進撃の飯屋   作:チェリオ

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 間食の“暑い日に…”を二話ほど投稿しようと思っていたものの筆が止まってしまい、気が付いたら秋も終わり頃…。
 思いのほか、日が経つのは速いものですね…。


間食18 トリック・オア・トリート

 ―――ハロウィン。

 元々はアイルランドで行われていた祭りで、秋の収穫を祝いつつ悪霊などを追い払う行事である。

 それが時代の流れや国の風習、新しい考え方によって変化し、様々な形を得てその国々に溶け込んでいる。

 

 世界は変わってトロスト区の街並みもハロウィン一色に染まりつつあった。

 …というのも時期的にハロウィンが近いと言う事で、ぽつりと漏らしてしまった飯田 総司の独り言をフレーゲル(・・・・・)・リーブスが聞いてしまい、あれこれと質問してこれは商売になるかもと導入してしまった(・・・・)のが原因だ。

 正直に言うとこれは“失敗”である。

 

 エルディアは長年に渡る戦争状態時は食糧不足に陥っており、収穫祭を行うだけの余裕もない者が大半であった。

 昔には収穫を祝う行事があったかも知れないが、長い年月で廃れてしまっている。

 さらに言えば収穫祭は理解出来たとしても、お菓子や子供が悪霊の仮装をする理由に文化が違うゆえにすぐにはピンとこないだろう。

 突然入り込んで来た異物に対する反応など凡そにして決まっている。

 頑なに否定するか遠巻きに様子見をするか…だ。

 中には話を聞いた上で参加する稀有な者もいるが、初めての試みゆえに本当に僅かなもの。

 考えの甘さを初手から見抜いていたディモ・リーブスは、経験を積ませるのもあって全部任せて見守る気満々で助け舟を出す気はさらさらない。

 

 そんな見切り発車してしまったかのようにリーブス商会に頼まれて名を連ねる店などが、切り抜いたカボチャなどハロウィンの装飾を施す中、二人の子供が注目を集めていた。

 

 「うー…なんかそわそわするね」

 「もう!シャキッとしなさいよ!」

 

 慣れない感じに戸惑っているファルコにガビが強めの口調を放つ。

 だけどファルコが戸惑うのも無理はない。

 純白のカッターシャツを覆うように漆黒のマントを羽織り、黒のシルクハットに口から付け八重歯が覗き、顔色は若干白んで“吸血鬼”を連想させる格好をしているのだ。

 普段マントを羽織る事も無ければ、大通りでこんな場違い感を味わう事も無い。

 当然周りから注目を集めてしまうので恥ずかしくて仕方ない。

 寧ろふんわりとした黒のローブにぶかぶかのとんがり帽子、先が丸く膨らんだ杖を持った“魔女”の仮装をしているガビが堂々とし過ぎているのだ。

 

 フレーゲルは焦った。

 自信満々に父親であり会長であるディモを説得したは良いが、思っていた以上に反応が悪すぎたうえにディモも助けようとはしない。

 となれば当然ながら飯田に頼るのは自然とも言えよう。

 泣き付かれた飯田としても話してしまった手前放置も出来ない。

 そこでフレーゲルに協力することにしたのだ。

 ガビとファルコが仮装して街を歩いているのもその一環である。

 

 悪霊の仮装と聞けば認識の違い(・・・・・)から多くの人が嫌な顔をするだろう。

 だけど実物を見てみれば何と言う事の無い可愛らしい衣装。

 子供や孫に着せたいと思う両親に祖父母に、格好良い・可愛い衣装を着てみたいと思う子供達も当然ながらいるだろう。

 

 加えてリーブス商会関連店では期間を設けてハロウィンキャンペーンを開催。

 衣類を提供する店では仮装用の衣装や小道具の売り出しや貸し出しを行い、飲食店では多少の赤字覚悟で宣伝も兼ねて仮装しての来店者には店ごとでお菓子をプレゼント企画もやっている。

 勿論ハロウィン限定の商品を扱う事や来店したついでに買い物もしていくので、それほど赤字にならないどころか店によっては黒字を叩き出している所すらある。

 

 ガビとファルコは仮装して街を歩き、総司から渡された資金で店を巡る。

 二人にとっては悪い事の方が少ない。

 これも仕事の一環の為に給料は出るし、自身の懐を痛めずに美味しいものを一杯食べれる。

 なにより自由気ままに振舞えるので仕事みたく疲れない。

 夢のような一時。

 

 「今度はあの店行ってみようよ」

 「駄目だよガビ。一旦戻らないと」

 「えぇ~」

 「分かったよ。僕だけ戻ってまかない食べて来るから」

 「それは駄目!!戻るよファルコ」

 「あれだけ食べておいて元気過ぎるよ…」

 

 若干呆れながら走り出したガビの後を追うファルコ。

 向かう先は路地裏に店を構える食事処ナオ―――ではなく、大通りに設置された仮設テント。

 そこにはフード付きのマントに大鎌を手にした“死神”風のアニに、もふもふの灰色の毛皮に狼の被り物をした“狼()”に扮したユミルが仕事をしていた。

 フレーゲルに協力している間は食事処ナオは臨時休業となったのだ。

 これはただ単に手伝っていて多忙になっただけでなく、治安が良くなったとはいえ路地裏に家族連れ、または子供だけで訪れると言うのは危険を伴う可能性があるというのが一番の理由である。

 

 そこでフレーゲルに協力している代わりに露店をしたいと頼んだところ、大通りの土地を一部貸し出してくれたので、今は臨時でこの仮設テントが食事処ナオの営業先となっている。

 二人が戻ってきた事にテント内に居た髑髏の面に骨が描かれた服装(骸骨男)のファーランが、ニタリ顔を浮かべて二人に近づいてきた。

 

 「デートの帰りか?」

 「ち、違ッ!?」

 「何言ってんのさ」

 「言う割には戻って来るのが遅かったようだけど」

 「ファルコは素直だな。顔真っ赤」

 「揶揄わないで下さいよ…」

 「ちょっと二人も抜けられるとさすがに回らないんだけど!」

 

 ファーランに釣られてユミルまでも揶揄い始めるも、小さな角に黒い羽根と尻尾を付けてふわっとしたドレス姿の“悪魔”をイメージした衣装のイザベラが注意され、はいはいと返事をして戻っていった。

 それに続いてテント内へと入って行くと、一足先に戻って来ていたウドとゾフィアの姿があった。

 ウドは頭に巨大なネジと継ぎ接ぎだらけの服装の“フランケンシュタイン”で、ゾフィアが服の上から包帯でぐるぐる巻きにした“ミイラ”の仮装をしている。

 離れた席では魚の鱗のような模様が描かれた“半魚人”と、腐敗した衣類と肌を演出した“ゾンビ”の仮装をしているラムジーとハリルも居り、ハロウィンの祭りの雰囲気を楽しんで戸惑いながらも笑みを振り撒いていた。

 

 「先に戻ってたんだ」

 「そりゃあガビみたく食べてばっかりじゃ――痛ッ!?」

 「一言余計!」

 「駄目ですよ。すぐに手をあげては」

 「だって……はぁい、分かりまし―――たぁっ!?」

 

 簡易な厨房で調理している総司に優しく注意されて、膨れながらも返事を返そうとしたガビは、振り返って驚きの余り変な声を上げてしまった。

 総司はハロウィンと関係なくいつも通りの服装だと思っていたのだが、動きやすいように袖と丈の短い藍色の甚平に狐の面を被って仮装をしていたのだ。

 

 「総司さんも仮装したんですね」

 「私は普段通りで良かったんですけど、彩華がどうしてもと言って断り切れず」

 「あの気迫は凄かったね…」

 「いやそれ以上にあれとの二択の方が酷かっただろ?」

 「あれ?」

 

 乾いた笑みを浮かべているであろう(面で見えない)総司と思い出して呆れているアニの様子から相当詰め寄って行ったことが伺える。

 同時にユミルが言った選択肢が気になって首を傾げると、ファーランが奥の箱から取り出して見せてきた。

 一見ピエロのようなのだが、その表情は不気味を通り越して恐怖心を与えて来る。

 知っている道化師(ピエロ)と異なり、ジーと見ていると不安もあってか引き釣り込まれるような感覚すら…。

 

 「これ(ペニーワイズ)選んだら客がビビッて来ないだろうに…」

 「あー…そういえばアヤカは?」

 「少し前に説教から解放されたようでしたがいませんね」

 「ここに戻る途中に見たよ」

 

 今回はハロウィンという事で趣味で仮装(コスプレ)している飯田 彩華に助力を求めたのだ。

 すると本人も乗り気で参加するとまで言い出し、自ら仮装して街へ繰り出したのだ。

 

 ………本物さながらの特殊メイクを施した“口裂け女”で…。

 

 マスクを外した際には大騒ぎが起き、中には腰を抜かす者も出たとか。

 騒ぎを聞きつけたハンジがリアル過ぎるメイクに興味津々で、あれこれと質問する中で二人は意気投合。

 彩華が総司の関係者で本当ではなくメイクによるものと理解され、厳重注意で済まされたのは幸いだったろう。

 勿論驚かされた人々には謝罪を兼ねて、お代は無料で総司が料理を振舞ったが。

 ゾフィア曰く、広場にて緑色のジャケットを着て、目と口を繰り抜いたカボチャを被って踊っていたらしい。

 

 「…なにしてんのあの人」

 「本当に何してるんでしょうか」

 

 呆れ気味な反応はほどほどにして、昼食(まかない)を頂こうと総司に言おうと口を開くも、注文したい料理名が口から出る事は無かった。

 別に食べたい物がない訳ではないのだ。

 総司の料理は本当に美味しい。

 他の店などでは扱っていない味や料理を扱える。

 食べ飽きるにしては種類が豊富だし、まだまだ飽きるほど食べれていない。

 何かを食べるだけの食欲が湧かないだけ…。

 

 それもその筈である。

 祭りとしての“ハロウィン”に参加している店を周っては、必ず注文して食べきるばかりかキャンペーンで配られているお菓子もしっかりと食べているのだから、食べたいと思っても胃が満腹で受け付けないのだ。

 

 食べたくも食べれない自身に対して悶々としているガビを横から眺め、苦笑していたファルコはふと料理場の一角に置かれている物を視界に収めた。

 割りばしか木製の串にキラキラと光を反射する透き通る赤い玉、またはやや暗い黄金色の玉。

 装飾品みたいであるが調理場に総司が置くとは思えないし、何かしらの調理道具には見えやしない。

 一体何だろうと眺めていると視線を察して総司が目の前に置く。

 

 「これが気になりますか?」

 「えぇ、なんですかコレ?」

 「ハロウィンキャンペーンで配っているリンゴ飴です」

 「林檎?……あっ、本当だ」

 

 言われてよく見てみたら赤い半透明の向こうに林檎がそのまま入っていた。

 名前の通りに林檎を飴で包んだお菓子なのだと理解すると、ガビが身の乗り出してガン見する。

 

 …飴だから食べれるだろうと躍起になっている訳は無い―――事も無かった…。

 完全に食べる気満々で眺めている様子から、「どうぞ」と総司が差し出してガビは躊躇なく受け取った。

 

 「甘い!それに美味しい~」

 「お腹壊しても知らないよ…」

 「そんな軟な鍛え方してないから大丈夫!」

 

 速攻で口にしている様子を眺めていると、あまりに美味しそうに食べるものだから自ずと手が伸びてしまった。

 キラキラと宝石のように輝く為か勿体なくも感じるが、興味も勝ってぺろりと舐めてみる。

 甘い。

 飴なのだから当然なのだが、思った以上に甘く林檎の香りがふわりと漂う。

 ぺろぺろと舐めていると飴の層は薄かったらしく、すぐに林檎が飴より顔を覗かせた。

 ガブリと齧り付けば薄い飴がパリッとした食感で割れ、瑞々しいリンゴに歯が届く。

 中から溢れ出るたっぷりな果汁が溢れ出て飴の甘味と合わさる。

 

 これは美味しい。

 そして面白い。

 異なる甘さに異なる食感が合わさる。

 気付けば自分もほどほどに満腹だったのに、パリパリジャクジャクと齧りついて、もう一方の暗い黄金色の着色料無しのカラメルにも手を出してしまっていた。

 初めての食感を楽しみ味わうファルコは、この時の事を振り返って後悔する…。

 隣で同じ思いで二本・三本と次々と味わってしまい、限界を超えて動く事も出来ずに胃腸薬のお世話になるガビを止めて置けばと、看病しながらそう思うのであった…。

 

 

 

 

 

 

 ガビ達を含めて色々とサクラ(・・・)とハロウィンがどのようなものか知らせたのもあって、朝から夕方まで今日はここ一番の売り上げを見せた。

 最終日というのもあったのだろうけど、それ以上に街の皆もハロウィンという慣れぬイベントに慣れたというのも大きかったのだろう。

 同時に飲食店以外でもハロウィンキャンペーンを展開したので、いつもよりお得である事から主婦たちもいつも以上に買い求め、祭りの雰囲気で財布の紐も緩んだのも大いにある。

 

 なんにしても最終日は祭りの残り火が夜遅くまで燻ぶっており、初めての試みと後の祭りとなった雰囲気を名残惜しく大人たちは夜のハロウィンに出向く。

 日中はおどけた表情だった目や口を現すように繰り抜かれたカボチャも、中に蝋燭を入れて暗闇でも浮かび上がる様には不気味さが漂う。

 

 出張版食事処ナオでも仄かな灯りに照らされながら夜の営業を行っていた。

 ぼんやりとした店内では酒を口にしながら提供される料理やお菓子を楽しむ大人たちの姿があった。

 料理と言っても店と違って厨房も簡易で、食材は限られるので然程込んだものは出せていない。

 それでも物珍しいものが多い為か、客足は途絶える事はなかった。

 

 とろりと滑らかで甘いチョコに、濃厚な味わいと独特な苦みを誇るココアの風味が漂うトリュフチョコレートは、物珍しさもさることながらワインともウイスキーとも合ってとても好評だ。

 常連の中でも紅茶やパウンドケーキを好んでいるリヴァイなんかは、バームブラックを満足そうに味わっていたなぁ。

 店仕舞い間近という事で減っていくお客を見送りながら、片づけを進めていく総司は一息ついた。

 

 「ふぅ…今日はさすがに盛況でしたねぇ」

 

 ぽつりと零した呟きを遮るように反応する様にアニがふらりとやって来た。

 今残っているのはアニとユミルを含めて三人のみ。

 子供達は遅い帰りは危ないので日が昇っている内に、イザベラとファーランは先にナオに見送って貰って帰らせた。

 アニとユミルは店舗兼住居である二階で暮らしているので、ギリギリまでついでだから居るよとの申し出で最期まで手伝って貰っている。

 

 「アニもお疲れさまでした」

 「―――ィックトリート…」

 「今、なにか仰いm…」

 「トリック・オア・トリート」

 

 “お菓子くれないと悪戯するぞ”と言われて小首を傾げた。

 仮装は仕事と割り切ってくれたかも知れないが、乗って来るとは思っていなかっただけに驚きは隠せないだろう。

 …とは言えせっかく言って来たのを無下には出来ない。

 

 「取り置きのお菓子は切れましたので、すぐに作ります……ね?」

 

 ドーナツでも作ろうかと思っていると、何やら様子がおかしい事に気が付いた。

 何処となくふら付いている。

 それと目の焦点が合っていないような…。

 「まさか酒!?」かと飲酒を疑うも、さすがに飲んでいれば気付かない筈がない。

 無論自分は二十歳未満の彼女らに提供しても居ない。

 

 疑問を深まる中、厨房にある引き出しが開いていた事に気付いて理解した。

 キャンペーン用のお菓子の予備を仕舞っていた引き出し。

 その一段下には自分用に買っておいた中にウイスキーが入ったチョコレート菓子が空箱だけになっていた。

 

 「まさか…食べちゃいましたか?」

 

 これは私のミスですね。

 近くに皆さんにも(アニやユミルを含んだ店員)お菓子を振舞う用のお菓子を近くに置いていたのが仇になりました。

 後悔しようとも止まることなくアニがゆらりゆらりと寄って来る。

 

 「…お菓子」

 「少し待ってください。今持っていないので作る時間を―――」

 「じゃあ悪戯だね」

 「なにを―――ッ!?」

 

 ふいに距離を詰めたアニは総司の首筋に顔を埋めて嚙みついた。

 役が違う(アニは死神の仮装)と思いながら彩華が皆に漫画などを進めた影響かなど考えながらも、予想外過ぎる行動にパニックになって身動きすらままならない。

 身動きできたとしても訓練を受けたアニと総司では元々能力的に抵抗は無駄であるが…。

 

 「…あむあむ」

 「ちょっと!?冷静に…落ち着いてください」

 「ん~、何してんの?」

 

 姿が見えないなと思っていたら、ユミルは奥の休憩室で休んでいたようだ。

 なんにしても助かったと思った矢先、その手に空の箱を持っていた事から即座に絶望に変わる。

 楽しそうに見えたのか、いつもと違ってテンパった総司の様子が気に入ったのかは後になっては判らないが、ユミルはアニに見習って反対側の首筋に噛みついて、最早抵抗する事すら出来ない総司はされるがまま…。

 

 記憶はそのままに酔いが冷めた二人を含めて三人は、当分顔を合わせる度に顔を真っ赤に染め上げて、客もガビ達も何があったか興味津々に首筋に残った噛み跡に想像を膨らませるのであった…。




●現在公開可能な情報
 
・バームブラック
 アイルランドでハロウィンなどで食べられるケーキ。
 紅茶とウイスキーの浸み込んだドライフルーツを小麦粉などで焼き上げたもの。
 ドライフルーツの甘味に紅茶とウイスキーの風味が広がる。
 
 紅茶とドライフルーツの相性も良い事ながら、リヴァイが食べた事とリヴァイ班が兵長が食べているならと食べたことで、周囲にも知られてよく食べられる事に。
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