進撃の飯屋   作:チェリオ

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第31食 中華②

 研究開発を主に行っている第四分隊メンバ―は、休日に開けて貰った食事処ナオに訪れていた。

 同じ分隊の仲間であるニファが奇行――コホン、探求心の塊のような第四分隊長のハンジ・ゾエに壁外調査時に渡された食事処ナオの弁当を見られた事が原因だ。

 食事処ナオはエルディアでは知られていない料理や食材、調理機具を扱う飲食店。

 そこの料理を目にしただけでなく口にしたハンジ分隊長が興味を惹かれない訳が無かった…。

 いずれはバレるだろうから時を見て話す……という未来の自分に丸投げしていたツケが回って来たのだろう。

 店内に入るや否や子供のようにはしゃぎまわり、矢継ぎ早に総司に質問をマーレ軍の機関銃のように放つ様子に頭痛すら覚える。

 休日に開けて貰っただけでも迷惑をかけているのに、さらに上乗せするとは本当に申し訳ない気持ちでいっぱいだ。

 しかも来る筈だったリヴァイ兵士長はエルヴィン団長に呼び出されてここに来れないときた。

 唯一にして絶対のハンジへの抑止力を失い、もしもの時は力尽くでも押さえ付ける覚悟で第四分隊の面々は来ていたのだが、目の前で起こった事柄に感嘆を漏らす。

 矢継ぎ早な質問に対して穏やかに対応していた総司であるが、厨房に無理に踏み込もうとしたハンジに対して様子を伺っていたアニが投げ飛ばして組み伏せている。

 あまりの技術に目を見張るものがある。

 それに一般人ではなく訓練を受けた調査兵を組み伏せたという技術はかなりのものだ。

 

 「お客様、厨房に無断で入り込まれるのは困ります」

 「あはは…、以後気を付けまぁす」

 

 今後、食事処ナオに訪れる際はあの子(アニ)が働いている時にすれば問題はないかも。

 後で勤務表を教えて貰えないか聞いてみよう。

 対処前提に物事を考えている時点で問題が発生しているのだが、そのあたりに考えが及ばない辺り一般常識が麻痺しているモブリットは生暖かい目でハンジを眺めるのであった。

 

 

 

 

 

 拘束を解かれたハンジは服が汚れた事や組み伏せられた事に一切気に留めず、メニュー表や店に置いてあるあらゆるものへ意識を向けていた。

 厨房にある機械に興味津々であるが、これ以上怒らせて叩き出されると聞くことも出来なくなるし、リヴァイに後で何をされるか分からないからね。今は少し(・・)抑えてモブリット達が美味し過ぎるという料理に舌鼓を打つことにしよう。

 それにしても本当に知らない料理がいっぱいだね。

 

 「ねぇ、モブリット。どれがおすすめなのかな?」

 「私達が勧めるのは中華料理ですね。みんなで分けるのでそれで良いですか?」

 「あぁ、それで頼むよ」

 

 ニファがこれが良いと口を出しながらモブリットが注文する品を見繕う。

 途中ビールと言う酒を勧められるが、どういったものなのかと判断するにあたってアルコールを摂取して脳の活動を低下させたくないので断り厨房の様子を眺める。

 気になる品々もあるがとりあえずソレらは今は置いとくとして、今は調理する様子が見えている事に注目していた。

 注文を受けた総司はテキパキと調理を始め、その様子は客席から丸見えだ。

 味などを模写されないように隠したりする店や、作っておいた料理を焼いたり炙ったりして注文を受けてから作るという手間を惜しんだりする所も存在する。

 けれどこの店は隠すことなく調理する光景を見せるばかりか、目の前で調理する事で発生する香りや音でさらなる空腹感と食欲を駆り立てる。

 これは味次第ではあの件(・・・)を頼んでみるのも良いかも知れないとニヤリと微笑む。

 そんなこんな考え込んでいると料理が出来上がり、到着と同時にモブリットが小皿に分けて行く。

 

 「へぇ~、本当に変わった料理ばかりだねぇ」

 

 見た事もない料理に目を爛々と輝かせて、人数分の皿に分けるモブリットに待ち遠しいと視線で訴えかけると呆れたような視線を返され、四種類それぞれの料理を分けた小皿を差し出される。

 受け取るとそれまで漂っていた香りが余計に近くなった為に濃くなった食欲の湧く匂いに空腹感が刺激される。

 空腹感に誘われるままに勢い任せに食べようとした自分を諫め、じっくりと味わおうとレンゲをとる。

 

 まずはこの海老シュウマイから行こう。

 海老はニファの弁当に入っていたエビチリから知っているし、またあの海老の食感を味わいたいと思っていたのだ。

 ちなみにニファが追加した料理はこれである。

 ひょいっとひとつ口に放り込み薄皮に詰め込まれた肉をムニムニと変わった食感を噛み締めていると、乗っていたエビのぷりぷりとした食感が躍り出す。

 肉の旨味にエビの淡白な味わいが混ざり合う。

 いや、肉の味より海老の味の方が濃く感じ、主役は私だ!と主張してくる。

 食感も口当たりも優しく食べやすい。

 

 「このエビを使った料理も美味しいね」

 「ですよね!この食感がなんとも言えなくて」

 

 本当に美味しそうに食べながらニファの言葉に同意する。

 川海老と種類が違うと聞いたが今度調査、もしくは調べてみるのも良いかも知れないな。

 今後の詳細な予定は後で考えるとして、次の料理を確かめるとしよう。

 

 次はとろりとした半透明なタレが掛かったこんもりとしたオムレツ……いや、米の上にタレの掛かったまだ半熟を残した卵を掛けた料理――天津飯。

 白いご飯の上にとろりとしたタレ(あん)と卵が掛かった天津飯をレンゲですくってぱくりと噛み締める。

 とろりと滑らかなあんに半熟卵が混ざり合い、米を包み込むだけでなく味を浸透させてゆく。

 上にちょこんと乗ったグリーンピースは色合いだけでなく、青臭さが良い感じだ。

 塩気と甘味を共存させ優し気な味わいにお腹も心も妙な落ち着きをもたらす。

 

 落ち着いた事で思考回路が緩やかになりそうになったところに喝を入れ、残りの二種類の料理を確かめようと三つ目の皿を手前に寄せる。

 ひとつ持ち上げるとよほど柔らかいのかレンゲより飛び出している部分がくたりと垂れ下がる麻婆茄子。

 興味津々にそのまま口に放り込む。

 茄子はとろりと舌で切れるほど柔らかく、つぶつぶとしながらも豚のひき肉はしっかりとした歯ごたえ。

 とろりと絡まるソースはピリッと辛いがそれがアクセントとなり、食欲を引き立てる。

 これはモブリット達が酒を注文するのも納得だ。

 頭を働かす事を考慮しなければ私も注文する所だった。

 誘惑を跳ね除け、水を飲んで口に残る後味を流せば四種類目の皿へとレンゲを動かす。

 

 見た目は食べた三種類のように単色に寄ったものではなく、赤・緑・黄と三色の細切りにしたピーマンや肉で色合い豊かな青椒肉絲。

 牛ももの細切りは細長くとも噛み応え充分で、噛めば噛むほど肉の旨味が溢れる。 

 ピーマンの苦みが美味しい。

 たけのこも細切りでコリコリとした食感が堪らない。

 ソースは香ばしいごま油の香りに濃い貝の旨味たっぷり。

 これは米とも酒とも合うだろうなと思いつつ一通り味わったハンジはコップの水を飲み干し、一息ついたと思ったらがっつくように食べ始めた。

 味の確認は終了した。

 ならば今度は普通に料理を楽しもう。

 パクパクと口の中へと料理が消えていき、皿にはタレが残っているだけとなったハンジは物足りなさにメニュー表を開く。

 他の面々はビールを頼んで幾分か膨れているが、注文しなかった分だけまだ余裕があるのだ。

 けれどまた何を頼めば良いのかという問題が発生する。

 モブリットに聞こうかと思ったところで、料理人である総司に聞くのが一番ではないかと至ったのだ。

 

 「ねぇ、この中華でおすすめって何かな?」

 

 この何気ない言葉に総司とハンジを除く全員が凍り付いた。

 中華で総司が勧める物などアレしかない。

 理解したナオが転がっていた台から飛び降りて店外に避難する。

 総司が答える前に何か他の物をと考えた一同より先に総司の口が動いた。

 

 「私のお勧めは麻婆豆腐ですかね」

 

 この店で三大料理と称される料理の一角“麻婆豆腐”。

 三大料理は決して良い意味で呼ばれているのではなく、客にとっては悪い意味で呼ばれている総称。

 中でも麻婆豆腐は実害をもたらせた料理で、総司が作る麻婆豆腐は非常に辛いのだ。いや、非情に辛いのだ。

 一口食せば口の中が辛さでやられ、ちょっと辛い物は平気と口にする者はたった一口でKOされる品物…。

 これは総司よりも彼の辛い物好きの父親が原因で、客には出せないが家ならばと辛い物好きには美味しい(・・・・・・・・・・・)麻婆豆腐を作っていたのだ。幼い頃よりそれが麻婆豆腐だと思っていたので店で提供するものも自然とそうなってしまった。

 不幸なことにそれが異常であることは、普通の麻婆豆腐を食べたことの無いエルディアでは指摘する人が居ない事であろうか…。

 

 「その麻婆というのはどんな料理なのかな?」

 「えーと、香辛料を使ったタレでこの豆腐を煮た…少々(・・)辛味の有る料理ですかね」

 「トウフ?」

 「あぁ、ここら辺では馴染は無かったですね。これが豆腐と言って豆から作った食材です」

 

 注文してしまったハンジを気遣ってどうやって他の料理に意識を持って行かせようかと悩んでいる面々の前で、総司がハンジの探求心に燃料を投下してしまった。

 純白の四角いものが豆から出来たと聞いてハンジは案の定強い関心を持った。

 

 「これが豆を使ったものなの!?興味沸いてきたね」

 「分隊長…それは…」

 「なら麻婆豆腐を一つ注文しようか」

 「ありがとうございます」

 

 止めようと思うも確実に逆効果にしかならないだろうと第四分隊面々は頭を抱えながらも、好奇心は猫をも殺すという言葉を分隊長に教えられる機会なのではと妙な感情に包まれていた。

 そんな想いを全く気付いていないハンジは調理する光景を眺める。

 取っ手に対して大きく丸みのある鍋(中華鍋)に油を撒き、豚のひき肉を炒め始めた。

 じっくりと肉に火が通り白くなって焦げ目が付くまで炒めたら急に総司の動きが変わった。

 丁寧に落ち着いた感じでいつもなら調理しているのだが、火が通ると豆板醤や甜麺醤、花椒などの調味料に豆腐や長ネギなどの具材を投入しながらゴンゴンと鍋とコンロがぶつかる音がするほど力強く鍋を動かし、お玉を忙しなく動かしてかき混ぜる。

 

 「おぉ~、豪快だねぇ」

 「分隊長、身を乗り出し過ぎです。火傷しますよ」

 「大丈夫、大丈夫」

 

 期待からか目を爛々に輝かせるハンジにモブリットはこの先どうなるかを考えて頭を痛める。

 出来上がった麻婆豆腐を皿に盛ると、ハンジの目の前に置く。

 

 「お待たせしました。麻婆豆腐です」 

 

 目の前に置かれた麻婆豆腐に興味津々なのはハンジだけで、他は視界に入れた瞬間から若干引いている。

 底の深い皿に盛られた赤黒い液体に浮かぶ真っ白な豆腐に長ネギ、豚のミンチが姿を覗かせ、あたかも美味しそうに客を誘っているが、モブリット達は理解している。その誘いは悪魔の誘いだと…。

 

 「これが麻婆豆腐。真っ赤だねぇ。まずは味を確かめよう。では早速頂きますっと」

 

 止める間もなく一口分すくい、ハムっと加え込んだ。

 この後の反応を予測している総司以外の面々は耳を塞ぎ、視線だけはぴたりと動きを停止したハンジへと向ける。

 時が制止したようにレンゲを口に突っ込んだまま動かなくなったハンジの手が、肩が、身体が震え始め、顔に汗が浮かび始める。

 

 「かっっっらぁあああああああああい!!」

 

 外まで響く叫び声を何とか耐え凌いだ面々は予想通りの光景にため息を漏らす。

 顔は俯いて表情を伺う事は出来ないが、机に付いた両拳が力強く握られ震える事から耐え忍んでいると推測される。

 舌や脳を麻痺させるのではと思うほどの辛さに苛まれているのは事実で、モブリット達の考えは半分は(・・・)正解だった。

 

 「お水ですよ。飲めますか?」

 

 気遣ってモブリットが水が入ったコップを差し出すと、ゆっくりとハンジは手を伸ばした。

 ただ伸ばしたのはフリーな左手ではなく、レンゲを握り締めたままの右腕だ。

 伸ばされた右腕は麻婆豆腐に真っ直ぐ進み、また一口分すくうと口へと運んでいった。

 見ていたから麻婆豆腐を食べたのは分かっているが、驚きと予想外過ぎた事から思考が停止する。

 それでもいつも予想外なことに巻き込まれて耐性が一番高いモブリットが真っ先に我に返って声を挙げる。

 

 「何してんですか分隊長!!」

 

 解っている。

 モブリットの叫びに同意しながらもハンジは舌に残る感覚を頼りに沸き起こる探求心を止める事は出来ない。

 この麻婆豆腐は辛い。いや、辛いなんて生易しいモノではない。痛いのだ。食べると舌が焼けるようで口内に痛みが発生する。しかもアツアツなために辛さが倍増しているようで口の中で溜めておくとじわじわと痛みが増す。

 ゴクリと飲み込むと辛さと熱さから喉を通り過ぎて行くのが鮮明に伝わり、身体が一気に内部から熱せられる。

 強い刺激で味覚や脳が麻痺したかと思えば過ぎれば逆に鮮明に働き出し、最初と違った後味が口内を広がっていた。

 

 豚のひき肉と刻まれた長ネギの強い旨味。

 辛味がアクセントとなり、入っていた香辛料が香り出す。

 じわりと強く残る後味が痛みを知った筈の麻婆豆腐を強く欲する。

 あの猛烈な痛みや辛さをまた味わってでも食べたくて仕方がない。

 二口目を含んでゆっくりと噛み締めると豆腐の柔らかく、滑らかな舌触りが灼熱のように感じる口内で踊り、喉をつるりと心地よい喉越しを残しながら通り過ぎてゆく。

 

 「死ぬほど辛いけど、めちゃくちゃ美味いぜぇえええええ!!けどやっぱ辛ぇええええ!!」

 「分隊長、喰い急ぎ過ぎです!」

 

 心配する周りを無視してもう一口、また一口とパクリパクリと食していく。

 顔から大粒の汗が垂れ、汗で湿気たシャツがぺたりと肌にくっ付き、微妙に湯気が立っているようにも伺える。

 辛いけど美味くてもう手が止まらない。

 否!手を止めたらそこで痛さと辛さに臆して食べれなくなる気がする。

 だから手を止める訳にはいかないのだ。

 最後は掻き込むようにして食べきったハンジは身体に溜まった熱気を放出するように息は吐く。

 

 「だ、大丈夫ですか分隊長…」

 「いや、あはは…。ここは凄いね。噂通り…いんや、噂以上だよ」

 

 腹も満たされたが、彼女の好奇心はまだ満たされていない。

 聞くべき事、調べるべき事は多くある。

 捻るだけで火が付く仕掛けに、回すだけで出て来る水。冷気すら放出する食糧庫。

 今度は好奇心を満たさせてもらおうと総司へ視線を向ける。

 

 「あ!そうだ。渡すものがあったんですよ」

 「ん、何かな?これは…」

 「えっと折り畳み式のテントです」

 「テント!?このサイズでかい」

 「まぁ、それは家族用のやつですけどね」

 

 総司は折り畳み式のテントを奥より出すと他にも折り畳み式のテーブルに椅子、寝袋にクーラーボックスなどを次々と渡して行く。

 進撃の世界にはまだない技術を用いた道具の数々にハンジの好奇心は注がれ一人ぶつぶつと呟き出した。

 

 「どうしたんですかこれらは?」

 「アッカーマンさん…いえ、リヴァイさんに頼まれたんですよ。何か面白そうな道具があったらハンジに譲ってくれないかって。調査兵団の方々は外で活動することがあるとの事でお古ですが父のキャンプ道具を持って来たんですよ」

 「良いんですか?貰っても」

 

 どう見ても調査兵団には無い技術を何処からか持って来た総司に疑問と本当に良いのかと許可を確認する。

 

 「構いませんよ。父も新しいの買ってこれらを処分するのに困ってましたから。寧ろ貰ってくれた方が助かります」

 

 あっけらかんと答えられ、知らない技術から活動が知られない中央憲兵、もしくはマーレなど他国の関係者などと疑ったのが馬鹿らしく思えた。

 ……なんて気楽に想っている場合でないのをモブリットは肩に手を置かれるまで気付かなかった。

 振り返ると気持ち悪い笑みを浮かべ、今にも涎が零れそうなぐらい興奮しているハンジの顔が…。

 

 「さぁ!今日は帰ってこれらを調べ尽くすよ!!」

 「あの分隊長…今日は休日では…」

 「うん、そうだね。存分に調べ尽くせるね!」

 

 …駄目だ。もう探求心に突き動かされてこちらの意図を全く理解していない。

 さっとニファ達に視線を向けるがそっと背けられてしまった。

 こいつら私を見捨てる気だと理解すると同時に首根っこを掴まれ引き摺られる。

 

 「さぁ、行くよモブリット!」

 「分隊長!貴方に良心はありますかああああああぁ」

 

 遠退いて行くモブリットの叫びにニファ達は見送り、ハンジとモブリットの分の支払いも含めて済ませて帰っていくのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 おまけ【麻婆豆腐が恐れられた日】

 

 その日はいつもと変わらない一日の筈だった。

 いつも通りに客からの注文を取り、出来上がった料理を運ぶ。

 本当に変わらぬ一日……それが変わったのは昼頃だ。

 食事時である昼飯時を過ぎてひと段落した頃、人も少なくなった事で総司が賄いを口にしていた。

 涼し気に笑みを浮かべながらパクパクと食べている料理が気になった。

 赤黒いタレ(麻婆)白いナニか(豆腐)が浮かんでいる。

 首を傾げながら問いかける。

 

 「それナニ?」

 「―――ん、これですか?これは麻婆豆腐っていう料理ですよ。メニューには中華の欄にあった筈ですが」

 

 メニュー表を思い出して確かにそんな一覧があったのを思い出した。 

 あの辺りの料理を頼む客は少なくて(モブリット達のみ)、知る機会が少なすぎるのだ。かと言って自ら注文するもの引けて、いつも通りのチーズハンバーグなどを頼んでしまう。

 鍋に見るとまだ残っているようだ。

 

 「それアタシも食べていいかい?」

 「構いませんよ。ただ少し(・・)辛いですよ」

 「平気。辛いの苦手でもないし」

 

 許可も取れたという事で鍋に残っていた麻婆豆腐を皿に盛って、同じくレンゲを手に取って一口すくって、何気なく含んだ。

 

 「―――――ッ!?」

 

 ナニコレ!?

 辛い!

 熱い!

 痛い!

 咄嗟に吐き出しそうになったのをグッと堪えて、無理やりに飲み込む。

 

 「どうしました?」

 

 酷く顔を歪ませたアニに涼し気な笑みを浮かべて問いかけて来る総司をギロっと睨む。

 何が少しかと食って掛かるが、これぐらいが麻婆豆腐の普通ではと返され戸惑う。

 口に合わなかったと勘違い(・・・)した総司は謝罪に、別のものを作ると申し出て、口内に強く残る辛味を薄めるべくデザート系を注文するもひりひりとした感触が残るのであった。

 

 そして一連の光景を目撃してしまった客はあのアニ(・・・・)が顔を歪めたことに麻婆豆腐に恐怖し、興味が湧いて面白がった客が他の客に勧めて恐怖は広がっていった…。




●現在公開可能な情報

・残りの三大料理
 一つはこの回にて登場した激辛麻婆豆腐。
 残る二つは“刺身を用いた料理”と“うな重”である。
 
 刺身…生魚は当たる(食中毒)可能性が高く、養殖場などから遠いので腐り易い。
 その点から客が恐れて注文しない。

 エルディアでの鰻と言えばヨーロッパの料理と同じでゼリーでよせるかぶつ切りで蒸すしかない。
 小骨が多く、美味しいという認識がない上に“うな重”は食事処ナオでは高額メニューなので誰も注文しないのだ。

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