進撃の飯屋   作:チェリオ

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第100食 ロースカツカレー定食!?

 様々なお客が集まる食事処ナオ。

 兵団の最高戦力から団長、ウォール教関係者に商人、元偽エルディア王などなど。

 物珍しい食材や調味料を扱い、客の中には貴族や高給取りも居るが、決して高級店という訳ではない。

 その中でふと私は思った。

 食事処ナオで一番高い料理はなんなんだろうと…。

 メニューを見れば高いのはステーキにすき焼き、うな重の辺りだが、載っていない裏メニューというのも存在するので一概には言い切れない。

 ちなみにお子様ランチはメニューに載っているものの、エルヴィンが注文する大人用の大盛お子さまランチは記載されていない上に、エルヴィンしか注文する事が無いので裏メニューに該当する。

 

 そこで私、イルゼ・ラングナーは調査する事にしたのだ。

 

 総司さんや多くの客はメニュー通りの答えを。

 一部は裏メニューを候補として挙げた。

 その中でも気になったにが時々ミケさんに名が出されたことだろうか。

 調査兵団No.2の実力者で、分隊を指揮する分隊長。

 いつも食事処ナオではカレーライスを食べているイメージしかなかったのだけど、話に出たので兎も角調査してみることに。

 

 職務と職務の合間の休憩時間に意を決して食事処ナオへの同席を口にしたところ、あっさりと許諾されて早速昼にでも行くことになった。

 その場で聞くのもありなんだろうけど、後のお楽しみということであえて聞かずに店に訪れる。

 席に案内されると書き綴ろうとメモ帳を取り出し、何を注文するのかと目を向ける。

 

 「注文を」

 「はい、承ります」

 

 メニューを開くことなく店員を呼んだミケは、イルゼが注視されるもあまり気にせず決めてあった注文を口にする。

 

 「カレーライス、皿は広めのルー多めで。それとロースカツ定食。単品で温玉を」

 

 一瞬思考が停止した。

 高い料理という事で訪ねて回っていたが、思わぬ外れに失礼だが肩を落としそうになった。

 カレーライスに定食を頼めば合計金額は高いだろう。

 けれども自分が聞いていたのはそういう意味ではない。

 不服そうにしていたのが漏れていたのか、ミケは小さく鼻で笑った。

 

 「同じもので良いか?」

 「え、あ、はい…」

 「さっき言ったのを二人前。後はいつもの(・・・・)を頼む」

 

 咄嗟に返事を返しつつも、あの笑いの意味はなんなんだろうと考えながら、待っていると料理が届き始める。

 

 ミケは定食の茶碗に入っているライスを手にすると、躊躇いも無くカレーライスのライスに上に盛ったのだ。

 え、何をしているんですか!?と目で戸惑う私を無視して、カレーの上にロースカツの半分と温玉を乗せ、カレーライスを中心に定食の味噌汁に漬物、乗せずに皿に残しているロースカツとキャベツを配置していく。

 これはカツカレー―――いや、カツカレー定食ともでも呼ぶべきだろう。

 別々の料理が一つになるのを目の当たりにしたイルゼも、慌てながら見よう見まねで盛り付けていく。

 

 とんかつもカレーライスの両方を扱っている事から、カツカレーもメニューに存在するけれども料金も注文し易い値段設定にする為にロースカツ定食前後で、かつは程々に小ぶりで纏まっていたのに対して目の前で盛りつけた物は量も値段も二倍。

 勢い任せに真似てみたけどさすがに多過ぎないかと圧倒されてしまう。

 内容的にカレーライス大盛に通常サイズのロースカツ、味噌汁に漬物と千切りキャベツで普通に特盛レベルなのでは?

 

 食べきれるか怪しい量に若干気圧されるも、兎も角食べてみようかとスプーンを伸ばす。

 

 ミケはカレーに乗せたかつではなく、皿に残したままのカツを一口分に切ってカレーと含んだ。

 何故乗せた方を食べないのだろうと疑問に思いながら同様に口にする。

 

 サクリと香ばしい衣が音を立てて破れると、ロースの肉厚で噛み応えがありながらも柔らかく、上質で多過ぎず少なすぎない脂身がじゅわりと口いっぱいに旨味が広がる。

 同時にスパイシーで辛さもさることながら、豊富な野菜の旨さや味わいを複雑なまでに絡め合うカレーの風味。

 互いに主張が強いモノ同士がぶつかり合うも、決して邪険にする訳ではなくてタッグを組み、どちらも相性が良いライスを求め合う。

 なんでこうも美味しいのだろうか。

 

 解っているのだ。

 カレーは匂いが強く独特で、それ以上に服に汁が飛んだら落ちにくいとか。

 とんかつは美味しいんだけどボリューミーで揚げ物である事もあってカロリーも高いとか。

 今こうして食べている間にも匂いが染みつき、脂質とカロリーが身体を蝕み始めている。

 もしかしたらカレールーが垂れて染みが出来ているかも知れない。

 けれどスプーンが止められない。

 

 本当に贅沢な料理だ。

 ライスもライスで両手に華と言ったところか。

 

 がっつりと食べ、美味しく味わっていたイルゼだが、やはり脂分と濃い味わいに身体が気圧され始めて、若干ながら手が緩む。

 そこでスプーンが向かった先はロースカツ定食に付いていた漬物。

 ポリポリと子気味いい音を噛む度に鳴らし、口内をさっぱりとリフレッシュさせる。

 またはカレーライスに備わっている甘さのある福神漬けや、お酢が効いているらっきょうというピクルスで味を変えたりと、味変をしては美味しく食事を続ける。

 時折キャベツとドレッシングでさっぱりさせるのもまた油物を食べる際の常套手段であろう。

 さらにさらに、温玉を割ってとろりと溢れ出る卵を混ぜるとまろやかさが一気に増し、ガツンと来ていた味わいが優しさに包まれる。

 

 たっぷりと味わいながら皿に残っていたカツを食べきった所で、今度はカレーの上に乗せていたカツに手を出した。

 先に乗せて置いたというのに食べなかったのだろうかと言う疑問は今も残っていたイルゼは口にした瞬間にその答えを理解した。

 

 ロースカツの衣にカレーが浸み込み、ふんわりと柔らかい。

 味わい的にも食感的にもより馴染んだように感じ、主張し合って協力体制を築いていたのが、まるで一つになったかのように一体感がある。

 

 この為に先に乗せて手を出さなかったのかと目を見開いて自ずと視線を向けると、ミケは勝ち誇ったようにフッと小さく頬を緩めた。

 

 してやられたと思うも美味しいのだから文句は出る幕も無い。

 変化を持ったカツカレーを大いに味わったイルゼは最後に温かな味噌汁で、ほうと吐息を漏らしながら一息入れて落ち着かせる。

 

 「満足したか?」

 「それは十二分に…」

 

 情報的にも美味しさ的にも、そして何よりお腹的な意味でも大満足―――…いいや、お腹に関しては満足し過ぎなような気がしてならない。

 やはりあの量は少しばかりきつかったようで、食べ終わったというのに動きたくない。

 正確に言うとお腹がいっぱい過ぎて動けない…。

 逆に財布は一食分の代金にしては大きいために、身軽になってしまってはいたが…。

 

 落ち着くまでの間にともの凄いスピードで文字を綴っていく。

 まずは感じた事を箇条書きにして別紙に書き上げ、続いて整理整頓して纏めたものをメモ帳に書き込む。

 さらさらとペンを走らしているとミケは先に会計を済ます。

 

 「代金といつものを」

 「はい、ロースカツサンドとカレーパンですね」

 

 代金を払うと袋に入った二点を手にして帰って行のだけど、あれだけ食べてまだ食べるのとイルゼは凝視してしまった。

 それとかつもカレーはライスだけでは飽き足りず、どちらもパンとも相性が良い。

 一瞬、私も!とも思ったが、さすがにお腹いっぱいの状態では食欲は抑えられ、そこまで欲を張る事は出来ない。

 

 暫しゆったりと過ごし、そろそろ帰ろうかと立ち上がろうとしたイルゼは、これチーズを掛けても良いのではと思い付きしっかりと書き込んで帰って行く。

 今回の料理を一つとして考えるならステーキやうな重、すき焼きに並ぶ食事処ナオの高額料理の一つとして記憶する。

 店を出る際に以前メモ帳を忘れた事から今度は置き忘れないようにしっかりチェックはしたのだけれども、箇条書きした別紙がテーブルに取り残されていた事に気付く事はなく、イルゼは満足そうで少し辛そうな足取りで午後の仕事に戻って行くのだった…。

 

 

 

 

 

 しかし、イルゼは知らなかった。

 確かにロースカツ定食とカレーライスを合わせたロースカツカレー定食(仮)を、一つの料理と見做せば高い部類に入る。

 だが、それ以上に高いセットメニューが存在し、多くの客はその事を知らずにいる。

 

 希少部位を含めた様々な肉を楽しめる上にライスにも酒にも合い、営業時間外に訪れるザックレー総統にだけ出される料理を…。




●現在公開可能な情報

・イルゼの成果
 ミケとイルゼが帰った後、食事処ナオを訪れたジークは床に舞った紙を目にした。
 テーブルを掃除している事から落ちたのだろうと拾ったところで、書き綴られた内容を見てロースカツカレー定食なる料理を知り、腹もかなり空いていた事から注文する事に。
 カレーとロースカツの相性もだが、チーズによる合わせ技も見事で量的にも味的にも大満足する。

 チーズという事でエレンや食事処ナオで働いていない戦士隊の面々に話し、エレンはエレンで店に訪れる客の中で食事処ナオの常連でもあった面々に話を振る。

 結果、ロースカツカレー定食にトッピングとしてチーズをトッピングするのが当たり前となってしまい、後から知ったミケはイルゼが広めたのかと思うも、箇条書きした紙の存在を忘れていたイルゼは、思い付きはしたけれど誰にも伝えていない事で首を傾げるのであった。
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