進撃の飯屋   作:チェリオ

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第101食 カンノーリ

 幼い頃からいつも三人一緒だった。

 日が傾くまで遊んだ時も、近所の悪ガキと喧嘩した時も、訓練兵団に入団した時も。

 だから無意識に思い込んでいた。

 今までがそうだったように、これからもずっと続いて行くのだと。

 

 時が経てば状況も情勢も変化する。

 出会いがあれば別れがある様に、思いも寄らない理由で離れ離れになる事もあるだろう。

 

 「…俺達(・・)は行くよ」

 

 何処か寂し気な表情を浮かべるエレン。

 隣に並び立つのはミカサでもアルミンでもなく、申し訳なさそうな視線を逸らす幼いユミル・フリッツのみ。

 

 「エレン、待って!」

 「話し合おうよ!エレン!!」

 

 背を向けて歩き出したエレンは振り返る事無く進み続ける。

 追い掛けようとするも足が言う事を聞いてくれず、いつも従順に従ってくれるイルーゼが優しくながら押さえつけるのでそれも叶わない。

 ミカサの呼びかけもアルミンの叫びでも止まる事はなく、二人はただただ離れて行くエレンの背を見つめるしか出来なかった…。

 

 

 

 

 

 

 本日、食事処ナオは定休日である。

 営業日は常連客で賑わう店内は静かで、ゆったりとした時間が流れていた。 

 隙あらば料理に励む総司も休日はアニから“休め”との圧力もあって調理を行うのは最低限。

 しかし、今日は依頼というか頼まれている事もあり、カウンター席から視線を集めながら厨房に立っている。

 言い分としては“頼まれてしまっては仕方がない”―――などと装っているが、本音は料理が出来る口実が出来て嬉しいというのが緩んだ頬から見て取れる。

 

 「休日っていう言葉の意味は知ってる?」

 

 隠し切れていない総司の心根に諦め混じりのため息を零すアニだが、原因を持ち込んだエレンに対しては怒気を込めた睨みを利かしている。

 正論過ぎて返す言葉もないエレンは「すまねぇ」と小さく謝る他なかった。

 

 食事処ナオ シガンシナ区店は本店と比べてメニュー量が少ない。

 これに関しては入手出来る材料と調味料、さらに調理人の知識に起因している。

 人生の大半が食糧難で食べれる料理は限られ、食事処ナオで食べたり知ったりした以上の種類は知る由が無い。

 現状でも常連客は満足しているものの、エレンとしては新メニューの考案に力を入れたいところ。

 ただし料理知識を得ようとしても豊富なレシピが記載されているレシピ本や、有名コックが使っているであろう技法を気軽に載せれる時代でもない為、エレンが知識を求めようとすれば当然総司を頼るしかなく、頼られた総司は嬉々として思案を行った挙句に定休日に試食会を提案したのだ。

 

 「それにしてもクリスタが来れなくなるなんて残念だな」

 「ミカサとアルミンもな」

 

 クリスタに会う予定にいただけに残念そうなユミルの呟きにエレンは心底残念に思う。

 総司が提案したのはカンノーリ(カンノーロ)というデザート。

 材料を練った生地を棒状の型に巻き付け、熱した油でカラッと揚げた後に冷まし、中にはリコッタチーズを用いたクリームをたっぷり詰めたもの。

 材料の入手し易さだけでなくクリスタとアルミンは孤児院に隣接している飼育場にて、乳牛を育てている事からリコッタチーズの仕入れ先として協力する事を考えている。

 クリスタ達はどのような料理なのかを確認する為に、エレン達は調理方法や材料を覚える為に試食会に参加する予定だった。

 

 前日に足を捻ってしまったミカサ。

 牛の出産が始まりそうで離れなくなったアルミンとクリスタ。

 運が無かったとしか言いようがない。

 急な予定変更するにも伝達する時間(電話が存在しない)も無いので、エレンとユミル・フリッツでの参加と相成ったのだ。

 ちなみにルイーゼはミカサの世話で居残りである。

 出掛け際の悲壮な二人の顔を思い出し、総司さんに持ち帰り可能なお土産を後で頼んでみよう。

 

 「出来ましたよカンノーリ」

 「食べていいんですか!?」

 「食べては、駄目です―――冗談ですよ。どうぞ皆さんも」

 

 エレン達への試食会が名目なれど、食事処ナオのメンバーも同席している。

 誰よりもガビが許可を求めたのに対して、ちょっとした冗談を口にした総司なれど、この世が終わったような絶望を顔に浮かべた事で速攻で取り消すと解かり易く満面の笑みを浮かべた。

 

 「いただきます」

 「――いただきます…」

 

 山盛りに盛られたカンノーリにエレンとユミル・フリッツは手を伸ばす。

 黄金色を超えて茶色く揚がった生地には、粉砂糖が振りかけられて薄っすらながら白さがより際立つ。

 中にぎっしり詰められたクリームの先には苺やチョコチップなどがトッピングされて色取り取り。

 

 早速齧ってみるとカリッと香ばしい生地の食感の後にふわりと柔らかく滑らかなクリームの食感が伝わる。 

 生地は甘くない分、粉砂糖やクリームの強めの甘さが合わさって程良い。

 クリームはリコッタチーズのさっぱりとした味わいでしつこ過ぎず、ほんのりと優しいミルクの風味が感じ取れる。

 トッピングのチョコレートの深いコクや苦味とも、苺の酸味のある甘さや瑞々しさとも合う。

 

 「美味い……ですね」

 「何か、思う所があると言った感じですね」

 

 美味しかったの本当だ。

 それでも想う所があったのは事実。

 総司はエレンの反応から察したが、それは決してカンノーリの味についてではない。

 寧ろ、こんな美味しいのを自分達で味わった罪悪感。

 

 ちらりと横を向けば目を輝かせて食べるユミル・フリッツ。

 他にも静かながら僅かに口角が上がっているアニに、今度クリスタに作ってやるかと口にするユミル。

 取り合うようにがっつくガビにファルコ、ウド、ソフィア。

 兄弟仲良く笑顔で食べるラムジーとハリル。

 

 レシピも覚えたから帰って作れるけれど、出来る事なら一緒に食べたかった。

 そう思った矢先、定休日の看板が掲げられているにも関わらず、食事処ナオの扉が開かれ鈴が鳴る。

 

 「遅れました総司さん」

 「あ、アルミン!?ミカサもどうして…」

 

 振り返った先にはアルミンにルイーゼに肩を借りているミカサの姿。

 困惑するエレンの前に二人の後ろからジークが姿を現した。

 

 「いやはや、ミカサちゃんから聞いたよ。こんな時ぐらいお兄ちゃんを頼れよエレン。連れてくる為にコネだって使えるんだから」

 

 最初は何とかミカサを連れて来ようとも思ったのだが怪我の悪化を恐れて諦めたが、ジークは近くまで馬車や人手を使ってここまで連れて来てくれたらしい。

 協力した面々もその後ろから店内に入って来たのでよく分かった。

 

 「おいおいエレン、こんな美味しい思いをするなんてズリィじゃあねぇか」

 「総司さん!俺達も混ざって良いですかね?」

 「ジャンにコニーまで!?なんでお前らまで居るんだよ」

 「へへっ、アルミンから聞いていてな」

 「大勢になってしまいましたね。大丈夫ですよ。たくさんありますし、まだまだ作りますから」

 「アンタ、程々にしなよ」

 

 迎え入れる総司にアニはジトリと睨む。

 予定以上に大勢になって定休日とは思えぬ騒がしさ。

 休みなのにと申し訳なさもある一方、一緒に食べている眺めに頬が緩む。

 

 怪我を悪化させないようにルイーゼに世話されながら、隣でカンノーリを一緒に味わうミカサ。

 牛の世話が思ったより早く終わって駆け付けたアルミンとクリスタ。 

 ジークに協力を要請されたピークとライナー。

 話を聞いて興味本位でやって来たコニーとジャン。

 最後には慌ただしくやって来た一団をたまたま目撃し、何となく察したリヴァイ兵長までも加わる大所帯に。

 

 「うん、美味い」

 

 同じものを食べているのに、先程より美味しく感じる。

 ミカサやアルミンをちらりと眺め、今の幸せを噛み締めながらいつまでも続くようにと願うのだった。

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