進撃の飯屋   作:チェリオ

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間食07 ささやかな花見

 いつもの喧騒は無く、食事処ナオの店内は静寂に包まれていた。

 二階の住居スペースで生活しているユミルは、欠伸を噛み殺しながらふらりと歩く。

 強い目的をもって歩いている訳ではなく、ただ何となくふら付いている。

 出掛ける用事もないし、何かをするという事もない。

 ファーランは読書。

 アニは自室で軽いトレーニング。

 ニコロとマルセルは住んでいる宿屋で何かしているだろう。

 もう少しすれば昼時なので、イザベルが食べに来るだろうけど、それまでは食事処ナオは基本静かなのだ。

 誰かと駄弁る時もあると言えばあるが、ほとんど個人個人で好きに時間を潰している。

 ゆえに予定がない場合は暇潰しが非常に難しい。

 こうして歩き回ってもまだ誰ともすれ違う事さえないのだから。

 もう少しすれば昼食というのもあって、作るのを手伝うかと思うも冷蔵庫(住居側)の在庫からサンドイッチと推測でき、それならば準備するにも早すぎる。

 どうやって暇を潰すかと悩みながら、庭が見える縁側へと向かう。

 今日は良い天気だから総司が洗濯物を干している事だろう。

 最初の頃は自分の洗濯物を男性が干している光景に恥ずかしくも思ったが、今となってはそれが普通となって感じていた羞恥心は何処へやら。

 暇なのもあって手伝うかと思いつつ、歩いて行けばすでに洗濯物は干し終わって太陽の光を浴びていた。

 そして干し終えた総司は縁側に腰かけてお茶を飲みながら一息ついていた。

 膝に丸まったナオを乗せ、ぼんやりと眺めながらその時間を穏やかそうに過ごしている。

 なんとも周囲に溶け込む様な雰囲気を纏った総司に目を奪われていると、視線に気づいたのか振り返ってニコリと微笑んだ。

 

 「これはユミルさん。どうかしましたか?」

 「それはこっちの台詞。こんなところでぼんやりしてっと風邪ひくよ」

 「花見をしてました」

 「“ハナミ”?」

 

 総司の視線を辿ると台座の上に小さな鉢が置かれ、見た事の無い小さな木より桃色の花が咲いていた。

 それもただ植えているのではなく、小さな石や切り揃えた草木などでしっかりと作り込まれ、一つの風景を小さな鉢に収めたようで幻想的に見える。

 綺麗だなと思いつつ、またいつもの知らない(・・・・・・・・)風習かなと理解する。

 

 「その花見ってのも故郷の風習か?」

 「春の花を愛でながら春の訪れを祝うんですよ」

 「へぇ」

 

 これまでも色々な総司の故郷の風習を見てきた。

 クリスマスにお正月、節分にバレンタイン&ホワイトデーなどなど。

 騒がしくも煌びやかに映ったそれらと違って、この花見というのは何処か素朴で落ち着く。

 穏やかな表情で桜を眺めているとぽんぽんと隣を叩く。

 

 「どうですユミルさんも」

 「ん」

 

 短く返事をして隣に腰を降ろす。

 総司を挟んだ反対側には空の湯飲みがお盆の上に数個置いてあり、そのうちの一つに急須からお茶を注ぐ。

 誰かに見つかるだろうと用意はしていたのだろう。

 食べていたであろう団子も重ねて置いてあった。

 

 「準備が良いんだな。それなら最初っから呼べばいいのにさ」

 「昔、彩華を誘ったんですけど拒否された事があって…」

 

 頬を掻きながら困ったように呟く。

 そりゃああの性格からして花を眺めつつゆったりと時間を過ごすのは難しいだろうなとユミルは納得し、串を摘まんで団子をパクリと食べる。

 モチモチとした食感に、ほんのりと甘い団子。

 正直薄いとも感じる。

 団子と言えば上品な甘さを持つ餡子やトロリとした甘じょっぱいみたらしなど、しっかりと味のあるものと一緒に食べる事がほとんどで団子のみというのは初めてで、お菓子類にしては物足りなくも感じるがこうしたゆるりとした時間を過ごすのであれば丁度良い。

 小さな“サクラ”を眺めながら、急くこともなく一つを含み、ゆっくりと咀嚼して温かいお茶と共にゴクリと飲み込む。

 長閑な時間をこうしてぼんやりと過ごすのも良いものだな。

 心が酷く落ち着き、心地よい陽気が意識をぼやかせる。

 

 「こういう時間も悪くねぇな」

 「そう言って頂けて何よりです」

 「けどイザベルとかは花を愛でるよりは団子だけ食ってそうだけどな」

 「でしょうね。だから私の故郷には“花より団子”という言葉があります」

 「まさにその通りだな」

 

 カラカラと笑う。

 何度も繰り返して思ってしまうが、昔の生活では味わえなかった時間に有難さを抱く。

 普通になりつつある日常に影が差す。

 あの頃の記憶と今の日常。

 天と地ほどの生活が時たまフラッシュバックするかの如くに脳内に蘇る。

 その度に悲しみや辛さを味わい、救ってくれた感謝の念を抱かせてくる。

 いつもは誰かしら近くに居て気恥ずかしくて感謝を口にし辛いが、今は自分と総司のみ。

 

 「あのさ…わぷっ!?」

 

 口にしようとしたところで起きたナオが突然顔にダイブして来やがった。

 首根っこを掴んで顔から離して睨むと、喋るなと言わんばかりに押さえるように口に猫パンチを繰り出してくる。

 意図を察して大きく肩を落とす。

 確かにこんな話したところで総司は困るだろうし、確実に気を使ってくるに違いない。

 礼を口にしたいのであって困らせたいわけではないのだ。

 小さくため息を漏らし、分かった分かったと呟きながら、ナオを降ろすと今度は自分の膝上で丸くなる。

 苦笑いを浮かべつつ、団子を齧りつつ抱いた想いと一緒に飲み込む。

 

 「あー!ユミルと総司だけ団子食べてる!!」

 

 食事処ナオ全体に響く様な大声を上げたのは、いつの間にか訪れていたイザベルだった。

 「もうそんな時間ですか」と呟く当たり、イザベルを時計代わりに見ているんじゃないかと思う。

 立ち上がって昼食を作りに行った総司と入れ替わって、縁側よりサクラを見つめる。

 

 「うわぁ、綺麗な花」

 「あぁ、それはな―――」

 

 総司から聞いた話を伝えながら団子を咥える。

 ほのかな甘みを感じつつ、話していると総司が七輪と半透明の袋に入った餅を持って現れた。

 

 「まだ団子はあるぞ?」

 「いえ、足りないと思いますので」

 「あー…確かに」

 

 大きく頷いて納得していると火を中に入れ、七輪に納められた炭に火が灯り、パチパチと音を立てて網を熱し始めた。

 炭火特有の匂いが漂い、網が十分に熱せられた所で表面に切れ目を入れられた餅が乗せられ、時間が経つごとにじわじわと餅が温まり、切れ目からぷくりと膨れ始める。

 

 「もう食べていい?食べていい?」

 「どう見てもまだでしょうに」

 

 食べたくて仕方がないのかイザベルがフォークと皿を手にして問いかけるが、まだ焼けてない事があからさまな事からアニが否定する。

 今まさに否定されたばかりだというのにジッと餅を見てまだかまだかとはやる気持ちを抑えきれないでいるようだ。

 その様子に笑いが堪えきれずに噴き出し、つられて皆が笑い出してしまった。

 イザベルだけどうしたのと不思議そうな表情を浮かべていたが、餅が充分に焼けて膨れ上がるとその疑問も消し飛んだようで餅に喰らい付いて笑みを浮かべる。

 ユミルも一つを取ってガブリと齧り付く。

 噛み切れないのは正月で解り切っているので噛んだまま餅を引っ張って引き千切る。

 熱が加わった餅の弾力は突き立ての出来立ての餅よりも強く、作り置きの餅を焼いたので外面はカリッと硬く、中はもっちりと弾力がありながらも柔らかいという二つの食感を楽しむ。

 これはこれでまた違った感じで面白い。

 

 総司が餅を焼いている間に用意していた砂糖醤油に浸けて食べれば甘じょっぱい味が餅に絡む。

 他にもみたらしに餡子なども用意されていたので、一つを味わいながらも次はどうしようかと頭はもう次の味に移ってしまっている。そんな中でイザベルが目を見開いて口を開いた。

 

 「これも美味しいよ!」

 「おいおい…お前ってやつは…」

 

 頭を押さえながら呆れた様子のファーランの様子に何事かと視線を向けると、イザベルが何か赤いソースをかけた餅を食べていたのだ。

 赤いソースで真っ先に浮かんだのはタバスコだが、全体に掛かるほどの量からソレは無いと即座に否定する。

 ではなんだ?

 即座に問う事はせずに、クンクンと嗅覚に頼って探る。

 僅かなトマトの匂いからケチャップだと何となく判断するが、それを覆い隠すようなチーズの香り。

 

 「ピザ風ですね」

 「あんのソレ!?」

 

 総司の落ち着いた様子にそれもあるのかとそれぞれが驚きの表情を浮かべる。

 

 恐る恐る食べてみるとチーズの粘りが加わると同時にチーズとケチャップの風味が口いっぱいに広がる。

 味はピザを彷彿させるようなケチャップとチーズで覆われて餅の味はしないものの、餅のがっちりとした弾力の食感がピザ生地とまた違って食べ応えが凄い。

 

 「これはこれで確かに有り……か」

 

 どうしても味がピザな分だけ違和感が残るがこれはこれで美味しい。

 不思議な感覚を味わいながら今日はお餅を食べ、桜を眺めてお腹と心を満たすのであった。




●現在公開可能な情報

・どちらでも出来ない桜の花見
 今年は自粛の動きで総司も彩華も集まって花見が出来なかった。
 なので盆栽の桜を購入(結構高い…)して花見をしたが、エルディアに桜の木が無くて店に飾ると物珍しそうに皆が眺めるのであった。
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