進撃の飯屋   作:チェリオ

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 投稿が遅れに遅れて申し訳ありません。
 リアルとか色々ありまして書き上がるのに今日まで掛かってしまいました。
 来週の投稿は落ち着いたので何とか予定通り投稿できるかと。


第44食 カレーの日

 特別メニュー。

 食事処ナオにて提供されている通常メニューと異なり、月に一度だけ提供される料理。

 いつでも食べれる訳ではないので、その日になれば自然と客足が増えて、注文は特別メニュー一色に染まる。

 今日も今日とて客足は増えて調理場は大忙し。

 料理の種類が絞られるので複数の料理を作る事は無く、反復するように同じ料理を作るので楽と言えば楽ではあるが、いつもいる総司が出張で不在のためにアニとニコロだけで調理場を回すので調理的には楽だが仕事量は鬼のように多くなっている。

 ゆえに客で溢れかえり、調理場は慌ただしい店内にて喧騒が起こってても止める事が出来ず、いつになく激しくなってしまった…。

 

 「蕎麦だ!」

 「いいや、うどんだ!」

 

 カウンター席に腰かけながらパウンドケーキと紅茶を楽しんでいたリヴァイは、突然の怒鳴り声に苛つきながら振り向く。

 鋭い視線を向けた先にはテーブルを囲む、自身の部下たちであるリヴァイ班の姿があった。

 どうやら立ち上がって睨み合っているエルドとグンタが原因らしい。

 ため息を漏らしながら立ち上がり、忙しい店員に変わって仲裁しに向かう。

 

 「お前ら静かに飯も食えねぇのか?」

 「兵長!聞いてくださいよ。エルドが蕎麦が一番だって聞かないんです」

 「それはこちらのセリフだ。お前だってうどんうどんの一択だっただろうが」

 

 制止も聞かずにまた言い合いになっている二人では話が伝わらない。

 そこで知っているであろうペトラに問いかける。

 

 「どういう事だ…これは」

 「えっと、カレーに合うのは何かという話題から…その…」

 「……もう良い。理解はした」

 

 下らないと一蹴出来たらどれだけ楽だったか。

 この手の話題は食事処ナオでは禁句に近い。

 なにせこの店の料理に味付けはエルディア人(マーレ人にも)にとって未知のもので、食糧難から食に飢えている者が多く居る。その為にそれぞれに拘りがあり、お気に入りの料理を持っている。

 カレーの日はカレー料理が提供され、カレーをメインに何種類かの料理が店内に並ぶ。

 旨味の詰まった出汁をカレールーと混ぜ、風味豊かな蕎麦を付けてつるりと食べるカレー南蛮。

 カレーライスよりもドロリと絡みやすくしたルーに浸かっている、しっかりとしたコシがあって喉越しの良いうどんをズズズっと啜るカレーうどん。

 以前二人からお裾分けと言って小皿で分けて貰って食べた事のあるリヴァイは、どちらも同じ麺類でカレーを使った料理だというのに食感も味わいも違って美味しかったのを覚えており、どちらかに加担して強制的に終わらせることは断念する。

 しかしここで放置する訳にはいかない。

 以前“チーズ”に関する料理で言い争いになり、騒ぎ過ぎて出禁にしますよと脅された思い出があるリヴァイは、これ以上騒ぎが大きくならないように何とか止めようと決意する。

 万が一にも店内にて調査兵団が問題を起こせば、この場で一番高い地位の自分に矛先が向きかねないと言う懸念もあるので余計にだ。

 となると店内にはよく言い争いをする調査兵団&憲兵団新兵達(エレンやジャンとか)も訪れていたので、先手を打って視線で関わらないように訴えかけ、理解できてないサシャとコニーを除いて大きく頷いた。

 

 「今日こそ蕎麦の方が合うかを教えてやる!」

 「だからカレーにはうどんだと言っているんだ!」

 「落ち着けお前ら」

 「何故ですか兵長!」

 「決着を付けさせてください兵長!」

 「落ち着けと言っている」

 

 鋭い視線に加えてドスを利かせて言い放つが、ヒートアップした二人は聞く耳を持たない。

 最終手段として蹴り飛ばす事も考えるも、二人の争いは新たな参加者の介入により一時的にも収まる事となる。

 

 「まったくリヴァイのところは元気だねぇ…私はこんなにも憂鬱だというのに…」

 

 ため息交じりにチキンカレーを食べているハンジにリヴァイ班の面々は眉を顰める。

 大人しい…。

 人間誰だって苛つくときもあれば上機嫌な時はあるだろう。

 しかしながらハンジ・ゾエに限って大人しい日など長い付き合いのあるモブリットですら今までは(・・・・)存在すらしなかった。

 高熱を出そうが、徹夜が続いても興味惹かれるものがあればハイテンションで忙しなく動きまわる。

 それがハンジであり、大人しいハンジなど天変地異の前触れではないかと不安を覚えるほどの異常事態だ。

 ハンジ達が囲んでいるテーブルに居るモブリットに視線で問いかけると苦笑いを浮かべられた。

 

 「分隊長は総司さんが居ないので、お目当てのカレーが食べれなくてガッカリしているんですよ」

 「あー…あれか」

 

 モブリットの回答で理解したリヴァイは頭を軽く押さえながらも安堵し納得した。

 ハンジの好物はアニでさえ一口でダウンした激辛麻婆豆腐(総司にとっては普通)

 辛い料理と聞いていたハンジは、カレーライスを口にして速攻で気を落とした。

 そして総司に麻婆豆腐みたく辛くて美味しいカレーを作ってと注文したのだ。

 頼まれたからには作ろうかと色々と試行に試行を重ね、ハンジも満足するカレーライスを完成させたのだが、カレーと言うのは非常にスパイシーな香りを周囲に広げる。

 つまり通常以上に辛いカレーの香りが周囲に飛散するのだ。

 茶色っぽいではなく赤みがかったカレーを目にした常連客は一目散に離れ、注文したハンジは窓辺に追い込まれるのがカレーの日の常識となっている。

 だというのにハンジは大勢が食べれる程度で辛いチキンカレーを食べている。

 厨房に総司が居ない以上作れないのか、アニかニコロがアレを作るのを拒否したかのどちらかだろう。

 なんにしてもナイスだとリヴァイを含めて察した客達は内心褒めていた。

 あの真紅の悪魔を見る事も匂いを嗅ぐこともないのだから。

 

 そういえばハンジみたく頼んで作って貰った変わり種があったのを思い出してちらりと店内を見渡す。

 目が合っただけと言うのに蛇に睨まれた蛙が如くにイルゼ・ラングナーは固まった。

 彼女が食べているのはスパゲッティの上にキーマカレー(ドライカレー)が乗っかっているもので、多めの挽肉に茄子やパプリカ、玉葱が小さく刻まれ混ぜられて彩鮮やかな見た目をしている。

 ドライカレーというタイプのカレーらしく、ルーに具材が浸からず具材にルーが絡んでいるものだ。

 思い出した品を確認すると視界から外し、イルゼはようやくキーマカレースパゲッティにフォークを動かして食事を再開した。

 

 「っふ、カレーはやっぱりライスが一番だろう」

 

 オルオが格好つけようと全然似ていないリヴァイの真似をしながら一口食べる。

 脱力気味のハンジのおかげで収まりかけた種火が、“一番”と言う事で店内に広がりかねない。

 頭痛を感じながらこれ以上騒ぎが広まらないように注意しようとする前に、ペトラが呆れた表情で口を開いた。

 

 「兵長が宥めようとしているっていうのに…。それにライスが一番って言うより甘口がカレーライスにしかないからそれしか頼めないだけでしょう」

 

 ペトラの言葉が槍の様にオルオに突き刺さる。

 よく舌を噛み切りそうなっているために刺激の強い食べ物は痛むのだ。

 だからカレー系は大概口に出来ないのだが、唯一辛さを変えれるカレーライスだけは怪我をしていても食べられる。

 ただし、子供向けの辛味のかの字もないような超甘口のみだが…。

 

 「い、良いんだよ。それに辛いだけがカレーじゃねぇ」

 

 恰好を付けた手前、盛大に暴露されて焦ったオルオは恥ずかしくなりそっぽを向きながら呟く。 

 どっと笑いが起こり、言い争いは回避できたろう。

 安堵していたのも束の間。

 まだ火種は燻ぶっている。

 

 「そうですよ。辛さだけを求めるだけがカレーではないんですよ分隊長。是非シーフードカレーを食べるべきですよ」

 

 そう言ったのはハンジと同じテーブルを囲っているハンジ班の一人、ニファであった。

 彼女が食べているのはジャガイモや人参と言った野菜系は入れずに、イカや海老などの海鮮類を使用したシーフードカレー。

 具材を海の幸にするだけではなく、少量ながら魚から取った出汁を入れているので味も海鮮系にされており、他のカレーとはまた違った風味を持つ。

 海老を含んだカレーをスプーンですくい、意気消沈しているハンジの口元へと差し出す。

 マムマムと食べたハンジは美味しいと呟き、ニファのシーフード(海老)の良さを伝える語りをただただ聞くのだった。

 

 「……あいつ、あんな感じだったか?」

 「すみません。海老が絡むとどうもおかしくなるようで」

 

 いつもとは逆の光景にリヴァイとモブリットは何とも言えない顔を浮かべる。

 ハンジ班にとっては慣れてしまった光景に同班員のケイジとアーベルは動じることなく食事を続ける。

 彼らが食べているのはライスでも麺類でもないパン系であった。

 ケイジが食べているのは食パン。

 エルディアでは食糧難による不足を補っている云々よりも以前より硬めのパンが主流なのだが、食事処ナオのパンはふんわり柔らかでモチモチとした食感が特徴的で、比べると非常に軽くて食感は溶けるような感じさえしてしまう。

 そんな食パンをトーストすると外側はカリッと香ばしく、中がしっとり柔らかという別の表情を現す。

 この事から柔らかくて口当たりの優しい焼かない派と、香ばしさを楽しむ焼く派(トースト派)の二派に分かれ、この派閥争いはカレーにも同様に起こり得る争いの火種として認識されており、常連客はよく解っているので思っていても口に出す事は無い。

 アーベルが食べているのはカレーの日のみ提供されるナンというパン。

 カレー皿より大きい二等辺三角形のナンは食パンの様な柔らかさは無いが、焼かないのなら干し肉の様な強い噛み応えがあり、焼けばクラッカーの様にバリっとした食感に様変わりする。

 二人はお互いに違うパン系を食べているがそれでどうこういう事は無い。

 全員がそうであれば白熱した論争の結果、叩き出される客も減るだろうにと心の底から思う。 

 

 「お待ちのお客様どうぞ店内へ」

 

 満員だった店内より満足した客が退席すると、店前で待っていた男―――調査兵団エルヴィン・スミス団長が店内へ足を踏み入れた。

 調査兵団の長である団長の地位に居る以上責任も仕事量も半端ではない。

 本来ならば兵団本拠で食事をとった方が効率は良いのだが、わざわざトロスト区まで出向く当たり本当に楽しみにしているのだろう。休憩時間内の行動で仕事に支障がなければリヴァイもとやかく言う事は無いし、本人にとっては楽しみな食事と室内に籠って仕事をしていたので外に出る事で息抜きにも繋がるとこの往復を結構気に入っている。

 

 「カレーライス大盛とお持ち帰りでカレーパンを頼む」

 

 カウンター席に腰かけると早速注文を口にする。

 カレーパンも非常に人気の高いカレーの日のメニューだ。

 油で揚げた事により外側はザクザクと歯応えの良い硬さを持ち、中のカレーはホカホカと温かさを保つ。しかもパンの中にカレーを入れているためにただ浸けるよりもパンに沁み込んでパンだけでも非常に美味しい仕様となっている。

 問題は油で揚げた為に外側がべとべとする点だが、お持ち帰りであれば紙で包まれるのでそこを持ち手にすれば手も汚さずに食べれる。

 そもそもお持ち帰りできるカレー料理がこのカレーパンしかないというのも人気になっている要因の一つだろう。

 

 「二十個ほど」

 「多すぎだ。さすがに腐るだろうが」

 

 仕事の合間合間に食うにしても多すぎる。

 冷蔵庫の様に温度を低くして腐らないように保たせる製品や技術が復旧していないエルディアでは、カレーパンは翌日に持ち越す事はあまりお勧めされない。

 夕食に食べるとしても十個も食べれないだろうから、当然翌日に持ち越しになると予測してリヴァイは発言したが、エルヴィンは自信満々に答える。

 

 「大丈夫だ。今日中に食べきる」

 「喰い過ぎで腹を下すなよ」

 

 もはや聞かないだろうと諦めながら、一応の注意だけは口にしておく。

 誰も騒ぎを起こしてくれるなよと願いつつリヴァイは席に戻るのだが、そのタイミングで目当てのカレーが食べれずに落ち込んでいたハンジがカレーの話題なら最も参加するであろうと思われる人物たちに視線を向けた。

 

 「今更なんだけど…カレーと言えばミケ班のミケ達が参加しなかったのは意外だよね」

 

 本当に今更な発言に皆の視線が集まる。

 話題に上がったミケ班のミケにゲルガー、ナナバは騒がずに見守るように眺めていた。

 

 「別に人それぞれだしな。押し付ける気もないだけだ」

 「カレーはどれも食べたけど甲乙つけがたいものばかりだからね」

 「まぁ、酒に合うという条件だったらタンドリーチキン一択だがな」

 「ゲルガーはそればっかり」

 

 酒飲みの間ではタンドリーチキンはかなりの人気メニューとなっている。

 鶏肉に沁み込んだ辛さ強めのカレーが鶏肉に合い、良い刺激となって酒が進む。

 ゲルガーが飲みに訪れた際には必ず注文するお酒のお供である。

 ちなみにタンドリーチキンはカレーを使っているが、浸け置きで寸胴でコンロを占領することがないので通常メニュー枠となっている。

 

 「チキンカレーにビーフカレー、ポークカレー。お待ち遠様です」

 

 出来上がったカレーがミケ達の前に置かれるのだが、そのカレーの上に乗っているものに皆の視線が向かう。

 美しい黄色一色で焼きにムラがなく、綺麗な楕円形を保っているオムレツ。

 下にカレーがある事で黄色が非常に映えて眼を惹き、今まで黙っていたジャンが反応を示した。

 

 「オムレツ?」

 「おう、新しいトッピングメニューだ」

 

 カレーライスのトッピングメニューにはトンカツ(カツカレー)などの肉類の他にもスクランブルエッグなども存在する。

 スパイスを利かせ、辛さのあるカレーに卵料理はまろやかにして口当たりを良くするのだ。

 なのでオムレツとの相性も良いのだが、スクランブルエッグもあるのにこれ以上に増やすのかと思うところはある…。

 

 「カレーにオムレツか。良いな」

 「お前オムレツが食べたいだけだろう」

 

 ジャンの言葉にエレンが突っ込むと犬猿の仲である二人は必ず暴れ出すだろう。

 これ以上騒ぎを起こしたくないリヴァイは二人の間に入って、視線で黙らせる。

 さすがに無視するだけの胆力は無く、怯んだ二人は気まずそうに眼を逸らす。

 

 「ただのオムレツではないよ。ねぇ?」

 「―――フッ」

 

 ミケは鼻で笑い、ナナバの意図を察して周囲に見えるようにカレーライスを置き、スプーンでなくナイフを手に取った。

 ナイフの先をオムレツの端に差し入れると、そのままスーっと端まで裂いて行く。

 固まった表皮が裂かれた事で半熟の中身が溢れ、花が咲くように広がりカレーライスの上にタラリと流れ出る。

 溢れ出た中には卵だけでなくチーズも含まれており、熱が加わって蕩けたチーズが半熟卵と共に強い香りと共にカレーに混ざる。

 匂いはカレーとチーズが主張し合って強烈で、これは好き嫌いと好みが分かれるところだろう。

 嗅覚が鋭くて匂いに敏感なミケは一瞬、眉を顰めるがそれでもスプーンでチーズオムレツごとカレーライスをすくいあげる。

 とろ~りとチーズが伸び、ゆっくりと注目していた全員の前でミケの口内へと消えて行った。

 半熟卵で柔らかく混ざり合い、滑らかな口当たりになりつつもチーズの濃厚で癖のある味わいがカレーに加わる。

 

 「俺もチーズオムレツのトッピングを」

 「お、俺も!」

 

 今まで黙っていたエレン(チーズ好き)ジャン(オムレツ好き)が辛抱貯まらずに注文し、それが口火を切ってチーズオムレツの注文が厨房へと雪崩れ込む。

 その様子にリヴァイは呆れたような視線を向けて席に座り、食べかけていたパウンドケーキと紅茶を再び楽しみ始める。

 

 またも騒がしくなった店内で黙々と食べているリヴァイに目を向けたペトラはある事に気付いた。

 パウンドケーキが黄土色だったのだ。

 デザートにあるカステラに近い色だがそれよりは茶色っぽい。

 はて、あのパウンドケーキは何だろうと首を傾げていると、薄っすらと漂う香りと紅茶がミルクたっぷりのロイヤルミルクティーであった事から何味かを察し、兵長も変わり種を頼まれたのだなと笑みを漏らすのであった。




●現在公開可能な情報

・カレーの日 とある調査兵団員のデザート
 食事処ナオの特別メニューであるカレー。
 色んなカレー料理が提供され、訪れる客は各々好みのカレー料理を味わう。
 その色んなの中にはカレーを使用したものがないデザート類は含まれていなかった。
 しかしとある調査兵団員が総司に頼み、カレーのデザートを一種用意して貰ったのだ。

 普段は入れる事の無いカレー粉、砂糖の代わりに蜂蜜、隠し味に珈琲粉、リンゴのドライフルーツとチョコチップを加えて焼き上げられたカレー風味のパウンドケーキ。
 彼はそれを注文する日は牛乳たっぷりのロイヤルミルクティーと共に味わうのだった。

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