進撃の飯屋   作:チェリオ

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第10食 チーズハンバーグ

 マーレは多くの戦線を抱えつつも、未だにエルディアとの戦争にも目を向けていた。

 ただ現在領土を回復させないゲリラ戦術で真っ当な侵攻を行うだけの余力は持ち合わせていないのは確かだ。

 そこで開戦時のような正面からの戦争ではなく、一撃で形勢を決する計画を模索し、実行に移そうとしている。

 計画は

 まずマーレ軍にとって最大の障害である調査兵団が壁外へ出撃する事が最大の条件であり、それが無ければマーレは作戦を開始できない。

 出撃したならばトロスト区の内と外の両門を開かせ、工作部隊を突入させる。

 さすがに本国からエルディアを制圧できるほどの人員は確保出来ないので、一部施設への破壊工作が主体となる。

 攻撃目標には兵器工廠や軍の物資保管庫も含まれるが、一番はエルディアの生産の要である生産場を毒などを用いて使えなくする事だ。

 ただでさえ食糧事情の逼迫しているエルディアに、今以上の負担が掛かれば崩壊するだろう。何とか耐えたとしても長続きはせずに疲弊する。

 上手く行けば計画実行以降は戦わずして勝つ事すら可能となるだろう。

 

 …ただし工作以前に内側より門を開く事、及び内部情報の入手は困難である。

 が、すでにそちらには手を打っており、上手く事は運んでいる。

 

 幼い頃より訓練を重ねたマーレ軍特殊部隊である“戦士隊”。

 たった九人で構成された部隊であるが、一人一人技能が高く、優秀な成績を収めた精鋭部隊。

 その内五名がエルディアに潜り込み今も情報収集を行っており、その内二名(・・)はトロスト区にある訓練兵団に所属し、戦士隊の隊長である戦士長を含め二名が街に潜みながら外側より探っている。

 

 ここでおかしな事に気付かれただろうか?

 二人は訓練兵団、二人が潜伏しての情報収集。そしてエルディアに入り込んだ戦士隊所属の戦士は五人。

 数が合わない。

 残りの一人は当初は訓練兵団に所属する手筈であったが、外部寄りの情報収集に変更されたのだ。

 ただ戦士長のように潜むのではなく、兵団外部でありながら兵団の情報を得るようにと…。

 そこで彼女(・・)の脳裏に浮かんだのは兵団関係者が通う飲食店。特に酒を提供する店ならば、酔って情報を漏らす可能性があるので出来ればそちらが望ましい。

 

 しかしそこで問題が起きてしまったのだ。

 酒で酔ったガラの悪い客が、女性という事で嫌らしい眼つきで絡んで来たのだ。

 戦士隊で厳しい訓練を積んできた以上に、彼女は父親より格闘術を叩き込まれており、戦士隊内上位の戦闘能力を持っている。

 絡んできた客に対して技術を持って鎮圧したのだが、それが不味かった。

 客をぶちのめした店員として噂が広がり、悪評を広めたという事で店長よりクビが申し渡されたのだ。

 当然想うところはあったものの、酒場はここだけでもないし、居ても面倒ごとが増えるだけという事で次の酒場へと仕事を求めた。

 最初の内は雇って貰えたが日が経つにつれて噂が後を追ってやって来てはクビの勧告。

 もしくは客商売だというのに不愛想と無口という問題点により噂が追って来なくとも同結末を迎える。

 今更ながら戦士長と合流して潜伏しての監視に移して貰おうかと模索していた時にあるバイト募集の張り紙を目にした。

 

 目にした瞬間、そこで働きたいと思ってしまった。

 働く条件が良かったり、環境が情報収集に最適とかそういう話ではなく、この異様な張り紙を知ってしまったからだ。

 紙のようだが感触はつるつるとしており、多少なら水を弾く表面。

 綴られている文字は全体的な大きさが統一され、タイプライターのように掠れたような箇所の無い綺麗な文字。

 さらに重要だったり目立たせる目的で一部の文字に鮮やかな色彩が使用されたりと、エルディアには存在しないどころかマーレ以上の技術…。

 情報収集を行う戦士隊の一員としては調べない訳には行かない。

 

 バイト募集の張り紙を手にしたまま、意を決した彼女は裏路地を進む。

 無表情だが凛として人目を惹く顔立ち。

 小柄な体躯。

 連れは居らずに、護身用の武器を持っているようには見えない女性。

 

 裏路地に巣くうゴロツキなどから見て、格好の獲物になるであろう好条件が揃っている彼女であるが、鋭い目付きに人を近寄らせない雰囲気から、誰一人襲うことなくただただ彼女が通り過ぎるのを見送るばかり。

 おかげで面倒なことにならずに済んでいるが、本人としては微妙な心持ちである。

 なんにせよ何事もなく店に到着したのは良い事だ。

 

 “食事処ナオ”という看板を掲げた変わった建築物を見上げながら、静かに深く息を吸い込む。

 この扉を開けたら敵地に足を踏み入れたと思い、慎重に行動するように自身に言い聞かせる。

 なにせエルディアに存在する筈の無い印刷技術を隠すことなく使い、技術力はマーレ以上という…。

 想定されるのはマーレを除く第三国の介入――つまり戦士隊同様の諜報活動及び、こちら(マーレ)の秘密工作への監視の可能性だってある。下手をすればこの張り紙を餌にこちらを釣り上げる算段なのかも知れない。

 ゆえにマーレにあるような物があっても表情に出さぬよう留意せねば…。

 

 今度は吸い込んだ分、体内より空気を吐き出してアニ・レオンハートは扉を開いた。

 

 「いらっしゃいませ」

 

 小さな鐘が扉を開くと同時に鳴り、客の入りを知った店員が笑みを浮かべて挨拶をしてくる。

 警戒しつつも表情に出さないように(すでに鋭い視線…)心掛けながら店員に張り紙を差し出すと、ニヤリと笑みを浮かべられ、いつでも戦闘または撤退出来るように心構えだけは整えておく。

 

 「店長。張り紙見て来たってよ」

 「それは良かった。カウンターの方に案内を」

 「では、こちらに」

 

 意図は察しきれないがどことなく上機嫌な店員に付いて行き、案内されるがままカウンター席に腰かける。

 ちらりと店内を窺うと訓練兵団の制服を着た男女が一グループに、一般市民らしい者らが5人ほどが店内で食事を楽しんでいた。内部を観察しつつ周りの声にも意識を集中してみる。

 

 「アルミンはいつも同じもの。たまにはプリンを食べてみると良い。すごく美味しい」

 「ミカサもだろう。いつもプリンばかりじゃないか」

 「違う。昨日はカスタードプリン。今日はチョコレートプリン」

 

 耳を疑った。

 今とある女性が“チョコレート”と口にした。

 このエルディアの国は他国との交易どころか関係を一切断っており、自給自足で成り立っている。

 その中では得られぬ物も多く、海で獲れる海産物もその一つだろう。

 彼女が口にしたチョコレートの原材料のカカオは熱帯地域で生産出来るもので、エルディア人が口に出来る物ではない。同じく熱帯地域を生産地とするコーヒー豆を用いたコーヒーも同様だ。口にするしない以前にチョコレートもコーヒーもエルディア人は目にした事も知識としても知らない筈だ。

 聞き間違いかなと断定する。

 

 「ところでアルミン。その泥水はなに?」

 「泥水じゃないよ。これはコーヒーと言う飲み物だよ。独特の苦みがあるけどこれがまた美味しいんだ」

 

 聞き間違いじゃない。

 今度は先の女性と会話している男性が“コーヒー”と口にした。

 ――決定的だ。

 ここは、この店はどこかの国との繋がりを持っている。

 熱帯地域の品々があるという事はそちら方面?いや、偽装もしくは品として入れているだけで断定は出来ないか。

 思考を巡らしながら何気なしに厨房を見渡す。

 

 ガスを使ったガスコンロに突起物も火を出す所もないのに湯を沸かしているガスコンロモドキ(電気コンロ)

 入り口の扉に曇ったガラスのような物が張られ、内部に入れた物に橙色の光を当てて温める箱(電子レンジ)

 電球とは異なる頭上に並んだ真っ白な光を発する電灯(LED蛍光灯)

 箪笥のような小型な冷蔵庫ではなく、人よりも大きなサイズでつるつるした表面に覆われた冷蔵庫。

 

 どれも自分が知っているマーレの技術力を遥かに上回った物であり、何故こうも堂々と置かれているのかと不思議に思う。

 よくよく考えてみればエルディア人はそもそもを知らないので変わったものとしか認識できていないのだ。または何なのかも理解出来てないかだ。

 なるほど…やはり張り紙はエルディア人ではなく、潜んでいる者を誘き寄せる罠と考えた方が良いか。

 

 思案を巡らせていたアニに、ようやく一旦仕事が落ち着いた総司が近寄って来た。

 緊張した様子を出さないように、いつも通りの態度を心掛ける。

 

 「働きたいってことだったよね。えっと…」

 「――アニ。アニ・レオンハート」

 「レオンハートさんだね。前に何か働いてたりするのかな?」

 「酒場を何軒か…」

 「調理ですか?」

 「いえ、給仕を」

 「なら即戦力ですね。有難い限りです。いつから働けますか?」

 「……え?」

 

 まだ名乗りを含めて少ししか話してないというのにもう採用が決まったような口振りに声を漏らしてしまった。

 

 「採用で…良いんですか?」

 「え、駄目でした?」

 「いや、そんな事は無いんですけど…」

 

 無いのだが、良いのかとは思ってしまう。

 しかし面接が短いというのは有難い話ではある。

 入る前にぼろが出る可能性は消えた。

 あとはここで働きつつ情報収集に営むだけだ。

 棚を見る限り酒類を扱っており、客の中に兵団関係者がいる事から将来を見据えれば憲兵や駐屯兵になった者が来る可能性が高い。それに、ここは調査兵団が壁外に出撃する際の出入り口であるトロスト区というのもまた情報収集に関して有益だ。

 さらに朝昼晩と食事が提供され、部屋が与えられるというのも魅力的。

 

 「――明日からでも働けます」

 「ならお願いしますね。ユミルさんも先輩として色々面倒を見て貰う事になりますが頼みますね」

 

 声を掛けられたホールを担当していたユミルが「おう」と答える。

 すると入り口が勢いよく開き、それに伴って鐘も荒々しく音を立てた。

 

 「いらっしゃ――」

 「総司さん。ハンバーグ!」

 「――ゃいエレン君。そして畏まりました」

 

 勢いよく入って来た少年は隣に腰かけて、キラキラした視線を総司に向ける。

 なにか背後で誰かが慌ただしく立ち上がったような気配がしたがどうしたのだろうか?

 そもそもこの店ではハンバーグを提供しているんだと興味を持った。

 さすがにそれぐらいでは驚きはしない。

 すでに多々驚かされ過ぎた故に。

 

 フライパンに油をひいて熱し、冷蔵庫よりすでに捏ね上げられたハンバーグのたねを取り出し、温まった頃合いを見計らってフライパンにそっと置いて焼き始める。

 久しぶりにハンバーグを目にした。

 マーレ本国であれば然程珍しい訳ではないのだけれども、このエルディアでは肉は高く、庶民には容易に口にする事は叶わない。

 無意識に視線がハンバーグへと固定され、凝視してしまう。

 楕円形に形作られたハンバーグが温められたフライパンの上で、じゅわ~と焼ける音が店内へと響き、香ばしい匂いが空腹感を責め立てる。

 

 ………クキュルルゥ~…。

 

 小さいながらも腹の音が鳴った事に恥ずかしくなり、顔を背けて何事も無かったように装う。

 しかしながら総司には聞こえており一考する。

 

 「私は貴方の面接を行いました。今度は貴方が私を確かめる番でしょうね」

 「確かめるって何を…」

 「張り紙には賄いを出すとあったでしょう。つまり料理の腕前を知りたくはないですか?」

 「……そうだね。言われてみればその通りだね」

 

 意図を察したアニは向き直り、披露される料理を待ち侘びる。

 再び冷蔵庫を開けて同じくハンバーグを取り出すともう一個フライパンを用意し焼き始める。

 ハンバーグは好物だ。

 特に中にチーズを入れたチーズハンバーグとなると大好物だ。

 さすがに入ってはいないだろうが、久方ぶりのハンバーグに頬が緩む。 

 先に焼き始めていた事もあって隣に腰かけた少年のハンバーグが先に焼き上がり、出来立ての温かな湯気と共に匂いが漂ってくる。

 顔は正面を向いたまま頬杖をつき、興味なさそうに振る舞うが目がハンバーグを追ってしまう。

 木製の板に埋め込まれた鉄板の真ん中にデミグラスソースが掛けられたハンバーグが鎮座し、脇には外をカリッと焼きあげられた半月状のジャガイモと小さく盛られたコーンが置かれている。

 少年は目を輝かせながら、真っ先にハンバーグへとフォークを差し、ナイフを入れた。

 切れば中より肉汁が溢れ出て、熱された鉄板に流れ落ちてじゅわ~と音を立てる。

 一口大に切り取られたハンバーグが、フォークにより持ち上げられる様子にごくりと喉が鳴り、視線は鋭くなったまま外れない。

 実際はそうではないのだが、口に運ばれるまでの間がとてもゆっくりに感じ、肉汁溢れる断面のすら鮮明に目に映る。

 大口を開けてハンバーグが収まる瞬間、自分の事のように口が動こうとしたのをぐっと我慢し、まだかなと自分の分(ハンバーグ)へと視線を戻す。

 

 「うんめぇ!!」

 

 腹が空いて食べたくて仕方ない心境のアニの隣で、満面の笑みを浮かべて美味しさと嬉しさを表した少年に苛立ちが隠せない。

 そりゃあそうだろと内心苛立ちを隠せないアニはムスッと表情に出し始める。

 もう焼けているんじゃないかと何度見ても、何度思っても総司はまだ焼いており、我慢と苛立ちから足が貧乏ゆすりを始め出す。

 誰から見ても“私、苛立ってます!!”と表現している現状に、ハンバーグにしか興味が行っていないエレンは、追い打ちをかけるように美味しい、美味しいと連呼しながらバクバクと頬張っていく。

 苛立ちも我慢も限界に達しようとした時、総司より同じくハンバーグが乗った皿がカウンターに置かれた。

 自分の前に置かれ、待ち望んだハンバーグに笑みが零れる。

 

 「お待たせしましたね。一応それは試作(・・)なので後で感想を教えて頂きたいのですが宜しいですか?」

 「試作?…まぁ、良いけど」

 

 これはハンバーグではないのか?

 まだ残っている隣のハンバーグと見比べても別段何かが違う様子はない。

 強いて言うなら若干自分の方が僅かながら大きいような気がするぐらいか。

 どういう事か理解していないが、とりあえず食べてみれば分かると思いナイフとフォークを取り、さっそくハンバーグを一口サイズに切り取り始める。

 食べていたエレンも“試作”という事が気になり、もぐもぐと咀嚼しながら様子を見守る。

 溢れる肉汁に漂う匂い。

 目の前で焼かれた為に間近で感じた音と匂いで攻められ、横で食べている様子を見せつけられ、我慢に我慢を重ねたアニは食べたい衝動に駆られるまま一口含んだ。

 出来立てアツアツなので口の中に熱が広がり、冷ますためにもハフハフと中の空気と外の空気を何度も入れ替えながら、待ち望んだハンバーグを噛み締める。

 噛み締める度に口内に広がるハンバーグの味。

 混ぜ物や異物の感触のない肉。

 ぽろぽろと崩れ落ちないようにしっかりとした身に、ハンバーグの味を引き出している香辛料。

 久しぶりに食べたからか、それともこの店のが美味しかったのか、マーレで食べたハンバーグ以上に美味しく感じた。

 飲み込むと同時に小さく息を吐き、二口目を切り取ろうとハンバーグへフォークを差し、ナイフで切り分けようとする。

 このハンバーグはとても美味しい。

 美味しいのだが一つだけ疑問が残っている。

 自分に出された分にはソースが付いていないのだ。

 隣のにはデミグラスソースが掛かっているというのに、こちらはそのまんまを味わえと言わんばかりに何も乗っていない。

 ハンバーグそのままの味でも十分美味しいので文句はないが、疑問としては強く残っている。

 考えつつもナイフを入れたアニは、違う感触を感じて手を止めた。

 ナイフの先…厳密にはハンバーグの中央寄りの辺りにハンバーグでない柔らかな物があり、それがナイフを伝って手に感覚として伝わって来たのだ。

 なんだと思いつつ切り分けて、正体を知ろうと少し離すとハンバーグよりとろりチーズが垂れた。

 

 「「え!?」」

 

 見守っていたエレンとアニの声が重なり、二人共総司へと視線を向けた。

 アニはエルディアの国でハンバーグというだけで珍しいのに、チーズを中に入れたチーズハンバーグ(チーハン)が出された喜びから、エレンはなんで俺に出してくれなかったんだよと抗議の意味が込められていたが、総司は気付いているのか気付いていないのか分からない表情で調理に励んでいた。

 隣から羨ましいと言った感情の含んだ視線を向けられるが、先のお返しと言わんばかりに見せつけるように口に含んだ。

 先のハンバーグの味にとろりとしたチーズが絡みつき、柔らかくまったりとした味わいが加算される。

 

 「――美味しい」

 

 美味しいのだけれども、アニは少し物足りないと思った。

 確かにまろやかなこのチーズが合わさった感触は凄く好ましい。けれどこのチーズはハンバーグ本来の味を殺さないように薄くされており、食感を楽しむ感じに調整されている。

 言うなればチーズが弱いのだ。

 解り辛い位の微妙な表情を読み取った総司は小さく頷き、冷蔵庫から小皿を取り出してレンジで温め始め、アニの前に立つ。

 

 「どうだったかな?何か不満そうな表情ですけれども」

 「あー…いえ、美味しかった…です」

 「ありがとうございます。けど何か足りないのですね」

 

 あくまで自分の感想。

 このままでも美味しいのは確かなのだ。

 雇ってもらう立場という事もあり、失礼かもしれないと口を閉ざして評価を出したのだがそれでは駄目らしい。

 

 「言ってくれた方が私の為になるので」

 「―――チーズの味が薄い。私はもっと濃い方が好みかな」

 

 そう言うのであればと本音を口にすると、何度か頷いて総司はレンジで温めていた小皿をアニに差し出す。

 白っぽいが黄色みを帯びたソースに注目する。

 

 「ならこれを付けて召し上がり下さい」

 

 なんだろうと不思議に思い匂いを嗅ぎ、すぐに理解したアニは三口目を切り分け、ソースを付けて頬張った。

 中のチーズと違ってどろりとした濃厚なチーズの味わいがハンバーグに絡むどころか、強く主張しながら口の中を蹂躙して行く。

 まったりと濃厚なチーズと滑らかな触感の良いチーズが、ハンバーグを包み込み。

 一口目と違う味わいと食感に変化したチーハンに頬が緩み、鋭かった表情がとても柔らかな笑みを浮かべ始めた。

 

 「それ美味そうだな」

 

 隣で見ているだけになっていたエレンが食べたそうな視線を向けてくる。

 ソースに浸けた一口分をエレンの方へ動かし、見せつけてからパクリと食べる。

 悔しそうな視線に愉悦を感じさらに笑みを零す。

 

 「駄目だよ。これはアタシのだから」

 「くっそ!総司さん!俺にもチーハンを!!」

 「畏まりました。ソース(チーズフォンデュ)は同じのを?」

 「勿論!!」

 

 アニはその様子を眺め、チーズハンバーグを味わう。

 こんな美味しい物を味わえ、食事付きの職を得れた事は非常に大きい。

 満面の笑みを浮かべながら食べ続けるアニは、一時と言えども任務の事は頭の中より消え失せていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 【おまけ:とある一コマ】

 

 今、とても機嫌が悪い。

 エレンの隣は私とアルミンの場所なのに、何故あんな見ず知らずの女が座っている?

 そんなに不機嫌そうに貧乏ゆすりをして何か不満があるというの。

 殺気すら籠った瞳に気付かず食事を続ける二人。

 

 そんな中女性よりハンバーグがエレンの方に向かった。

 そのままではその女とエレンが間接―――…。

 

 スッとハンバーグが方向転換して戻って行った。

 想像した事態が発生しなかったことにホッとしつつ、ミカサはがたりと席を立った。

 

 「あの女、エレンに意地悪を」

 「落ち着きなよミカサ」

 

 アルミンは内心呆れながら、襲い掛かりそうな幼馴染を止めるのであった。




●現在公開可能な情報

・食事処ナオのハンバーグ
 総司が持ち込んだ肉だけでなくリーブス商会より購入した肉を入れているので、メニューの中で高額な部類に入る。
 ※それでも安い。
 ソースはトマトソースとデミグラスソース、あとはおろし醤油の三種類を用意。
 オプションとして半熟の目玉焼きやソーセージを追加料金で付けれる。
 パンとコーンスープ、または白米と味噌汁とのセットメニューにすることが出来るが、大概パンとコーンスープが選ばれる。
 一日十食限りの限定で提供中で、常連に対しては予約受付中(今のところエレンのみ)。

 試作でアニとエレンから高評価を頂いたのでチーズハンバーグも選択可能に。

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