進撃の飯屋   作:チェリオ

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第40食 リーブスのポテトチップスとナポリタン

 ぼんやりとした意識と視界の中で調理を行う。

 元々料理に不慣れな事と今週の仕事の疲れが溜まっていた事も相まって手付きがたどたどしい。

 こういう時は昼過ぎまで寝て休みたいところだけど意識に反して腹は正直に空腹を訴えかけてくる。寝ようとしても空腹感とお腹の音で叩き起こされ、外食しようと思うも疲れから面倒臭いと断念。

 そこで一昨日買ったもので料理をしようと思いついたのだ。

 乾いた薪を竈にくべて火を強め、調理台の上に置いたフライパンを温める。

 不格好になった玉葱のくし切りをしんなりするまで炒め、リーブス商会の新商品である“焼きそば”を混ぜ、最後に同じく新商品の“ナポリタンソース”をドバっと勢いよく入れて軽く煮詰める。

 クツクツと真っ赤なソースに気泡が浮かび、小さくはじけた。

 疲れからくる眠気で目は垂れており、出来上がるまでただ眺める。

 そろそろかなとフォークで一口食べると焼きそば麺にトマトの酸味に複数の旨味に甘味が絡まり口の中に広がる。

 麺の硬さはちょっと硬いぐらいだったが、料理下手な自分にしては上出来だろう。

 皿に盛りつけてテーブルに運ぶかとも考えたけど、面倒くさくてそのままの状態で立ち食いを敢行する。

 ゆっくりと作業のようにフライパンと口を何度もフォークを往復させ、含んではもっもっと咀嚼を繰り返す。

 

 美味い…。

 こんなに手軽で美味しいものが出来るとは独り身からしたら有難いばかりだ。

 けどなにか足りない…。 

 半分ほど食べきったところでイルゼ・ラングナーは愛用のメモ帳を取り出して、作ったナポリタン焼きそばの工程と評価、感想を素早く書き込んでいく。

 書き込みながら物足りなさからある考えが何度も脳内を過る。

 調査兵団所属で私を含めた食事処ナオの常連となった人たちは総司さんが露店に協力した事を知っているので、食事処ナオではちゃんとしたものが食べれるのではと…。

 面倒臭さと探求心&食欲がせめぎ合い、残り半分を食べきる間に結局探求心が勝ってしまった。

 どうしようもない自分の性分にため息を漏らしつつ、寝間着から普段着――――いや、衣装ケースより出すのも億劫なのですぐ着れる様に出してあった調査兵団の制服に袖を通す。

 ちょっと寒いかなと兵団用のマントを羽織り、鏡を見て髪型をチェックして家を出る。

 勿論戸締りはしっかりとしてから。

 

 早速行こうと思うが食事処ナオはトロスト区にあり、調査兵団の宿舎からは非常に遠いのだ。

 歩いていけない訳ではないが時間と労力の消費が大きい。

 疲れた身体での長距離移動はご免被りたいので背に腹は代えられないと出費を覚悟してハンサムキャブ(馬車のタクシーまたは辻馬車)を利用することを決める。

 急に足が重たくなったような気がするが構わず進む。

 そうしてもうすぐ乗り場に到着しようという時に足がぴたりと止まってしまった。

 これは今更利用するのを渋った為ではない。

 食欲をそそる香りが鼻孔を擽った為である。

 振り向くと最近各地で目に留まるリーブス商会の露店があった。

 リーブス商会は食事処ナオと関りを持ってから色々なレシピや新製品の契約を結び、活動報告会後には飲食店やソース専門販売店、移動式の屋台で大きく儲けている。

 イルゼの視界に留まった店もその一つで、大通りに面して多くの通勤客が利用することを見越して朝早くから開けているお持ち帰り専門の店であった。

 先ほど食べたばかりだが匂いを嗅いでしまえば妙に小腹が空いてしまう。

 出費は抑えたいと思いながらも少しだけならと誘惑に負けて露店へと進路変更してしまった…。

 注文時に悩まないように露店の前にはメニュー一覧がイラスト有りで書かれており、混んでいなかったが注文口に並ばずにメニュー一覧の前で腕を組んで悩む。

 ソイミートのハンバーグは活動報告会で食べたし、味を濃くしたナポリタン焼きそばドッグは二日前に食べた…というかさっき食べた上にこれから食事処ナオで食べる予定だから今はいらない。

 芋料理に飽き飽きしているエルディア人も虜にしたポテトチップスもあるが、食事処ナオに比べて油の質が悪いのか、使い過ぎて駄目になっているのか少し油っ濃いのだ。

 ならばとリーブス商会ディモ・リーブス会長一押し(・・・・・・・・・・・・・)のポテトチップスを注文する。

 注文すると店員が用意してあったスライスされたジャガイモを油に投入し、じゅわ~と音を立てて芋らしさが香ばしさのある揚げ物と変貌する。

 この音と香りだけで余計にお腹が空いて来る。

 薄い分すぐに揚がり、待ち時間も短くザっと油を切ると小袋に詰められる。

 最後にソースの入った入れ物を入れて渡されると入れ替えるように代金を支払う。 

 

 ちょっと寄り道してしまったが当初の予定通り乗り場へ行き、客待ちしているハンサムキャブの一台に乗り込んで、目的地まで向かって貰う。

 ガタゴトと揺れる中、流れゆく景色を眺めながら先ほど買った小袋を開ける。

 顔を覗かせた揚げたてのポテトチップスを一枚摘まんでひょいっと齧る。

 多少の油っこさはあるものの、薄くパリッと香ばしい食感に塩気と芋の風味が非常に良い。

 何故切って油で揚げて塩を振っただけでこうも美味くなるのか…。

 一口食べただけであまり飲まないけどお酒が欲しくなる。

 そのまま二口目に行こうとした手を思い留まらせ、一緒に入れられたソースの入れ物を取り出す。

 会長一押しのポテトチップスとはタルタルソース付きのポテトチップスである。

 揚げられて熱が加わった事で湾曲したポテトチップスの凹みにタルタルソースが乗る様に掬い上げる。

 ねっとりとしたタルタルソースの味わいにポテトチップスのパリッとした食感が合わさる。

 タルタルソース自体も油分が多く、ポテトチップスと合わされば油っこすぎるだろうと以前は思っていたが、多めに入れられたシャキシャキとした玉葱がさっぱりさせてくれるのだ。

 焼いたにしては食感が強く、生にしては辛味は全くない。

 どうやったら生の食感を残しつつ、玉葱の旨味だけを残せるのだろうか。

 しかも味だけでなく玉葱とポテトチップスの異なった食感が合わさって心地良い。

 頬が緩みひょいひょいと口にする。

 ポテトチップス単体なら食事処ナオで食べるが、このソース付きのポテトチップスは扱ってない。

 ちなみにタルタルソース以外にケチャップにマスタード、チーズソースにバジルソースなどもある。

 さすが会長一押しなだけある。

 一口食べたら手が止まらない。

 

 馬車が止まる頃には小袋の中身は空になっており、後で捨てようと袋を畳んでポケットに仕舞い込んでおく。

 料金を支払って馬車を見送って、表通りから裏路地へ入る。

 もう慣れた裏路地を歩き、途中には塀の上を歩いている黒猫のナオが居たので一礼して先に進む。

 食事処ナオの店前に到着したところで早めに到着してしまった事を危惧して不安が過る。

 窓より中の様子を伺うと客は見えないが総司はキッチンで作業をしているから開いているとは思うのだけど…。

 そこでイルゼは扉に“営業中”の看板に気付いてホッと胸を撫でおろす。

 扉を開けると「いらっしゃいませ」と挨拶されてぺこりと頭を下げる。

 開店直後に来たから店内はガラガラでまるで貸し切りにしたような気になってしまう。

 勧められるままカウンター席に腰かけ、メニュー表を眺めてお目当ての料理を探す。

 ザっと流すように一通り見てからもう一度見直して顔を顰める。

 探していたナポリタンが無いのだ。

 当然のようにあると思っていただけに、口は完全にナポリタンになっていた。

 どうしていたものかと悩むが頼めば作ってくれるのではと淡い期待を抱きつつ注文することに。

 

 「すみません。ナポリタンって作れますか?」

 「作れますけど焼きそばで?それともパスタで?」

 「パスタで出来るんですか!?ならパスタでお願いします」

 

 メニューに無い料理を作って貰えると分かった安堵感と、焼きそばでなくパスタであるという事に喜ぶ。

 …もしかしてパスタでナポリタンを食べるのは私だけなのでは?

 そう思うとどうしようもない優越感があるなぁ。

 喜びを隠しきれずに頬を緩める。

 

 目の前では調理が始まり、私に比べて当たり前だが手早く正確にヴルスト(腸詰)を斜めにスライス、玉葱とマッシュルームを薄切り、種を取り除いたピーマンを細切りにして、油を引いたフライパンでヴルストの表面をしっかりと焼き、次に玉ねぎを入れてしんなりさせたらケチャップ多めにウスターソースを加えて煮詰める。

 煮詰めながら隣では鍋に熱湯を張って硬いパスタをくるりと円のように散らして湯がく。

 そして再びフライパンに戻り、マッシュルームにピーマン、バターを入れてまた炒める。

 ピーマンにしっかり火が通ったら、茹で上がったパスタを入れてザっと絡める。

 最後にフライパンから皿に盛り付け、パセリを散らして完成だ。

 

 「ナポリタンお待ちどうさまです。お好みで粉チーズやタバスコをおかけください」

 

 家で作ったのとは違ってトマトの匂いにバターとウスターの香ばしさが合わさってとても食欲が刺激される。

 フォークでくるりとひと巻きして早速口にする。

 焼きそばのもっちりとしたものではなく、しっかりと芯のある硬さのある麺にソースがよく絡み、べっとりとトマトの酸味を主にバターや玉葱の甘味などが合わさって口内に広がった。

 もはや家で食べたものとは別物だ。

 まぁ、焼きそばがパスタになっている時点で別物だと思うけど。

 しんなりと柔らかで甘い玉葱に程よい苦みのあるピーマン。

 カリッと切断された断面を焼いて肉の旨味を閉じ込めるように焼かれたヴルストに、くにくにと弾力のあるマッシュルームと異なった味わいと食感が楽しい。

 少し甘さが強くて子供っぽい感じだけど妙な懐かしさがあって良い。

 

 おっと、また粉チーズを忘れるところだった。

 粉チーズが入っている円柱形の筒を振って振り掛けようとすると粉チーズの塊が転がった。

 たまにあるんだよねとフォークの先で軽く砕いてクルリと巻いてパクリと食べる。

 チーズのまろやかな味わいがミートソース同様にナポリタンにも合う。

 パクパクと二口、三口と食べたところで総司が勧めたタバスコを手に取った。

 真っ赤な液体が入っている小瓶の蓋を開けて、妙な形をした先より何の躊躇いも無くかけてみようと傾ける。

 ………出てこない。

 おかしいなと思い数回振ってみると一滴ずつ飛び出してきた。

 内容量から余裕がある事が見て取れたので、なんて出難くて不親切な入れ物なんだと悪態を心の中だけでつく。

 垂れたところを巻いて疑いもなく食べる。

 

 ピリッと酸っぱくも感じた辛味が襲ってきた。

 唐突な辛味に驚くが、甘いナポリタンに強い辛味が混ざった事で味が引き締まり一気に変化した。

 今のこれには子供っぽさなど無く、甘さと辛さが寄り添う大人らしさが表立つ。

 先の小瓶の意味を理解した。

 数滴であれほど辛いのだから、出すぎた場合はナポリタンの味わいを殺すだろう。だから出にくいように調節させていたのだ。

 客の事を配慮した良い仕掛けではないか。

 食べながらも感心した今の気持ちごとメモ帳に書き込む。

 

 だいたいの事は書けたと判断してメモ帳を置き、食べる事に集中する。

 タバスコを垂らしては食べ、粉チーズを振り掛けては食べ、そのままで食べ、タバスコと粉チーズ両方を掛けて食べてと複数の味わいを楽しむ。

 満面の笑みを浮かべてぺろりと食べきると、家で食べたのも含めてお腹は良い感じに満腹だ。

 今日はおかわりもせず、今日はこれで帰ろう。

 

 「ご馳走様でした。美味しかったです」

 「ありがとうございます。あ、メモ帳を忘れないように気を付けて下さいね」

 

 最初に訪れた時の事を覚えていてくれたのだろう。

 あの時はリヴァイ兵長にビビッてメモ帳を置いて帰ってしまい、後で凄く焦ったっけ。

 「気を付けます」と答えてメモ帳を大事に内ポケットに仕舞い込む。

 お金を払うと店を出て帰路へと付く。

 これであとはゆっくり家で休むだけだ。

 

 満足気に帰ろうとしていたイルゼは途中でまたチップス販売所に寄ってから帰宅するのであった。




●現在公開可能な情報
・リーブス商会露店と総司

 リーブス商会が露店を運営するにあたり、ディモ・リーブスは総司に新たなレシピなどを注文した。
 辛味抜きした玉葱を多めに入れたタルタルソースなどもその一つだ。
 
 今後も良い関係を築いて行こうとリーブス会長は騙す事も自分の下に入れる事もせず、大商会が個人営業店相手に対等に扱っている。
 おかげでレシピの買取や特許を進められたりでお金が貯まる一方なのだとか。
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