進撃の飯屋   作:チェリオ

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 投稿が遅れまして申し訳ございません。
 昨日帰ってから節分だと知り、急ぎ書いたのですがさすがに一日では書ききれず、今日になってしまいました…。


間食04 炒り豆と巻き寿し

 調査兵団最強のリヴァイ・アッカーマン率いる精鋭部隊―――調査兵団特別作戦班(通称:リヴァイ班)

 他の部隊に比べて練度が高く、作戦では非常に困難な任務を与えられる事が多い。

 代わりに扱いはよく、一部隊に対して手に余るような大きな屋敷を拠点として与えられたり、支給される給金もかなりの額となっている。

 そんな彼らは屋敷にて夕食前に、窓辺に集まっていた。

 鋭い眼光で外を睨むリヴァイに、そのリヴァイの後ろで控えるリヴァイ班の面々。

 握り締めた物を指を動かして確かめて投げ飛ばそうと振り被る。

 

 「オニは外」

 

 まるでショットガンのように散りながら広範囲に飛んでいく物………炒り豆が地面や壁に当たって音を立てる。

 リヴァイは左手に持っていた炒り豆が納められたボウルよりなん十個かを右手で掴むとリヴァイ班の面々へと振り返りながら振り被った。

 ビビッて目を閉じるもさすがに投げつける気はない。

 

 「福は内」

 

 投げる動作はしつつも投げることはせず、近かったエルドが持っていた空のボウルに入れた。

 収まった事を目、または耳で確認して投げられないとは解っていてもひやひやしていた面子はホッと安堵の息を吐き出す。

 吐き出した息の意味を理解しながら口にせず、窓を閉めたリヴァイは「行くぞ」と呟き次の窓へと向かう。

 本日彼らは総司の故郷の風習“セツブン”を執り行っている。

 簡単に邪を追い払って厄除けを行う行事と説明を受けたペトラとオルオが私達もしましょうと提案してきたのだ。

 兵士とは意外に縁起を担ぐものだ。

 そう言った考えもあったのだろうけども、どう見ても恵方巻などの今日限定の巻き寿しセットに釣られた気がしてならない。

 

 面倒だとは思ったが、やる気満々の二人の気分を害するのもなんだなと思って許可を出した。

 二人に任せて俺は眺めていようかと参加しているようで参加していないようなポジションに居ようと考えていたものの、“セツブン”で行われる豆まきを聞いてから考えが変わった。

 邪を払う為に野外に炒り豆を撒き、払った隙に福を招き入れる為に屋内に炒り豆を撒く。

 外は明日になったら掃除させるから良いが、中に放り込んだのは福豆として歳の数食べると言うのだから

 毎日掃除しているとは言え、地面にばら撒いたものを食べるというのは不衛生。

 それに散り方次第では箪笥の隙間やマットの下に潜り込んだりして見つかり辛く、虫やネズミがそれに寄ってくる可能性がある。

 潔癖なリヴァイとしてはそれを許せず、福豆は床にまかずに後ろで待機した誰かのボウルに入れる事にしたのだ。

 そんな具合に全方位に対して豆まきを行い、夕食にしようと食堂に向かった。

 

 ペトラとオルオが食事処ナオで買って来た節分セットは炒り豆に恵方巻に数種類の細巻きが入っており、恵方巻はそのままで細巻きは一口サイズに切って先に皿に乗せて並べてあった。

 

 「黙って食うんだったか?」

 「はい、西南西を向いて恵方巻を食べるそうです」

 「食べ終えたら喋って良いんだったよな?」

 「そうよってオルオは一緒に聞いてたでしょ。というかアンタは食べ終わっても黙ってたら」

 

 ペトラの兵長とオルオの扱いの違いに、エルドとグンタが笑う。

 何かオルオが言おうとペトラは無視してリヴァイに恵方巻の乗った皿を寄せる。

 どうぞと言われて濡れ布巾で手を拭って最初に取った。

 続くように他の四人も手にして同じく西南西へと振り向く。

 恵方巻はその年の福の神の方向へ向いて無言で食べるという。

 時と場合に寄るが騒がし過ぎるのを好まないリヴァイは静かに食べるというのは良いなと思いながら口を開けて齧り付く。

 齧り付いたら室内は一気に静かになる。

 大口を開けて食べる事と、黙って食べる事から無言になるのは当然なのだが、それだけでは決してなかった。

 恵方巻には七種類の具材を酸味と甘味の効いた酢飯と海苔を軽く炙る事で香り立たせ、しっとりとした柔らかさを持たせた焼き海苔で巻いてある。

 クニクニと柔らかながらも弾力のあり、噛めば噛むほど中より甘い汁が溢れて来るかんぴょう。

 卵の味わいに旨味たっぷりの出汁が浸み込んだ出汁巻き卵。

 甘辛いタレを塗られ、食べればほろほろと身が崩れていくアナゴ。

 一粒一粒が細かく、具材の中で最も鮮やかで甘味の強い桜でんぶ。

 奥底までタレの味が浸み込まれ、独特の風味と一緒に溢れ出て来る椎茸煮。

 食べやすいように細く切っただけで、小気味よい歯応えと水気を持った胡瓜。

 そしてハーブ(三つ葉)の香りがふわりと漂う。

 噛めばそれらが雪崩れ込むが如くに、口の中で一気に溢れせめぎ合う。

 が、乱れ舞うだけではなく、甘味より酸味がやや強い酢飯がそれらを纏め上げる。

 何とも言えない味わいなんだろうか。

 雑多と言うには最終的にまとまり、調和しているというには乱雑。

 ゆえに味わい深い。

 それらに気を取られて自然と皆が黙りこくってしまったのだ。

 

 黙々と食べ続けたリヴァイ達は一本食べ終わるとようやく一息ついた。

 太巻きだった事から結構お腹に溜まったが、満腹と言う程ではない。

 渋みのある紅茶を飲みながら、全員が恵方巻を食べきるのを待ってから、細巻きへと手を伸ばす。

  

 最初に手を出したのは穴子と胡瓜が巻かれたアナキュウ。

 薄っすらと塗られた甘辛いタレに穴子の旨味が合わさって広がっていく。

 旨味だけでなくこってりした味わいも合わさるので、しつこく感じるけども歯応えの良い胡瓜がさっぱりとしてくれるので、非常に食べやすい。

 一口食べたら止まらなくなりそうだ。

 いや、これで腹を満たしても良いが、折角数種類もあるのだから全部味わってみたいではないか。

 

 次は鉄火巻きとかいう赤いブロック体(※鮪の刺身です)を包んだ物。

 なんだこれはと思いつつも、総司の品なのだから問題はないだろうと口に含む。

 くにくにとした柔らかい食感に、さっぱりとしながらも強い赤身の味を味わう。

 幼かった頃は治安の悪い地下街で暮らし、大きくなっても川辺での生活をしなかったので生の魚を初めて口にしたが、悪くない(美味しい)と口に運ぶ。

 ただリヴァイ達はこれが生の魚とは解っておらず、肉の様な不思議な食材としか認識していない。

 もしも生魚だと知れば、食あたりが脳裏を過って青い顔をしていた事だろう…。

 そうとは知らずに小瓶で渡されていた醤油に少し付けて食べると、酢飯も鮪も相性が良くてさらに進む。

 数口食べると鉄火巻きだけに固執せず、色々食べようと隣の皿へと手を伸ばす。

 

 ネギとミンチらしきもの(ネギトロ巻き)が包まれた巻き寿しを口に入れると、今までと違った触感に頬が緩む。

 噛み締めれば海苔と酢飯の間より脂身が多く混ざった中身がとろりと溢れ、濃厚な脂の旨味が溶ける様に口の中に広がっていく。この口で蕩ける感触がなんとも言えない。

 刻まれたネギが程よい風味を出し、また醤油と合わせる事で非常に美味しくなる。

 しかしネギトロは脂身が多い分、多く食べればしつこくなる。

 そこで新香巻きという沢庵の巻き寿しを食べる。

 ポリポリと小気味よい音が噛むたびに鳴り、甘くさっぱりとした味がネギトロのしつこさを中和してくれる。

 口をさっぱりさせるにも良いが、この歯応えと味付けが癖になる。

 

 さっぱりとしたところで次はどれを食べようかなと見渡し、まだ誰も手を付けてない巻き寿しがあり、リヴァイは躊躇う事無くそちらに手を伸ばした。

 手に取った巻き寿しには緑色のソースだけが包まれており、他の具は一切姿を見せてはいない。

 ソース自体で楽しむものなのだろうと疑う事無く口に放り込み、リヴァイは口を押えて俯いた。

 その様子に気付いたペトラは事情を知っていただけに顔を青くし、同じく事情を知っていたオルオは吹き出して笑い、そして舌を噛んだ。

 リヴァイが食べたのはワサビ巻き。

 擦り下ろした本わさびを海苔と酢飯で包んだだけの巻物。

 注文した二人(ペトラとオルオ)は知っていたが、エルドとグンタは知らないので急に耐える様な動きを見せたリヴァイを心配した。

 おろおろと大丈夫ですかと様子を伺うもピクリとも動かず、ジッと同じ体勢を維持したリヴァイは唐突に顔を上げてもう一つ口にした。突然の復活からのもう一口に皆が戸惑う。

 良くチューブ入りのわさびを口にする機会が多い人は独特の風味を除けば辛いイメージが強いだろう。

 けれども擦りたての本わさびは辛さは少なく、若干甘さを感じるほど味が変わるのだ。

 リヴァイも口にした瞬間はチューブでは味わえない強いわさびの風味に驚きこそしたが、その後の鼻を清々しく抜けて行くわさびの風味に心地よさを感じ、口に広がるわさびの味も気に入った。

 その様子に感化された四人も口にして同じ反応をして、わさびの突き抜ける風味に驚きつつももう一口食べようと手を伸ばす。

 ただ笑った際に舌を噛んだ一名は傷口にわさびが入り、その刺激で悶絶していたが誰一人大丈夫かと声を掛ける事は無かった…。

 

 見る見るうちになくなっていき、細巻きを完食するころにはペトラもオルオもグンタもエルドも満腹で動けないほどになっていた。椅子に腰かけたまま食べ過ぎで苦しそうではあるが満足そうに微笑んでいた。

 

 そんな部下たちを眺めながら紅茶を淹れたリヴァイは、福豆を歳の数だけ摘まむ。

 口の中に放り込むとポリポリと音を立てて噛み潰す。

 焦げ目が香ばしく、豆の本来の味がする。

 別段特別に美味しいという事も無く、不味いという事もない。

 けど癖になる。

 説明し辛いのだが、手が止まらないのだ。

 一粒食べれば、次の一粒。また一粒と口へと放り込んで行く。

 そうして紅茶を含み、口と喉を潤す。

 悪くないな…。

 そう呟き福豆を食べきったリヴァイは、何処か物欲しげな表情を浮かべ、外に撒き切れなかったただの炒り豆を手にするのだった。




●現在公開可能な情報
・食事処ナオで提供される巻き寿し
 
 総司は大抵のものは作るが握り寿司や巻き寿しはそこまで得意ではない。
 なので節分時は先に注文、通常日は予約限定で彩華に巻き寿しの練習も兼ねて頼んでいる。
 一応店からは及第点以上は貰っているので問題ないと考えている。 
 
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