みかんじゃだめなんだよ。
オレンジとみかんってさ、まったく違うんだなこれが。味の分からないやつはどっちも同じでしょ、って言うんだ。けどウスカラタケとツミドタケってまったく違うだろ。そんな感じなんだよ。
オレンジジュースは外国産だし紅魔館まで行かないと飲めない。レア感がある。それにすっきりとした後味、何度飲んでもくどくないのがいい。
一方みかんジュースは幻想郷でも流通しているし、わりとどこにでも売ってる。この前なんか八百屋の隅の方によおうく冷えてた。あれって、売れないからあんなに冷えまくってんだよ。味は濃すぎるし、あれを飲んだあとはなんかしょっぱいもんが欲しくて堪らなくなる。
比べれば一目瞭然なんだよな。なのにさ、ほら、霊夢。あいつは私がオレンジジュースを飲んでると嫌な顔すんだよ。よくもまあ、そんな飽きずに、って。そんなの私の勝手だと思わないか。そうだろ。
だから霊夢の前じゃ飲みにくくてさ、せっかく咲夜に譲ってもらって外でも飲めるようにしてるんだけど、よく行く博麗神社では飲まないようにしてるんだよ。おかげで最近は紅魔館が実家のようだ。飲む飲まないは私の勝手だろ。酒の席では酒を飲むよ、そりゃあね。けどたまにはこう、オレンジジュースの舌になっちゃうじゃん。私はまだ子供なんだよ。霊夢だって子供なんだからそれくらい分かるはずなのになあ、あいつは大人ぶるんだ。
霊夢もさ、たまに飲むんだ。そういうときにみかんと何が違うの、って冷めたように言うんだよ。いや、美味しいとは言うんだけど……斜に構えすぎてるんだな、あれは。新しい文化とか外国とか受け入れられないタイプなんだよ。霊夢はさ。食べ物は案外なんでも食べちゃうけど。食べられるもんなら。けどベッドで寝るとかフォークとナイフで食事するとかさ、そういうのはむず痒そうにする。結局布団引き摺って床に寝たり、箸取り出したりすんだ。
ちょっと年寄りくさいよな。
私は言ってやったんだ。霊夢だって毎日毎日あっつい緑茶ばっかり飲んで、よくもまあ飽きないな、って。そうしたらあいつ、こう言うんだ。それとこれとは別。別じゃないだろ。オレンジジュースも緑茶みたいなもんなんだよ。あ?みかんジュースとオレンジジュースは違うもんだよ。当たり前だ。分かってないなあ、いいか、オレンジとみかんはウスカラタケとツミドタケくらい違う……ぜんっぜん違う。似てるかもしらん。だが違うぜ。私も初めて飲んだときは違いが分からなかったが、毒ありと毒なしだ、大違いだよ。死ぬか死なないかだ。な、ぜんっぜん違う。
そうか、霊夢にもそう言えば良かったんだ。
新聞?
ああ、見ましたよ。
『恐怖!中毒症状現れたり!』ってやつ。よく分かんないわ。ああいう新聞って、個人のことを書いて面白いのかしら?号外とか言ってるけど、号外いくつあるのよ。確かに里で配られてるのとはちょっと違うみたいだけど。あ、いらないわよ。掃除するときにまたお願いするから。
内容は確か……魔理沙がオレンジジュース中毒になったとか。あれはおそらくうちのオレンジジュースです。でも、あれに毒はないはずだけどねえ。あの子、相当気に入ったみたいで、来る度にねだってくるのよ。
お嬢様は紅茶を飲むから、オレンジジュースって飲まないのよね。でも手間も掛からないし、魔理沙に出してみたら案外いけるし、楽になったわ。
そういえば、一週間に一度、オレンジジュースと山ほどのきのこやら山菜とを交換する約束をしてるんだけど、そのせいか最近苦情がきてるんだった。記事が書かれる前のことね。それが、霊夢なのよ。
「四六時中おれんじじゅうす飲んでるあいつといると麻薬患者と一緒にいるみたいで嫌!!魔理沙にあれを渡さないでよ!!!」って、怒鳴り込んできて。私が知ったことじゃないわね。私は損しないし、何よりもお嬢様が面白がってしまって。そうなると、何もしようがないじゃない。それに、四六時中。これ、四六時中一緒に居なければいい話だと思いません?たまに喫茶店で話すような友人関係が一番好ましいと思うわ。
オレンジジュースとみかんジュース、私は正直どっちでもいいんだけどね。美味しければいい。霊夢もそういうこと言いそうでしょう。
前、人里に買い物に行ったときのことだけど、八百屋の隅にみかんジュースが売っていたわ。八百屋に売ってるくらいですから美味しいんでしょう、と思って買ってみたらよく冷えててうんと濃くて、美味しかった。
中毒って、凝り性なんじゃない。好きになったらとことん突き詰めて、そういうやつはみかんジュースの美味しさにも気が付かない。そしてすぐ醒める。恋と同じ。魔理沙って性格も弾幕もまっすぐでしょ、きっと曲がるときもまっすぐよ。それはもう直角に。
子供だから……まあ、少しくらい執着するくらいがいいのかしらね。大人になったら分かることもあるでしょう。離れたら良さがまた分かるようになって、戻ってくるかもしれないし。
きのこはともかく、山菜は助かるので魔理沙にはもう少し中毒患者でいてもらえるといいんだけど。
言ったよ、言った。
言ったけどあいつ「ぜんっぜん分かんないわよ!!」ってキレてるんだよ。私も分からんよ。じゃあなんて言えばいいんだ。毒ありと毒なし。死ぬか死なないか。こんな単純明快なことあるか。閻魔もびっくりだぜ。
確かに見た目は似てるが、どっちかは死ぬんだぞ。いや、これはウスカラタケとツミドタケの話。みかんジュースとオレンジジュースは、死にはしないがおんなじようなもんだろ。
こういうのって、諦めた方がいいんだろうな。話の通じないやつと話しても疲れるだけ、とか言うし。どうなんだろうな。
これか。これは麦酒。ビール。日本酒ばっかり飲んでるから、今日ぐらいなあと思って。オレンジジュースは後で。なんたって、宴会だからな。私は酒くらい飲むって言っただろう。
でもさ、先に言っておくけどオレンジジュースと酒のつまみって、驚くほど合わないんだよな。イカとオレンジジュースを一緒に食べてみろよ。きっと嫌な気分になる。多分だがみかんジュースもそうなんだろうよ。似てるんだから。私はやったことないよ。みかんジュースは飲まない。最近は飲んでないからもう忘れちまった。
やつらの欠点ってこれだけじゃない。団子とか饅頭のお供は悔しいけど、あっつい緑茶がよく合う。ケーキとかクッキーも紅茶だろ。甘いものと甘いもの、私はそれでもオレンジジュースと一緒に食べる……が。いや、意地は張ってない。そろそろ飽きるなんてもんじゃない。そろそろ離れられなくなるんだよ。
霊夢も言ってたんだよな。あんた、そろそろだ、って。そろそろってなんだよ。何がだ、って聞いてもさ、そろそろでしょ、って。そろそろ、そろそろよねえ……そろそろ、なんなんだよ。そんなにそろそろ言われたら、気になるじゃねえか。そろそろ、そろそろ……そろそろ、病気か。糖尿病とか。
いや、それでこれ。霊夢からもらった。霊夢さんが特別に私のためだけに用意してくださった。ビン入りの橙色の液体。これってオレンジジュース?薬みたいな言い草で渡されたんだが。よおうく冷やしておいたから、冷えてるうちに飲みなさいよ、って。なんか気持ち悪いよな。
いや、飲むぜ。これまでオレンジジュースの話ばっかりしてきたからジュースだと思ったけど、酒ってこともありえる。なにより、今は宴会中。酒は百薬の長、なんて言葉もある。酒が糖尿病に効くのかは分からんが、要するに気持ちの問題だ。見たことのない酒だからこれはきっと外来酒。お前にはやらん。
開けるぜ。あ、栓抜き忘れた。そこらへんにないか。酒山ほど開けてんだからさ。ん、よしよし。ほう、においはオレンジジュースのようだけどな。オレンジの酒とかあるのか。焼酎とかにつけてあるやつ、あれみたいなやつか。でも色がついてるから……あ、そうそう、カクテル。咲夜が前作ってくれたやつ。あれに似てる。え、まあそうだけど……でも酒だろうよ。よし飲むぞ。写真撮っといてくれ。
……ん?
これ、オレンジジュース、だよな。アルコール入ってない。うん、美味しいけど。ああ、いいよ。ちょっと飲んでみ。どうだ。美味しい?馬鹿、そういうのはいいんだよ。既に酔っぱらいやがって。そうだろ、酒じゃないよな。霊夢のやつ、何飲ませたんだ。ただのオレンジジュース?
そんなこと……いや、ちょっと待てよ。あいつ、なんて言ってた。おいそこ、笑うなよ。いいだろうが。オレンジジュースがあんまり美味しいから、いくら飲んだって。
くそ、一本取られた。