三月に投稿すると言いましたが、正直忙しくて間に合いませんでした。
すみません。
以前二話ほど追加で投稿すると言いましたが、あれからアイデアが浮かんで四話から五話ほど追加しようかと。
それと残りの追加は毎週ではなく不定期で投稿しようかと思います。
トロスト区の裏路地を二人の少年が歩いていた。
名をラムジーとハリルと言って、マーレで暮らしていた少年達だ。
暮らしていたとはいえ、マーレ人ではない。
寧ろマーレに敵対している国からの移民で、差別の対象として扱われていた。
街に降りればあからさまな差別を受け、真っ当な職に就ける筈も無く、ボロボロのテントで同郷の仲間たちと街から離れた高地で過ごす。
生活は貧しいながらも仲間内で賑やかかつ仲良く過ごしていた。
が、貧しさから冬の寒さを耐え切れず、毎年弱った者から命を落としている。
二人の少年には心配してくれる優しい祖父が居り、その祖父に長生きしてほしいしより良い生活をして欲しいと願い、生きていくためには仕方が無いと割り切って人の財布に手を出し始めてしまった。
港町ゆえに観光客や帰郷してくる懐の温かそうな人たちを狙い、まだ少年で身体が小さい事を利用して人ごみに紛れてのスリを行う。
成功する日もあれば失敗する日も勿論ある。
捕まれば折檻や見せしめにされる者も遠目ながら見たこともある…。
ラムジーも見せしめと罰として左手を切断された…。
今も尚痛む左手に汚れた包帯を巻きつけ、右手でハリスと手を繋いで引いて行く。
マーレに住んでいる筈の二人がエルディアに渡ったのは、復興事業などを行っているが人手不足でマーレからも出稼ぎに行っている者が居ると聞いたからだ。
“敵国の移民”としてマーレでは差別されて真っ当な職に就けないけど、エルディアでは違うだろう。
それに人手不足なら子供の俺達でも働けるのではないか?
安定した収入源を手にしたら貯金して、お爺ちゃん達に新しいテントを買ってあげられる。
スリで溜めたお金から船代と当面の生活費を出して、まだ見ぬ地に夢を抱きながら向かったのだ。
だけどその夢は夢で潰えてしまった…。
紹介もなく突然他国から渡ってきた少年を雇ってくれる変わり者の事業者は居らず、ラムジーに至っては左手が無い事で
収入源を得れず、めげずに何件もの事業所を回ったが収穫ゼロ。
生活費も減る一方で、部屋を借りる事すらままならない。
帰りたくても帰れない二人は彷徨うしかなかった。
路上生活を行うとなれば憲兵に捕まりかけ、それ以来は一か所に長く留まることなく流れるままにあちこちを転々と寝床を映している。
中にはクリスタが行った保護事業の者が保護しようと来たが、エルディアの事情を知らない彼らには憲兵との区別もつかずに逃げた事も…。
「お腹空いたね…ラムジー…」
一緒に渡った幼いハリルは眉をハの字にして、お腹を押さえながらふらふらと歩く。
正直ラムジーも減っていた。
けれどハリルより年上の自分が泣き言をいう訳にもいかず、安心させようと無理に笑みを浮かべて振り向く。
「大丈夫だよ。今日は上手くいくよ」
淡い期待を抱かせてでも歩かせる。
食べ物を買うお金もない彼らは飲食店を周る。
正式な客として食事をする訳ではない。
皿洗いでも何でもするのでパンを分けて下さいと頼み込むのだ。
雇ってくださいと言っても全く相手にされなかったが、その日限りで食べ物との交換なら使ってくれるところがあった事から、飢え死にしない為にも行った先で何件も回っている。
勿論それも簡単にいかない。
扉を潜っただけでも店内を汚すなと水をぶっかけられた事も、文字通り叩き出された事だってあった…。
運よく良い返事をくれた店もきつい労働に合わないカスカスのパンに水のようなスープを出されることも…。
文句を言いそうになるもグッと堪え、ハリルを飢えささないように少しでも多めに食わしてやり、今日も今日とて店を周る。
すきっ腹に響き渡る美味そうな匂いが漂ってきた。
無意識にタレそうになる涎を啜り、匂いのする方へと足を向ける。
表通りにある店は大概にして汚い容姿の俺達が入るだけで怒りを覗かせるが、裏路地にあるような店は案外とそういうのに鈍感なため、成功率が表に比べて結構高くなる。
匂いの元凶たる店の前についてラムジーは臆した。
店を周るようになって見てきた裏路地の店というのは衛生面も悪そうなボロ屋ばかり。
だけど二人が見つめている店はどう見てもそう言った店ではない。
表に並ぶような綺麗なお店…。
踵を返そうかとするも匂いでハリルがゴクリと生唾を呑み込む音を聞き、駄目もとでもと扉をノックする。
「いらっしゃいま……せ?」
扉を開けて出てきたのはそう年齢の変わらなそうな
ファルコは店に入ろうとせずに俯くラムジーとハリルに小首を傾げる。
ドアの隙間より覗く内装が余計に臆し、口が非常に重くなって閉ざしたまま。
ぐっと意気込みラムジーは口を開く。
「昨日から何も食べてないんです。皿洗いでも何でもしますので食べ物を分けて貰えないでしょうか?」
「食べ物…だったら」
「駄目よファルコ!」
気の良さそうな
「いや、だって…」
「それで居付いちゃったらどうするの!餌付けすると後が大変なんだから。それに総司さんに聞かずに」
ラムジーとハリルには威圧するように、ファルコには叱るように視線を走らすガビ。
これは駄目だとがっくりとハリルががっくりと肩を落とし、追い返されるより前にここを離れようとラムジーは頭を下げる。
「すみません!失礼しました…」
「少し待って貰えますか?」
来た道を戻ろうとしたところ、呼び止められて期待と不安からびくりと震える。
向けば穏やかな笑みを浮かべた男性―――飯田 総司が厨房からゆったりと近づいてきた。
大人が近づいてくることでハリルが怯えて背後に隠れる。
「えっと…なんですか?」
「本日ご予約のお客様が来れなくなったのです」
「はい?」
「用意した食材が痛んでしまっては事です。飲食店としても捨てるのは勿体ない。そこでもし宜しければ食材の消費に一役買って頂けないでしょうか?勿論こちらからお願いしますのでお代は結構です」
まさかの申し出に目が点となる。
どうぞと店内に招かれ、恐る恐る足を踏み込む。
ふわりと穏やかな空気が包み、誇りすら溜まっていない綺麗な店内に釘付けとなる。
綺麗な装飾品に掛けられたリアルすぎる
食事時でなかった事から店内にはそれほど客は居なかったが、客達から蔑むような視線は無かった。
寧ろ店員より向けられていた………総司がだが…。
「アンタはなんでそう…」
「ですよね!そうですよね!」
「ガビ。アンタは間違ってないよ」
「けど慣れないとねぇ。こういう奴なんだから」
ため息をつくアニにガビが同意を求め返答されるも、ユミルから単に諦めろと言われる。
乾いた笑みを浮かべる総司に促されるままカウンター席に座ろうとする。
けど椅子だけでも綺麗で敷いているクッションはふんわりと柔らか。
座るのも申し訳ないほどに…。
「おしぼりとお水です」
戸惑いながら腰かけると不純物が一切ない綺麗な水とぐるぐるに巻かれた布が出された。
お腹もだけど喉も乾いておりおもむろにコップに口を付ける。
苦みも臭みもない美味しい水に驚き、がぶがぶと飲み干す。
あまりの飲みっぷりにファルコにおかわり自由ですよと言われ、置かれたウォーターピッチャーから注いで二人揃ってごくごくと飲む。
息をついて布を手にするとふんわりと手触りがよく、程よい温かさが丁度良い。
恐る恐る顔を拭うと汚れどころか疲れまで拭き取れそうだ。
拭いた布を見て真っ黒に染まってしまったのには本当に申し訳なさそうに謝るも、怒られる事無くもう何枚か出してくれた。
そうしているとふわっと空腹感を刺激する香りに自然と目が向く。
カウンターからは厨房の様子が覗け、総司が一人で料理を作っている。
具材を挟んだパンを切り分けながら、フライパンでジュウ~っと音を立てて焼くハンバーグ。
皿に並び立つサンドイッチに、鉄板に熱々のハンバーグが置かれるとデミグラスソースとたっぷりのチーズがかけられとろりと垂れる。
客のだろうと思っていた矢先、その二品が眼前に並べられて驚きの余りに総司と料理を二度見してしまった。
「お待たせしました。サンドイッチとチーズハンバーグです」
「え…本当に?」
「冷めてしまいますよ?」
笑みを浮かべられ、そう言われると我慢の限界だったラムジーとハリルは料理に手を伸ばした。
二人が真っ先に口にしたのはハンバーグだった。
切り分けると中からじゅわりと肉汁に混じってチーズも溢れ出し、切り分けたナイフの刃を濡らす。
湯気が立ち昇り、口元に近づける度に濃いハンバーグの匂いが鼻孔を擽る。
はむっと口に含むと言葉にならない声を思わず漏らしてしまった。
柔らかくもずっしりとしたハンバーグが口の中で解れ、しっかりとした肉の味わいにねっとり絡みつく濃厚なチーズ、芳醇な味わいのデミグラスソースが味覚を刺激する。
肉そのものが久しぶり過ぎる上に、これほど上質な肉は初めてではないだろうかと思う程。
しかも中と上から垂れる二重のチーズは贅沢過ぎる。
頬が緩みながらフォークとナイフが止まらない。
ラムジーの場合は右手しか使えないのでハリルがラムジーの分も切り分ける。
付け合わせであろう人参のグラッセは舌で切れるほど柔らかく甘い。
表面はカリッと香ばしく中はほくほく、素朴なジャガイモの味に塩気の相性が良い。
温められただけのコーンはぷちぷちと食感が楽しく、本来の甘味と旨味が熱を得て主張してくる。
一緒に出されたこれまでに食べた事の無いほどふんわりして単体でも十分美味しいパンが、ハンバーグと共によく進む。
今まで食べれなかった分を補うように二人してがっつく。
早送りでもしていくかのようにハンバーグが減って行き、温かいうちにハンバーグは完食した。
出された料理はどれも一人前。
子供と言えど二人で分ければ食べ盛りの少年には足りない。
自ずとサンドイッチに口にしてまたも頬を緩める。
しゃきしゃきと瑞々しいレタスにハムの旨味、辛子の辛味とバターの風味が合わさった辛子バターが味を引き締め、唇で切れるほど柔らかでしっとりしたパンがそれらを優しく包み込む。
一口、また一口とぺろりと平らげる。
「ラムジー!これも美味しいよ!!」
ハリルが食べているものと同じものを指差し、それを含むと今度は卵の優しい味わいがなめらかな口当たりと共に広がり、またも辛みのあるソースが塗られており味わいを引き立てる。
なんだこれ?なんだこれ!?
空いていたお腹が満たされていくと同時に渡ってから凄惨だった生活が脳裏に過り、束の間の幸せに涙が零れる。
僅かな塩味が加わりながらも口は止まらない。
食べ方が汚いと解っていながら押し込むように食べてしまう。
そして誰もそれを気にせず、何も言う事は無い。
もぐもぐと全部綺麗に食べきり、汚れた口許とまだ涙が残る目元をおしぼりで拭う。
久方ぶりに満足に美味しい食事が出来た事にお互い満面の笑みを浮かべるも、最後にデザートまで出されたことで心底驚く。
一応「良いんですか?」と聞けば「これも予約されていたものですから」と苦笑される。
正直言えば俺達みたいなのにここまでしてくれるなんて怪しい。
言い出された時は空腹感で気にしてなかったが、お腹が膨れて余裕が出来て思考も回り出す。
けど純粋に喜んでいるハリルを見ると言い難いし、本当に善意でしているなら疑うなんて失礼極まりない。
拭え切れない考えが残るも、目の前のデザートを食べたい欲も出てくる。
欲というのは恐ろしい。
扉をノックする前は食べれるだけで満足だと思っていたのに、もっと欲しくなるのだから。
頭の中でぐるぐると渦巻いて悩むラムジーは、最終的に“毒を喰らわば皿まで”とハリルと共にデザートに手を付ける。
出されたのはプリン・ア・ラ・モード。
それも大皿にでかでかと中央を陣取る巨大なプディング。
周囲には菜食豊かなフルーツが並べられ、見ただけでも柔らかそうなホイップクリームにアイスクリームが乗せられている。
あまりのサイズ感に凝視して見つめてしまう。
まずは主役であろうプディングにスプーンを突っ込む。
スプーンの先にプルプルと揺れ、上のキャラメルソースが黄色のプディングに茶色い線を引く。
口に含めば弾力がありながら柔らかなプディングがなめらかな舌触りと変わり、ほんのりとした苦みと甘さが調和するカラメルソースと溶け合って口の中が幸せでいっぱいになる。
パクリ、パクリと口に運ぶもあまりの大きさに減った感じがしない。
時にはホイップクリームと一緒に食べ、濃厚な味わいとまったりとした食感を加える。
これがプディングの味に変化を付けてまた美味しいんだ。
減らないプディングを食べる合間合間に果物にもスプーンを伸ばす。
瑞々しさの中にさっぱりとした酸味と甘味、涼し気で透き通るような緑色に含まれる黒い種がぷちぷちと噛めば弾けるキウイ。
もったりとした食感に上品な強い甘みを持つバナナ。
しゃくしゃくとした歯触りと共に瑞々しい果汁が溢れる林檎。
甘じょっぱい果肉が美味しい宝石のように真っ赤な見た目の苺。
薄っすらとした甘さに強くも食べ易い酸味のオレンジ。
噛み応えのある果肉から噛めば噛むほどさっぱりとした果汁を溢れさせるパイナップル。
見た事があるものから見た事すらない果物。
何も飲まずとも食べるだけで喉が潤う。
そしてとろーりとゆっくりと溶け始めたアイスクリーム。
バニラの風味に濃厚で強い甘みが広がるも、冷たさが清涼感を与え、なめらかでクリーミーなアイスクリームが口内の温度でふわりと溶けていく。
脳が糖分と満腹が織りなす幸福感で思考が纏まらない。
同時にハンバーグにサンドイッチ、プリン・ア・ラ・モードを完食した二人は、満腹過ぎてお腹が膨らんで一歩も動けない状態に。
ほとんど放心状態で幸せを表情で表現するラムジーとハリル。
運を全部使い切ってしまったのではないかと思う二人であったが、彼らの幸運はそこで終わるのではなかったのだ。
「…ナァオウ」
悲しそうに二人を眺め、何かを訴えかけるナオが総司の裾を引く。
見下ろす総司は呆れ顔を浮かべるアニ達と視線を合わせ、乾いた笑みを浮かべるのであった。
ちなみに予約したのは勿論エレン達で、客入りが激し過ぎて忙しく、泣く泣く諦めたのだった…。
●現在公開可能な情報
・ラムジーとハリルのその後
食事処ナオで食事したラムジーとハリルは、総司の口利きでクリスタの事業に行くことも可能だったが、職を探しているとの事でエレンのお店を紹介する事に。
最初は自分の所でもと考えたのだけど、食事処ナオはすでに十分な程人手は足りている。
逆にエレンの方が人手が足りないので丁度良いとの事。
なによりナオの申し出もあった事だし。
現在は住み込みで働き、生活費以外のお金を貯めてお爺ちゃん達に新しいテントを買うのを目標にしているらしい。