進撃の飯屋   作:チェリオ

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 時間通りに投稿しようとしていたのですが、気に入らずに書き直していたら投稿が遅れてしまいました。申し訳ありません。

 今回の話はストックではなく、某牛丼チェーン店とコラボしているとの事で急遽書き上げた話となっております。
 


第24食 牛丼

 ここは何処だ?

 エレン・イェーガーは自分が置かれておる状況を理解できないまま、ポカーンと周りを眺めていた。

 目の前には資料や小難しそうな本が置かれた鉄製でも木製でもない机。

 腰かけている椅子は程よく固く、座り心地の良い。

 背凭れに身体を預けるとギシギシと音を立てながらも支えるように角度を変えている。

 同じような机と椅子が広い室内に並んでいて、何処かの執務室のようにも見えるが何故自分がここに座っているのかが理解できない。

 今日は食事処ナオで食事をしようとアルミンとミカサと共に出掛け、いつものカウンター席で注文をしようとしていた筈だ。

 なのに気が付けば全く知らない場所に居る。

 …白昼夢か何かなのだろうか?

 服装もよれよれのシャツに訓練兵団の制服ではなく、真っ白なシャツに紺色のスーツ、青のネクタイになっているし…。

 脳内が状況に追い付けずに混乱を極めていると背後に誰かが居る気配を感じて振り向き、大慌てで立ち上がった。

 

 「リヴァイ兵長!?」

 

 そこには壁外調査に出ていて居る筈の無いリヴァイ・アッカーマン兵士長が、白のシャツに黒のスーツ、赤のネクタイという格好で立っていた。

 普段眼つきの悪いリヴァイだが、今はそれ以上に怪訝な表情でエレンを見つめていた。

 

 「新しい階級を作るな」

 「へ?あ、はい…」

 「まぁ、良い。昼飯食いに行くぞ」

 

 メシに誘われたのは嬉しいのだが、それより状況の説明をして欲しいのだが…。

 そうは思ってもこの光景が当たり前のようにしているリヴァイ兵長にどう伝えれば良いのか分からず口どもってしまう。

 昼休みでひとが込む時間帯だというのに動きの遅いエレンにリヴァイはイラっとする。

 

 「早くしろ。置いて行くぞ」

 「ま、待って下さいよリヴァイ課長(・・)

 

 状況にも会話にも全く付いていけてないエレンはとりあえず内ポケットに入っている財布を確認して(・・・・)、リヴァイ課長の後に付いて行く。 

 建物を出ると高層ビル群が並び、道はアスファルトで舗装され、車が信号機に従って進む光景が飛び込んで来た。今まで見た事ない光景の筈なのにどこか違和感なく受け止めている自分が居る。

 受け止めながらも不思議な感覚に包まれたエレンはただただリヴァイに続いて、とある一軒の飲食店に辿り着いた。

 ちょうど入り口から見知った顔ぶれが出てきたところだった。

 

 「アルミン?」

 「あ、エレン」

 

 保育士をしている(・・・・・・・・)アルミンはシガンシナ保育園の制服である黄緑色のエプロン姿で、両手にはお持ち帰り用の袋を下げていた。

 どうして今アルミンが保育士をしていると思ったのか疑問を抱く。が、その答えは出る事はない。出たとしてもこの妙に現実味のある夢だからぐらいだろう。

 エレンの疑問に気付かずにこやかにアルミンが近づいてくる。

 無論大きく揺らして中身が崩れないようにしてだが。

 

 「エレンは今から食事?」

 「あ、あぁ」

 「ならちょうど良かったね。今日は空いていたみたいだから」

 「それは良い話を聞いた。ならとっとと席を取られない内に入るぞ」

 「あ、はい。アルミンまたな(・・・)

 「うん、またね」

 

 置いて行かれないように付いて行き、アルミンとは手を振って別れる。

 勝手に扉が開き(自動ドア)、店内に入ったエレンは先にカウンター席に付いていたリヴァイの隣に腰かける。

 渡されたメニュー表を開いてメニューを確認すると。そこには牛丼をメインとしたトッピングや期間限定メニューが並んでいた。

 どうもリヴァイ課長の様子から常連らしく、メニューを見るまでもなく決めているが、エレンは牛丼という料理は何なのかと文字を読んだり、絵を見たりして予想する。

 と言っても食事処ナオで見た事のある醤油を使ったタレや塩だれなどしか想像出来ないのだが…。

 

 「珍しいですねアッカーマンさんがお持ち帰りではないのは」

 「今日は連れが居るからな。たまには良いだろう」

 

 店員がリヴァイに話しかけた事で視線がそちらに向くと、茶色と白の制服を着た総司がそこに居たのだ。

 驚きの余り声も出ずに凝視していると、視線に気付いた総司がエレンに微笑みかける。

 

 「イェーガー君は今日はどっちにするのかな?」

 「へ?どっちとは…」

 「いつもチーズかネギ玉を選んでいただろうが…」

 

 呆れた様子でリヴァイに言われるもそもそも“牛丼”という食べ物が解かってない。その上でチーズかネギ玉かと聞かれても困るというものだ。

 

 「おい、早くしろ」

 「えと…だったら牛丼の並みで」

 「牛丼の並みと大一つずつですね。承りました」

 

 注文を受けた総司は厨房へと戻って行った。

 明るすぎるように感じながらもどこか落ち着く雰囲気を肌で感じながら暫し待つ。

 遠目ながら厨房の方を眺めていると、手早く牛丼が出来上がって行く様子に目を見張る。

 次々に出来上がる様子からこれは然程待たなくて良さそうだなと、手際の良さに感心する。

 そのエレンの見立ては正解であり、注文してから十分もしない内に総司が牛丼をトレーに乗せて運んできた。

 

 「お待たせしました牛丼の並みと牛丼の大です」

 

 目の前に置かれた牛丼(並み)から食欲をそそる香りが昇る。

 食事処ナオで嗅いだことの有る醤油の匂いが混ざっていた事に安心感を覚え、牛丼(大)を早速食べ始めているリヴァイに続いて食べ始める。

 柔らかくも噛み応えのある牛肉の食感に驚く間もなく、溢れ出た牛肉の脂と甘辛い汁によって口内が蹂躙される。

 これは美味い!

 そしてこれは非常に米が欲しくなる。

 焦る気持ちからかっ込むように米を口に入れると、米に濃い目にタレが染み込んだ牛肉が合わさる。噛めば白米のもっちりとした食感に牛肉が包まれ、タレと牛の味わいが白米と絡まって程よい味わいを生み出す。

 一緒にかき込んだ玉葱はとろりと柔らかく、舌の上で溶けるようだ。しかも溶けると玉葱の甘みを含んだタレが広がり、さらに白米が欲しくなる。

 がっついて食べているとどうも量が足りない気がする。

 気がするどころではない。

 絶対に足りない。 

 この並みというサイズなら二つは行けそうと判断したエレンは先ほどリヴァイが口にした二品を注文することに。

 まさかの追加注文にリヴァイも火がついたのかチーズの一番大きいサイズを注文する。

 そんなリヴァイを気にする余裕もないエレンは追加の注文が届くまでに残っていた牛丼(並み)を一気に食らった。

 ちょうど食べきって、水で流していると追加の二品が目の前に置かれる。

 料理にアクセントか薬味として使われているとしか見ていなかったネギが「私が主役です」と言わんばかりに牛丼に乗せられ、さらにその上に卵の黄身だけを乗せた“ネギ玉牛丼”。

 牛丼が見えなくなるほどチーズを振り掛けて、熱でトロリと溶かした“チーズ牛丼”。

 見た目から異質ながら美味そうな二品に辛抱貯まらずエレンは手を伸ばす。

 ネギ特有の香りが鼻一杯に広がり、ほのかな甘味や刺激など豊かな味わいが牛丼と絡まって深みを増していく。そこに黄身を割って混ぜるとまろやかなコクが加わり、もはや食べる手が止まらなくなる。

 半分ほどネギ玉牛丼を食べたエレンはチーズ牛丼へと変える。

 さすがにお行儀悪いけれど好奇心は止められない。

 リヴァイが口を出すと思いきや、リヴァイはリヴァイでチーズ牛丼を黙々と食べていて気付いていない。

 ならばと言わんばかりにエレンはチーズ牛丼を食べる。

 チーズの濃厚な味わいに弾力がありながらもとろ~りと全てを優しく包む食感。

 牛丼と一緒に食べると強く主張してくるものの、牛丼も負けじと主張し返して競い合い、両者の味がぶつかり合っては混ざり合う。チーズはハンバーグに一番合うものだとばかり思っていたが、牛丼との相性も中々良い。

 

 黙々と種類の違う牛丼を食べるエレンは少し手を止めた。

 

 美味しい…。

 美味しいのだが物足りない…。

 リヴァイ課長と一緒に食べているのだが、お互い黙って食べているので静かで寂しく感じる。

 アルミンもミカサも仕事は別(・・・・)で忙しくてなかなか会う事も少ない。

 いつもなら鬱陶しいミカサのお節介焼きが妙に欲しくて堪らない。

 あぁ、こんなに美味しいのに食べる状況でこんなに気分が乗らないのか…。

 そう思ったエレンはゆっくりと瞼を閉じ、意識が遠のいていくのを感じ…………。

 

 

 

 

 

 

 ……レン………エレン。

 誰かが俺を呼ぶ声がする。

 妙に身体が重く感じる。

 優しく身体が揺さぶられて瞼を開ける。

 視界がぼやけて上手く見えず、少し擦ってから凝視するようにして周りを見る。

 

 「あれ?ここは…」

 

 ようやくはっきりとした周りを見る事が出来たエレンは、横に居る困ったように笑うアルミンと心配そうに見つめるミカサと、自分が食事処ナオのカウンターに突っ伏していた事から、どうやら気付かない内にここで寝ていた事を理解する。

 

 「エレン大丈夫?気分が悪かったりしない?」

 

 本当に心配していたのだろう。

 ミカサが異常がないか聞きながら、身体に異変がないか触って確認を取って来る。

 さすがにこそばゆいのと恥ずかしいのですぐに止めさせる。

 

 「大丈夫だって!」

 「本当に?」

 「本当だって」

 「卒業間近でキース教官の扱きがきつかったから。さすがのエレンも疲れが溜まっていたんだろうね」

 「俺どれくらい寝てた?」

 「到着してすぐ寝たから…十分ぐらい?」

 

 ちょっとした仮眠をとるぐらい疲れていたのかと内心驚く。

 確かに最近卒業間近という事でキース教官の指導は厳しかった。それに加えてエレンは自主訓練も怠らず行っていたので余計に身体に疲れが溜まっていたのだ。

 硬くなった肩をぐるんぐるんと回して凝りを多少ながら解す。

 

 「もし体調が優れないようでしたら横になられますか?空き部屋はあるので遠慮なく言ってくださいね」

 

 心配して言ってくれている言葉より、変わらないエプロン姿の総司にホッと安堵する。

 そうだよな。

 あんな光景あり得ないよな。

 先ほど見たものは夢だったんだと理解したエレンは安心するのと同時に何処か寂しくも感じた。

 壁より大きな建物群に、馬より速い速度で走る車、戦争の雰囲気の無い平穏そうな雰囲気…そして牛丼…。

 ふと、牛丼を思い出してエレンは総司へと振り向く。

 

 「総司さん。牛丼って作れます?」

 

 期待しては駄目だと言い聞かせながら聞いてみる。

 アレは夢の中で出てきた料理で、実際にあるとは思えない。

 けれどまた食べてみたい気持ちもある。

 恐る恐る総司の答えを待つが、総司はあっさり答える。

 

 「牛丼ですか?出来ますけど」

 

 期待薄に聞いただけに、総司の答えはエレンを非常に喜ばせた。

 夢で食べたあの料理が食べれるんだと喜び注文をする。

 

 「だったら今日は牛丼でお願いします」

 

 満面の笑みで注文するエレンにミカサとアルミンは牛丼と言うのが何なのかと首を傾げ、エレンが自慢げに語って興味を持った二人も今日は“いつもの”ではなく三人揃って牛丼を食べるのであった。




●現在公開可能な情報

・幻の牛丼
 エレンが牛丼を知っていた事からエルディアでもメジャーな料理だと勘違いしてしまった総司は、醤油の無いエルディアではどう作っているのかを知ろうと何件もの飲食店を周る。
 しかしながらエルディアには存在しない料理は見つかる筈もなく、どういうことなのかと首を捻るのであった。

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