Sword art Online ~Doctor game~ 作:アルクトス
受験が終わりました、アルクトスです。
ホントはビルド×くめゆの方を進めたかったのですが、原作を後輩に貸し出していてまともに執筆できる状況ではないので……
今日から、新連載で仮面ライダーエグゼイドとソードアート・オンラインのクロスオーバーをやっていきたいと思います。
――え、前に似たような作品を見たことがある?
それはたぶん気のせいなので、気にせずお読みください(棒)
ご存知の方がいましたら、突っ込まないでいてくれると幸いです。
「ハァ……ハァ……ハァ……」
宝生永夢は急いていた。
今日は2022年10月30日、そして明日は待望のVRMMORPGである『ソードアート・オンライン』の発売日。
それだけならば、永夢が急ぐ理由はないが、今回は違った。
今の時代、ゲームは予約さえしてしまえば発売日に買えないということはまずない。
しかし『ソードアート・オンライン』は異なった。ゲームの初回生産スロットが一万。そのうちの千本はβテスターと呼ばれるゲームのβ版のテストプレイヤー達に優先購入権がある。そして残った九千本を、全国各地の取扱店で分けるのだ。
後は、取扱店ごとに販売形式が決められるが、大体が物理抽選。並ばなければ買えない。
つまり、そう言うことだ。
半年前に発売日を知った永夢はスケジュールを調整。前日である今日は残業無しの四時で早上がり。発売日は無論で、サービス開始の6日から三日間は有給を行使して無理矢理休みを取った。
――既に、永夢には買えないという頭はない。
「……っへへ」
三十近いとは思えないほどに無邪気な笑みを浮かべながら、永夢は駅までを駆ける。
東京では秋葉原・新宿・池袋と販売される店舗が多いが、その分人も多い。倍率でいったら地方よりもはるかに高い。急ぎ秋葉原の店舗に向かうために、山手線の列車に飛び込むと――
『急病人発生の為、電車は次の駅で一時停車いたします』
ままあることである。約束事や急ぎの用事がある時に限って、電車が人身事故等で停車する。
無論、そんなことは永夢の想定済みのことだ。迂回路を幾重にも用意し、それを行使しても待機列が始まる六時には余裕で秋葉原につく計算だ。
だが、今回は状況が良くなかった。急病人、永夢はすぐに応急手当をと向かおうとして思いとどまる。
(今、そっちに向かったらゲームは買えなくなる……)
が、腐っても医者である。見捨てるという選択肢はなく、苦肉の策として永夢は自身の内へ語り掛けた。
「……パラド」
…………
「あれ?」
反応はない。
「あっ」
そしてすぐに思い至る。本日パラドは休暇で、ゲームの特訓をすると言っていたことを。
恐らく今も、ゲームのコントローラーを手に鉄拳シリーズの最新作をプレイしていることだろう。
「……背に腹は代えられないかな」
ため息一つ吐いて、永夢は内心で夢のVRMMOにさよならを告げると急病人の看護へと向かった。
◆◆◆◆
――檀正宗の起こしたパンデミックから、早五年。
世界は平穏無事にとはならなかったが、それでも人々はいつもの日常を安穏と過ごしていた。
そんな中、ある一つのニュースにより世界に激震が走った。
史上初の家庭用VRマシン『ナーヴギア』の登場だ。アーガスの天才ゲームクリエイターにして量子物理学者である《茅場晶彦》が開発したこのナーヴギアは、家庭用にも拘らず今までゲームセンターに置かれるような大規模マシンでしか成し得なかった五感全てを仮想世界に『フルダイブ』をさせる可能とする革命的マシンだ。
更に革命を起こしたのはなにもゲーム業界に限ったことではない。フルダイブ――五感の全てを制御できるということは、それは医療にフィードバックすることが可能ということだ。
そんな医療業界にも革命をもたらしたナーヴギアであったが、革命的すぎてどのソフト会社もそのスペックを十全に発揮することは出来ずに、発売されたゲームはアバターを自由にカスタマイズできるものや、良くて仮想空間内で犬猫をもふれる〇ンテンドックス紛いが精々だった。
そんな中で、またも世界に激震をもたらしたのは茅場晶彦だった。
彼が開発したゲーム――『ソードアート・オンライン』、通称SAOは完全なる仮想世界を構築するナーヴギアの性能を活かした世界初のVRMMORPG。自らの体を動かし戦うというナーヴギアのシステムを最大限体感させるべく魔法の要素を完全に排して、技となるのは純粋なる剣技となるソードスキルのみ。また鍛冶や裁縫、釣りや料理、音楽など戦闘用以外のスキルも多数用意されており、その自由度はゲーム内で生活することができるほどだ。
その人気ぶりはたるやβ版のテストプレイヤー枠の千人は一瞬で埋まり、一か月のテストプレイで彼らから得られた感想はどれもSAOを『神ゲー』と称賛するものばかり。正式版の一万本は瞬く間に売り切れ、その購入者たちは11月6日のサービス開始を今か今かと心待ちにしている。
涙を呑んだ10月最後の日が過ぎ去って早一週間。
本来有休をとって休みであるはずの永夢は、何故かCRの医局にいた。
「はぁ……」
そして幾度目か、もう数えるのが億劫なほどのため息をまた一つ吐いた。
「エム~……そんなに落ち込まない! エムはとってもいいことしたんだから!」
そんな彼を慰めるのは、ピンクの髪に蛍光色の服を纏う少女――ポッピーピポパポだ。
「後悔はしてないんだよ。人として、医者として急病人って聞いたら見過ごせないし……」
言葉の通り、永夢の内心に後悔の文字はない。後悔の文字はないのだが……無念に思う気持ちは、ことさらに強い。
「そうだよ! だから、エムはどんって胸を張ればいいの」
一週間、こうしてポッピーは慰め続けたのだが、夢の大作を逃した永夢の無念の気持ちは相当に強い。
夢の大作ということで日々のニュースにも毎日取り上げられており、否が応でもSAOの話題が耳に届かない日がないというのが、それに拍車をかけている。
「でも、夢のフルダイブ……ソードアート・オンライン、やってみたかったなぁ……」
「うぅ……」
そしてこの一週間。終ぞ、ポッピーは永夢を慰め切ることができなかった。
「……放っておけ、ポッピーピポパポ。この一週間、同じ問答の繰り返しだ」
そんな二人の様子にため息交じりに苦言を呈すのは、フォークとナイフでケーキを食す永夢の先輩医師である――鏡飛彩だ。
「だってしょうがないじゃないですか……夢のフルダイブですよ」
「くだらん。興味がないな」
永夢の慟哭を無碍に切り捨てる飛彩。
正直、一週間も同じ内容を聞かされ続けてうんざりなのである。
「……大先生の言うことも間違ってないな。買えなかったもんを今更どうこう言っても手に入るもんでもないしな」
そんな飛彩に同意するのは、アロハシャツ姿で砂糖山盛りのコーヒーを飲む――九条貴利矢。
彼もこの一週間。会うたびに同じ内容を延々と聞かされ続け、正直うざがっていた。
「それは、そうですけど……」
「じゃ、この話はおしまーい! あい皆仕事に戻った~」
尚も縋ろうとする永夢の話を貴利矢は強引に遮ると、飛彩たちを促して、さっさと仕事に戻るべく立ち上がった。
「では、俺はカンファレンスに行ってくる」
「わたしも、この後日向審議官のとこにいかなきゃ!」
「自分は紗衣子先生のとこに顔出してくるわ」
どうやら、三人はこの後は外出の予定らしい。
一人となっては愚痴る相手もいなくなる。永夢はまたも盛大なため息を吐くと、ぼそりと呟く。
「……僕も、CRで書類片付けてます」
「永夢、今日はお休みなんだからちゃんと休まなきゃダメだよ!」
子供を叱りつけるように、オーバーな怒りの表情を見せるポッピー。
無論永夢を心配しての怒りだが、今の彼にそれがまともに届く筈もなく、変わらず落ちた表情のまま。
「仕事でもしてないと余計なこと考えそうで……」
手慰みが欲しい永夢。だがゲームだとどうしてもSAOを思い起こしてしまう。
結果、選ばれたのは頭を空にできる単純作業な書類の処理。
「嫌なワーカーホリックだな……」
「うちの病院はホワイトで押してるんだがな」
「……これ、ちゃんと申請したら有給戻ってくんのかねぇ」
やり取りを見ながらの二人の雑談は、すぐに閉まったエレベーターの扉に阻まれ永夢に届くことはなかった。
◆◆◆◆
あれから数時間。何も考えずに目の前の書類と格闘し、もうすぐ終わりが見えてきた……というところで、身体に凝り固まっていることに気がついた僕は、うんと伸びをして気まぐれに備え付けのテレビをつける。
『先日発売された、ナーヴギアの最新ゲーム《ソードアート・オンライン》は凄まじい人気ですね』
またか――ため息交じりにテレビの電源を落とそうとしたが、やはり気になるものは気になるので、そのまま流すことにする。
『世界初のVRMMORPGですからね、世界からの注目も厚いですよ~。開発者の茅場晶彦氏が表に中々出てこないこともあって、ゲームの詳細などは詳しく語られることが少ないですから、それもこの人気に拍車をかけているんでしょう』
――今頃、SAO買うことの出来た人々は夢のVRMMORPGを心行くまで楽しんでいるのだろうな。
そんなことに思いを馳せていると、画面の中が途端に慌ただしくなる。
「ん……?」
速報かな――でも、その割には画面の中の慌ただしさは尋常ではない。
『速報です! ……たった今、ソードアート・オンラインの開発者である茅場晶彦氏からこのような声明が各テレビ局に送付されました』
咄嗟の早口で、速報を読み上げるアナウンサー。
映像が切り替わり、中世を思わせる広大な石畳が広がる広場が映る。
そこに、簡素な革鎧を纏い剣や槍を携えた、約一万程の人たちが集まっていた。
「これは……ゲームの中?」
一瞬、現実世界に見まがうほどにキレイな映像に心が躍るけど、あまりに異様な光景にすぐに思考は現実に戻る。
突如と空に真紅の【Warning】の文字が無数に浮かび、空一面を覆い尽くすと……それはどろりと血液のように垂れて、やがて巨大な人型となる。
そして、現れた真紅のローブの人型は、ゆらりと広い手袋に覆われた両手を広げると、低く落ち着いた、よく通る声音で語り始める。
『プレイヤーの諸君、私の世界へようこそ』
画面の中の人たちが、言葉の意味を掴めずに呆然となる
そして僕も、画面の中の人たちと同じように、ただ呆然と画面を眺めることしかできない。
『私の名は茅場晶彦。今やこの世界をコントロールできる唯一の人間だ』
――茅場、晶彦……。
ソードアート・オンラインとナーヴギアを開発した、正にその人だ。
メディアにはほとんど出ていなくて、雑誌とかでインタビューを受けることもほとんどない。そんな人が、一体何を言おうとしているんだろう。
そんな僕の思いに応えるように、画面の中のフードの人型――茅場の声は続く。
『プレイヤー諸君は、既にメインメニューからログアウトボタンが消失していることに気付いていると思う。しかしそれはゲームの不具合ではない。これは《ソードアート・オンライン》本来の仕様である』
「仕様、って……ログアウトができない?!」
言葉の意味を呑み込み、理解するのには時間がかかった。
その間にも、茅場のアナウンスは広場の人たちへと無慈悲に告げる。
『諸君は今後、この城の頂を極めるするまで、このゲームから自発的にログアウトすることはできない』
「――え?」
そして理解したところで、僕はテレビの前で呆然と立ち上がることしかできなかった。
『……また、外部の人間の手による、ナーヴギアの停止あるいは解除も有り得ない。もしそれが試みられた場合、ナーヴギアの信号素子が発する高出力マイクロウェーブが、諸君らの脳を破壊する』
マイクロウェーブ。それを照射するというのは、人間の脳を電子レンジでチンするということだ。
脳細胞が瞬く間に熱せられ、その熱で脳の機能は停止して……死亡する。
『より具体的には、十分間の電源の遮断、二時間のネットワーク回線の切断、ナーヴギア本体のロック解除または分解、破壊の試み――以上のいずれかの条件によって、脳破壊シークエンスが実行される。ちなみに現時点で、プレイヤーの家族友人等が警告を無視してナーヴギアを強制解除を試みた例が少なからずあり、その結果――』
この状況は……まるで五年前の《仮面ライダークロニクル》みたいだ。
――嫌な汗が止まらなかった。
『残念ながら、既に百四名のプレイヤーが、アインクラッド及び現実世界からも永久退場している』
「もう、それだけの犠牲者が……」
あまりの数に、僕は呆然とまた座り込む。
――でも、これがテレビを通して流れたならば二次災害で命を落とす人は減るだろう。
そう頭の中を切り替えることで、どうにか冷静さを保った。
『諸君らが、現実世界における自身の肉体を心配する必要はない。現在、この場の状況はあらゆるテレビ、ラジオ、ネットメディアにおいて配信されている。今後、諸君らの現実の身体は、ナーヴギアを装着したまま二時間の回線切断猶予時間のうちに病院その他の施設へと搬送され、厳重な介護体制に元に置かれるはずだ。諸君らには、安心してゲーム攻略に励んでほしい』
「……無茶苦茶だ」
今から約一万の、それも特殊な状況下の彼らを保護するとなると、できなくはない。
でも……それを維持して、彼らの命を守っていかなければならないとなると話は別になる。それこそ国での規模で彼らの保護していかなければいけないわけだ。
更に、畳みかけるように茅場の無慈悲な宣告は続く。
『しかし、これだけは充分に留意してもらいたい、諸君にとって、《ソードアート・オンライン》は既にただのゲームではない。もう一つの現実というべき存在だ。……今後、このゲームに置いてあらゆる蘇生手段は機能しない。ヒットポイントがゼロになった瞬間、諸君らのアバターは永久に消滅し、同時に――諸君らの脳は、ナーヴギアによって破壊される』
少し前に、茅場は雑誌のインタビューでSAOについてこう言っていた『これは、ゲームであっても遊びではない』と。
遊びではないゲーム。ゲーム内での死が現実での死と同義となる――でも、そんなものはゲームじゃない。
『諸君らがこのゲームから解放される条件はただ一つ。先に述べた通り、アインクラッド第百層に辿り着き、そこに待つ最終ボスを倒してゲームをクリアすることだ。その瞬間、生き残ったプレイヤー全員が安全にログアウトされることを保証しよう』
クリア、第百層――無茶だ、βテストでの二か月の間でも階層攻略は六層に止まったと、どこかで聞いた。
そのままの攻略速度なら、単純計算でも百層攻略までに三年がかかる計算だ。でも、デスゲームになった今のSAOでは攻略の速度は圧倒的に落ちてしまうだろう。四年、五年――ひょっとしたらもっと長くなってしまうか漏れない。そして、そんな長い間意識を仮想の世界に置いた彼らの現実の肉体は衰弱は激しくなり、ゲーム内での死を待たなくても、そのまま死を迎えてしまう。
全国各地に散らばるプレイヤーたちの命の保護をどうしたらいいのか――僕は必死に考えを巡らせる。
「……どう頑張っても、三年が限度だ。それ以上は命が持たないし、社会復帰の談になっても……」
そもそもの問題、被害者を病院に移すだけでも色々と問題がある。各病院への被害者の振り分け、彼らをケアする人員も確保しなきゃいけない。
――考えるだけで、たくさんの懸念事項が浮かんでくる。
と、画面の中の茅場が阿鼻叫喚の様相を見せる広場へ向けて、三度と傲慢不遜に語りはじめる。
『諸君らは今、なぜ、と思っているだろう。なぜ――SAO及びナーヴギア開発者の茅場晶彦はこんなことをしたのか? これは大規模なテロなのか? あるいは身代金目的の誘拐時間なのか? と』
そんなものはこっちから聞き質したいくらいだ――そんな思いを呑み込みながら、僕は茅場の次の言葉を待つ。
『私の目的は、そのどちらでもない。それどころか、今の私は、すでに一切の目的も、理由も持たない。なぜなら……この状況こそが、私にとっての最終的な目的だからだ。この世界を創り出し、観賞するためにのみ私はナーヴギアを、SAOを造った。そして今、全ては達成せしめられた』
――冗談ではない……っ!
それなら、ただのゲーム運営でも良かったはずだ。何故、茅場はこんなことをするんだ。
『……以上で《ソードアート・オンライン》正式サービスのチュートリアルを終了する。プレイヤー諸君の――健闘を祈る』
そんな僕の叫びに応えることなく、茅場のフードのアバターは空に広がる無数のシステムメッセージと共に夕焼けの空に同化するように消えていった。
同時に、映像もそこで途切れ、困惑しきりといった様子のアナウンサーの姿が映った。
『こ、これは……一体どうしたことでしょうか? 茅場晶彦氏は……一体何を?』
そんなアナウンサーの声を余所に、僕は即座にCR備え付けの内線に飛びついた。
この件に関しての対策を、恩師であり衛生省の衛生大臣官房審議官である日向恭太郎先生に相談するためだ。
何回かのコールの後、先生は声に焦燥を滲ませ、電話に出た。
『私だ。……永夢、放送は見たか?』
「はい、見ました」
『既に承知の上だと思うが、由々しき事態だ』
「はい」
日本初……いや、世界初とも言えるVRテロ事件。
由々しき事態、そんな物ではすまされない。先生の反応を見るに、政府は対応を即座なものとしたいんだろう。
『政府は既に、《SAO事件対策チーム》を発足させ、解決に向けて動き出している。ついては、永夢にもそのチームに参加してもらいたい』
「僕が、ですか……?」
仮にも政府直属の機関に所属しているとはいえ、僕はただの医者だ。
それを政府規模の大事件の対応人員に回すということは、事態は相当切迫しているのか――不安に駆られて、僕は思わず眉を顰める。
『被害者の保護を国が請け負う関係上、衛生省から人員を割くことになっていたんだが、ゲームに詳しく現役の医者である永夢が参加してくれれば心強い』
――そういうことなら。
「……わかりました、参加させてもらいます」
少しでも、僕にできることをしたい。
好感触の僕に、電話越しの先生は喜色の声色を見せる。
『ありがとう。早速だが、二時間後……七時より、衛生省にて第一回の対策会議が開かれる。まずはそこに参加してほしい』
「はい」
そこで通話は切られ、僕は思わず大きく息を吐く。
――大変な事態となった。
これでVRに対しての世間の意見は最悪のものとなるだろう。もしかしたら、ゲーム業界すらも揺らぎかねない。
茅場晶彦は、一体なにを思って、この事件を起こしたのだろうか。
◆◆◆◆
「――以上が、事件の被害者達の受け入れに関しての草案です。何か意見等ある方はいらっしゃいますか?」
始まった会議。まず話し合われたのが、被害者の受け入れについて。
これに関しては下手に会議で話を進めてしまうと色々と面倒なことになりそうだったので、会議が始まるまでの間に、病院長である飛彩さんのお父さんと草案を固めてきた。
それを叩き台にすることで、滞りなく被害者の人たちの各病院への割り振りが決められた。
「では、続いて事件の首謀者である《茅場晶彦》についてを」
議事進行を務める恭太郎先生が、次を促す。
「それに関しては、僕が」
立ち上がったのは、総務所の役人だという菊岡という男。
ただ、報告の内容が芳しくないのだろうか、その表情は苦いものだ。
「……既に警察が自宅に乗り込みましたが、家はもぬけの殻で茅場の姿はありませんでした」
「潜伏先等の心当たりは?」
「そちらも、アーガスの他の社員や彼の大学時代の同輩達に事情聴取を行っていますが、目立った情報は……」
流石に大規模VRテロを引き起こすような人間が、そう手安く情報を掴ませてはくれないようだ。
「――そうか」
落胆と同時に納得の感情の籠った声で先生が頷いた。
その重々しい空気に誰もが息を呑む中、改めて先生が次を促す。
「では続いて、事件そのものの対処についてだが……」
「「「…………」」」
が、誰も意見の為に手を上げようとしない。
当たり前だ。国家規模のテロ事件でさえ前代未聞だというのに、それがVRの――仮想の世界で行われたとなれば。
「やはり難しいか……」
苦悶の表情を見せる先生に、先ほどの菊岡が同じくと苦い顔で頷く。
「はい。実際にナーヴギアを取ろうとしたことにより、死亡した被害者が百名を超えています。この事実を鑑みるに、茅場の発言はすべて真実でしょう」
「うむ……」
一応、僕の中で一つの案が浮かんではいる。
それはあまりにリスクの高いもので、それでいて確実性は全くない――手段としては尤も愚かなものだ。
「サーバーそのものを閉じるという案もありましたが、その場合は一万人の被害者全員が脳を焼かれてしまうというのが、アーガスの見解です」
――それでもできることがあるなら、人々を救うために僕ができることがあるなら。
「我々は、ただ見ていることしかできない……か」
覚悟を決め、僕は大きく息を吸うと、嘆く先生に対して腹案を投げかける。
「……一つだけ、ゲームクリアを早めることができるかもしれない方法があります」
「それは本当か! 永夢!?」
どよめく会議場。そして予想通りの反応をする先生。
「はい」
歓喜の様子を見せる先生に、僕の命を救ってくれた先生に、文字通り命懸けの策の提案は渋られる。
「ただ、確証が全くとも取れない方法です。正直、賭けに近い……」
「だが、1%でも可能性があるなら私はその賭けに乗ろう。その方法を教えてくれ」
駆けられる期待が重い。それを、僕はこれからある意味で裏切ろうというのだから本当にどうしようもないと思う。
もう一度大きく息を吸う。吐いて、肺から空気を全て追い出して、また吸う。
そうして、本当に言い出す覚悟を決めると、僕は先生へと対して話し始める。
「……僕が、ソードアート・オンラインにログインするんです」
これが僕に取れる唯一の策だ。あまりにムチャで、保障なんてどこにもない。
下手をしなくても、僕という犠牲者を増やしてしまうかもしれない……本当に無謀な策だ。
「「「ッ!?」」」
衝撃が走る。
――当然だ、自らデスゲームに飛び込もうなどという愚か者に驚かないわけがない。
「永夢、それは……」
咎めるような、悲しむような先生の声。
――それでも、僕は揺らぐわけにはいかない。
「天才ゲーマーMである僕なら、少なくても攻略に貢献は出来ると思います」
そう、僕は天才ゲーマー。そして仮面ライダーでもある。
身体を動かし、戦うという行為においては一日の長があるわけだ。
「……死ぬ可能性も、あるんだぞ?」
「それだけなら、今までとも変わりません。戦う場所が現実からVRの世界に変わるだけです」
そう、変わらないのだ。
仮面ライダーとして現実で戦っても、HPが尽きればゲームオーバーとなり死が待っている。
それだけならば、今までと変わらない――変わらないのだ。
「しかし……」
「何もできず、手を拱くなんて……僕には、できません」
こうしている間にも、囚われた人達は恐怖に喘いでいる――その命を散らそうとしている。
「…………」
「恭太郎先生、行かせてください」
ふと、誰かの言葉が頭を過った――『この手で掴める命があるなら、俺は迷わず掴む!』と。
僕もその言葉に倣い、せめて手の届く範囲だけの人たちの命を守りたい。
そんな思いが届いたのだろうか。やがてゆっくりと、先生は目を伏せ頷いた。
「……必ず、帰って来い」
「っ! ……ありがとうございます」
この先、手を伸ばしても届かない命があるだろう。
それでも手を伸ばし続けよう。一人でも多くの人たちを生還させるために。
◆◆◆◆
時間は少し経って、ここはCRの病室。
SAOにダイブすることを決めた僕は、早速その準備に取り掛かっていた。
とは言えど、僕にできることはそう多くなく、準備の多くは幻夢コーポレーションの社長の作さんたちが手を回してくれている。
そして、その準備も全てが終わって、後は僕がゲームにログインするだけとなった。
「エム……ホントに行くの?」
ポッピーが、不安げな様子で僕を見上げてくる。
その潤んだ瞳に、なんと言えばいいのか。僕は笑んで、ポッピーの瞳から零れそうな涙を拭う。
カッコつけにしか見えないけど、実際僕はポッピーの前では少しはカッコつけていたい。これが男心って奴なのか、まぁ……そんな感じだ。
「……うん。見てるだけっていうのは、僕にはできないから」
どうにか言葉を探ってみるけど、ポッピーを安心させるようなものは出てこない。
「そっか……」
そんな僕の口下手なせいで、またも潤むポッピーの瞳。
声も震えて――僕はポッピーの声は好きだけど、涙声はそんなに好きじゃない。
ポッピーには笑っていて欲しいし、声も歌声みたいな元気な声のほうがいいに決まってる。
だから、どうにかポッピーを安心させるために、もう一度頭をフル回転で言葉を探ってみる。
「……僕は、ちゃんと帰ってくるよ。ゲームをクリアしてね」
「天才ゲーマー、だもんね……約束だよ!」
必死に絞り出した僕の言葉に、ようやくポッピーも微笑んでくれた。
――やっぱり、ポッピーは笑顔が一番だ。改めて、そう思った。
「……そうだ、エム!」
「うわっ?!」
ずいずいっと、あと少しでおでこがぶつかるんじゃないかという距離まで乗り出してきたポッピー。
流石に後退りすると、今度は眼前に小指以外を畳んだ握りこぶしを掲げてきた。
「ど、どうしたの? ポッピー……?」
「指切り、しよ!」
……ああ、約束だから指切りを。
そういえば、誰かと指切りをするなんて――子どもの頃からしたことが無かったな。
「指切り……」
「うん!」
飛び切りの笑顔をみせるポッピーに、僕はおずおずと小指を差し出す。
すると、すぐにその指は搦め取られ、ポッピーの歌声に合わせて上下に揺られる。
「指切りげんまん♪ 嘘ついたら針千本飲ーます♪ 指切った♪」
よくよく聞くと、拳万に針千本とはかなり恐ろしい気がしないでもないけど……まあ、本当に実行されるわけじゃないし、大丈夫だよね?
小さい頃は無邪気にやっていたことも、大人になると結構残酷なことであると気付かされてしまい、サブイボ立てる僕に、ポッピーはやはり無邪気に告げてくる。
「これで、私との約束破ったら針千本だよ!」
どうやら、免除は拳万の方だけらしい。これは簡単に死ねなくなったなあ……。
苦笑しながら、僕はポッピーにうんと頷く。
「……まってるからね」
そう、最後に小さく付け加えたポッピーの表情ははにかんだような笑顔だった。
――でも、その眼と声はやっぱりちょっと震えてて、これからデスゲームに赴く僕に、余計な気遣いをさせたくないというポッピーの気丈な思いが、覗いて見えた。
……僕はポッピーの声が好きだ。豊かな感情を際立てるそんなポッピーの顔も好きだ。
でも、僕がポッピーの一番の魅力は、その優しさにあると思う。誰かの痛みをまるで自分のことのように受け止めて、その痛みを癒してくれる……そんなポッピーの天性の善性が、僕は好きだ。
――それは、恋愛的な意味じゃなくて、もっと単純な思い――人として、あるいは医者として、その崇高な精神性が、僕は好きなんだ。
「大丈夫、僕の居場所はここだから。……だから、ちゃんと、ポッピーのところに帰るから」
ただの研修医でしかなかった僕が、ポッピーの招きで迎え入れられた、僕の唯一の帰れる場所。
――皆がいて、僕を迎えてくれる……そんな場所。
僕はここへ帰る。皆を助けて、ゲームをクリアして。
「――先生」
そうして決意を新たにしたその時、声がかかった。
声の方を向けば、そこには前の事件で知り合ったゲームクリエイターである南雲影成さんの姿があった。
「準備……終わったんですか、南雲さん」
南雲さんには、僕がフルダイブするための環境の準備を手伝ってもらっている。
具体的には、ライダーシステムをSAOに適応させたり、その他にもSAOにログインした各プレイヤーの追跡ログを精査するシステムなんかもアーガスと共同で組んでいるらしい。
「ああ、滞りなくな」
「ありがとうございます」
――これで、今度こそ本当に僕がSAOにダイブするだけになった。
「いや……こういうことでしか、まどかを助けてもらった事への借りを返せないからな。協力は惜しまないさ」
「南雲さん……」
まどか、というのは南雲さんの娘さんの星……今は南雲まどかちゃんだ。
小児脳腫瘍に悩まされていたけど、飛彩さんの神がかり的な手術の腕により、今は健康体そのものだという。
「幻夢VRからフルダイブできるように調整した。後は……どうにか、幻夢の社長と協力して上手くやるさ」
「よろしくお願いします」
礼を言うと、南雲さんから幻夢VRが手渡され、本当にダイブする瞬間が迫る。
ベットに腰かけ、幻夢VRを被り、横になって。
一度深呼吸をする。大きく息を吸って、吐いて――すると、僕の手が柔らかな感触に包まれた。
「……エム」
不安げに揺れる声が聞こえた。
柔らかな感触はポッピーのものなのだろう。ギュッと握り返すと、僕は平静に、いつもの調子で声を掛ける。
「じゃあ、行ってきます」
「うん、行ってらっしゃい」
見送りの声にこくりと頷く。
そして音声認証の為に、僕は言った。
「リンク・スタート!」
はいどうも、アルクトスです(ここ思いっきりpixivと同じにしてた……)
年度が替わるまでに、新元号が発表されるまでに……とかやってたら新元号発表と同じタイミングになりました。
とまあ、そんな訳で本編の後語りみたいなものでもしましょう。
大まかな内容はリメイク内容と全く変わっていませんが、所々と設定を小説準拠にしたり、現在死亡なうの黎斗に代わって南雲さんを登場させたり、と細部の変更をしました。
これにより、当面の間は黎斗のいない物語となるわけですが……まあ、あの人ジオウにでたり、SHFになったり、カードになったりともう方々に出まくってるので、この作品くらいでは影も形もなくしてやりましょう(笑)。
さて、本編のあれこれについてはこれでいいとして、後は何でしょう……言いたいことは山程って奴ですが、あんまり書き過ぎても興覚めなので、予告の際にちょこっとだけ言っていた『永夢のキャラ』についての話でも。
誰が言ったか『ガシャットエムギツネ』、『空洞虚無』とかの散々なあだ名付けられてる永夢ですが、まあ実際小説版読めばわかるように、中々に過酷かつ空虚な人生を送ってきた彼ですが、その反動か彼の本質は中々に黒いキャラです。
意外に……でもないな、冷血で、自分本位で、報連相は全くしないわ、本編だとドラゴナイトハンター回で描かれたような狂信的なまでの医療への信望というのでしょうか? そんなのもあったり。
と、まあ……ノベルXの発売で掴める永夢のキャラというのはこんなものでしょう。
その辺、ちょいちょいと摘まんで地の文に乗せてみたのですが、わかっていただけたら幸いです。
では、この辺で後書きも終わりとしましょう。
次回はいつかな? 四月中に上げたいものです。