進撃の飯屋   作:チェリオ

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 アンケートにあったシシカバブを書かせて頂きましたが、判決内容が大半を占めたことから描写が少ないのはご容赦下さい。

 活動報告のアンケートへの解答の数々ありがとうございます。
 本日で活動報告のアンケートを打ち切ろうと思います。


第61食 シシカバブ

 今、食事処ナオはお祭り騒ぎ真っ最中である。

 先日までは営業自体危ぶまれていたのだが、本日の会議にて総司に掛けられた容疑が綺麗さっぱり消え去り、明日からも普段通りの営業を行えるようになったのだ。

 総司は常連客の皆様に迷惑をかけた事、色々と手を尽くしてくれた方に感謝を込めて、本日は無料で料理を提供すると言う事で真昼間から常連客全員が詰め寄せての大宴会が開かれていた。

 さすがに人が多すぎて店内に入り切らず、店前の路地裏に各自が持ち込んだ椅子や机を並べ、料理や酒の数々がテーブルの上を彩り、常連客の心と胃を満足させて行く。

 エレン・イェーガーも食事処ナオが護られた事の喜ばしさと、何とも言えない寂しさの半々な感情に苛まれていた。

 その感情を追い出すように目の前のテーブルに並べられた料理に手を付ける。

 

 一応注文も承っているらしいが人数が人数だけに全員の注文を受けていたら料理が回らないので、すでに各机の上は料理が並んでいる。

 若鳥の唐揚げにフライドポテト、カットした野菜類を入れたサラダ、アヒージョにローストビーフ、ヴルストに串ものなどなどがずらりと並び、飲み物は葡萄水(ブドウジュース)蜜柑水(オレンジジュース)などの果実水(フルーツジュース)にコーラやサイダーなどの炭酸系が用意されている。

 テーブルによってはデザート系が多い所があれば店内ではアイスがある机もある。年齢によってはビールにワインにウィスキーなどの酒類が置かれているところもある。

 

 エレンは並んでいる料理の中からメニューには無い串を手に取る。

 名前は確か“シシカバブ”だったっけ。

 なんでも羊…それも子羊の肉(ラム肉)を使った串物らしいのだが、カレーを彷彿させるスパイシーな香りは発している。

 これミケさん達好きそうだよなぁなんて思っているとまさに食べているところが視界に入った。

 羊肉を口にした事が無いので、興味津々でガブリと齧り付く。

 牛肉や豚肉のような食感を想像していたのだけど、全く異なって非常に柔らかい。

 本来の柔らかさもあるけども、中まで浸み込んだ擦り下ろした玉葱とヨーグルトによってさらに柔らかさが足されている。

 肉本来の味わいにスパイスが利いており、ヨーグルトの酸味と玉葱の旨味も溢れ出る。

 程よい刺激のある味に、炭酸系の飲み物が欲しくなり、コップに注いでいたコーラで喉を潤す。

 口内に強く残る後味をコーラの風味としゅわっとする炭酸が絡めとっていく。

 ごくごくと一気に飲んだので、喉奥から炭酸が昇って来て肩を震わせながら声が漏れる。

 このスカッとした感覚が堪らないし、シシカバブを食べた後では格別だ。

 酒のみの大人たちも同じ想いなのかシシカバブを齧ったらビールを勢いよく煽っていた。

 同じようにエレンもがっつくように喰らい、会議での出来事を思い返しながらコーラを喉を鳴らしながら飲んだ。

 

 

 レイス家主催の食事会での一件にて、腹を立てた大貴族達が腹いせに総司を逮捕しようとした今回の事件。

 大貴族の勝ち誇った攻めから始まり、調査兵団とジーク達によるマーレ首都襲撃にて戦況が一変し、マーレ軍戦士隊隊長のジークが“総司がマーレのスパイ”であるという疑いを晴らした。

 そこから大反撃が開始された。

 ジークには大貴族を黙らせる切り札を手である“マーレ軍戦士隊をエルディア内部に手引きした貴族達のリスト”を提示したのだ。中にはレイス家を除く大貴族らの名前もあった。

 これを公に口外されたくなかったらと迫る様子はまさに脅迫だろう。

 それでも諦めきれなかった大貴族は中央兵団が追っていたユミルを匿っていた件を問い詰めるも、そもそもユミルを崇めていた宗教団体に違法性があったのが理由であり、その理由を当時を示す記録や書類を調べ尽くしたウォール教を代表してニック司祭が当時の捜査の方が違法と断言。さらにその証言にはウォール教の教主直筆の署名もあり、発言力は大貴族でも無視できるようなものではなかった。

 総司を攻め切れぬと思うや否やレイス家にターゲットを変更し、大貴族の権力と口を合わせた中央憲兵によってでっち上げた容疑をケニーに読み上げさせたが、調査書類の調査対象にはレイス家ではなく大貴族らの名前が記載されていて大貴族が攻められる事態に。

 まさかの事態に怒り心頭の大貴族らはケニーに問い詰めるも「俺も歳かな。調査対象を間違えちまうとはな」とわざとらしく弁明。これには会議場に居た者の大半が堪えきれずに噴き出した。

 味方と思っていたケニーが敵であった事を知り、これ以上は無理だと判断した大貴族は総司の件に関しては手を引いたのだ。

 あとはエルヴィンとジークの間でこれからも手を出させなくする考えがあったのだが、もうその策は必要でなくなってしまった…。

 

 中立である筈の議長を務めるダリス・ザックレー総統が攻勢に加わったのだ。

 手口は調査兵団が行った作戦よりは簡単で、総統直轄の兵士達で会議が始まると同時に中央憲兵本部の制圧から、養生の為に公には出れないという理由をつけて監禁されていたエルディア王の保護である。

 これにより大貴族達は唯一動かせた駒を失い、王を奪還された事で逆に王を拉致監禁に政治を私物化したなど多数の罪に問われ、当分どころか一生出れないらしい。

 …ザックレー総統直々に罰を与えるらしいが、あの意味深な笑みは何だったのだろうか…。

 

 後でジーク兄さんに教えてもらったのだが、そもそも容疑内容を読み上げた瞬間に大貴族らはミスを犯していたのだと言う。

 なにせ食事処ナオでは醤油などのエルディアは勿論マーレにも存在しない調味料を扱っているのに、疑いのあるリストにはチョコレートや珈琲、バナナはあったのに醤油などは書かれていなかったのだ。

 何故エルディアに存在しないものが、マーレより持ち込まれた物とは思わなかったのか。

 それは公に出来ないマーレ人関係者にマーレにしかない食材を聞いたので醤油がリストから外れたのだ。

 逆になぜそこまで詳しいのかと聞けば、聞かれたマーレ戦士隊に所属した女性隊員(ピーク)から報告を受けたとの事。

 

 

 何にせよ食事処ナオが無事でよかったよ。

 シシカバブに齧り付きながらエレンはしみじみ思う。

 もぐもぐと食べていると一緒に置いてあったソースに気が付いた。

 赤と白の色の違う二種類のソース。

 試してみようかなと喰いかけのシシカバブを食い切り、新しい串を手にしてソースを浸ける。

 まずは赤い方からとガブリと口にする。

 赤色の正体はトマトの旨味たっぷりのケチャップで、中には辛いチリペッパーなどが入ってピリリとしていた。

 次に白い方は滑らかで酸味のあるヨーグルト。

 ヨーグルトと言えば甘いイメージがあったのだが甘味は薄く、ヨーグルトの酸味とレモン果汁によりさっぱり、胡椒で味を引き締めたものに出来ていた。

 方向性の違う攻撃的な味わい。

 それが柔らかくも食べやすい子羊肉に合わさってなんとも言えない味になる。

 これは癖になる味わいだ。

 頬を緩ませながら味わっていると離れた席での会話が耳に入って来る。

 

 

 話はエルヴィンにジークが行った事への驚きや呆れから始まり、他の皆が食事処ナオの為に動いていた事の暴露大会になっていた。

 調査兵団の動きを陰より支援していたピクシス司令に、潰さないように常連客に署名を募っておきながら妻のマリーは食事処ナオのラスクがお気に入りだからと言い訳をするナイル憲兵団団長。教主直々のサインを貰う為に手を尽くしたニック司祭。

 最近ニック司祭は見知らぬお爺さん方を連れて訪れていたから、あの中の誰かが教祖だったんだろうなぁ。

 それとフレーゲルによりディモ(リーブス会長)が多額の賄賂を贈ってでも総司を助けようと資金集めしていた事を暴露し、黙ってろと怒られながら拳骨を落とされていた。

 耳にしながらふっと笑い、ちらりと視線を向ける。

 皆がどれだけ頑張ったのかにも驚くが、一番驚くのは三兵団を統括するダリス・ザックレー総統が食事処ナオ最初の常連客であり、時間外でも特別に開けて貰い、“焼肉”というメニュー表にも特別メニューにもない料理を唯一味わっていた事だろう。

 今も他の料理に手も付けず、焼肉とレモンサワーを大いに楽しんでいる。

 その隣には勧められるままに焼肉を口にし、美味しい美味しいと口にして機嫌の良いザックレーをより上機嫌にしているエルディア王……いや、エルディア元王が居た。

 

 あの爺さん(エルディア前王)…ここの飯が食いたいばかりに救出されると速攻でレイス家に王座を返すと宣言したのだ。

 おかげでレイス家は忙しくなり来れずにいた。

 逆にあの爺さんがここに居ても良いのかと思いもするが、気にせずに二つの味を存分に楽しもうと片手ずつに串を持ち、別々のソースをつけて好きなように齧り付く。

 幸せそうに頬張り、時々コーラを流し込む。

 他にも唐揚げやフライドポテトも口にし、満足したエレンは膨れた腹をひと撫でしてガクリと肩を落とした…。

 

 「まだ駄目そうだね…」

 「エレン、しっかり」

 

 肩を落として俯いたエレンを両隣のアルミンとミカサが心配そうに声を掛ける。

 エレンが落ち込んでいる理由は一つ、数日中に調査兵団を辞めさせられるからだ。

 理由は異母兄であるジークがマーレ軍所属であり、父親がマーレより潜入した人物という事がエルヴィンなどの調査兵団一部に知られた事で、さすがに調査兵団に置いて置くといらぬ誤解に言いがかりを付けられそうとの事で勧められた…。

 目標であった自らの手で故郷奪還…いや、故郷を取り戻す所に立ち会えない事に酷く落ち込まざる得ない

 不幸を口から漏らすように吐き出されるため息…。

 それは一つではなく複数同時に放たれた。

 同じテーブルを囲むは戦士隊に所属しているアニにライナーにベルトルトなどの面々。

 今回の一件にて一旦マーレ本国に帰還する事になっているのだが、ジークが元になるがマーレ政権を裏切った張本人であることから戦士隊も同じように思われるのは目に見えている。

 戻れば親に迷惑が掛かるし、エルディアを離れたくない事からアニとライナーまでも酷く暗いのだ。

 周囲からしたらどんよりと濁った空気が肌で感じられるほどに…。

 マルセルは親兄妹を支えなければならないのでベルトルトと一緒に帰国。

 ニコロに関してはジークに軍を辞める意図を伝え、総司に料理の修行を付けて貰いたいとこれからも働かせてほしいと口にし、総司はあっさり了承。

 

 …というか詳しくは知らなかったが、ユミルも含めてそれぞれ訳ありだとは解っていたので、相手がマーレよりエルディアに潜入していたと聞いた所でそれほど驚くことも無かった。

 総司の考えとしてはナオが認めれば別に良いみたいなところがある。

 ちなみにそのナオはヒッチに捕まり死んだ魚の様な瞳をして撫で回されている…。

 

 「元気出して」

 「いつもの君らしくないよ」

 「エレンが辞めるなら私も辞めるから」

 「ミカサ…それ励ましじゃないよ」

 

 二人の心配はよく伝わるのだがどうもこの沈んだ気分を再び浮上させるには時間が掛かりそうだ。

 そう思って三度目のため息を零していると、料理の追加は居るかと様子を見に来ていた総司さんが「大丈夫ですか?」と声を掛けてきた。

 そこで俺を含め、アニやライナーが少しでも気が楽になるかなと話を聞いてもらった。

 すると総司さんは少し考え、にっこりと微笑んだ。

 

 「とりあえず仕事がなくなるのであればうちで働きます?」

 

 慰めでも同情でもなく、まさかの勧誘にクスリと笑ってしまった…。

 とりあえずだが仕事探しで悩まなくなったのは少し楽になったかな。




●現在公開可能な情報
 
・焼肉…。
 ザックレーが常連客であることを知ると同時に焼肉を知った常連客達。
 美味しそうだなとかどんな味があるんだろうかと思う大半の常連客の中、ディモ・リーブスは客が自分で焼き、店側は場所と食材を提供するだけという点に着目し、これは店にして展開したら行けるのではと模索。
 焼肉屋を作るにあたって総司にアドバイスを貰い、味噌や醤油を使っている食事処ナオのタレとは違う肉に合うソースを開発中。
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