進撃の飯屋   作:チェリオ

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第103話  鍋

 シガンシナ区では大きなパーティが行われていた。

 復興がかなり進んだ事への記念及びここまで長い復興事業への慰労という名目で開催されている。

 パーティと言っても肩肘張る様なものではなく、皆でわいわい楽しむ気軽な祭りと言った感じで笑顔と喧騒が辺りを包む。

 騒がしくはあるが折角の祭り。

 今日は無礼講と言う事で羽目を外して騒ぐ連中が後を絶えない。

 

 「それにしても騒ぎ過ぎだろ。人も多いし」

 「仕方ないだろエレン。俺みたいにパーティに参加すべく遠くから来ているのも居るんだからな」

 

 シガンシナ区全ての住人が参加している訳ではないが、それでも異常なまでに人が集まっている。

 人混みで酔いそうなエレンの愚痴に王都からやって来たジークは苦笑を浮かべた。

 ただジークみたくパーティの話を聞いて参加した者も多いけれど、それ以外に人が集まるならば出店を開いて儲けようという商人が駆け付けるのも当然の流れだったであろう。

 余裕を持って用意された会場である広場外縁部にはぐるりと囲むように出店が並び、飲食物を扱う屋台からネックレスや怪しげな商品を扱う店まで幅広く営業している。

 勿論ながら出店の中にはリーブス商会にマルレーン商会も並んでおり、ディモ&フレーゲルのリーブス親子(リーブス商会)とエリオット&カーリーのストラットマン(マルレーン商会)が隣同士なだけにバチバチに火花を散らして争っていた(※売り上げ)

 他にもダウパー村からニコロが料理長を務め、サシャの家族や村の有志で出店しているのも伺える。

 ……サシャの親父さんが意識を失おうと獲物【食べ物】に食らい付くサシャが盗み食いをする為、必死に止めようとしているのが見えて同情を禁じ得ない(助けに行く気はない)

 逆にニコロや手伝っている少女(カヤ)は呆れつつも楽しそうに笑っている様子。

 

 「お前も少しは楽しめよ。じゃないとユミルちゃん(・・・)が楽しめないだろ?」

 「悪かったなユミル。大丈夫か?」

 

 確かにと納得したエレンは離れ離れにならないように手を繋いでいるユミル・フリッツに視線を落とすと、ユミルは見上げながらフルフルと顔を横に振って否定した。

 中々感情を表情にしないので解り辛いが、気を使っている事だけは理解出来た。

 スッと持ち上げて肩車をして周囲が大人達で囲まれた狭い空間から、大人達を逆に見下ろす景色を振舞う。

 急な事とバランスを取る為に頭にギュッと抱き締められるが、不安よりも小さく零れた声から喜んでいるのが伝わって来る。

 

 「すっかりパパだなエレン」

 「茶化すなよ兄さん…ユミル、なにが食べたい?」

 

 悩むユミルに微笑みかけて暫し歩く。

 色んな所から大勢が集まっただけに顔馴染みの姿もちらほら伺える。

 孤児院の子供達を連れて回っているアルミンにクリスタ。

 ピクシス司令に付き合わされるキッツ駐屯兵団隊長にイアン達精鋭班。

 お忍びで来ているらしいヒストリアと護衛のケニーにカーフェンなどの中央憲兵。

 エルヴィンと談笑を楽しむナイルなどなど。

 中には警備の応援で呼ばれた連中もいるようだけどジャンやコニーは手にしている器から程々にさぼっており、警備で真面目に仕事をしているのはマルロぐらいだろうか。

 いや、ヒッチに唆されて屋台に連れ込まれたから脱落かな。

 

 「おっと、アイツらも出店してたんだな。俺は寄ってくけどエレンはどうするんだ?」

 「もう少し見て回るよ」

 「そうか。まぁ、折角の祭りなんだから楽しめよ」

 

 ジークはそう告げてライナーやベルトルトが居る屋台へ向かって言った。

 遠目ながらピークなど戦士隊に所属していた面々に、マーレ関係者が集まっているのが見える。

 輪に入って行く兄を見送ったエレンは一際繁盛している屋台に視線を移す。

 

 先にある屋台は二軒。

 一軒はユミルを始め食事処ナオで働くガビ達少年少女が経営しているお菓子屋。

 側のテーブル席では紅茶を楽しむリヴァイ兵長にリヴァイ班、タルトを満面の笑みを浮かべて頬張るニック司祭の姿があった。

 逆にもう一方の屋台は色んな種類の鍋料理を提供しているらしい。

 スパイシーな香辛料を漂わすチゲ鍋を味わうハンジにもつ鍋に食らい付くザックレー総統、カロリーを気にして【前回より】水炊きを食すハンネスなど種類は豊富。

 肩車していたユミルを降ろして順番待ったエレンは店員にニヤッと笑いかける。

 「繁盛してるじゃないか」

 「いらっしゃ―――…なんだ、エレンか」

 「なんだとはずいぶんな挨拶だろ?」

 

 軽口を叩くアニ。

 彼女をサポートするのはイザベルとファーランの二名で、隣の屋台含めても総司の姿だけが見受けられない。

 あの料理好きな総司が不参加と言う事はあり得ないだろう。

 ガビなど子供達の姿も見えない事から一緒に休憩を取って周っているか、もしくはアニに休めと調理場から叩き出されたかだろう。

 

 「総司さんは休憩か?」

 「それが店に残るって。どうも調子が良くないらしい」

 「大丈夫なのか?総司さんがこういうイベント(大量に料理を作る)に来れないってよっぽどだろ」

 「熱は無いけど身体が気怠く、風邪かも知れないから安静にするとさ」

 「……安静に、か」

 

 風邪だった場合を考えて待機しているのだろうけど、安静にしているかは怪しいところだ。

 アニも安静の二文字を口にした時、表情が曇った事から同様に考えているのだろう。

 

 「ところで何を注文するんだい?」

 「あぁ、悪い。えっと…」

 「これが食べたい」

 「なら、これを三人分頼む」

 

 ユミルが強請ったのは寄せ鍋。

 白菜に椎茸、厚揚げなど具材たっぷりの中、どんと存在を主張する鶏団子。

 美味しそうでその場で食べたいがミカサが待っている。

 お金を払って三人分の寄せ鍋をよそった器を受け取り、早速合流すべく会場を抜けて小高い丘を昇って行く。

 小さい頃はよく一本だけ生えた木の木陰で昼寝をした思い出の場所。

 

 「ミカサ、お待たせ」

 「ごめんね、二人で行かせちゃって」

 「仕方ないだろ。それじゃあ…」

 

 別に場所どりをする必要はなかった。

 丘は会場から程近く場所で見下ろせる位置にあったけれど、人は会場の方に向かっているので誰一人居なかった。

 ただ懐かしさから昔のように座ったところ、ミカサの膝の上に何処からかやって来たナオが居座り、まるで自分の場所だと言わんばかりに居座られた結果、場所取りをする事になってしまっただけの事。

 ユミルがナオの頭を撫でると満足したのかナオは身体を起こし、頑固に死守していたのが嘘のようにそそくさと何処かに行ってしまった。

 

 「一体なんだったんだろうな」

 「分からない。けど温かった」

 「…もう少し撫でたかった」

 「今度、ナオに会いに総司さんのところに行こう」

 

 名残惜しそうなユミルの頭を優しく撫で、その場に腰を下ろして器を手にする。

 コリコリと歯ごたえのある榎、柔らかくも弾力があって肉厚な椎茸。

 中からネギの旨味と仄かな甘味を汁が漏れる白ネギに、とろっとろにふやけた白菜。

 厚揚げを噛み締めれば優しく出汁の聞いた汁が溢れ出す。

 そして味をスープに染み出しながらも風味を残す鶏団子。

 刺激的でも濃い味付けでもない薄っすらとしながら、全てを受け入れる優しく温かな味に心底安心させられる。

 

 「美味いな」

 「うん、美味しいね」

 

 エレンとミカサは二人並び、気に凭れかかりながら味わう。

 同じく口にするユミルは手を止めて二人を眺め微笑む。

 

 足元にある幸せを手に取り、今の喜びを分かち合うこの世界の二人。

 ユミルは振り返る。

 そんな二人から離れた位置で嬉しそうに、そして何処か悲しそうに見つめる一人の男性に。

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