進撃の飯屋   作:チェリオ

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 すみません!
 また気に入らず書き直しておりました。


第30食 スパゲッティ

 都市伝説というのは大概は人々の良くも悪くもある想いより生まれるものが多い。

 ゾクリとする怖い物から実際に有ったらいいなぁと思わず同意するものまで様々だ。

 ウォール・ローゼ南の突出区であるトロスト区にもそういった都市伝説が存在する。

 曰く、肉や魚を提供する店で、値段は質や量に比べて安い。

 曰く、建物自体が珍しく、中に一歩踏み込むと澄んだ空気に包まれ何時までも居付きたくなる。

 曰く、暴れたり騒ぎ過ぎると店員に投げ飛ばされる。

 曰く、道に迷った時は猫が案内をしてくれたなどなど…。

 他の都市伝説と何ら変わらないお話。

 だけど興味が惹かれる話であるのも確かだ。

 本当であるなら安くて美味しい食事にありつけ、嘘であるならちょっとした暇潰しと真偽をハッキリさせられる。

 

 彼女―――イルゼ・ラングナーにとってはどちらに転んでも良かった。

 調査兵団第二旅団所属で第56回壁外調査でも最左翼を担当し、今までの壁外調査では無かったほど順調な進軍で無事帰還を果たした彼女は、前日に報告書を挙げて今日という休みを都市伝説の真偽を確かめる調査に当てていた。

 と、いうのも今はまだ調査兵団はトロスト区にて待機しているので近かったのもあるし、昼食を摂るなら美味しい所が良いなという想いもあったからである。

 イルゼは歩きながら開いたメモ帳にペンを忙しなく走らせ続ける。

 逐一その場の状況を書き留めるのでメモ帳には書きなぐるように文字の羅列が並び、犯罪がよく起こる路地裏を進むことにいささかの恐怖もないなど勇ましい事を書いておきながら表情は不安に歪んでいた。

 一応ベテランの調査兵ではあるものの、基本臆病寄りの性格なので正直に言うと何時巻き込まれるかと考えて怖がっているのだ。ゆえにメモ帳に強気な言葉を書き綴る事で精神の安定を図っているのだ。

 これは昔からの癖でもあり、死と隣り合わせの調査兵団に入ってからはそれが悪化し、常にメモ帳とペンを手にしている姿が見受けられるようになってしまった。

 最強であるリヴァイや嗅覚が異常なミケなどと並び、別の意味で注目を集めている兵士でもあるのだ…。

 

 不安そうな眼がきょろきょろと辺りを見渡しながら、速足で裏路地を進んで行く。

 足以上の速度でペンが動き続け、ひとページが文字で埋まりきる。

 それだけの不安を抱いているイルゼはあり得ないと思いつつ都市伝説の店、もしくは“案内する猫”が居ないかと必死に探す。

 普通に猫が案内するなどあり得る筈がない。けどそんな戯言にでも跳び付きたい心境にある彼女は必死だった。

 

 ―――黒猫遭遇。

 

 メモ帳にそう書いたイルゼの表情は明るいモノだった。

 黒猫とメモ帳を視線が往復し、黒猫の特徴を書き綴ってゆく。

 ちらちらと見られているナオは明らかに不審者を見る様な表情を浮かべていた。

 ようやくペンの動きが止まったイルゼはナオの前まで来るとしゃがみ込む。

 

 「す、すみません。貴方は美味しい料理を提供する店を知りませんか?」

 

 震えながら縋る様に聞いて来る様子に小さくため息を漏らし、ナオはとことこと歩き出す。

 どうすればいいのかと立ち尽くすイルゼに顎をしゃくってついて来いと示しながら。

 あたふたと慌てながらついて来るのを確認しながら食事処ナオに送り届け、ナオはいつもの縄張りの見回りに戻る。

 件の店を発見できたことに頬が緩み、ペンが激しく動き出す。

 一連の事を書くと店の扉を開ける。

 客の出入りを知らせる鐘の音を耳にし、ふわりと澄んだ空気の流れを肌で感じた。

 驚きを表情で現したイルゼに「いらっしゃいませ」と声が掛けられる。

 慌てて何か言おうとも言葉が出ず、ぺこりと頭を下げると「お好きな席へどうぞ」と言われるがままカウンターの端っこの席に腰かけた。

 店員から水とおしぼりのサービスに感心し、不純物が微塵も浮いていない甘味さえ感じる冷えた水と心地の良い温かさを持ったふわふわなおしぼりの感触に心底驚く。

 イルゼはサービスの事や店の落ち着いた雰囲気、店員の態度などを書き留める。

 軽く書き殴ると手を止めてメニュー表に目を通す。

 記す事も大事だが、今は何か注文した方が良い。

 注文もせず書いていたら店員に不審な目を向けられるだろうし、お腹と背中がくっ付きそうなほどお腹が空いてしまっているのだから。

 さて、何を注文しようかと開いたイルゼは困惑した。

 どれもこれも知らない料理ばかり。

 中には知っているものもあるが、あんな思いをして探したのに何処でも食べれるヴルストとザワークラウドを注文するのも気が乗らない。なにか安くて親しみがあり、それでいて目新しいモノがないか。

 そんな“冒険したいものの安全第一で”とのイルゼの要望を叶える料理に目を止める。

 

 ――スパゲッティ。

 パスタに様々なソースを絡めて食べるエルディアでも一般的な料理。

 ただソースによっては材料費で高値になるのだが、この店はどれも安くあまり変わらない。

 勿論知らないものもあるが、ペペロンチーノ(アーリオ・オリオ・ペペロンチーノ)やカルボナーラ、ボロネーゼなど覚えのあるスパゲッティにホッと安堵を覚える。

 一番のおすすめは“ミートソース”と記載されており、肉のソースなら予想しやすい上におすすめと銘打ってあるからには外れと言う事は無いだろう。

 イルゼは店員に注文を済ませ、今の事を書き留めたら店内の見渡す。

 若者から老人まで楽し気に食事をしている光景に平穏を感じて穏やかな心持ちになる。

 少し騒がしくしている訓練兵の少年少女の会話に耳を傾けながら時間を潰していると、店員が料理をもってやってきた。

 

 「お待たせしました。ミートソースのスパゲッティです。この粉チーズはご自由にお使いください」

 「え、あ、はい」

 

 皿の大半を占める細いパスタ麺の上にひき肉や茄子が混じった赤いソースが装われていた。

 値段と比較してこの量は些か多すぎないかと疑問を抱きながらもフォークを手に取って一口食べてみる。

 美味しい。

 赤いソースからボロネーゼの改良か何かかと思ったら別ものだった。

 まずワインを主体にしたソースではなく、このミートソースはトマトとひき肉を主体にしたソースでトマトの酸味とひき肉から溢れ出た旨味が調和し、さっぱりとしながらも肉の旨味を生かした素晴らしいものであった。

 それとソースと一緒だった茄子とトマトの相性が抜群過ぎて、茄子とソースだけでも一品出来るのではと思えるほど美味い。

 ソースも素晴らしいが麺も素晴らしい。

 普通なら茹でただけの麺がバターと一緒に炒められたのだろう。

 食感は程よく固く、バターの風味がしつこ過ぎない程度に合わさり、ソースと絡む事でコクをつぎ足す。

 これは当たりメニューだ。

 今度からここで食事をするようにしよう。

 とは言っても調査兵団の本部や宿舎から遠いのでたまになるだろうけど、足を運ぶだけの価値がある。

 量が結構あると想っていたが想像以上にお腹が空いてしまっていたようだ。

 少し悩ましいが値段と相談しておかわりを注文することにする。

 自然と頬が緩み、口元がソースで赤らみ始める。

 思わずぺろりと半分ほど食べてしまったが、店員が勧めてきた粉チーズを忘れるところだった。

 ミートソースのスパゲッティと一緒に渡された筒状の入れ物を手に取り、蓋を開けて口をスパゲッティに向けて振ると本当に細かい粒状のチーズが粉雪のように降り注ぐ。

 麺に絡めて含むとチーズの風味が酸味を柔らかくしマイルドな味わいに変えた。

 チーズとミートソースの相性は茄子とトマト同様に良い。

 もう少し掛けてみよう。

 あ…ちょっと振っただけなのにすごく多く出た。

 掛け過ぎな気がするがこれはこれでチーズの味が前面に出て、癖のある味わい。

 悪くない。

 寧ろ良い。

 これはフォークが進む。

 自分でも驚くような速度で食べきってしまったイルゼはおかわりはまだかなと顔を上げると丁度持って来られるところで、待ち切れないと顔に出ていたのか店員が少し急ぎ足で近づいたのには恥ずかしさを覚えた。

 二皿目を受け取り、最初っから粉チーズをかけて食べ始めたイルゼは、鐘の音を耳にして振り返って思いっきり咽た。

 扉を開けて入って来たのは調査兵団エルヴィン・スミス団長であった。

 まさかの団長の登場に驚き咽たイルゼは胸を叩きながら水で流し込む。

 窮地を脱すると息を整えつつ、団長へと視線を向ける。

 昼時になって客が増えており、どうやら相席になるようだ。

 

 ………人が多すぎて気付かなかったがあの席に座っているのウォール教のニック司祭ではないか?

 カウンターからでも見える巨大なチーズタルトを満面の笑みを浮かべて食べている。

 調査兵団とウォール教…。

 犬猿の仲である両者が同じテーブルで食事をする。

 絶対にありえないでしょう!!

 言い争いが始まるに決まっている。

 それも他の人も巻き込む様な形になると容易に想像できる。

 

 巻き込まれては大変だと焦るイルゼはさらにある人物を見つけてしまった。

 新たに入店したお客が同じテーブル席へと連れていかれているのだが、どう見てもリーブス商会のディモ・リーブス会長と息子のフレーゲル・リーブスだった。

 何あのかなりの発言力をもったテーブル席は…。

 それより客が混雑し始めて気付かなかったが店内にちらほらと見覚えのある顔がいくつもある事に今更ながら気付いた。

 

 ミケ分隊にハンジ分隊長を除いたハンジ分隊、元調査兵団団長の姿まである。

 なんだこの店は?

 路地裏にひっそり佇んだ店にしては客に大物が混じり過ぎているのだが。

 思わぬ人物達と店を比較していたイルゼは予想通りに言い争いが勃発した事に頭を悩ませた。

 ただその言い争いの内容が「この豪華なチキンライスが一番なのは明白だ」「何を言うか!この我らを護りし壁の如く雄大さを秘めたチーズタルトこそ至高よ!」「馬鹿をいうなよ。食事処ナオ特製のタルタルソースをかけたフライが絶品なのは常識だろう」などと自分が注文した料理こそ一番美味いと言い争っているのだ。

 しかも一つのテーブルから議論は店内全域に広がり、そこら中で言い争いが勃発し始めた。

 危うくミートソースのスパゲッティが一番ですと言いかけた瞬間に、店内は一気に静けさが支配した。

 

 「テメェら、黙って飯も食えねぇのか?」

 

 調査兵団最強の兵士。

 リヴァイ兵士長のひと睨みは店内の騒ぎを収めるには充分すぎた。

 ため息をつきながら空いている席を探すリヴァイに総司が一言を告げた。

 

 「すみません。今席がいっぱいでして少し待っていて貰っても宜しいですか?」

 「……なに?」

 

 リヴァイは今まで脳を酷使して提出する報告書を書き上げあげていたので糖分が欲しくて仕方なかった。それと空腹感もあったので待たされるという事に絶望すら感じられる表情を浮かべる。

 そして何処か空いていないかと店内を見渡したのだが、元々眼つきの悪いリヴァイは機嫌が悪くなって自然にきつくなり、飢えた肉食獣が獲物を探すような瞳となっていた。

 意図して見た訳ではないが、目が合ったと思い込んだイルゼは震え上がり、大慌てでスパゲッティを掻き込んで店を後にした。

 慌て過ぎてその場にメモ帳を置いて行ったことに気付かないまま…。

  

 

 

 

 

 

 「今日は面白い客が居たな」

 「面白い客?」

 

 店仕舞いをした食事処ナオではいつも通りのデザートの試食をしようと、アニとユミルに加えてイザベルとファーランも座って待っていた。

 以前は店で暮らしているアニとユミルだけだったのだが、試食の話をイザベルが耳にした為に最近は仕事終わりのデザート試食に参加する為と、女の子に夜道を歩かせる訳にはいかないという事で空き部屋を借りて寝泊まりしている。

 住んでいるという訳でなく、あくまで寝る場所を提供して貰っている形なので休日はファーランと暮らしている家に帰っている。

 待つ間、暇なのでファーランが話題を振る。

 総司に作り方を習っているアニは知っているため興味は無いが、ユミルとイザベルは興味有り気に反応を示した。

 

 「どんな客だったんだ?」

 「それが入店してから終始メモ帳に書き続けてんだよ」

 「敵情視察かなにかか?」

 「そんな感じは無かったな。というかそうだったらもう少し隠れてやるだろ」

 

 言われて総司も具合を確かめながら思い出していた。

 昼時少し手前に訪れたお客でリーブス会長やスミスさん、司祭さんと相席して貰ったお客さんで、結構表情に出る女性で分かり易くスパゲッティを気に入ってくれていたっけ。

 

 「食事中も食べながら物凄いスピードで書いてたっけ」

 「なんか気になるなぁ」

 「確かに」

 「……そのメモ帳ならあるよ」

 

 トレーに色とりどりな一口タルトを乗せたアニが呟いた一言に気になり始めた三名が振り返る。

 イザベルだけは発言よりもアニが運んでいる一口タルトに意識が向いているが…。

 あれだけ必死に書き、手に持ち続けたのにどうして忘れたかなぁなんて話しながら笑い合う。

 忘れ物を保管している戸棚に視線を向けると持ち主に忘れ去られたメモ帳が鎮座している。

 

 「なら見てみるか?」

 「駄目ですよ。勝手に見たら」

 

 本当に見そうなユミルとファーランに総司が釘を刺しておく。

 

 「見てもバレないって」

 「バレるバレないではありません。そういうされたら嫌なことはしない」

 「えー…」

 「それ以上言うのであればこれはお預けですね――――連帯責任で全員」

 「なぁ――――ッ!!」

 「解った。絶対に見ない」

 「宜しい」

 

 さすがのファーランもイザベルの悲壮感漂う驚きからの怒りを込めながら涙目での睨みにはばつが悪そうに発言を撤回した。

 満足そうに笑みを浮かべた総司は皆の前に一口タルトを置く。

 種類はチョコレート、クリームチーズ、ブルーベリー、ストロベリー、ピーチと種類が豊富で、お持ち帰り用も兼ねたデザートとして提供しようと試作したのだ。

 出来れば後三種類ほど増やしたいのだがそれは追々考える事に。

 四人が様々な反応を見せながら食べる中、総司はふとリヴァイに頼まれた事を思い出す。

 

 「そういえば明日なんですがね。お客様が来ます」

 「―――ん?明日って休みだろ」

 「はい、そうなんですけどね。なんでも平日に来たら絶対に他の客に迷惑をかける奴との事で休みに開けてくれないかと」

 「勿論断っ―――ってないのかい」

 「いえ、断ったら自分達の制止を聞かずに突入するだろうと言われれば仕方ないではないですか」

 「仕方ないって言いながら笑ってる」

 「休みでも料理が出来んのが嬉しいんだろうね」

 

 指摘とアニの冷たい視線を受けて咳き込み、にやけた顔を元に戻す。

 

 「と言う事なので明日は店を開けますが、休みなので皆さんは休日通りに過ごしてください。昼食を食べに来たいと言うのであれば作りますよ」

 

 アニは休みなのに働くという総司に「ちゃんと休みなよ…」と諦め交じりの睨みを向けるが、諦めるほかないのだろうとため息を吐いて食べに来るとだけ伝えた。




●現在公開可能な情報
 
・食事処ナオの悩み
 最近常連客が増えてきたのは嬉しいのだが、人手が足りなくなってきている。
 フロアではなく料理人の方がである。
 現在は総司が同時に三品から時間が掛かるものなら五品を調理していても手一杯。
 アニが料理を覚え始めているので最悪フロアか厨房に一人雇いたいところだ。
 一応新たに求人募集のポスターを張っている。
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