからさ、侵入とは思われない」
そう言って、ドクターはソニックを光らせながら前へ前へと進んでいく。
「そんなこと言っても、ダーレクはいるかもしれないんだろ? 遭遇したら終わりじゃんか」
「遭遇したら逃げればいいさ。今はとにかく、華を探そう」
「でもどうして華がここに」
「怯えて逃げてるかも。早くしよう」
ドクターのソニックは、周辺にダーレクがいないかを索敵している。おかげで未だ遭遇していない。
ダーレクたちを避けながら、先へと進んでいく。
「けどどこに華が居るって分かるんだ? この基地、見た感じすごく広いし」
ここまでいくつもの道を通って来た。左に曲がったり、右に曲がったり、誰も居ない操作室のようなところなど。ダーレクがいるのかどうかすら怪しいほどに。
「待て」
ドクターが光輝を制止させる。壁に隠れて、向こうを見ると、そこには2体のダーレクが会話していた。
「あれがダーレク?」
「そうだ。さすがにバレたら殺される」
「じゃあ早く逃げよう」
「いや、何か情報を持ってるかも。聞き耳を立てよう」
光輝は言われるがまま、ダーレク達の会話を聞こうとする。
「最高司令はいつ作戦を開始するのだ?」
「エネルギーが足りない。その上“あの女”が侵入している」
「作戦だと?」
「あの女って、もしかして華じゃないか?」
「かもな。いるのは確定らしい、まずは華を追おう!」
ダーレクの言っていた作戦も気になるが、一番の目的は華。
二人は今のダーレク達とは別の方向へ進んでいく。
「こちらメイ、無事ダーレクの基地に侵入できた」
〈よくやった。例の“箱”があるところまでは、そのまま直進すればいい〉
「直進って随分とリスクあるじゃない」
〈あくまでその場所は、ってことだ。行き方は任せる。すまないな、マップが送信できなくて〉
「いいのよ。まさか基地で通信が遮断するようになってたなんてみんな気付かなかったんだし。それにここまで来たのに今更戻れない」
〈……ありがとな。必ず生きて帰ってこいよ〉
「そっちも、バックアップしてる最中にバレて殺されないようにね」
通信機にそんな軽口を叩き、金髪の少女は通信を切った。
「生体反応は……っと」
その少女は、懐から手のひらサイズのデバイスを取り出し、そこの画面に映った情報を眺める。
「やっぱり、直進する途中でダーレクに当たるわね。なら迂回して……ん?」
その画面に映る茶色い丸。それがダーレクの反応。しかし映っていたのはそれだけでなく、白丸と青丸も表示されていた。
「これって……人間? もう一人は、まさか……」
「よしっと」
ソニックドライバーを扉に当てて開くドクター。光輝は彼の後ろに隠れながら進む。
「なぁ、このまましらみ潰しで探しつづけるつもりか? なにか華の居場所がわかる道具とか無いの?」
「あったらとっくに使ってるよ。無いからこうやって進んでる」
「大丈夫かよ……」
再び突き当りに扉。ドクターが耳を当てて、向こう側にダーレクがいないか確認する。
「いないらしいな、よし」
再び、ソニックの光を当てて開く。しかし、扉の先に居たのは……
「あっ」
「侵入者を発見! 抹殺せよ!」
ダーレクのビームに、素早く反応したドクターは光輝の頭を掴んで伏せさせる。
だが、ダーレクはすぐさま二発目を伏せた二人に向ける。
「マジかっ!」
ドクターは光輝を跳ね飛ばし、光輝はすぐ隣の廊下に倒れ込んだ。
「光輝! そのまま逃げるんだ!」
「逃げるったってどこに!?」
「とにかく開いてる扉を探して……」
ドクターが言い終わる前に、光輝の前で扉が閉まる。二人は完全に分断されてしまった。
さらに最悪なのは、今のダーレクが光輝の方に居る状態で扉が閉まったことだ。
すぐさまソニックを扉に向けるが、反応は起こらない。
「警戒状態か! デッドロックをかけられた!」
二人が発見された瞬間に、基地内に警報が鳴り響いた。それは金髪の少女にとって、まさかの事態だった。
「ウソ!? まさかバレたの!?」
少女はすぐさま伏せて壁に隠れる。目の前にダーレクが数体通りすがる。
「人間二体の侵入を確認! 発見次第抹殺せよ!」
「人間、二体……やっぱり他にも人が」
「とにもかくにも、この状況をなんとかするしかない! スカロのダーレク基地には前一度来たことがあるから……」
ダーレクと分断されたためか、今のところドクターは追われていない。
前に来たという記憶を頼りに、基地の先へと進んでいく。
「基地全体を見渡せる指令室があるはずだ、なんとか逃げのびていてくれ、光輝」
途中、何度かダーレクに遭遇しかけるが、なんとか隠れ続けながら目的地へとたどり着いた。
「ここか」
扉に近づいた瞬間、まるで招くように扉が開いた。中でダーレクが待ち構えているわけではなかったようだ。ドクターはすぐさま操作盤に走っていく。
「さて、基地内の生体反応は……っと。よし、なんとか光輝は生きてるみたいだな」
モニターに映し出された人間の反応。しかしそれは一つだけでは無かった。
「もう一つ……もしかして、華か?」
ドクターはコンピュータの中から、華にまつわる情報が無いか探し続ける。
しかし、そこから得られる情報は何一つなかった。ただ一つの言葉を除いては。
「……ロストボックス計画?」
映し出されたその文言。どこかで聞き覚えのある言葉だった。
「……とにかく、光輝がいる場所は分かった。すぐに向かわ……」
そうして振り向いた瞬間、見覚えのある“何か”がドクターの視界の端を掠める。
それを見た途端にドクターは「はっ?」と声を上げてしまった。
操作盤の下からいくつも伸びているケーブル。その一つ一つが、その“何か”の中へ向かっている。
「まさか、あり得ない……どうしてここに?」
四角い長方形の物体。赤い屋根に少し大きな窓がついた、丹頂形電話ボックス。
開いた扉の向こう側には広い空間。
「どうして……なぜここにあのターディスが!?」
次回のチラ見せ
「お前ら、ここで女の子を殺さなかったか?」」