進撃の飯屋   作:チェリオ

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間食05 バレンタインにフロランタン

 “ばれんたいん”。

 家族や友人、恋人などにお花やお菓子を贈る総司さんの故郷で行われていた習慣。

 これを聞いた時、私はあの人(・・・)に贈ろうと考え始め、ヒストリアと共に案を練ってきた。

 けどもお菓子作りと言っても何を作れば良いのか決まらず、悶々と過ごしてしまって今日は“ばれんたいん”当日。

 困り果てていた私達に悩んでいたのを察していたユミルが「お菓子作りを手伝ってやろうか」と声を掛けてくれたのだ。それも常連で同じように作りたいと言う人を集めて。

 ユミルは口や態度は悪く、決して素直に伝えないけど面倒見がよく、非常に優しいのだ。

 私―――クリスタは姉のヒストリアにミカサとミーナの四人でユミルのお菓子教室に参加した。

 会場は食事処ナオなのだが、今日は営業日なので店舗スペースでの調理ではなく奥の居住スペースの台所。

 家主である総司は後片付けさえしてくれれば好きに使ってくれて構わないとの事で、最後の片付けだけはしっかりして帰ろう。

 そして調理に当たって私服が汚れないように予備のエプロンを借り、髪の毛が落ちないようにバンダナを巻き、手洗いはしっかり行う。

 

 「ところで何を作るの?」

 

 準備を終えたところでミカサが問いかけた。

 私達は材料費だけ用意して、あとはユミル任せだったのでまだ何を作るかも知らされていない。

 まぁ、今日の昼食を食べに訪れた際に持ち掛けられた話なので、聞かされていないのは当然ではあろう。

 聞かれたユミルは少し困った表情を浮かべながら回答する。

 

 「総司さんの故郷ではチョコレートを贈るのが一般的らしいけど、ここ(食事処ナオ)を除いてチョコなんて普通は買えない(エルディアにはカカオが存在しない為)ので市販で売っている材料を鑑みてフロランタンにしようかなと思う」

 「ふろらんたん?」

 「あー…簡単に言ったらクッキー生地の上にキャラメルを固めたお菓子」

 「それ美味しそう!」

 「キャラメルって簡単に作れるの?」

 「普通にキャラメル作ろうとしたら材料四つぐらいで簡単に出来るよ」

 

 そうなんだと気にしながらもとりあえずフロランタン作りをしっかりやろう。

 …後でキャラメルの作り方を教えて貰おうと思いながら。

 全員が注目する中でユミルは見えるようにボウルを前に置き、調理をゆっくりと始めた。

 

 「まずはクッキー生地を作る為にボウルにバターを入れてヘラでクリーム状にし、砂糖を加えて磨り潰すように混ぜる」

 

 慣れた手つきで手本を見せたユミルは手を止めて皆を見る。

 上手だなぁと見惚れている場合ではなかった。

 私も作らなくちゃと用意されていたボウルにバターを入れ、ヘラで混ぜるが中々思うように練れない。

 ヒストリアも同様に苦戦しているのだろう。

 眉にシワが寄っている。

 こんな必死にヒストリアを見るのは久しぶりな気がする。

 

 「ミカサ、早っ!?」

 

 ふふふ、と笑みを零しているとミーナの驚いた声に釣られて視線を向けると、ミカサが無言のまま力強くヘラを動かしてバターをクリーム状にしたところだった。

 私もと負けじとバターを練り、砂糖を加えてざらざらとした粒を潰すように混ぜる。

 いつも厨房で素早く作っているユミルを見て、簡単そうに見えていたけどこんなに大変なものなんだと理解した。

 次に卵を溶いて加えて混ぜ、さらに玉にならないように薄力粉を振るい入れて混ぜすぎないように軽く混ぜる。

 

 「結構お菓子作りって大変なのね」

 「慣れてないってのもあると思うけどな。ヒストリアもここで働いてみるか?手取り足取り教えるよ」

 「機会があったら頼もうかな」

 

 ふむ、兵士ではなくパティシエールか…。

 そういう未来も悪くないなと想像したら頬が緩んだ。

 もしするのであれば最初にフリーダ姉さんを招きたいな。

 楽し気な笑みを浮かべ妄想の世界に旅だっていたクリスタを現実に引き戻すのに躊躇しながら、ユミルはお菓子作りを続けた。

 

 「次は一纏めにして冷蔵庫で十五分からニ十分ほど冷やす。それとオーブンを180度に温めるから少し時間も空くから休憩にしようか。クッキー食べるだろ?」

 「食べるよ。あっ、用意なら手伝うよ」

 「いや良いって。さっきも言ったけど休憩してなって。慣れてない分疲れてるんだろうしさ」

 

 ニカっと笑いながら皆を気遣い(主にクリスタとヒストリア)、ユミルはクッキーとカップを出してお茶の準備を始めた。

 ユミルのクッキーを楽しみにしながら、自分が作ったクッキー生地を纏めて冷蔵庫に収める。

 そのユミルが内心では何を想っているか知らぬまま…。

  

 

 

 

 

 

 講師役であるユミルは自作のクッキーと紅茶を用意する。

 まだキャラメル作りもあるが、早く作ると冷めてがちがちに固まってしまうので今はオーブンが温まるまでやる事がない。

 初めてのお菓子作りと言う事もあって皆慣れてない分疲れるだろうからここらで休憩を兼ねてお茶をするのも良いだろう。

 

 「数分の休憩だけどこれでも食べて休んでくれ」

 「ありがとうユミル」

 

 クリスタにお礼を言われ、美味しそうにクッキーを食べるヒストリアの様子にいつものユミルは癒やされていただろう。

 しかしながら本日はそういう感情は埋もれてしまい出て来ない。

 なにせ平然を装いながらユミルの内心は気が気でない状態なのだから。

 

 総司よりクリスタ達が“ばれんたいん”なる習慣を聞いてからというもの、店に訪れる度に誰かに渡す話をしていてそわそわして仕方がない。

 クリスタもヒストリアも何時かは恋をして、結婚だってするだろう。

 そんなの解かり切っているし、二人が幸せならば口をだす事も無く幸せをずっと祈るべきだとも思っている。

 が、それは幸せだった場合の話。

 クリスタは優し過ぎて悪い男に騙されないかと心配だし、ヒストリアはしっかりしてそうで世間知らずな所があるので安心できない。

 つまり二人がお菓子を渡そうとしている人物が誰でどのような性格なのかを知りたくて仕方がないのだ。

 もしあの女神の様な二人に相応しくないと分かれば………ここから先は書くまでもない…。

 お菓子作りを提案したのは二人の助けが半分、二人の相手を聞き出す為が半分を占めている。

 

 お茶とクッキーを楽しんでいるクリスタ、ヒストリア、ミーナ、ミカサを紅茶片手に眺めるが、決して自らは口にしない。

 今の自分が非常に内心穏やかではない事は把握しており、下手に口にすれば感情を出して聞き出せない可能性が高い。

 なのでクリスタとヒストリアだけでなく、色恋に興味のあるミーナと聞くきっかけになるであろうミカサにも声を掛けたのだ。

 

 「ところで皆は誰にお菓子を渡すの?」

 

 思惑通りに喰いついたミーナに内心でガッツポーズを決めて喜ぶ。

 今度デザートを注文した際には多少サービスしてやろう。

 

 「そういうミーナは誰に渡すの?」

 「私?…私は別にないかな。ただ単にお菓子作りに興味あっただけだし………あー、エレンとかにあげようかな」

 「―――ッ!?」

 

 ミーナがエレンの名を出した瞬間にミカサの表情は険しいものとなった。

 鋭い目つきで威嚇するも、それを受けた本人はペロッと舌を出してにやりと笑った。

 

 「冗談だよ。だってエレンにはミカサが本命あげるんだものね」

 「ほんっ…ちがっ…これは…その」

 「義理だったの?」

 「そう言う訳では……」

 

 ミーナの簡易な罠に引っ掛かり、クリスタの追加攻撃も加わって、険しい顔付がみるみる真っ赤に染まりたじろぐミカサ。

 思っていた通りの可愛らしい反応に二人共ニヤつきながら眺めている。

 助けを求めようにもどうしたらいいのか分からず口どもってしまったミカサに、助け舟を出したのは見かねたヒストリアであった。

 

 「あんまりミカサを苛めないの」

 「ならヒストリアは誰にあげるのさ」

 

 すると今度はミカサから助け舟を出したヒストリアに目標を変更した。

 決してガン見しないように、さりとて興味あると言った表情を無理にでも作って相手が誰かを聞き逃さないようにする。

 

 「ライナー。日頃色々と手伝って貰っているから」

 

 照れる様子もなく淡々と答えた。

 元々ライナーは第104期訓練兵団の中でも面倒見がよく、頼れる兄貴として人気を得ていた。

 困っている者がいれば助け、悩んでいる仲間がいれば出来るだけ力を貸し、力仕事などは率先して行っていたりしており、ヒストリアを手伝う事もしばしば行っている。

 純粋な厚意から……とは言い切れないが、それでも秘めた想い(好意)を出さずに真摯に接している。

 ターゲットとなる一人をしっかりと脳内に焼き付けたユミルはクリスタを見つめた。

 

 「あ!そろそろオーブン良い頃じゃない?」

 

 視線から次は私に目標にされると察したクリスタが話題を変えようとするが、そこは問屋と言うかミーナが許さなかった。

 立ち上がろうとしたクリスタの腕を掴んで引き留める。

 

 「皆言っているんだからクリスタも言おうよ」

 

 少し恥ずかしそうで抵抗しようとしたものの、皆が言って自分だけ秘密にするという事に引け目を感じたのか、諦めて相手の名を口にした。

 

 「アルミンに」

 「えー?クリスタの事だから皆にっとかいうかと思ってた」

 「クリスタはアルミンの事が…好き?」

 

 「違う違うそうじゃなくて―――」

 

 活動報告会の際にアルミンは女装させられた。

 男性でありながらも身体つきと中性的な顔立ちから似合い過ぎていると調査兵団や当時訪れたお客の間で好評となり、調査兵団の女性陣の間では度々着せ替え人形のように扱われることが増えたという…。

 その女性陣の中にはクリスタも居り、渋々ながら付き合ってくれているお礼にとお菓子を贈るらしい。

 完全に彩華のせいだろソレと思っていると、今度はクリスタがユミルへと視線を向けた。

 

 「ユミルはどうなの?誰かに渡したりしないの?」

 「クリスタとヒストリア以外なら店の連中かな。色々と世話に成りっぱなしだからなぁ」

 

 聞かれるままに答え、ユミルは助けて貰ったあの日以降の日々を思い返す。

 本当に総司には世話に成りっぱなしで、これで恩を返せるとは思えないが少しでも喜んでくれたら良いな…。 

 

 「ユミル、オーブンは良いの?」

 「おっと、そうだった。もう良い頃合いだな。なら続きといこうか」

 

 考え込んでいるとヒストリアに言われて思い出し、ユミルはオーブンの温度を確認して頃合いだなとフロランタン作りを再開する。

 焼く前にクッキー生地を形にするべく、冷蔵庫から取り出すと20センチの四角形に伸ばし整え、フォークの先で穴を空けていく。

 並ぶ四つの穴を満遍なく全体に空けたらオーブンで20分前後焼く。

 これでクッキー生地は出来上がるので、焼き上がる前にキャラメルを作る。

 と、言ってもクッキーの様にそう手間がかかるものではない。

 鍋にバター、砂糖、蜂蜜、生クリームを入れて中火で温め、ふつふつと泡立ち始めたら火を弱めて数分混ぜ、最後にアーモンドスライスを加える。

 室内に甘いキャラメルの香りが充満し、美味しそうな匂いに頬が自然と緩んでしまう。

 

 作ったキャラメルはクッキー生地に塗るので一定の粘りが必要となる。

 見たところ皆水気が多かったようなので、もう暫し煮詰めて水気を飛ばすように指示。

 この際に煮詰めすぎて焦がさないように注意も怠らない。

 少しクリスタとミカサが火加減で危うかったが、問題なくキャラメルも完成し、後は焼き上がったクッキー生地にキャラメルを塗ってまたニ十分焼くだけだ。

 そうなれば早めの片付けに入る。

 バターを入れたボウルはべとべとでそのまま洗っても簡単には落ちないので、ポットで沸かした湯を注いで洗い、泡を流す際も湯で流す。

 ヘラも同様なのでまたポットで湯を沸かし洗うを全員が繰り返す。

 五人に対してポットが一つなので時間が掛かってしまったが、全員が洗い終わる頃にはキャラメルを塗ったクッキー生地が焼き上がっていた。

 オーブンより取り出して粗熱を取り、一口でも何でも自分の好きなサイズに切り分けで、完全に熱を取ったら袋詰めして完成である。

 

 「ユミルのおかげでこんなに上手くできたよ。ありがとう」

 「本当にありがとうユミル」

 

 出来上がりに満足するクリスタとヒストリアが渡す事を想像して殺気が漏れそうになる。

 さて、今後あの二人(アルミンとライナー)に対してどのように動くべきか…。

 

 「―――ユミル」

 「……ん、なん――むぐぅ!?」

 

 どうしてやろうかと悩んでいた所に声をかけられ、一瞬遅れながら振り向くと一口サイズのフロランタンが口に差し込まれた。

 ぱちくりと瞬きしながら刺し込んできたヒストリアを見つめる。

 何処か不安そうな表情で見つめて来るので余計にユミルは混乱し、口に入れられたフロランタンを食べた。

 クッキー生地はサクサクと香ばしく、ねっとりと歯にくっ付くようなキャラメルはとても甘く、アーモンドスライスが良く効いていた。

 とても美味しかった。

 自身でも作った物を食べた事があるが、誰かが作ってくれたからか余計に美味しく感じる。

 

 「美味しかった?」

 「え……あ…お、おう。美味しかった…です」

 「良かった」

 「お姉ちゃんずるい!」

 

 薄っすらとだが微笑を向けられ、クリスタは慌てたせいでいつもの「姉さん」呼びでなく「お姉ちゃん」と呼び、感情を表すように膨れっ面で抗議する。

 一体全体どういうことかと戸惑い二人を眺めていると、二人そろってフロランタンを差し出す。

 受け取ってと言わんばかりに。

 その行動にユミルは待ったをかけた。

 

 「いやいや待て待て。これはライナーとかアルミンにやるって言ってなかったか!?」

 「それはそれで別に袋に入れたの。だからこれはユミルの分」

 「最初はユミルと決めてたんだ。大切な友人だから」

 

 ヒストリアとクリスタがにっこりと微笑みかける。

 その微笑に後光が降り注ぎ、とても神秘的で言い切れぬ美しさを纏っているように瞳に映り、嬉しさのあまり二人を抱きしめてしまった。

 

 「ありがとう二人共。私も二人が一番大事だ」

 

 幸せそうな三人をミーナとミカサは笑みを浮かべながら眺める。

 もう夕飯の時刻なので食事処ナオで食事を食べ、自分の手で作ったフロランタンを手に帰路に就くのであった。




●現在公開可能な情報
・バレンタインのその後
 宿舎に帰った四名は時間も遅かったことから翌日に各々想っていた相手渡す事に。
 エレンは照れ臭そうに、アルミンは嬉しそうに、ライナーは内心狂喜乱舞で平静を装って受け取り、その様子を目撃した彼女らに興味のあった男性陣は贈られた事を羨ましがり、受け取った男性陣に妬み恨みの負の感情を向けるのであった。
 …ちなみに食事処ナオで働いているアニもイザベルもバレンタイン用のお菓子を作り、イザベルはリヴァイとファーランに、アニは一番世話になっている事から総司に渡している。
 その事実を知ったベルトルトはジャン同様に血涙を流しそうな勢いで羨んだという。
 元々接点を悟られてはいけない戦士隊同士なので、渡す気があっても渡せない訳なのだが…。

 
 それと食事処ナオに訪れたミーナはユミルにデザートをオマケされた事に戸惑い、ライナーとアルミンは何か(・・)を悩んでいるようなユミルを目撃するのだった。
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