進撃の飯屋   作:チェリオ

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 今回は食事回でなく仕事回です。


第11食 食事処ナオの日常

 あの地獄(過去)が嘘のような生活。

 今でも目を覚ましたらあの日々に舞い戻るのではないかと不安に思う日がある。

 何気ないものでも幸せだからこそ怖く感じる。

 胸中を渦巻く不安と、眠気を払うように熱い湯を頭から流して全身を隈なく濡らす。

 午前七時にけたたましく鳴くカラクリ機器(目覚まし時計)に半強制的に起こされたユミルは、いつものようにシャワーを浴びて寝汗を流している。

 別に綺麗好きだとか朝風呂が欠かせないという訳ではなく、仕事前に綺麗にしておくように入りなさいと言われてしているだけだ。まぁ、目を覚ますのにも多少なりとも寝汗を流せてさっぱりするので結構好きではあるが。

 捻るだけで温かな湯が出て来るシャワーを浴び、ふわふわのスポンジを固形石鹸を使って泡立たせて身体を擦り、液状の洗髪剤(シャンプー)で頭をわしゃわしゃとマッサージするように洗い、最後にまたシャワーで頭から泡を流し落す。

 これに加えて総司がリンスやトリートメント、コンディショナーとかいう物を説明しながら勧めてきたがそれは断った。ここまででもかなり贅沢だと理解しているのもあるが、正直そこまでやると時間が掛かり過ぎて面倒な気がした。

 ふんわりとした手触りのバスタオルで身体に付いた水気を拭い、壁の穴(コンセント)に繋ぐことで熱風を出すドライヤーで髪を乾かすと、下着に仕事着である黒の長ズボンにカッターシャツを着て脱衣所を出る。

 時刻は八時を過ぎ、少し遅れたと速足で一階へと階段を降りて行く。

 降りて扉を開けるとすでにアニが不愛想な表情を浮かべカウンター席に腰かけていた。

 遅れた事を謝りつつ朝の挨拶を交し、すでに厨房で作業している飯田 総司に向かい合うように、アニと同じくカウンター席につく。

 食事処ナオでは朝八時はブリーフィングを兼ねた朝食となっている。

 様子から来るまで待っていてくれたのだろう。 

 申し訳ないと思いつつ、視線を総司へと向けて言葉を待つ。

 いつもなら「本日も頑張りましょう」程度の話で終わるのだが、今日はいつもと違って話は少しばかり長くなった。と、言うのもまた新しくここで働く仲間が増えるからだ。

 活発そうな赤髪のおさげの小柄な少女“イザベル・マグノリア”に、爽やかそうな(・・・)笑みを浮かべている短く切り揃えられた茶髪の青年“ファーラン・チャーチ”の二名。

 なんでもイザベルという少女がナオの友達(ナオが警戒しているのだが…)との事で総司と接点があり、兄貴分が二人の状況を確認に来るのでちゃんと働いているとアピールする為に雇ってほしいと頼み込んで来たらしい。

 それを人の良い総司が二つ返事で引き受けたというのは話の途中で察することが出来た。

 ほどほどに自己紹介を済ませ、簡単なブリーフィングが済めば待ちに待った朝食だ。

 

 焼きたてのホットケーキが皿に載せられ、それぞれの前に置かれてゆく。

 朝からちゃんとした朝食が食べられることにイザベルとファーランは驚いていたが、この程度で驚いていたら身が持たないと思うぞ。

 思った側から小箱より大きく切り取ったバターをぼてっと載せ、ハチミツをたっぷりとかけたところを目撃して目を見開いていた。私なんてまだましな方だ。アニはさらにチョコソースまでかけるのだから。

 ファーランは驚きからか多少遠慮したようで、私よりも少ない量をホットケーキに掛け、イザベルの方は興奮気味にアニと同じくチョコソースまで使っていた。

 食べ始める前に「頂きます」と手を合わせて口にし、総司の「召し上がれ」の言葉を合図にナイフとフォークでホットケーキを切り分けておもむろに頬張る。

 ふっくらとしたホットケーキにトロリとした蜂蜜の甘さ、バターの塩気が合わさり、この組み合わせが非常に美味しい。さらに濃厚且つ後味がさっぱりとしたミルクが合う。

 恐る恐る口にしたファーランも美味しいと感想を漏らし、イザベルなんて大騒ぎしていた。

 あまりの騒がしさか器に顔を突っ込んで朝食を食べていたナオは不満そうにこちらを睨んでいた。

 ……ただアニの真似をして彼女だけ飲んでいたコーヒー(ブラック)に口を付けて、あまりの苦さに苦悶の表情を浮かべた時はすっごい嬉しそうな笑みを浮かべていた…。

 朝食を澄まし、片付けが終われば店内の清掃だ。

 調度品は埃を落とし、テーブルは布巾で拭き、床を箒で掃いてからモップを掛ける。

 総司は厨房周りを担当しているので新入り二人への指導は私とアニに任せられた訳なのだが(主にフロアチーフのユミルが)、兄貴分に掃除関連は叩き込まれていたので指導要らずで楽が出来た。下手すれば私達より手際が良いんじゃないか?

 食事処ナオの開店時間は朝の九時からだが、開店直後はそう人が来ない。

 裏路地という立地条件もあるが、朝食とも昼食とも当てはまらない時間帯なので少ないのだ。

 それが例え週末だとしても。

 

 四人全員居ても居るだけで仕事の取り合い、もしくは立っているだけの案山子になるので午前と午後で二人ずつに分けて担当することに。

 午前は私とイザベルの二人。

 人も居ない事だし今のうちに粗方教えておこう。

 フロア担当の仕事は人の出入りの際の挨拶にお客を席への案内、注文された料理名や席番号をメモ用紙を書き留めて総司に渡し、出来上がった料理を席に運ぶ。お客が帰れば素早く布巾でテーブルを拭き、モップで周りのゴミや汚れを取る。

 これが単純なようで難しいのだ。

 特に忙しくなる時間帯になると慌ただし過ぎて、注意が怠ってしまう場合があるので要注意だ。

 午前十一時になっても客はポツリ、ポツリと少なく結構暇で、忙しくなる前に昼食を済ませておくのが吉なので十一時になると交代で賄いを口にする。

 今日の賄いは何だろうなと心躍らせながら席に付いて、総司の調理の様子を眺める。

 ごま油の匂いが漂うフライパンに一口サイズにカットされた鶏肉が入ってじゅわりと焼く音を立てる。そこに醤油にみりん、料理酒などが注がれ、とろみをつける片栗粉が振り掛けられる。

 蓋をして鶏肉を煮込んでいる間に丼に白米を装ぎ、冷蔵庫から刻んだネギを取り出す。

 ぐつぐつと煮立ち、頃合いを見計らって蓋を開けるとふわりと湯気と共に醤油やごま油の香ばしい匂いが広がる。

 背後で暇そうにしていたイザベルが匂いに釣られて凝視している気がするが、無視して待ち遠しそうに総司を見つめる。

 最後にネギをパラリと入れてひと混ぜすると、丼を手にして白米の上に掛けてユミルへ“テリヤキチキン丼”を差し出した。

 待っていましたと言わんばかりに受け取り、フォークを使って一口含むと、口いっぱいに甘辛い醤油ベースのタレが広がり、柔らかい鶏肉と白米が進む。

 一口飲み込めば次を欲してフォークが止まらない。

 しかも丼にした事でとろみの付いたタレが白米にも絡んでそれだけでも非常に美味い。

 

 ふと横を見ると今にも涎を垂らしそうな表情をしたイザベルが居り、呆れながらも食べる手だけは止めはしない。

 全て平らげて満足げに息を漏らすと、お茶を呑んで席を立つ。

 皿を総司に渡して仕事に戻ると、待ちきれない様子で入れ替わるようにカウンターに付き、美味い美味いと連呼しながらかき込むイザベラに笑みを向けながら十二時に備える。

 十二時になるとさすがに人の出入りが多くなり、私もイザベラも働きっぱなしになる。

 こんなクソ忙しい時間に仕事を増やしたくないというのに、何故か客としてアニがカウンター席に居り、常連のエレン・イェーガー達と何やら騒いでいる。

 アイツ…覚えてろよ。

 心の中で毒づきながら忙しい昼時を超えれば、待っているのはユミルにとっての癒しの時間だ。

 午後三時にはお茶を楽しもうと女性客が訪れる。

 その中に目的の人物―――クリスタ・レンズが居た。

 クリスタはユミルを視認するとにっこりと笑顔を浮かべる。

 注文は毎度変わらずの苺のクレープ。

 総司にはクリスタのクレープに関しては受けた恩の話をして、自分に作らせてほしいと頼んであるので、厨房に入る許可を頂いてフロア用のエプロンから調理用のエプロンに着替える。

 もう以前のように気を張りっぱなしで作る事は無い。

 逆にアレだけ練習したというのに下手のままでは、賄いがミルクレープの日々が無駄になってしまう。

 焼き上がった生地にイチゴを載せ、ソース類をかけて巻いて皿に盛り付ける。

 その際に一つだけ載せる苺アイスを二つ載せておく。

 多いことに気付いたクリスタがパチクリと驚くが「私のおごりだ」と告げると輝かんばかりの笑顔を向けて感謝を口にする。

 あぁ…これだけで今週の疲れが吹き飛んでいくようだ。

 勿論肉体的にでなく精神的にだが…。

 時刻は進んでクリスタを見送り、午後四時前まで働いたユミルはアニに仕事を引き継いで本日の仕事を終えるのであった。

 

 

 

 

 

 

 ここ(食事処ナオ)での仕事はやっていてありがたい。

 不愛想でも総司は文句を言わないし、酒を飲んで絡んで来た奴を投げたら怒るどころか「投げて構いませんよ」と許可を出すぐらいだ。

 賄いで出される料理も美味しいし、給料も良くて文句のつけようがない。

 いや、フロア担当が少なくて仕事が忙しかったけれど、今日より二人増えるので今は改善されるので無くなったというべきか。

 …ただマーレの戦士としての職務が全然捗っていない事は危惧しなければならない。

 危惧しないといけないのだが不可能だろうなと半分諦めているが…。

 マーレの技術力はエルディアと比べて非常に高い。

 生活及び軍事に至ってもそうだ。

 エルディアでは単発式のライフルが主力の銃器であるが、マーレでは連射可能なマシンガンが存在する。

 電気がある為に機械技術を有している。

 一部を置いて圧倒的技術力を有している――――筈だった。

 

 剃刀は新しいタイプでも刃を代える程度の手動の物なのにここにはコードを繋がなくとも電気を内部で溜められる電気髭剃り。

 まだ試作品が出来たばかりで高く、大きな掃除機がモップに小型のタンクが付いた様な形で吸引力は段違い。

 他にも洗濯機に乾燥機、コンロに至るまでここに置いてある電気製品と比べるとマーレの技術力が小さく幼いものに見えてくる。

 仕掛けも原理も差が大きすぎてまったく理解できない。

 これは戦士長達に相談した方が良いのだろうか…否、もう少し自分で調査してからにしよう。うん、そうしよう…。

 

 今日は午後五時より仕事開始だが、アタシは食事処ナオに居る。

 外にあまり出ることがないのでいつも通りって言ったらいつも通りなのだが、今日はお客としてカウンター席に腰かけている。

 ユミルから忙しいのにと抗議の視線を受けるが気にしない。

 なにせ仕事中でない事から昼の賄いがないので、朝より今日の昼は好物のハンバーグを食べると決めていたのだから。

 注文してから常連のエレン達と少し絡みながら総司のハンバーグを味わう。

 やはりここのハンバーグは格別美味い。

 仕事(戦士としての)を忘れ、目の前のハンバーグを堪能したアニは午後四時からの仕事に備える。

 備えると言っても正直午後からのアニはユミルから引継ぎを行うぐらいだ。

 先に仕事内容をファーランに教えておくべきなのだが、要領がいいのか少し口にしただけで把握しているっぽいのでそこまで教え込む事も無かった。

 もしもの時には総司もフォローしてくれるとの事なので何とかなるだろう。

 

 と、甘い考えのまま仕事を開始したアニは説明不足だったことを、仕事開始した午後四時ではなく午後七時に近づいた辺りで思い知るのであった。主にファーランがだが…。

 やはり午後七時になると夕食に来る客で賑わう。

 さらには週末という事で酒を飲みに来る者も平日以上に訪れる。

 一応飲みに来る連中は午後九時から殺到するのだが、早めに飲みに来る客も居り、昼食を超える客が押し寄せることになったのだ。

 客対応に追われるアニはファーランの面倒を見ることが出来ず、調理しながらビールの注ぎ方も含めて総司が全部教えることになり、本当に申し訳なく思う。

 怒ったりしないか心配だ。

 以前情報収集の為に勝手に厨房に入り込んで、怒られた事があるのだ。

 別段ヒステリックに怒鳴ったり、罵詈雑言を浴びせたり、陰湿な嫌がらせをして来るなんて事は無い。

 対応も接し方もいつもと変わらないのだが………賄いが食パン&牛乳or白米&漬物になったのだ。しかも隣でユミルはシチューや生姜焼きを出されていたっけ…。

 

 うん、止めよう……悲しくなってきた…。

 料理人にとって厨房は聖域―――よぉく、覚えた。

 

 忙しくフロアを動き回りながら

 週末は夕食の賄いを食べる時間が取れ難いように思われるが、別段そう言う事は無い。

 午後七時から午後十時までは忙しいが、そこからは飲むペースも落ち、客入りも落ち着き、飲み食いしながらも飲み仲間と会話を楽しむという事で注文のペースも落ち着く。

 本日三名ほど酔った勢いで絡んで来たおっさんを投げ飛ばしたアニは先に賄いを食べようとカウンターに腰かける。

 

 ユミルの賄い同様ごま油の香りがフライパンより漂うが、照り焼きチキン丼ではない。

 豚バラ肉を最初に焼き始め、キャベツに人参、タマネギを入れて炒め、最後にもやしを入れて蓋をして蒸す。

 味付けは塩コショウのみ。

 見ているだけで涎が口内に溢れる。

 ゴクリと飲み込みまだかなまだかなと待ち侘びる。

 出来上がった野菜炒めと白米を受け取り、ごま油が混ざった野菜と肉の匂いが空腹感を高める。

 一口を口に含んだアニは白米を掻っ込んだ。

 豚肉の旨味に野菜類の甘み、ごま油の香ばしさに絶妙な塩コショウの味付けが食欲を刺激し、白米を求めさせる。

 噛み締める度に口の中に野菜炒めの味が広がり、白米を欲し続け茶碗一杯では全然物足りなくなる。

 二杯ほどおかわりして食べ終えたアニはファーランと入れ替わって仕事に戻り、少し苦しく感じるがそれを現さないように残り数時間働く。

 閉店の二十三時が近づくと徐々に酔っ払い達が帰り始め、最後に常連である強面の訓練兵団教官が帰り、店仕舞いと朝同様に掃除を始める。

 

 

 

 時刻は二十三時となり、食事処ナオは店を閉めた。

 イザベルとファーランは自宅通いなので早々に帰ってしまった事を、アニとユミルは勿体ないなぁと思う。

 一日の仕事を終えて掃除を済ませれば、お疲れ様との意味を込めて総司がデザートを出してくれるのだ。

 本日のデザートはシュークリームだった。

 サクリとしたクッキーシューの触感の後に、中よりふんわりとしたクリームが溢れ出て来る。

 生クリームと混ぜホイップ状になったクリームチーズが、滑らかな味わいを優しく広げてゆく。

 しつこくないようにレモン汁が味をぎゅっと引き締め、さっぱりと爽やかな風味が後味として駆け抜ける。

 甘味が疲れた身体に沁み込むように広がって行く。

 ほんのささやかな幸せを味わいながら、二人はクリームチーズのシュークリームを味わう。

 店の隅でナオが大あくびをして寝床へとそそくさと移動し、ユミルとアニはナオを見送りながら出されたシュークリームを平らげるとお茶を飲みながら一息つく。

 後は歯磨きをしてお風呂に入って眠るだけだ。

 食べきって皿とコップを片付けて二階に上がる前にアニが総司に忠告しておく。

 総司はかなりの料理馬鹿であり、下準備をしていて集中し過ぎると朝になっていたなんて事が何度かあったのだ。

 だからジト目でアニは釘を差しておく。

 「気を付けます」と言っていたが聞いているかどうか怪しいものだ。

 なんにしても今日の疲れを癒やして明日からも頑張ろうと二人はまずはお風呂場へと歩いて行く。

 

 

 

 

 

 

 深夜二時。

 寝静まり静寂が漂うこの時間になっても食事処ナオにはぼんやりと明かりが灯っていた。

 ふつふつと煮える鍋よりお玉でひとすくいし、小皿にタラリと注いで口を付ける。

 味を確かめて何度か頷いて総司は鍋の火を止めた。

 明日の朝食用のコーンスープも完成して今日の(・・・)仕込みは済んだと時計を見て、まだ日付は変わっていないと思っていただけに苦い顔をする。

 早く休むように言われたのにこれでは駄目ですね。

 鍋に蓋をしてコンロより除け、脱衣所へと急ぐ。

 すでにユミルやアニ、それにイザベルが使用した衣類が洗濯機に入っているのでそのまま洗濯機を始動させ、自身の衣類は籠に放り込んでさっさとシャワーを浴び始める。

 一応浴槽もあるのだがどうせ自分が入ってもカラスの行水…いや、肉を湯に潜らせるしゃぶしゃぶか魚の生臭さをとる湯引きみたいな感じなので湯を張るだけ勿体ない。

 さっさと洗い終え、水気をタオルで拭き取ると洗濯機はそのままで、厨房に戻って簡単に掃除してから寝室へと向かう。

 

 深夜三時に眠りについた総司は朝五時に目を覚ます。

 眠気眼を擦りながら風呂場へ向かい、昨日(今日)洗った女性陣の衣類を隣の乾燥機に放り込み、今度は自身とファーランの衣類を洗濯機で洗い、その間にシャワーを浴び昨日より丁寧に身体を洗う。

 風呂から上がり新しい仕事着に着替えると乾燥機の衣類を籠に入れて、日当たりのよい一室に運んでハンガーや折り畳み式の物干し竿に掛け、今度は厨房に向かって白身魚のフライを作り出す。

 食パンに葉物、白身魚、タルタルソース、葉物の順に載せて、もう一枚食パンで挟んだ白身魚のサンドイッチを三人分作り上げ、脱衣所に向かって男性陣の衣類を乾燥機に入れて厨房に戻る。

 

 六時に新鮮な肉や野菜を乗せたリーブス商会の馬車が店先に止まり、馬車に乗っていたフレーゲル・リーブスと話しながら食材の確認と代金の受け渡しを済ませ、今度は毎日注文されている白身魚のサンドイッチを渡して代金を受け取る。

 取引が済めばまた脱衣所に戻り、乾燥機から取り出してハンガーに掛けに行く。

 ようやく洗濯物から解放された総司は、料理に集中できると笑みを零す。

 朝食の準備を始める七時半までに仕入れた食材の下準備を済ませようと作業を開始する。

 七時半になればナオが起きて部屋からこちらへとやって来る。

 朝食は皆と同じ時間に出すので今は取り合えず猫用のミルクを器に注いでおく。

 皆の朝食はハムと卵の二種類のサンドイッチにサラダ、コーンスープにしようと決め、降りてくるまでに調理を済ませようと少し急ぎながら作る。

 いつも通り八時にアニもユミルも降り、イザベラとファーランも到着し、朝食前のブリーフィングを始める。

 ブリーフィングと言ってもほとんどいう事がないのでいつも通りに一言だけ。

 

 「では、今日も一日頑張りましょう」

 

 このブリーフィングの後に昨日の就寝時間を聞かれ、苦笑いしながら答えた総司はアニによって宙を舞う事になった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 【おまけ:昼の一コマ】

 

 お客としてハンバーグを注文し、カウンター席で待っていたアニに聞き覚えのある声が聞こえてきた。

 入り口の方へ視線を向けるとそこにはエレン・イェーガーにアルミン・アルレルト、ミカサ・アッカーマンなど常連の三名が入店していた。

 いつも通り入るなりいつもの料理を注文し、目が合い気付いたエレンは近くのテーブル席に腰かけた。

 総司より注文したハンバーグを受け取ると、エレンがこちらを覗いているのが視界の隅に映った。

 

 「――なに?」

 「いや珍しいなと思って。それチーズハンバーグじゃないだろ」

 

 別にチーズハンバーグが好きだからと言って毎日毎食食べている訳ではない。

 ただエレンが居る時にチーズハンバーグ以外を食べることは無かったかな。

 

 「――そう」

 

 短くつれない返事を返しながら内心ほくそ笑む。

 多分だがエレンは知らないのだろう。

 

 「にしてもチーハン好物って感じだったのに、連続して食い過ぎて飽きちまったか」

 「普通は飽きると思うよ」

 「そういうアルミンはいつも同じものを頼んでる」

 「ミカサだってそうでしょ」

 「私は違う。今日はかぼちゃのプリン」

 「あ、うん。そうだね…」

 

 談笑するエレン達の会話を聞きながら総司に視線を送る。

 

 「店長。アレを」

 「えぇ、分かりましたよ」

 

 クスリと笑みを浮かべた総司がアニのハンバーグにスライスされたチーズ、そして半熟の目玉焼きを乗せ、デミグラスソースをタラリと垂らした。

 チーズがハンバーグとデミグラスの熱により溶け、とろりとデミグラスソースと混ざってハンバーグを彩った。

 そこにナイフで切れ目を入れられた黄身が流れ、重なった部位をエレンに見せつけるように食べたのだ。

 一連の流れに面食らったのかエレンはぱちくりと瞬きをするばかり。

 ようやく動き出したのはアニが飲み込んで、含みのある笑みを向けてからだった。

 

 「…え?ちょ、それって…」

 「オプションメニューさ。追加料金を払う事で自分の好きなようにアレンジ出来るのさ」

 「き、きったねぇぞ!」

 「ちゃんとメニューを読んでないアンタが間抜けなだけさ」

 

 初めて知ったエレンは大慌てで注文を取り下げてメニュー表と睨めっこするのであった。




●現在公開可能な情報

・食事処ナオ求人情報
 時給:900~1000
 募集要員:フロア担当
 仕事内容:席への案内、注文取り、料理の配膳、後片付けなどの接客サービス
 住み込み可能(人数制限有り)
 賄いの提供有り
 定休日:火曜日と日曜日
 開店時間:午前九時
 閉店時間:午後十一時
 ラストオーダー:午後十時半
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