Sword art Online ~Doctor game~ 作:アルクトス
どうやらプログレッシブのサブタイは音楽用語から来ているらしいです。
私は全くそういったことに詳しくないので、色々調べた結果今回の表題であるetude──エチュードというのは、楽器の練習曲のことを指すようです。
今回はボスに至るまでの準備編なので、ちょうどいいなと思い採用と相成りました。
──SAOのサービス開始から二ヶ月弱が過ぎた。
停滞していた階層攻略は、第一層突破までを考えるとかなりの速度で進行していって、つい先日第四層を突破することができた。
第一層の攻略時にボスにはβテスト時代から行動パターンや所持する武器等の変更があると周知されていったことで、攻略速度が落ちてしまうのではないかという心配もあったけど、攻略組に存在する、ドラゴンナイツ・ブリゲード──通称DKBとアインクラッド解放隊──通称ALSという二大ギルドが戦果を競うようにして攻略を進めた結果、第一層攻略までを思えば順調とも思える速度での攻略が実現している。
僕自身の現状としては、第一層以降はクラインさんらのパーティーを離れ、一応ソロという形で攻略に参加している。
というのも第一層以来僕が《仮面ライダー》であると周知された結果、DKBとALSそれぞれからギルド加入の打診を受け続けている。現在の攻略はこの二つのギルドが競い合うことで成立しているわけで、そこで片方にーー自分でいうのも気恥ずかしいけど《天才ゲーマーM》であり《仮面ライダー》でもある僕が参加してしまうと、戦力バランスが一気に崩れてしまう。
片方のギルドが台頭すると、起こりうるのは泥沼の争いだ。ただでさえ、DKBとALSの仲は良いものではない。直接的な妨害こそないけど、小競り合いなんかは目にする限りでもしょっちゅうある。そんな中でーーというのは考えなくてもわかるというものだ。
そんなわけで、現在の僕はソロだ。といっても攻略においては気の知れたクラインさんらや他では第一層では壁役であるB隊を率いていたエギルさんのパーティーと一緒に行動することも多いため、ほぼ名ばかりではあるけど。
それでも、例えばパーティー単位でのクエスト中であったりなんかで、各々の都合がつかずに一人になってしまうということは往々にしてある。そんな時、僕は大抵ある人の元を訪れている。
「第五層のボスなんですけど、一体どんな行動パターンなんですか?」
「──そうね、確かゴーレム系のモンスターで弱点は額の宝石、ゴーレム系らしく攻撃は手足のみの単調なものだったけど、盾役でも受けきれない威力で防御力も高い……だったかしら?」
僕の問いに答えるのは薄紫の髪を丁寧に結い上げ、ポニーテールに纏めた少女──《ミト》だ。
元βテスターで、アスナさんとリアルで友人であったらしいけど、第一層攻略以前に交流を絶ってしまうような何かがあったらしい。一応二人にわだかまりは残ってはいないらしいけど、ミトさんにはアスナさんに対して思うところがあるようで今は最前線を辞して、防具屋を開くために素材集めをしているんだそうだ。
そんな彼女がなぜ、僕に攻略情報の指南をしてくれるのかというと──
「ところで、最前線の素材を融通してくれるのはありがたいんだけど、貴方はいつまでこうやって私のところに押しかけてくるわけ?」
──というわけだ。彼女は元βテスターで、当時は攻略深度No.2であったらしいその知識を伝授してもらうために、第一層ボス攻略の直後に声をかけたのが始まりだ。
今の僕は《仮面ライダー》として、一応攻略の主力となっている。ボス攻略では二大ギルドの不破を避けるために、攻略の指揮を執ることもあったりして、そのためにボスに対して事前にどれだけの知識を得られるかが攻略の鍵になって来ている。
一応情報屋の少女やキリト君らともフレンドメッセージや、タイミングを合わせて口頭で情報を擦り合わせたりすることもあるけど、情報屋の方は忙しい身ゆえにそう高頻度で連絡を取り合えるわけではない。キリト君の方も僕からは接触しづらい事情もあって、メッセージでのやり取りは多くしているけど、直接会って話し合うのに勝るほどではなくて、βテスト時代の情報を求めた僕はこうしてミトさんとの接触を図ったわけだ。
もちろん、そういった意図を抜きにして、僕はミトさんと友人として接しているつもりだ。彼女もそれはわかっているようで、咎めるような口調に反して、細められた深紅の瞳は少しだけ柔らかな表情を孕んでいる。
「SAOの攻略について、今背負っている僕の立場を抜きに気軽に話せるのがミトさんしかいなくて」
肩を竦めつつそう返すと、睨むように細められていた深紅の瞳が緩み、同情的な視線を投げられる。
「仮面ライダー……だっけ? 確かに私が子どもの頃にそんな名前をニュースで聞いた気がするけど、貴方がその?」
バグスターを巡る事件が起きたのが2016年と早6年が経って、ついこの間のことと思っていた黎斗さんの脱走から始まった一連の事件ですらもう2年前になる。
高く見積もっても高校生であろうミトさんにとっては小学生の頃の話だ。当事者でもない人間なら、記憶から抜けかけても当然の時間経過だ。
──あの傍迷惑としか感じていなかった高笑いも2年も聞かなければ少しの懐かしさを覚えてしまう。
一つ運命が違えば、気の合うゲーム仲間だったかもしれないあの人のことを思いつつ、僕はミトさんから発せられた問いに答える。
「ええ。SAOにログインしたのも、外部からだけじゃなく、内側から囚われた人々を救う方法を探るため、というのが大きいですね」
「なるほど、だからあのヘンテコな装備をしていたわけね」
脳内の誰かが「ヘンテコだとっ!?」と騒ぎ立てる様子が思い浮かんだけど、「あはは……」という苦笑とともに流して、改めて本題に入る。
「それだけ攻撃力が高いとなると、下手に盾役を立てるとPOTローテが間に合わなくなる……そうなると、受けるよりも回避に専念した方がいい。プレイヤースキルが高い選抜メンバーで攻略した方が結果的には犠牲が出る確率は減りそうですね」
「──でも、それは厳しいんじゃない?」
第四層までの攻略で各パーティーに所属するプレイヤーの実力というのはある程度把握している。
今回の攻略で欲しい人材は壁役とAGI数値の高い場を縦横無尽に駆け回れる軽量級のアタッカーだ。ただ現在のSAOにおいて、このビルドを採用しているプレイヤーはまず間違いなくプレイヤースキルの高い人になる。理由は単純で、HPが全損すれば即死亡のSAOにおいてかの『当たらなければどうということはない』を実践できる人間はそう多くないからだ。思い当たる人材として──キリト君にアスナさん、他にも何人かの顔が浮かぶけど、真っ先に当てはまるのはあの二人だ。
だけど、選抜メンバー制を執るに当たってはこの二人を選抜するのは難しい。ボス戦で得られるアイテムや経験値を自分のギルドメンバーではない、しかも《ビーター》に占有されるなんてことは──
「……DKBもALSも選抜メンバーによる討伐を許すことはないと思います。となると、壁役を一パーティーに集中させた方がHPを管理しやすいかもしれないですね」
「その方がいいわね。タンク部隊の負担は大きくなることと攻略に時間がかかることが不安ではあるけれど──」
その後も第五層ボス攻略について意見を交わしたけど、出た結論が変わることはなく、しばらく雑談もしたところで視界の端でメッセージアイコンが表示された。ちょうど話の切れ目だったこともあり、ミトさんに断ってメッセージウインドウを表示させると送り主の欄には《Kirito》と表示されていた。内容は──
『エム、悪い。どうしても頼りたい事情ができた。詳しいことを説明したいから、今すぐマナナレナの村まで来てくれ』
簡潔ながら相当の焦りが伺える様子に首を傾げつつ、『了解』と一言打って送り返すと、即座に『頼む』という返事があった。
──頼りたい事情、というのが何かわからない。でも、文面からも察せられる焦りようからしてただならない事態のようだ。
それとなく事情を伝えるとミトさんはヒラヒラと手を振って、「次に貴方が来る時には試作品の一つでもできてると思うから、買っていってね」と快く送り出してくれた。
◆◆◆◆
「──なるほど、そんなことが……」
幸い、ミトさんと会っていたのが第五層主街区である《カルルイン》だったため、地下遺跡からの通路を通って30分程で呼び出しを受けた《マナナレナの村》まで辿り着くことが出来た。
キリト君に指定された隠れ家的喫茶店に辿り着くと、早速と呼び出した事情とやらを聞かされる。
──曰く、第五層ボスの討伐報酬で得られる装備《ギルドフラッグ》を先んじて手に入れようとするALSが、明日の大晦日なら年明けにかけて行われるはずのカウントダウン・パーティーをすっぽかして、ギルド単独でのボス攻略を行う計画があるということを掴んだらしい。
この《ギルドフラッグ》というのが、この低階層で得られる装備としては破格のもので、この武器を装備したプレイヤーがフラッグを地面に突き立てている間は半径15〜20m以内のギルドメンバー全員に対して、全ステータスに対する補正と阻害状態への耐性上昇補正の両方を与えるというのだ。
それをALSが独占するとなれば、今まで保たれてきた二大ギルド同士の均衡は簡単に崩れてしまう。今までは互いに対立しながらでもボス攻略については一定の協力体制を敷くことで《攻略組》は成立していた。でも、その状況が崩れるとなると、これからの階層攻略に多かれ少なかれ様々な問題が生じることだろう。
──まさか、とも思ったけど既に裏取りはできていて、ALSに所属の《リーテンさん》、更にギルドリーダーである《キバオウさん》からも証言は得られているらしい。
ただ、常頃からDKBのリーダーである《リーテンさん》とは犬猿の仲であるキバオウさんも、ギルド同士による戦争状態は避けたいようだ。そもそも、今回の一件はフラッグの情報を入手した一部メンバーによる提言により起こったこと、らしい。
そもそも、キバオウさんには対立を煽るような意図はなくて、今回の作戦にも内心では反対らしい。ただ、ギルドリーダーとして一部メンバーから発せられた提言でも無視するわけにもいかずに、流れ流れる内にギルド内で作戦が承認されてしまったという。
キリト君曰く、表面上は強い姿勢を見せていたが、去り際に一言「作戦開始は明日の18時丁度である」とわざとらしく呟いた、とのこと。
「──つまり、移動を考慮しても、明日の20時までには攻略を終えていないといけない」
「ああ。しかもALSやDKBの連中に察知されないよう、少人数で攻略しなくちゃならない」
現在時刻が17時、道中や偵察の時間も考慮に入れると──明日の15時前後までには迷宮区前に到着しておきたい。
そうなるとボス攻略への準備に当てられる時間は一日もない。すぐに動き出したいところではあるけど、肝心の攻略メンバーが揃っていない。
「今、攻略メンバーに名前が上がっているのが、俺とアスナ、そしてアルゴ。エムは──一緒に来てくれるか?」
迷うようにキリト君の視線が揺れる。だけど、ここまでの事情を聞き、僕に断る理由は無い。即座に「もちろん」と返せば、安心するようにキリト君の口角が上がる。
「他に参加してくれそうなのは……クラインさんたちのギルド《風林火山》とエギルさんのパーティーだね」
「ああ。エギルの方には、俺から連絡を入れるから、クラインの方へのメッセージは頼む」
気のいい男メンツである彼らに連絡を入れると、すぐに返事があり「すぐに向かう」と、どちらからも二つ返事で了承を得られた。簡単に事情を伝えたとはいえ、少人数での攻略という危険を顧みずに駆けつけてくれることには感謝しかない。
他にも情報の裏付けをしてくれたリーテンさんともう一人、彼女と一緒にカウントダウン・パーティーの準備を企画していた《シヴァタ》というプレイヤーも、今回の攻略に参加してくれるようだ。
更に、アスナさんには一人当てのある人物が居ると言うが、もしかして──それはさておき、これで人数的には三パーティー程が揃ったことになる。少ない、とは言わないが、この人数での攻略というのは……正直なところ不安が残る。それでも、泣き言を言ってはいられない。この人数での攻略を成し遂げなければならないんだ──
「──わ、わりぃ、オレたちも全員参加してやりたいんだが、多分全員は無理だ」
到着したクラインさんたちへ事情を説明し終えると、申し訳なさそうに手を合わせながら、まさに平身低頭といった様子のクラインさん。
理由を聞くと、どうやらパーティーと聞いてテンションの上がったギルドメンバー一同で、カウントダウン・パーティーを準備段階から手伝っていたらしい。そんな中、一気に全員が居なくなってしまえば、今回の件がDKBに露呈しかねないというのだ。
その通りではあるし、たった一人でも今回の攻略に参加してくれるだけで大助かりではあるのだけれど──
「「「「「「クラインェ……」」」」」」
クラインさんらしいといえばらしい、締まらない展開に思わず皆が一様に天を仰ぐ。僕らとしてはクラインさんのギルドの戦力をかなり当てにしていたからこそ、勝手なことは分かっているけど落胆してしまうのも事実だ。その事を分かっているが故に、クラインさんも居心地悪そうに指をつつき合わせている。
「……とりあえず、クラインたちは何人攻略に動けるんだ?」
呆れつつも冷静に問うキリト君。クラインさんは「うーん」としばらく悩むが、心底心苦しそうに「……二人だな、俺とトーラスが行く」と指を二つ立てた。
トーラスさんというのは、ギルド《風林火山》において盾役を務めるメイス使いだ。メンバー候補の中に純粋な盾役が少ないことを考慮して選出してくれたようだ。
──ともかく、これでメンバーはほぼ確定した。
1、エム、レベル18、片手直剣、軽金属防具、仮面ライダー。
2、キリト、レベル18、片手直剣、革防具。
3、アスナ、レベル17、細剣、軽金属防具。
4、クライン、レベル16、曲刀、革防具。
5、エギル、レベル16、両手斧、軽金属防具。
6、シヴァタ、レベル15、片手直剣、重金属防具、盾あり。
7、トーラス(風林火山)、レベル15、片手鎚、重金属防具、盾あり。
8、ウルフギャング(エギル組)、レベル15、両手剣、革防具。
9、ローバッカ(エギル組)、レベル15、両手斧、軽金属防具。
10、ナイジャン(エギル組)、レベル14、両手鎚、重金属防具。
11、リーテン、レベル13、ロングメイス、重金属防具、盾あり。
12、アルゴ、レベル不明、クロー、革防具。
13、??、レベル??、??、??。
──以上だ。
この後、アスナさんが声を掛けに行くつもりであるという13人目の『彼女』については、恐らくだけど参戦してくれる見込みは高い……とは思っている。今までに何度も会ってきたけど、その中で二人の間に何があったという話は聞けていない。状況から推察できない訳でもないけど、それを他人がおいそれと突っ込むのは野暮というものだ。でも、それでも彼女は友だちを見捨てられるような人ではない。思えば、僕にSAOについて指南してくれていたのは、アスナさんを想ってのことだったのかもしれないーーだから、きっと来てくれるはずだ。
「それじゃあ、また後で合流しましょう」
そう言い残して、彼女の元へ走り去っていくアスナさん。
直前まではこの突発的な状況への緊張に強張っていた表情も、彼女に会うとなってからはほんの少し嬉しそうな色を帯びている。
──あれなら、きっと大丈夫だね。
アスナさんはこれから友だちに会いに行く。そこには一切の憂いも不安もなくて、あるのはただ、友だちと会うことへの高揚感だけなのだろう。
きっと、彼女が心に抱える不安もアスナさんが解消してくれるはずだ──それに、
「──様子が心配なら、こっそり付いていっちゃえば?」
走り去っていくアスナさんの背を、不安げに見つめていたキリト君へ声をかけてやると、誤魔化すように露骨に口を回し始めた。
「あ、いや……心配とか、そういうのじゃなくてさ。パーティーメンバーとして、仲間の状態が気がかりというか──ほら、明日の攻略に響くといけないだろ?」
早口で中々要領を得ないが、要はアスナさんが心配──ということなんだろう。
そのことをわざわざ言及するほど野暮でもないので、軽く流しつつキリト君の背を押してやることにする。
「そうだね。なら、準備とかはある程度こっちで済ませておくよ。ちょうど情報屋さんからもメッセージが来てる。彼女と一緒に、ある程度ボス攻略への目星をつけておくよ」
キリト君に呼ばれた段階で合流できないかとメッセージを送っていた情報屋さんから「わかった」と返事があった。彼女も攻略に参加してくれるとのことだし、ボスクエストの収集状況も聞いておきたいところだ。キリト君は日中に会っているようだし、わざわざ二人で彼女と会う必要もないだろう。
ボス戦の準備の方も、クラインさんやエギルさんたちがいれば人手も回るということもあって、「行ってらっしゃい」とキリト君を送り出してやれば、「あ、ああ……」と微妙な反応ながら、アスナさんを追い始めたようだ。
頼りない足取りの背を見送ったところで、改めて攻略に参加してくれるクラインさんやエギルさんたちの方へ振り返ると、何やら生温い視線を去っていくキリト君へと向けていた。「青春だねぇ……」「クッソォ……キリの字のヤツ、俺様を差し置いてよォ」と、一人だけ妬みの感情が見える気がするけど、まあ気のせいだよね。
「それじゃあ、手持ちのコルを分配するので、コルには糸目を付けず、消耗品のアイテムは現状でできる最高の準備を整えてください」
トレードウインドウを出し、エギルさんやクラインさん達へ充分以上の金額を送信する。
常頃から金欠気味らしいクラインさんが渡した金額に驚きつつも、すぐに頷いてエギルさんらとともに店を飛び出していった。
一人残された僕はというと、先ほどメッセージをくれた情報屋さんへ店の場所を記した地図を返事代わりに送った。即座に「すぐに向かう」と返信があって、言葉の通りに3分もしないうちに情報屋──《鼠のアルゴ》は店へとやってきた。
「おい──っす」
やや疲れた様子で、名前の通り三本髭を蓄えた情報屋さんは僕の反対側の席へ腰を下ろす。その際に、NPCマスターへスイーツを注文するのも忘れない。
はふーっと長く息を吐いて、相当に疲れた様子のアルゴさんだったけど、店に僕以外の人影がないことに気づくと、はてと首を傾げた。
「キー坊は一緒じゃないのカ?」
「事情があって、離れてます。詳しいことは僕からも話せるので、お互いに情報共有をしましょう」
事情がある、といえば深く詮索する人ではない。
とりあえず納得したようで、すぐに運ばれてきたコーヒーを啜りながら、アルゴさんは早速問うてきた。
「キー坊からメッセージで大まかには聞かされたんだガ、結局ALSが抜け駆けをする理由ってのはなんなんダ?」
そこからは先ほどキリト君から聞かされたことの繰り返しだ。第五層ボス攻略で手に入れられる装備である《ギルドフラッグ》の詳細について知ったアルゴさんは「なん……ダト……?」と一時茫然としていたけど、すぐに立ち直ると「……確かに、これはゲキヤバだナ」と今回の騒動の原因については理解をしてくれた。
「ここまでヤバいもんだとは思わなかったナ。そりゃあ、フロントランナーじゃないオレっちもボス攻略に呼ばれるわけダ」
「アルゴさんも合わせて、最低限2パーティー分の人数が揃いました。ドロップする装備の件も含めて、区切りである五層ボスは相応の難易度になっているはず……それでも、キリト君からはボスが変わらずゴーレム型なら何とかはなると聞いてます」
他にもミトさんから聞き取れる限りでも、五層ボスはベータにおいては超攻撃力も相まって、50人以上が蹴散らされたらしいけど、最終的には少人数でのアタックで攻略を成し遂げたという。
デスゲームと化したこのSAOでは死者を出せない、という点で更に難易度が跳ね上がってはいるけど、討伐できないことということはないはずだ。
「オレっちもボスクエをある程度こなして情報を集めてたガ、ボス自体はゴーレムから変更は無いみたいダ。……ただ、今までもβテストから何らかの変更は入ってたからナ」
「用心するに越したことはないですね。一度、情報を全て整理しましょう」
こうして、五層ボスについて知りうる限りの情報を共有し、明日の討伐に向けてパーティー編成等を話し合うことになった。
「……改めて見ると、今回のメンバーはアタッカーが多すぎないカ?」
「僕とキリト君、アスナさん、クラインさんにエギルさんのパーティーが全員で合計が8人ですからね。タンクがシヴァタさんとリーテンさん、トーラスさんの3人で、サポーターは……」
「オイラだナ」
──正直に言って、今回のパーティーはバランスが悪い。
DPSが高すぎる割にタンクの数が少なく、下手をしなくてもタンクへタゲを集中させ続けることが難しい状態だ。
「──そうなると、パーティー編成はこうした方がいいですね」
メモパッドを可視化させ、考えていた編成をアルゴさんへ共有する。
──A隊がエギル、ローバッカ、ナイジャン、シヴァタ、リーテン、トーラス。
──B隊が僕、キリト、アスナ、クライン、ウルフギャング、アルゴ。
「なるほどナ。割り切ってタンクを一つのパーティーに集めたわけカ」
「はい。タンク部隊の負担は大きくなりますけど、1パーティーに集中させた方がHPやタゲの管理がしやすいと思うんです」
それに加えて、A隊は一撃の火力に長けたエギルさんのパーティーを中心としている。
元々のパーティーでの連携の練度も高く、長年のネットゲーマーであるエギルさんは視野も広い。うまくタンク3人を運用しながら、その一撃の火力でうまくタゲ取りをしてくれるはずだ。
B隊は僕含め機動力のあるプレイヤーで固めた。最悪タゲが向いても、少しの間なら回避で持ち堪えられる面々だ。
「いいんじゃないカ? 急造で、少人数の攻略だからナ、パーティー毎の役割はわかりやすい方がイイ」
パーティー編成についてアルゴさんからの賛同も得られたところで、ボス戦についての二人での話し合いも終わりが見えた。
アルゴさんはこれから、更に精査できる情報がないか検証に出るようだ。僕も僕で、強化を渋っていた愛刀を馴染みの鍛冶屋さんへ預けようと思う。
来たる明日──誰も死なせず、攻略集団の崩壊を防ぐために、できることは全てやっておきたい。
◆◆◆◆
急造のフロアボス攻略部隊は、マナナレナの村から少し離れた迷宮区前の高台に集まっていた。
12名、アスナさんが勧誘に向かっていた彼女の姿はない。断られたか、もしくは──でも、アスナさんにはそれを悲しむ様子はない。少なくとも思いの丈を話すことはできたみたいだ。
まずメンバーはクラインさんやエギルさん、それにアルゴさんが買い集めてくれたアイテム類を分配した後、全員の余らせている装備を能力が向上する余地のあるところへ貸し出すといった前準備を整えると、時刻はちょうど午後3時になった。
ALSがDKBの目を欺き、フロアボス攻略へ出発するまで残り3時間。人数差もあり、迷宮区前の迷路の突破をこちらは壁をよじ登って突破することになっているので、アドバンテージは5時間程になるだろうか。余裕があるというほどでもないけど、焦るほど時間がないわけでもない。
そこで一応、最終確認として全員で情報の共有を行なった。
パーティー編成の意図、β時代の五層ボスの行動パターンについてなどを全員で徹底的に詰め直す。その話し合いの中でふとシヴァタさんが口を開いた。
「そういえば、キリトはどうして危険を冒してまで、二大ギルドの崩壊を防ごうとしてくれるんだ? エムさんは、国から派遣されたっていう立場を考えたら作戦に参加してくれる理由も理屈もわかるんだ。でも、ギルドに所属していないソロのキリトの立場からしたら、ギルド間の争いを止めるためにこうやって今回の作戦を主導してくれる理由もないはずだろ?」
シヴァタさんの疑問は、確かにその場にいる全員が気になる内容のものだった。
答えにくい質問だったのだろう。キリト君の視線は辺りを彷徨っているけど、この場の全員がその答えに期待して、彼に目を向けているから、どこに目を向けても誰かしらと視線が合ってしまう。しばらくして観念したように一つ咳払いをして、キリト君は口を開いた。
「理由は……たぶん、ここに集まってくれたみんなと同じだよ。最前線で戦い続けているALSとDKBは、攻略集団の両輪だ。ちゃんと車軸で繋がってないと集団は前に進まないし、どっちかが欠けたら、その場から動けなくなる。それを防ぐためには、ALSより先にボスを倒してしまうしかない……そう思ったから、みんなに協力を要請したんだ」
言葉に迷いながらも話されたキリト君の真意に、場の全員は納得をしたようだ。シヴァタさんも満足したように頷いている。
──だけど、僕にはキリト君の言葉に何か裏があるように感じた。
もちろん、今言っていたことは本心だと思う。でも、彼の言葉の裏に何かを危惧するような色が見える。
この感覚が気のせいであればいいけど、本心を話したことで少し気恥ずかしそうにしているキリト君の表情もどこか憂い気な様子だ。
──彼から話してくれることを待つか、もしくは今回のボス攻略が終わった後に改めて話を聞くことにしよう。
そう心に決めた頃、がしゃっと音を立てて右手を持ち上げ、リーテンさんがフルフェイス越しの硬質な声でキリト君へ質問を飛ばした。
「あの、キリトさん。前から聞いてみたいと思っていたんですが……そんなに攻略集団のことを考えてくれているのに、どうしてギルドに入らないんですか? キリトさんほどの実力があれば、どっちのギルドでもすぐにパーティーリーダーくらいにはなれると思うんですが……」
それはとても純粋な気持ちから投げられた問いなんだろう。後に聞いた話では、リーテンさんがALSに加入したのはつい最近のことらしくて、第一層ボス攻略での一件も全く知らなかったという。だから、キリト君が一部から《ビーター》と呼ばれて蔑まれていることも、彼女は知らなかった。
一同の中にざわ……という実に緊張感のある空気が流れる。どうしたものかと、クラインさんやエギルさんと視線を交わすが、二人ともこの場を収める一言は浮かばないようで首を僅かに横に振るのみだ。
──長い長い数秒の後、キリト君は素知らぬように言葉を放つ。
「それはだな、リンドとキバオウが、俺とアスナが別々じゃないとギルドに入れないとか言ってるからだ」
……………………また、長いようで一瞬の間の後、場の空気が再びざわめき立つ。
キリト君は「何かまずいことを言ったかな?」という様子だが、今の発言ではどう考えてもキリト君がアスナさんと別れたくないからギルドに所属しないのだと言い張っているようなものだ。現にそんな風に受け取ったリーテンさんは「さすがです……感動しました!」と叫び、シヴァタさんもヒューと口笛を吹いている。アスナさんはというとキリト君にそういった意図がないと分かりつつも誤解を招くような発言に対して、顔を真っ赤にして「い、いきなり何を言い出すのよ!」と喚き立てている。
キリト君の人となりをよく知る、クラインさんはイッヒッヒッ、エギルさんもはっはっはっ、アルゴさんはニャッハッハッと大声で笑い、僕はというとあははは……と苦笑してやることしかできなかった。
当のキリト君はというと、リーテンさんやシヴァタさんの様子から誤解を招いたと気付いたようで、訂正しようと言葉を探っている様子だけど、もうそんな空気ではない。
──ようやく落ち着いたところで、一際大きく咳払いをしたキリト君がフロアボス攻略部隊の一同を見回しつつ、力強く宣言する。
「たった2パーティーでのボス戦だけど、賞賛は充分にあるし、一人の犠牲者も出すつもりも無い。──シヴァタとリーテンが企画してくれたカウントダウン・パーティーを成功させるためにも、そして2023年を希望のある年にするためにも、みんな、力を合わせよう!」
キリト君の宣言に応えるようにして、クラインさんが「うおっしゃあ! やったろうぜ、キリト!!」と拳を突き上げながら叫び、それに全員の「おう!!」という唱和が重なる。
──2022年12月31日、午後3時30分。
フロアボス攻略部隊は、SAOの今後を左右する戦いに身を投じる。
何とか土曜日に出そうと思っていたんですが、完全に書き下ろした上にプリコネのクラバトが重なって全く書く暇がありませんでした。
幸い金曜日が休みだったので三連休を活かして、無理やり書き進めて何とか日曜には間に合いました。
さて、私信としては、そうですね。
先日の金曜ロードショーで公開された《葬送のフリーレン》について少し話したいです。
久しぶりのマッドハウスの超本気×原作は超人気というところで期待していたのですが、面白かったですね〜
原作を読んだことがなかったので、あれこれ言える立場ではないのですが、すごく丁寧に描かれていて、心惹かれました。
ヒンメル……好きですねぇ。あれですよね? 彼が各地に銅像を残してるのって、フリーレンが自身の死後も寂しくならないようにと置いたものなんですよね?
OPの勇者のMVでも投げキッスを食らってぶっ倒れていた辺り、彼の想いは察せられますが……フリーレンはどうなんでしょう?
再会して、二人の想いが通じあう日が楽しみですね!
──馴染みの鍛冶屋、一体何ベットさんなんだ……?