進撃の飯屋   作:チェリオ

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第28食 チョコレートフォンデュ

 飲食店の忙しい時間帯は昼食時や夕食時。またティータイム時や開けている店は飲食店でも限られる朝食時。

 他の時間帯は比較的緩やかで、店側としては待機状態は維持しつつも気を緩められる。

 食事処ナオもその例にいつもなら当て嵌められていたのだが、今日は開店してすぐに客が入ったのだ。

 入店してきた客はフランツ・ケフカ、ハンナ・ディアマント、ミーナ・カロライナ、エレン・イェーガー、ミカサ・アッカーマンの訓練兵団所属の訓練兵五名であった。

 もう彼らは訓練兵団卒業間近で毎年この時期であれば各兵団に所属を決めているのだが、本年は調査兵団の壁外調査と時期が被り、行われる兵団勧誘の公平性が保てない事から、訓練課程を修了しても訓練兵団所属のまま待機という臨時の措置が取られているのだ。

 訓練が無くなり暇を持て余していた彼らは、混む前に食事処ナオで飯を食いに行こうという事になったのである。

 普段ならサシャやジャン達にも声を掛けるべきなのだが、掛けたら騒がしくなるのは必須。

 人も少ないだろうから今日ぐらいは静かに、落ち着いて食べようとこのメンバーで来たのだ。

 ちなみにクリスタとヒストリアも誘ったのだが、午後三時に行くとの事。

 

 「カップル向けの料理…ですか?」

 

 エレンにチーズハンバーグ、ミカサにプリンアラモード、ミーナにチーズケーキの注文を受けた総司はフランツの言葉に疑問符を付けながら繰り返した。

 いつもならテーブル席に行く筈のハンナとフランツのカップルがなぜカウンター席に座ったのかと、不思議に思っていた今週は午前シフトのアニとファーランが納得いったように声を漏らす。

  

 「総司さんって聞いたら色々勧めてくれるじゃないですか?」

 「だからそういうのもないかなって思いまして」

 「考えた事なかったですからね。確かにそういう料理があっても良いかも知れませんね」

 「…なぁ総司さん。そこの馬鹿夫婦は良いとして、なんで俺達のほうを見るんだ?」

 

 ちらりと視線を向けられた事に不服そうに口にするエレンに総司はきょとんと少し驚きながら答えた。

 

 「お二人(エレンとミカサ)はそういう関係ではないので?」

 「ブッ!?」

 

 思わず咽たエレンはもろにハンバーグが気管に入り込んでゴホゴホと咳き込み、真っ赤に赤面したミカサが慌てながら背中をさすりながら弁明する。

 

 「わ、私達は…その…家族…みたいなものだから」

 「それって恋仲って意味じゃなかったんだな」

 「と、いうか家族(夫婦)だとばかり思っていたが」

 

 アニとファーランの言葉にさらに赤くなるミカサは黙りこくり、そんな様子を見てしまったエレンも気まずそうに俯く。

 ここにジャンが居たならば血涙を流していたんだろうなぁとミーナはニマニマと笑みを浮かべながら眺めていた。ハンナとフランツのバカップルぶりは見慣れて飽き飽きしていたが、初々しいエレンとミカサの反応は見ていて面白いし、宿舎に戻ってクリスタ達と盛り上がれる話題に興味津々だ。

 カップル向けの料理を注文しに来たハンナとフランツはエレンの“馬鹿夫婦”という単語に過剰反応して、「お似合い夫婦なんて」とか「気が早いよエレン」と嬉しそうに呟きながら二人の世界に入り込もうとしている。

 

 注文を受けた総司としては呑気に事を構えられない。

 今まで恋人など居らず“恋人向け料理”というジャンルに疎く、今までそちらに気を回したことが無かったので悶々と頭を悩ましていた。

 要は相手と楽しみながら食べるという事だからパーティ料理で問題はないだろう。しかし、パーティ用の料理は大人数で食べる事を目的に量を増やしたものが大半だ。恋人同士用とは異なるのは容易に判断するが、逆にそういったものに何が必要なのだろうか?

 見た目を考えた色合いに複数人で食べれながらもお互いに楽しめる料理…。

 一つ、思い当たるデザートがあり、ソレを作ってみるかと大きく頷いた。

 

 「デザートでも宜しいでしょうか?」

 「勿論です。あぁ、どんなデザートか楽しみだね」

 「今から期待でいっぱいだよ」

 

 二人は見つめ合ってから総司の作るデザートに興味をもって様子を伺う。

 まず湯をポットで沸かし始め、鍋に牛乳と生クリームを入れてヘラで混ぜながら沸騰しないように温める。

 ポットより湯気が噴き出ると大きめのボウルに湯を注ぎ、ちょっと小さめのボウルに冷蔵庫から取り出したチョコレートを大量に入れて、湯を注いだボウルに浮かせて伝わって来る熱でチョコが蕩け始め、周囲にカカオの香りと強い甘みを持った匂いを放つ。

 ふわりと漂った匂いに頬が緩み、期待はさらに高まった。

 液状にとろけたチョコレートを牛乳と生クリームが入っている鍋に流し込み、アーモンドパウダーと果実酒を加えて優しくかき混ぜる。

 表面に掛けられたパウダーが混ざりきると火を止めて、冷蔵庫から取り出した果物をまな板の上に乗せて、スライスしては皿へと盛り付けて行った。盛り付けが終わると目の前に小型コンロが置かれ、チョコレートが加えられた鍋が乗せられる。そしてその隣に果物を乗せた皿と持ち手が木製で先が鉄製で二つに分かれたフォークが二本だされて用意は完了した。

 

 「これは…」

 「チョコレートフォンデュと言って果物などをチョコレートに浸けて食べるデザートです」

 

 皿の上にはキウイ、バナナ、イチゴ、パイナップルといった果物がスライスされ、ハンナはその彩に魅せられ目をキラキラと輝かせる。

 彼女の嬉しそうな様子にフランツは満足そうに笑みを浮かべる。

 

 「早速食べてみようか」

 「そうね」

 

 フォークでまずイチゴを刺してチョコレートに浸け、口元に近づけるとチョコレートの匂いに香ばしいアーモンドと爽やかな果実の香りが漂ってくる。

 はむっと含めば温められとろりとしたチョコレートによって独特な深みのあるコクと苦み、そして圧倒的で癖になる甘さが広がり、噛み締めればプチプチとした食感の後に、果汁が溢れてイチゴの甘酸っぱさがチョコレートの甘さと混ざり合って、濃い甘みを持ちながらもさっぱりとした味わいへと変化する。

 香りに食感、味のどれをとっても非常に好ましかったハンナはフランツを見つめた。 

 フランツもフランツでバナナを浸けて食べており、しっとりとした柔らかくなったバナナの食感が蕩けたチョコレートと違和感なくマッチし、素朴で優し気なバナナが主張し過ぎるチョコレートの甘味を落ち着かせてまろやかな味わいとなる。

 

 「「フランツ(ハンナ)、これ美味しいよ」」

 

 言葉が見事に重なった事に自然と笑いが零れた。

 ハンナはもう一度イチゴをチョコレートに浸けて、自分ではなくフランツへと差し出す。

 差し出されたフランツは察してバナナを浸け、同じようにハンナへと差し出して、お互いに交差するように差し出された果物を含んだ。

 食べさせ合うという行為を楽しみながら、相手が進めてきた果物とチョコを味わってゴクリと飲み込む。

 

 「うん!この白い果物(バナナ)はしっとりとして合うね」

 「イチゴの甘酸っぱさでさっぱりするから食べやすい!」

 

 まったく違った味に興味が沸き、他の二種類はどうなのだろうとフォークを伸ばす。

 次にハンナはキウイに手を出した。

 噛み締めるとイチゴ同様に甘酸っぱさがあるが、水気が多いせいかチョコレートを味わうよりも先にキウイの酸味が広がり、あとから伝わるチョコレートの甘味が引き出され、べったりと絡まるチョコは薄まって後味がすっきりとする。

 味もそうだがイチゴのように粒々した種を噛み締める度にプチプチと弾ける食感が楽しい。

 

 フランツは歯応えのある肉厚なパイナップルを食べており、強めの酸味が今までのどの果物よりチョコレートをさっぱりさせ、しつこさを軽減していた。一口でかなりの食べ応えがありながらさっぱりしていて食べやすい。

 

 しっかりと味わった二人は先と同じように食べさせあいっこして、周囲の視線を完全に気にしない隔離空間を作り上げる。

 そんな空間から引き摺り出したのはじゃわぁ~と周囲に響き渡る揚げ物の音だった。

 自分達の世界からこちらへ戻って来たことを確認した総司は微笑む。

 

 「どうでしたかチョコレートフォンデュは?」

 「とても美味しいです。果物によって味わいがガラリと変わって面白いですし」

 「二人で食べてて楽しいですよこれは」

 「お気に召して頂いたようで何よりです。こちらも試してみますか?」

 

 差し出されたのは薄くスライスした芋を油で揚げたポテトチップスという食事処ナオで目にするお菓子だ。

 パリッとした食感に塩気と芋の旨味が特徴的な人気菓子。

 食事処ナオに訪れる子供(主にお菓子)から大人(主に酒のつまみ)まで大人気となっている。

 

 「試すという事はこれもチョコレートに浸けるんですか?」

 「はい、そういう食べ方もあるんですよ。それとこの焼きマシュマロもどうぞ」

 

 そう言われてハンナが受け取ったのは串に刺して軽く炙られ、薄っすらと焦げ目の付いたマシュマロだった。

 輪切りにされた緑色(キウイ)白い(バナナ)のは何となく果物なのだろうと分かったが、このマシュマロというものは何なのか見当もつかない。

 一見綿のようにも見えるがこうして出されたからには食べ物なのだろう。

 不安が残しながら物は試しと言わんばかりに勢いよく焼きマシュマロを食べた。

 

 ふわりと軽くもしっとりもっちろとした新食感。

 焼かれた事で口に広がる優しい甘さ。

 銜えたまま串を引けば伸びる粘り気。

 初めて体験するお菓子に頬を緩ませ、串に残っていたもう半分も食べてしまっていた。

 食べてから「これも浸けるものだった」と思って恥ずかし気に総司の顔色を伺う。

 別に気にした様子もなく総司は次のマシュマロを焼き始めており、焼き上がったのを差し出して来た。

 ホッと胸を撫でおろしながら二本目を受け取り今度こそチョコレートに浸けて食べる。

 

 「ん~!これ美味し過ぎるよぉ」

 

 軽く炙っただけでも柔らかかった焼きマシュマロに、温かいチョコレートが加わる事でさらに柔らかく、口の中で幸せと一緒に溶けて広がって行く。

 

 「ハンナ!ポテトもかなりいけるよ」

 「ほんと?」

 

 勧められたハンナは口を開けて食べさせてとアピールし、受けたフランツは嬉しそうにチョコレートでコーティングしたポテトチップスを食べ易いように差し出す。

 パリッとした食感にチョコレートの甘さとポテトチップスの塩気が広がって、今までと違った味に目を見開く。

 

 「本当!塩気と甘味が合うね」

 「だろ」

 「フランツ。あ~ん」

 

 今度はハンナがフランツへチョコレートにつけた焼きマシュマロを差し出す。

 パクリと被り付き、美味しさと驚きから声を漏らしながら食べる様子に微笑む。

 

 「私、イチゴが食べたいな」

 「はいはい。僕はもう一口マシュマロが食べたいよ」

 

 周りの目など元々気にする二人ではなかったが、それ以上に美味しく楽しめるチョコレートフォンデュが余計に二人だけの空間を生成させ、食べ終わるまでフランツとハンナの空間が破られることはなかった。

 

 

 

 

 

 

 満足そうに二人が帰り、コンロや鍋などチョコレートフォンデュの後片付けをしていた総司は自身に向けられている視線に気付いて振り向く。

 すると眉を潜めながら何か言いたげなエレンと目が合った。

 首を傾げながら見つめ合っていると、意を決したのか重々しく口を開いた。

 

 「なぁ、総司さん。それってチョコだけなのか?」

 「それと言うのは…」

 「あの馬鹿夫婦が食ってったフォンデュとかいうやつ」

 

 馬鹿夫婦と言われて一瞬解らなかったが、”フォンデュ”という単語にハンナとフランツの事かと理解してから、エレンの問いに答えた。

 

 「いいえ、チーズフォンデュとかオイルフォンデュなどなど他にも何種類かありますよ」

 「チーズフォンデュ!」

 

 あるかなという想いがあったのだろう。

 返って来た答えに嬉しそうにガッツポーズを取った。

 その様子からメニューに加えた方がいいでしょうかねと思いながら、悪戯を仕掛ける子供のような笑みを浮かべる。

 

 「用意しておきましょうか?」

 「お願いします!」

 「二人用(・・・)ですね」

 「―――ッ、総司さんまでそう言う事を言うんですか!?」

 

 にこやかに笑う総司に、赤らめたエレンが照れ隠しに声を挙げる。

 またも真っ赤に染まったミカサをミーナはニヤニヤと微笑みながら二人の初々しい反応を満喫したのだった。

 

 

 

 この後、甘酸っぱいエレンとミカサの反応を土産に宿舎に戻ったミーナにより女子会が開かれ、第104期女性陣全員が知る事となり、揶揄う目的で口にしたサシャより話を聞いたジャンがこの世の終わりかの様な絶望の表情を浮かべたとか…。




●現在公開可能な情報

・フォンデュ
 フランツとハンナの注文により食事処ナオのメニューに載った新たな料理。
 チョコレートフォンデュは二人よりカップルのデザートとして認知され、ナオに訪れるカップルのデート時のデザートとなった。
 同時にメニュ―に載せたチーズフォンデュは濃厚なチーズとヴルストやパン、クラッカーなどを浸ける為にワインや火酒との相性が良いとの事で、複数人で飲む肴として注文されることに。

 チョコレートフォンデュだが、現状のエルディアでは再現不可能な品である。
 理由はカカオもそうだが、バナナやキウイもエルディアに存在しないので。
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