進撃の飯屋   作:チェリオ

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 予約投稿していたのですが気に入らず書き直していたら遅くなりました。すみません…。


第34食 ソイミートのハンバーグ

 エルディアでは毎年各兵団合同での“活動報告会”と言う一種の催し物を開催する。

 名の通りに各兵団のこれまでの活動記録や活動内容、そして去年から今年に得た新たな戦果などを一般市民に説明するものである。

 この会には一般市民に知ってもらう以外にも先輩達に説明を受けながら所属したばかりの新兵達が主だって調べたり準備したりするので、入団した兵団がどういうものなのか。どう言った事をしてきたのかと言う事実と歴史を詳しく知る勉強会にもなっているのだ。

 活動報告会は講演会のように時間を決めて壇上から説明するのではなく、時間に囚われない展示会方式となっており、当然ながら時間に囚われない為に昼や夕方に赴く人も当然ながら居る。

 人が自由に集まるのであればそこは商人にとっては商いの場となり、いつの間にか活動報告会では露店が出店するようになった。そうなって来ると兵団一財政難の調査兵団が乗り出すのは当然の結果だったろう。

 調査兵団が露店をするのならと他の兵団も負けずと出店し、これを面白がった貴族が王に話をして一番稼いだところには賞金が出されるという制度を作ったのだ。

 売上勝負の賞金と言ってもかなりの額で、一番それに喰いついたのは調査兵団―――ではなく憲兵団だった。

 この活動報告会は兵団の活動報告をメインに行うのだから商人達より兵団を優先すべきだと露店出店場所を兵団が有利に確保できるルールを作り、憲兵団は露店で通常の半額以下で肉料理を販売。

 元々憲兵団は資金が豊富で多少ちょろまかしたところでバレない事から不正が絶えない兵団でもあり、肉を半額にしたところで痛手は少ない。その上で賞金が手に入れば埋め合わせどころかプラスになるのでその分を担当していた上官達がぽっぽ内々するのだというが新兵達や国民の大半は知らない。

 

 調査兵団団長のエルヴィン・スミスは負け続けている状況もそうだが、資金面に難があるのでその賞金を手にしたいと常々思っていた。

 しかしながら入団するのは訓練兵団を卒業した兵士であって料理人ではない。

 もう諦めるしかないかと肩を竦ませていたのだが、今年はそう気を落す事はないと強く思っている。

 

 最近時間さえ作れれば赴いている食事処ナオ。

 他の店では味わえない料理の数々。

 値段も安くて美味しい。

 路地裏にさえなければ今頃王都辺りに出店も夢ではなかったろう。

 

 店主であり料理人の飯田 総司という青年は料理の知識は豊富で向上心があり(料理に関してのみ)、お人好しとまで行くのかは知らないが結構融通や気を利かせてくれる。

 彼と言う料理人の協力を得られれば今年は優勝も夢ではない。

 そう思い立ったエルヴィンは開店直後の食事処ナオに駆けこんで交渉を行っていた。

 急に行動に移したために説明不足のまま跳び出したので後でリヴァイにこってり絞られるだろうがそれは今考えるべき事ではない。

 話を聞きながら何やら調理を始めた総司に頭を下げながら頼み込む。

 

 「身勝手な話だとは思う。だが…それでも引き受けてはくれないだろうか?」

 

 総司には食事処ナオでの生活があり、それを熟しながら活動報告会の手伝いをしてくれというのだから良い返事を期待する方が難しい。

 一応新人団員が主だってやるので総司がすることは調理関係の技能と知識を教える事と、提供する品を考えて貰う事。つまり講師とオブサーバーの役割。

 果たして受けてくれるのか…。

 彼の人柄に賭けるしかない。 

 

 「構いませんよ」

 

 即答だった。

 あまりの即決に「本当に?」と目を大きく見開いて見つめてしまった。

 その様子を伺っていたアニは呆れてため息を漏らす。

 

 「また安請け合いを…」

 「良いではないですか。こういうのもまた面白そうですし」

 「諦めろってアニ。総司はこういう奴だって」

 

 逆に楽し気に笑うユミルにアニはもひとつため息を漏らす。

 

 「ありがとう。早速この話を兵団の方にも…」

 「今試作品を作ってまして、朝食に一つ如何ですか?」

 

 そう言われて調査兵団本部へ戻ろうした足を止める。

 確かに急いでここに来たために朝食もまだだ。

 気にしなければ気付かないというのに、一度気付けば気になって仕方がない。

 ここは素直に頂くことにする。

 試作品と言うからには店に並ぶ新メニューなのだろうと思っていると、目の前に置かれたのはハンバーグであった。

 先ほどから練ったり焼いたりしていたのはこれだったのだなと不思議そうに眺める。

 見た目的にはデミグラスやトマトソースなどではなくタルタルソースが掛かっている以外ではそう変わったようには見えない。そもそもタルタルソースとハンバーグの組み合わせ自体が初めてなのだが。

 眺めているとぐぅ~と腹の音が鳴り、空腹感が早く食べようと急かしてくる。

 兎も角食べてみれば分かるだろうとナイフとフォークを手に取り、ハンバーグを切り分ける。

 食事処ナオのハンバーグは基本柔らかいのだが、このハンバーグはそれ以上に柔らかい。

 ナイフを走らせればスーと簡単に切れる。

 ただいつもなら切ったところから肉汁が溢れ出すところなのだが垂れだす事も無かった。

 脂身の少ないヘルシーな感じに仕上げたハンバーグと言う事か。

 斬り分けた一口分をハンバーグにタルタルソースを乗せて、口の中に入れてゆっくりと咀嚼する。

 やはり総司が作っただけあって美味しい。

 そして自分の想像を超える予想外な品ものであった。

 噛み締めれば脂身が少なくあっさりとした肉厚なハンバーグに、濃厚なタルタルソースが絡まって口内に広がる。

 ハンバーグのソースはデミグラスやトマトソースだと決め込んでいたのだがタルタルソースとも合うのだなと新たな美味しい発見に頬が緩む。

 そう思いながら何度も噛み締めるとコリコリとした歯ごたえがハンバーグから伝わって来る。

 断面を見たところで小さく刻まれて混ぜられているので、何がこの触感をもたらしているのか解らないが、これはこれで面白い。

 何よりあっさりとしたハンバーグにタルタルソースのシャキシャキとした歯ごたえの酸味の利いた玉葱(酢玉葱)が非常にさっぱりして食べやすい。

 ハンバーグは重量もあるが、それ以上に肉で構成される以上は脂が多い。

 食べれば食べるほど脂が回って気持ち悪くなるだろう。

 だが、これは量を考えなければ何個でも食べられてしまう。

 その前に財布の中身が悲鳴を挙げるのは間違いない。

 試食と言う事を忘れてがっつり食べ始めようとしたエルヴィンはギリギリのところで耐えて、先の事を口にすることにした。

 

 「とても美味しいです。さっぱりしていていくらでも食べられそうです」

 「ありがとうございます」

 「それにしても良い肉を使っているのですね。これだけの重量感があってもまったく脂っこくならないとは」

 

 思った事、感じた事をそのまま述べた。

 試作品と言う事は感想を述べた方がと想ったゆえにだ。

 なのに総司はその言葉を聞くとなにやら可笑しそうに笑った。

 変なことを言っただろうかと首を捻っていると何やら野菜類が入った籠を取り出して来た。

 中には大豆にジャガイモ、玉葱にハーブ類、キノコ(エノキ)などの野菜類とタルタルソースの詰まった小瓶が入っている。

 一体何なのだろうかと思っていると総司が微笑ながら答えた。

 

 「これらがそのハンバーグの材料なのですよ」

 「――――なにッ!?」

 

 言われても信じられなかった。

 食感はしっとりと柔らかかったが肉らしき食感は確かに存在した。けれど籠を何度覗き込もうと肉は無く、あるのは野菜類ばかり。

 

 「大豆などを使って肉らしさを出すソイミートのハンバーグです」

 「これが豆で出来ているのか」

 「エノキやジャガイモも入っていますが一番は大豆ですね」

 

 感心しながらもう一度食べるが肉のハンバーグとなんら遜色がない。

 これであの材料だとすれば調査兵団でも手が出る資金で済みそうだし、寧ろ利益で黒字は見込めると商人として素人でも理解出来る。

 もう勝ったなと確信したエルヴィンはさらに話を進める。

 最終的に調理担当は平日は兵団本部で昼食と夕食の下拵えを行い、休日に総司による講習と実地を受けることになった。

 食事処ナオの従業員もバイトと出店を出す権利をくれるならと参加を表明。

 これは明日から忙しくなるぞ。

 とりあえずこの試作品の事を良く知る為に自分が食べて理解せねば。

 話を進めながらおかわりし続けたエルヴィンは、殺気を漂わせるリヴァイが迎えに来るまでソイミートのハンバーグを楽しむのであった。

 

 

 

 

 

 

 エルヴィン・スミスが訪れて数日後。

 調査兵団はトロスト区の一軒の建物を借りて、そこで活動報告会に向けての調理実習や講義を行う用意を整えた。

 勿論調理だけでは回らないので接客担当の育成も必要であり、小遣い稼ぎで参加したイザベルとファーランとマルセル(実際は情報収集)が担当している。

 ……ただ実質イザベルとファーランの二人が教え、ユミルはクリスタ専属であるのだが、アレには関わらない方が良いだろう。邪魔したら殺すぞと言わんばかりの眼光でユミルが睨んで来るし。

 ともあれ調理担当の自分には関係ないかとニコロは思う。

 このバイトは八時から始まり、二時間講習を行ったら二時間実習して休憩を挟んで午後も同様の時間割が待っている。

 講習は総司が行うのでその間ニコロは厨房に一人。

 まぁ、一人だからと言って暇している訳ではないのだが。

 実習で作るメニュー作りを考えないといけないのだ。

 午前午後の後半に実習が入れられたのは技術を学ぶのもあるが、新人団員の昼食夕食を作る為でもあって、限られた食材で満足いく料理を作りながら技術を叩き込まなければならない。

 それも総司とアニの助けも無しで。

 本日総司は活動報告会の事でリーブス商会に相談しに行くので実習は俺任せ。

 食事処ナオで同じく調理担当であるアニはバイトに参加せず、総司が働き過ぎないようにと個人的に監視するという事で総司について回っている。

 つまり今日だけとは言え一人で調理担当の訓練兵団の面倒を見なければならないのだ。

 なんでエルディア人の為にこうも苦労しなければならないのだと大きなため息を吐き出しながら、お金の為だと気合を入れ直す。

 

 正直他の店と比べて食事処ナオの給金は良いのだが、料理研究を自主的にしているニコロとしては金はいくらあっても足りない。そもそもエルディアは物価が高く、品質が悪くてもマーレで普通に売っている品より高いのだ。

 普段使う日用品のランクを落してもたかが知れ、結局満足に料理するだけの(ほぼ毎日している)お金にはならない。

 少しでも早くあの総司に追い付くんだと日々料理研究に取り組んでいるニコロにしてみれば今回のバイトは渡りに船である。

 それに安宿を取って一人暮らししているので色々と入用なのだ。

 最初はまだ空き部屋がありますから使いますかと申し出があったのだが、料理研究にかまけていたらアニに「休め」と投げ飛ばされると聞いて速攻で断った。

 

 「なにか作るんですか?」

 

 食材を確認していたニコロは声の聞こえた方向に顔を向ける。

 そこには爛々と瞳を輝かせて期待を胸にするサシャ・ブラウスという店でも何度か見かけた常連の姿があった。

 調査兵団にはエレン・イェーガーなどの常連が入団しており、彼らによると調理を任せたら出来上がり次第食べるだろうし、フロア担当にして料理を運ばせたら客には絶対届かないと言われた要注意人物。

 新人と言う事で関わらなければいけないが関わらせてはいけない問題児。

 それでも総司は当日に必要と言っていたので邪険にはしないが、正直にウロチョロされては目障りだ。

 見張りも居るのでニコロはさっと視線を戻して作業を続ける。

 

 ニコロがサシャから視線を外すと、サシャは小分けしてあった食材の方に歩き出そうとすると唸り声を耳にして立ち止まる。

 サシャの背後には勝手に食材を盗まないように監視役を任されたナオがジト目でサシャを睨みつけていた。

 すでに手の甲には引っ掻き傷が出来ており、監視役としての任を全うしている。

 これにはさすがのサシャも諦めるしかなく、テーブル席に腰かけて眺める事にしたようだ。

 

 さて、新人に基礎を叩き込む為に使う食材は教材兼調査兵団員の昼食なので、材料は調査兵団が買い込んだ限られた食材。

 あまり凝ったものは出来ないし、初日なので基礎を実践させ無ければならない。

 そもそもまだ総司がメニュー決めの段階なので本番の練習が出来ない。

 食材を確認したが材料には人参や南瓜などもあるが大半がジャガイモに豆が山ほど。

 基礎を教えるには皮むきに切り方を実践させたいが何にしたら良い物か。

 

 「これでは野菜スープとパンですかね」

 

 眺めるしか出来ないサシャが遠目ながら食材を眺めて呟いた。

 そう言われてニコロはムッとしながら頭を働かす。

 正直自分でもそう思った。もしくは野菜炒めが真っ先に浮かんださ。

 けども諦め交じりにそう決めつけられては、その考えを否定したくなるというもの。

 頭を捻って考えているとこの間の料理が頭の中に浮かんだ。

 作り方は側で見ていたし、それなりに材料は揃っている。

 香辛料系やハーブなどが無いのは諦めるしかないが、その代わりにソースで誤魔化せば何とかなるか。

 

 「馬鹿抜かすなよ。ハンバーグ作ってやるよ」

 「え?野菜しかないですよ」

 「良いから黙って待ってろ」

 

 決まれば早速試しに一食分作ってみる事にする。

 日持ちを考えて乾燥された大豆なのでまずは水で戻す事から始める。

 少しばかり時間がかかるのでこの間に野菜の皮むきをして、玉ねぎは細かく微塵切りに、南瓜は皮を剥いで薄切りに、ジャガイモは蒸し始める。

 作業してはどう教えるかを考え、基本的な流れをボードに書き込んでいく。

 素人である彼ら・彼女らでも分かり易いように。

 作業中にはエルディア人やマーレ人がどうのこうのという感情は無く、一人の料理人として作業に没頭していた。

 そうこうしていると水で戻った豆を今度は蒸し、代わりに蒸しあがったジャガイモを潰していく。

 このジャガイモと豆を潰してハンバーグのタネにするのだ。

 ハーブがあれば香りも付けられるんだがなぁと無い物強請りしながら苦笑いを浮かべる。

 数十分と言う時間が過ぎて豆の蒸す作業も終了し、潰してからジャガイモに塩と薄力粉を混ぜてタネを作り、上下をしっかりと焼く。その間にトマトを煮込んでトマトベースのソースを作る。

 食感はハンバーグに近いが香辛料やハーブがないのでどうしても味は豆やジャガイモに寄ってしまうので隠す目的もあるが、芋とも豆ともトマトの相性は良いという理由もある。

 最後に出来上がったトマトソースに大豆とジャガイモのハンバーグのタネを入れて煮詰めて完成。

 

 こうして大豆とジャガイモ(ソイミート)のハンバーグのトマトソース煮をメインに南瓜のスープ、あとは何の手も加えていない市販の硬いボソボソとしたパンの昼食が出来上がり、とりあえず完成した一人分をトレイの上に置いて試食をしよう。

 

 「ナイフとフォークは確か――」

 「ぐあぁぁぁうまあぁぁいぃ!!」

 

 食べる為にナイフとフォークを取ろうと背を向けた瞬間、雄叫びとも悲鳴とも取れる声に驚いて肩をびくりと振るわせながら振り返ると、調理中には姿を一切見せなかったサシャがそこに居り、まさかの手掴みで試食しようとしていたソイミートのハンバーグを喰らっていた。

 口元はトマトソースで真っ赤に染め、目からは滝のような涙を流しながら。

 

 「ニコロさん!貴方は天才です!!」

 

 色々言いたい事はあった。

 だけどなんて言えば良いのか…。

 社交辞令とかそう言うのではなく、純粋に心から発せられた一言が心に染みた。 

 

 「き、汚ぇ食い方しやがって……ったく」

 

 本当に汚い。

 野良犬が残飯に齧りつくように貪り食う様に本来ならドン引きだ。

 けどあんな美味い美味いと言葉と顔と汚いがソースの一滴まで舐め取る勢いを見ていたら嬉しくも感じる。

 エルディア人の癖に…。

 

 そう呟きながら妙にポカポカとした温かい気持ちになったニコロは微笑ながら実地の準備を続けるのである。




●現在公開可能な情報

・活動報告会での役割
 ・料理人
  ・エレン・イェーガー
  ・ライナー・ブラウン
  ・ベルトルト・フーバー
  ・ヒストリア・レンズ

 ・フロア担当
  ・ミカサ・アッカーマン
  ・クリスタ・レンズ
  ・アルミン・アルレルト
  ・ミーナ・カロライナ

 ・特別枠
  ・サシャ・ブラウス
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