今年もよろしくお願いいたします。
少々急いで書いて投降した為に、文字数は間食2同様少なめになっています。
一月一日。
新しい年を迎えての初日。
貴族や大きな権力を持っている者達は王都へ赴いて王への挨拶を行ったり、新年を祝ってという名目でパーティを開いたりして大忙し。
各家庭では新たな一年の始まりとしていつもより豪華な食事を食べ、年末年始の休みをゆるりと過ごす。
豪華と言っても未だに食糧難と物価の高騰は続いているので、保存が効いて手が届くものが一般的となっている。
例えば煮豆と巨大なヴルスト、チーズに家族用の巨大なパンなどなど。
イェーガー家も例に漏れずにそんな感じで新年を祝おうと
「よいしょっと!」
「――はい」
振り上げた木製の
先には凹みのある
ホカホカと湯気を立てている熱いモチをついて振り上げると、すかさずミカサが濡らした手でモチをくるりと動かす。
それを何度か繰り返す。
周囲を囲むように見ている人達は興味を持って見守る。
エレン達はリーブス商会が持っている倉庫に集まっていた。
新年を迎えての初日。
総司とリーブス会長が企画した新年を祝う常連客のみ集めた食事会。
倉庫という周囲を気にしない場所に常連客のみの参加というあたり、これ以上人が増えて混雑するのを会長も避けたいとみた。
そんな事を考えながら数度ついて次の人と交代する。
餅つきなる風習もモチという料理も知らないエルディアでは、興味深く面白そうと自分もつかせてもらいたいと列が出来てしまっている。
小さな店舗の常連客が集まっているといってもかなりの人数が集まっており、見渡せば調査兵団エルヴィン団長やウォール教ニック司祭などの大物も詰め寄せていた。
アンタらは新年を迎えて色々出席しなければならない立場ではないのかと疑問が過るが、ハンジ分隊長は置いておいてリヴァイ兵長やミケ分隊、分隊長を除いたハンジ分隊の面々が気にせずに楽しんでいる様子から問題はないのだろうけど…。
実際は王以外にも貴族や権力者などのパーティに誘われ、立場的にも断れずに面倒臭くても表面に出さずに嫌々参加せざるを得なかった。しかし今回は“トロスト区の大手であるリーブス商会よりの招待”という大義名分を得て幾つかのパーティを断って参加したので、気楽に楽しんでいるのだった。
出来たオモチは即座に調理されて振舞われる。
調理といっても凝ったものではない。
手の平ぐらいのサイズに切り分けて用意された数種類のタレや粉を塗すぐらいだ。
初めて食べたオモチはふんわりと柔らかくも弾力と伸縮性を持ち、噛み締めればほのかな甘さがあった。
深いコクと塩気のある食事処ナオでしか口にすることの無い醤油に純粋な甘さを持った砂糖を混ぜただけの砂糖醤油。
木粉のような見た目のきな粉は振り掛けただけで、独特の香ばしさと優しい甘さが素朴な味わいを生み出す。
それとまったく見た事もない“あんこ(餡子)”というクリームのようでずっしりとした重みがあり、しっとりとなめらかで上品で強い甘さ。
どれも味わったけどどれもオモチに非常に合って美味しかった。
「なぁ、ミカサは何が美味かった?」
「…んー…お雑煮かな」
「確かにアレは違った美味さがあったよな」
総司さんの故郷でお正月に食べられると聞いたお雑煮。
オモチを入れた器に酒、醤油、スルメやほうれん草を含んだ出汁の心落ち着く優しい味わいのスープを掛け、
美味しかったけどもアイツは食い過ぎだろ…。
呆れた視線を向けた先には雑煮を食べ過ぎて動けなくなったベルトルトの姿があった。
周囲には一緒に回っていたライナーにヒストリアにクリスタ、アルミン達がおり、呆れや心配を向けている。
それほど雑煮好きになったんだなと思っているエレンは気付かない。
器にもちを入れてつゆを掛け、具材を乗せて配っているのがアニだからと言う事に…。
ちなみに活動報告会で女装させられて以来、アルミンはクリスタに誘われることが多くなり(ほぼ着せ替え人形的な扱い)、今日もクリスタに誘われて回っている。そして目撃されたユミルに睨まれている。
「相も変わらずだな」
「エレン。今度はあっちのを食べてみよう」
「そうだな」
ミカサに誘われるままオモチから離れて奥のスペースに進む。
オモチ料理だけでも美味しかったけど、それだけではなくいろんな料理が用意されている。
総司さんの故郷ではお節料理と言うらしいが縁起の良い物を保存の効く形で調理し、主婦または主夫が年始に料理をせずに休める様にと
最奥で調理している総司さんに視線を向け、忙しそうだったことから頭をぺこりと下げて挨拶し、後で声を掛けて今は食事を楽しもうと皿を持って料理の並ぶテーブル前に並ぶ。
置いてあるトングやお玉を使って料理を次々に乗せていき、少し離れたところに移動すると食べ始める。
塩の効いた淡白ながらしっかりとした味の鯛に、薄くスライスされた昆布を巻いて置いた事で旨味が移っている鯛の塩焼き。
苦みと香ばしさが混じった甘さを持った栗と、栗を包む頬が蕩けそうなほど甘い薩摩芋の餡の栗きんとん。
フニフニと柔らかく、噛み締めればしっとりと柔らかい淡白な味わいの紅白かまぼこ。
幾重にも薄い卵が巻かれて外はふわりと軽く、中はとろりと半熟で塩で引き締めた甘さの綺麗な黄金色の卵焼き。
シャキシャキとした歯応えを持ち、酸味と甘味が口をさっぱりとさせる紅白なます。
鶏肉に里芋、こんにゃくに人参、たけのこなどを一緒に醤油・みりん・酒で煮た落ち着きがあり具材の味を引き立てている筑前煮。
薄いスライスした蓮根を油で揚げて、塩を振るったポテトチップスに似ていたが食感は断然こちらの方が強いレンコンチップス。
甘くコクのあるタレに脂の乗っている鰤に大根を煮て、金冠の皮を擦り下ろしたものを乗せて柑橘系の香りを立たせ、さっぱりとさせている鰤大根。
外はカリッと中はプリっとした食感の小エビを天ぷらに、塩か汁に付けて食べる小エビの天ぷら。
どれもこれも美味しくて頬を緩む。
ミカサなんかは栗きんとんを気に入ったのか、皿の半分が埋まっていた。
「やっぱり美味いよなぁ」
「新年早々良い物を食べた」
周囲も同じように食べる度に頬を緩める人が多く、エレンはミカサを連れてまた料理を取りに動く。
無くならないと思いつつ焦る様に足が料理の元へ急ぐのであった。
ここに集まった常連客の面々は新年最初の総司の料理に舌鼓を打ち、皆満足そうにお腹も心も満たしていった。
ただレンコンチップスや小エビの天ぷらを筆頭にアレンジされたお節料理は、酒との相性も良いので大人たちは酒を飲み始めて見る見るうちに宴会騒ぎに。
落ち着きがなく騒がしい食事会となってしまったが、その騒ぎすら楽しく羽目を外して心から楽しんだのだった。
●現在公開可能な情報
・アレンジされた御節
当初はそのまま出そうとしていたのだけど、昆布はひとによって好き嫌いが分かれるので鯛の塩焼きと合わせる事にした。
同時にそれならばと海老を小エビの天ぷらにし、鰤の照り焼きに大根を加えて鰤大根にしたり毎年入れていたお節料理以外を出す事にしたのだ。