進撃の飯屋   作:チェリオ

65 / 123
 一日遅れました!
 昨日だったのに…。
 書ききれなかった…。


間食10 母の日

 食事処ナオのカウンター席は何時になく空いていた。

 調理光景が目の当たりに出来るカウンター席は調理光景を眺めたり、料理に匂いを楽しんだり、すぐに注文が出来たり出来るので結構人気席となっている。

 なっているのだが本日は違って、避けるようにテーブル席に客が座っていく。 

 リヴァイ・アッカーマンただ一人を除いて…。

 普段の表情でさえ険しく、睨んでいるように受け取られる表情が、いつもに増して険しい上に殺気を放っている様なピリピリとした空気を発していた。

 彼が出している雰囲気こそがカウンター席から客を遠ざけている原因である。

 別に意図して出している訳でなく、本気で困り果てた末に無意識に出しているのだから質が悪い。

 

 リヴァイ本人にしてみればこの空気を出す羽目になった原因は自分でなく、“母の日”というものを教えた総司が悪いと思っている。

 

 “母の日”とは日頃の感謝を伝え、労う日なのだと総司から聞いた。

 話を聞いてリヴァイは中々会いに行けてない母を思い浮かべ、会いに行くのに良い口実かと行う事にしたのだ。

 口実と言うのは会い辛いとかではなく、ただ単に自身が行くようにする理由付けをしたいだけで、会いに行こうと思えば何時でもいけるのだ。

 調査兵団の仕事の都合上と、たまに顔を出しには行こうと先延ばしにして最近は会いに行けてはいないのだが…。

 

 祝うのであればケーキと言うのが頭にあり、総司にデザート欄から幾らか注文したまでは良かった。

 それらを口にして頭を悩ましているのだ。

 

 ケーキと言えば真っ先に頭に浮かんだメジャーなショートケーキ。

 スポンジケーキはふんわりと軽く、口当たりの良い柔らかさを持ち、塗られた濃厚な生クリームの味わいは絶品。

 やはり何処の店でも置いてあるだけあって外れは無いと分かっていても、そこら辺の店よりも上質なショートケーキに頬が緩む。スポンジケーキの間には生クリームと一緒にスライスされた苺が挟まれており、噛み締めればプチプチとした食感と同時に甘酸っぱい酸味と果汁が溢れて、生クリームの濃厚な味わいがべったりと残る口内が、さっぱりして最後まで飽きずに食べれる。

 上に乗せられた苺のショートケーキの象徴たる苺は甘酸っぱさは変わらないけど、スライスされていないので果汁がじゅわりと流れ出て来る。

 

 デザート担当のユミルの最も得意なミルフィーユ。

 薄いクレープ生地は絶妙に薄っすらと焦げが作られ、口にすればほのかな苦みを与えて来る。

 それが間間に挟まれた濃厚な生クリームの甘さにほろ苦さを付与し、甘くも優しい苦みが共存するという深みのある味わいへと昇華されていた。

 さらに焦がしながらも焼き加減は細心の注意が配られており、生クリームの食感に違和感を与えないようにふわりと柔らか。

 層になっていた生クリームとクレープ生地が口の中で解けて溶けて行くようだ。

 

 ここでしか味わう事の出来ないチョコレートを使ったチョコレートケーキ。

 全体的に黒く、ショートケーキとは対を成したようなケーキ。

 軽くも濃厚で、チョコレートの風味を残しながら甘いチョコホイップが贅沢に塗られ、ホイップから覗くスポンジケーキの部分はチョコレートによってより黒く染め上げられていた。

 ホイップは甘いが、スポンジケーキの方は苦みが強く、チョコレート本来の深い苦みを味わえる。

 なにより上に差し込まれているチョコレートの飾りが一番美味しい。

 後を引く苦みと旨味を持つビターチョコレート。

 

 同じくチョコレートを使ったケーキの一つであるガトーショコラ。

 チョコレートケーキと違ってチョコホイップは使われておらず、皿の端に生クリームが少し乗せられているだけ。

 ガトーショコラはしっとりと水気を含みながらもほろほろとした食感に、濃厚なチョコレートの苦みと旨味が詰まった生地が特徴的なケーキだ。

 上にはきめ細やかで、上品な甘さの粉砂糖が雪のように降り注がれており、黒いガトーショコラによって白さが際立って美しく映る。

 苦みにほのかな甘み。

 子供向けと言うよりは大人向けのケーキだ。

 紅茶にも合うし、珈琲にも合う。

 中にはブランデーやウイスキーと共に食べていた者がいた事から酒にもあうらしい。

 

 チーズの風味を楽しめるスフレチーズケーキ。

 食感はチーズが入った事でまったりとしており、舌触りは凄く滑らか。

 クリームが苦手で、チーズが好きな客がよく注文している。

 あまり食べ過ぎるとしつこくなるチーズであるが、レモン果汁が含まれてチーズを堪能しながらもレモンの風味がさっぱりさせてくれる。

 

 濃厚過ぎるほどのチーズを味わえるバスクチーズケーキ。

 チーズはしっとりとか言うレベルを越え、べっとりと後味を酷く残す。

 だが、それが良い。

 濃厚過ぎる風味に舌に絡みつくほどのチーズの食感。

 強い後味はその後に口にする飲み物に合わせて、印象深い余韻を与える。

 リヴァイは紅茶だが、エルヴィンは赤ワインで楽しんでいたな。

 そしてチーズに比べて少ない比率である底のクッキー生地が、主張し過ぎず控えめな風味を持ち、バスクチーズの旨味に寄り添って引き立てる。

 

 どれもこれも美味しくて、選ぶのに困ってしまう。

 さらに注文しなかったがクレープ生地でなく、ザクザクと香ばしい食感とバターの風味が香るパイ生地で挟んだミルフィーユや、ケーキをタルトに合わせて乗せたタルトケーキ、まったりと変わった風味を持ったモンブランとか言うものまで販売されているので、そちらも考えると余計に悩んで決まるものも決まらなくなる。

 選ぶだけでどれだけ掛かるのだと自分で突っ込みを入れ、決めようとして助け舟を総司に求める。 

 

 母が病を患っており、食も大分細くなってしまい、長年に渡り柔らかいものを食べている。

 詳しくではなく簡易に説明すると総司はケーキを選んだ。

 食は細く、長年柔らかいものを食べている事から硬い物やパサついて食べ辛い物、水分を吸収する物などを除外していく。

 この時点でタルトやパイ生地のミルフィーユ、ガトーショコラ、それから喉や口内にべったりと残りそうなモンブランやベイクドチーズケーキも選択肢から外された。

 柔らかく、苺の果汁で喉も潤って食べ易い事から苺のショートケーキを勧められた。

 ならそれにするかと総司任せではあるが決め、明日開店した頃に買いに来ると告げてリヴァイは帰って行った。

 

 

 

 翌日。

 食事処ナオで購入したショートケーキの入った箱を手に、リヴァイは久方ぶりの自宅の前に立った。

 一人で暮らすにしては十分な大きさの家に、ちょっとした庭がある。

 母も自分も庭を弄ったりしないので、雇っている家政婦によって綺麗に除草されてむき出しの大地が露わになっていた。

 気に止める事もなく玄関まで歩き、鍵を刺してロックを解除してドアノブを回す。

 

 「――チッ、相変わらずきたねぇな」

 

 扉を開けるや否やリヴァイは顔を歪めながら呟いた。

 母の食事の用意や家の掃除は家政婦が来て行っているが、リヴァイにしてみればまだ掃除残しが目立つ。

 箱を棚の上に置きながらため息を漏らし、バケツを手に取って井戸へと向かうべく、再び外へと出て行く。

 バケツを水で満たし、箒にモップ、雑巾などを使って家の隅々まで綺麗にしていく。

 幾らか掃除はされているのでそれほど時間も掛からず掃除は終了し、こうなると予想して汚れた服を脱ぎ、準備していた服に着替える。手をしっかりと洗って紅茶の準備をし、ケーキと共に母の下へと持っていく。

 居るであろう寝室に向かい、ドアを開けると上半身を起こし、前よりもまたやつれてしまった母―――クシェル・アッカーマンが微笑を浮かべていた。

 

 リヴァイの母であり、ケニーの妹であるクシェルは病に侵されている。

 ケニーがレイス家と仲良くなった事で王政府との関係性が改善されたが、リヴァイが幼い頃はアッカーマン一族は王政府から迫害を受けており、逃亡生活中にケニーと離れ離れになってしまい、身分を隠しつつも生きる為の金を得るために地下街で娼婦となったその頃に、今の身体を蝕む病に侵されたのだという。

 具合の良い日は庭を歩いていたりするらしいが、たいていはベッドの上で休んでいる。

 

 「お帰りリヴァイ…帰っていたのね」

 「動くな。身体に障るだろうが」

 「ふふ、相変わらず口が悪い。つくづく兄さんに似て来たわね」

 

 楽し気に笑ってはいるが何処か弱々しい。

 やはり体調は良くないのが見て判る。

 表情に出さないように近くの机を運び、ケーキと紅茶を並べる。

 

 「貴方がケーキなんて珍しい。今日は豪雨だったかしら?それとも雷雨?」

 

 人の事が言えるのかと口悪く言ってくるクシェルを睨むがどこ吹く風。

 小さく鼻を鳴らし、そっぽを向く。

 何を言っても無駄だと思い、ため息交じりに今日来た理由を口にする。

 

 「なんでも今日は母親を労わる日らしい」

 「そう…ありがとうねリヴァイ」

 

 静かに礼を言われると弱々しいクシェルの腕がリヴァイを優しく抱き寄せる。

 されるがまま抱き締められ、懐かしさと安心する温かさと共に前よりも触れた感じから弱っているのではないかという不安に襲われる。

 言葉にして出すべきかと悩むも、穏やかな微笑みを浮かべるクシェルを前に口は開けなかった。

 大事そうに大事そうに撫で、抱きしめていたクシェルは、満足したのかゆっくりとリヴァイを離した。

 

 「本当にありがとう。私の可愛いリヴァイ」

 「礼は良い。さっさと食べろ」

 「ふふ、そうするわね」

 

 楽しそうに、嬉しそうに、そして美味しそうに苺のショートケーキを口にする。

 そんな様子を自分用にも用意した紅茶に口を付けながら眺める。

 今までは軽視してしまっていたが、もっと大事にしていこう。

 この先、どちらの身に何が起こるか分からないのだから…。

 

 リヴァイはそう想いながら今日と言う日を過ごすのであった。




●現在公開可能な情報
・予期せぬ売り上げ

 母の日を知った食事処ナオの常連はだったら買っていくかとケーキを買うのだが、食事処ナオの供給量を超えてしまった為に完売。
 食事処ナオのケーキ類は安くて上質なものだからと日を跨いでもここで買おうと我慢する者も居れば、今日がその日だからと買いに急ぐ者も出る。
 結果、まったく話を聞いていなかったリーブス会長は急なケーキの売り上げに驚き、理由を知って総司の元へと駆け出すのだった。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。