七月に四日続いての連休なんてあったっけ?ってカレンダー見たら海の日になっていてびっくりしました。
照りつける太陽に熱を帯びた白い砂浜。
地平線の先まで広がる広大な海。
本日食事処ナオ従業員一同+数名は海に訪れていた。
海というのはエルディアに住まう者にとってはマーレ軍の侵攻ルートであり、壁内まで攻められていた事から若い世代は見る事すら叶わなかった場所。
戦時中は見る事が無かったのだが、戦争状態が解消されたからと言ってわざわざ見に行く者も居なかった。
そもそも行く理由が若い世代になると解っていない。
総司が「海に行きましょうか」と言った際にも従業員エルディア組はきょとんと首を傾げたほどだ。
が、荷馬車に揺られて海に到着するや否や、初めて目にする海に跳び下りて駆け出し、ゆらゆらと揺れる波に塩っ辛い海水、だだっ広い海に興奮して興味を示した。
逆にマーレ組は見慣れた海という事もあって、それほどはしゃぐことも無かった。
荷馬車には多くの荷物も乗っており声を掛けて皆でおろし始める。
その中には従業員ではないハンネスとフレーゲルの姿もあった。
正直海で遊ぶとなると総司一人で全員の面倒は見れないのでエレンと親交のあるハンネスに協力を頼み、総司が海に行くと聞いたディモ・リーブスが「商売になるかも知れないから事細かに観察しろ」とタダで荷馬車を提供すると同時にフレーゲルを送り込んで来たのだ。
総司は積み込んだ食材を降して、バーベキューコンロなどを設置。
他の皆は板で四方を囲んだ簡易更衣室を組み立て、男性と女性に分かれて着替えていた。
男性陣は総司が用意したサーフ型の水着に上を羽織るかどうか選ぶだけなので、着替えの時間が五分も掛からずに終わり、エレンは深緑にオレンジのラインが側面に建てに走っているサーフ型の水着を履いて海をボーと眺めていた。
海に圧倒されはしたものの、正直何をすればいいのか分からずに立ち呆けているのだ。
総司に聞くのも良いのだが、本人は海に入る気がさらさらなく、長袖にジーンズ姿に麦わら帽子を被って昼食の下準備やらをしている。
「何をしているのエレン」
声をかけられ振り返った先に居たミカサを見て、エレンはぴたりと固まってしまった。
白色の三角ビキニに腰にはパレオが巻かれ、ほとんど下着姿とそう変わらない格好に魅入ってしまったのだ。
ミカサもミカサで半ズボンのような水着一枚だけで、エレンの細身でありながらも、鍛え上げられたスラッとした肉体が露わになっており、しっかりと魅入ってお互いに沈黙して間が空く。
「こ…これからどうしようか?」
「そ、そうだな…」
見ている事にも見られている事にも恥ずかしくなったミカサが呟いた事で、恥ずかしいのもあるが気まずそうにそっぽを向きながらエレンは頬を掻く。
二人共頬を若干赤らめたまま、火照った頭ではなにも案が出ず、二人並んで海沿いを歩く事に。
連れ立って歩くだけで、二人の間には会話は無い。
聞こえるのは海鳥の鳴き声に砂浜を濡らす波の音。
しかしそれだけでもなぜかしら満ち足りたような気持になるのは何故だろう。
会話は無くとも二人は自然に微笑みながら並んで歩く。
「海に来たのは良いが何をするか…」
「あー…確かになぁ」
ミカサとエレンが水辺を歩いている様子を眺めつつ、ライナーとユミルは悩みながら呟く。
海に来たのは良いが、何をして遊ぶか悩んでいるライナー。
クリスタが着替えを終えるのを待ちながら、海での遊びを知らないユミル。
そしてあの二人の様子から輪に入り辛いアルミン。
三人もエレン達と同じで何をするか悩んでいるのだ。
ユミルとアルミンは何をすればいいのか自体が解らず、ライナーは何をするべきかと悩む。
「マーレ側の人間だからこういう時に何するか知ってるんだろ?」
「知ってはいるが、何をすべきで悩むんだがなぁ…」
二人の会話を耳に入れながらアルミンは見つめる。
長身でスレンダーなユミルは紐を鎖骨の辺りで交差されるクロス・ホルター・ビキニを着こなし、ライナーはがっしりとした体形に見合った鍛え上げられた肉体を見せつけるように一番短めの水着を穿いている。
身体的に自分より優れ、黒色の水着というのもあって大人っぽく見えて羨ましく思える。
小さく一つため息を漏らす。
「ごめんね。待たせちゃったかな?」
そう言って現れたのはクリスタだった。
ビキニの真ん中にリボンがあしらわれたリボン・ビキニにフリルが付いたボトム。
明るい赤を主体に白い水玉模様の可愛らしい水着に身を包んだクリスタに三人の視線は釘付けとなった。
沈黙が間となって続き、向けられたままの視線に恥ずかしそうに顔を少し背ける。
「どこか…変かな?」
顔を赤らめながら問われた一言に我に返った三人は慌てるように口を開く。
「
「
「
「あ、ありがと」
想いを隠した感想に気付かないクリスタは恥ずかしがりながらも嬉しそうに礼を口にした。
そして三人の水着姿を眺め、アルミンに注目する。
アルミンは短パンの様な短めのサーフ型の水着に、半そでの上着を羽織っているだけなので胸元は開いたままで、ミカサやライナーほど鍛えられた肉体ではないが、それでも無駄な脂肪がないスマートな身体つきをしている。
「それにしてもアルミン―――男の子だったんだね」
「今まで何だと思っていたの!?」
まさかの一言に衝撃を受けている様子に、ユミルとライナーは思わず笑ってしまった。
アルミンは「もぅ」と眉をハの字にして抗議するも、クリスタに膨れっ面も可愛いと言われて黙ってしまった。
「クリスタも来たことだし、何するかなぁ」
「総司さんから聞いたビーチバレーやろうよ」
「ビーチバレー?」
「うん。ちょうど偶数だし二人ずつに分かれてやろうよ」
総司から聞いたバレーボールのルールをクリスタが伝え、所々をライナーが補足していき、ルールをとりあえず理解した四人は総司が持ち込んだネットとボールを運び、楽し気にビーチバレーを行う―――のであれば良かったのだが、ライナーとユミルがクリスタに良い所を見せようと張り切り、楽し気というよりはまるで一騎打ちの様なバレーが繰り広げられるのであった…。
親父に言われて普段着で来たフレーゲルは困惑していた。
海自体にもそうだが、総司が持参した物がどれもこれも知らないものばかりでどう伝えるべきか困っているのだ。
「なんだコレ?南瓜か?」
その中でも分からないのが総司が持ち込んだ黒と深緑のラインが交互に並んでいる球体。
氷を浮かべた氷水で冷やされ、ぷかぷかと浮いている。
「西瓜っていう野菜らしい」
「野菜?」
総司同様海に入る気がないニコロは半ズボンに半そで姿で青いビニールシートを広げていた。
これが野菜なのかとフレーゲルが西瓜をつんつんと指で突いていると、イザベルとファーランが棍棒やまな板、包丁に小瓶を持って現れた。
「おっさんも西瓜割り一緒にするか?」
「一緒にって切り分けるだけだろ」
「いや、総司の故郷では叩き割るらしい」
「叩き割るって野蛮だなぁ…」
「良いじゃん楽しそうで!」
上はビキニで下はホットパンツの様なボーイレッグを穿いたイザベルが、目隠しをして誇らしげに棍棒を地面に突き立ててそこを中心に回り出した。
いきなり目の前で回り始めた事事態に首を傾げてると、ニコロがビニールシートに氷水より出した西瓜を置く。
「ああやって方向感覚を乱して、周囲の者の指示で西瓜の方向へと進んで叩き割るんだそうだよ」
ファーランの説明を耳にしながら、ニコロの指示を受けたイザベルがふらふらと揺れながら、向かって行くも方向が定まっては居ない。
ニコロに合わせてファーラン、そして見ていたら自然に自分も声を出して指示を飛ばしていた。
三人の指示を受けながらよろよろとゆっくりながら進み、イザベルは強く握りしめた。
「ここか!!」
「あぶなッ!?」
西瓜とは違う方向に進んだイザベルが思いっきり棍棒を振り下ろす。
すると途中で手からすっぽ抜けてフレーゲルの数歩横に飛んできた。
あと少しズレていたらと冷や汗を流し、ファーランに注意されるイザベルに抗議の視線を向ける。
しかし抗議の視線をやりたそうと勘違いして、転がっていた棍棒を渡された。
「ほい」
「はぁ?俺もやるのか!?」
「当然だろ」
「少しは楽しめよ」
他の三人にも促され渋々行う事に。
結果、方向感覚は完全に狂って、叩きつけたのは砂であり、思いっきりやった分だけ手がしびれた。
手が痺れながらも悔しさからやる気に火が付いた。
四人で二周ほど回ったが、西瓜は傷一つなく健在。
西瓜割りに気付いたエレンにミカサ、アルミンやクリスタが加わり、熱が籠りバレーボールの打ち合いしていたライナーとユミルも合流し、皆で西瓜割りに興じる。
そうしてようやく西瓜は割られ、割った西瓜の中で大きなものはニコロが切り分け、皆が笑顔を浮かべながら西瓜を口にする。
分厚い黒と深緑の皮に包まれた、赤い実は甘い果汁を多く含んでおり、口に含むとほろりと解けながら口の中を潤す。
途中、それぞれ種を吐き出し、持って行った小瓶に入っていた塩を少し振るって食べる。
塩気を加えたことで甘みが増して、ニコロやエレン、ライナーの厨房組が興味深く味わう。
体験した事と、今の様子を眺めたフレーゲルは疲れた様に笑いながら、こういうのも良いなと帰って親父に話す事を頭の中でまとめて行くのであった。
朝と昼の中間頃より海に訪れ、二時間近く遊び続けている。
所々で声を掛けて水分と塩分の補給を取らして、度々休ませるようにはしていた。
水分補給は総司が持って来たクーラーボックスにキンキンに冷えたジュースや約一名用に用意されたビールが納められており、各自好きに飲み干して、用意したゴミ袋に空瓶や缶を入れる。
が、補給を追えると徐々に海での遊びにのめり込んでいく。
「おうおう、若いって良いねぇ。元気があって」
「本当にそうですね」
「…アンタも十分若いでしょうに」
野菜や肉、魚介を串に刺している総司の近くにいるアニが呆れたような視線を向けながら突っ込む。
調理している総司の近くにはビーチパラソルが数本立てられ、その日陰にはビーチチェアが置かれている。
そのうちの二つはハンネスとアニに使用され、各々好きに過ごしていた。
面倒を頼まれたが無邪気にはしゃいで遊ぶほど元気は無いので、水着ではなく半ズボンに薄い半そでの上着を着てビール瓶片手に寝転がって眺めている。
口にしているビールは食事処ナオで提供している物とは違い、アルコール度数は少し低く、爽やかですっきりした飲み易い味わいが喉をスーッと通り過ぎるピルスナーと言われる種類のビール。
瓶に口を付け、ゴクリと飲むハンネスは一息つく。
「嬢ちゃんは遊ばなくていいのか?」
「あそこまでの元気は無いよ」
黄色の首の後ろで紐を結ぶホルターネックタイプのビキニに、日差しで目をやられないようにサングラスをしたアニは、総司を挟んでハンネスの反対側のビーチチェアに寝そべって、炎天下の下を元気よく動き回っている皆を見て苦笑いを浮かべる。
眺めているとふわりと香ばしい匂いが鼻孔を擽り、匂いの方へと視線を向けると総司がバーベキューコンロで串焼きを焼いている所だった。
牛肉や鶏肉、豚肉などの肉類と、玉葱、ピーマン、芋、トウモロコシなどの野菜類を交互に刺した串が、熱せられた網に乗せられて焼かれ、上に刷毛で醤油ベースのタレを塗る。
食材に香ばしい醤油の匂いが合わさり、食欲が強く刺激されて恥ずかしながらお腹が鳴る。
何事もなかったように振舞うも、聞いていたハンネスにクスリと笑われ、恥ずかしさから頬染める。
「ナァオウ」
水に浸かるのが嫌で海に近づきもしないナオは、ナオ用に用意したシートの上に寝転がったままひと鳴きした。
気付いた総司は「あぁ…」と小さく言葉を漏らし、焼けた一本の串を手にアニに近づく。
「どうぞ」
「……ありがと」
察せられた事にまた恥ずかしそうにしながら受け取り、カプリと齧り付く。
フルーティな果物の旨味に深いコクと独特の塩気がある醤油が合わさったタレが舌を刺激し、齧り付いた牛肉より肉汁が溢れ牛肉の味わいが広がる。
焼きたてで肉も柔らかく、厚みもあるので食べ応え十分。
空腹も相まって非常に美味しい。
カブリカブリと齧り付き、次々と食べて行く。
しんなりとしながらもシャキシャキと歯応えがあり、本来の旨味が引き出された玉葱。
脂は少なくて、すっきりとしながらもタレがよく利いている鶏肉。
醤油の香ばしさが甘味に合わさって、互いに引き立たせているコーン。
苦みが良いアクセントとなって美味しく感じるピーマン。
美味いと美味いと無心で齧り付いた事で、一本目がすぐに食べ終わってしまい、物足りなさが襲ってくる。
すると見計らったように総司が次の串を手渡して来た。
ちらりと見ればビール片手にハンネスも齧っており、それがとてつもなく美味しそうに映る。
何かないかなとクーラーボックスに用意されていたラムネの瓶を手に取り、塞いでいたビー玉を押し込んで外し、一口齧り付いて飲む。
齧った部位は豚バラで、濃厚な味と脂が口いっぱいに広がる。
そこに炭酸の利いたラムネのすっきりとした甘みと刺激が喉を刺激しながら流れ込む。
自然に「ぷはぁ!」と声が漏れ出た。
周りを気にするよりもこの食べ合わせを気に入って、食べる事に夢中になる。
串は肉だけではなく魚介類の串焼きもあり、ぷりぷりな淡白な海老とタレが合うし、タレに加えて弾力があって噛む度に旨味が溢れ出るホタテやイカなどなど。
もう食べる口と手は止まりようがなかった。
先に焼けた串を提供した総司は大声を上げて他の皆を呼ぶと、串焼きを振舞っている事をしって遊び忘れていた空腹感を思い出して我先にと駆け出してくる。
皆も美味しそうに齧り付き、満面の笑みを浮かべながら楽しむ。
よく遊び、よく食べ、また遊んだ彼らは帰り頃となる夕方には疲れ果て、帰りの荷馬車に揺られながら眠りにつくのであった。
●現在公開可能な情報
・その後の海
フレーゲルより話を聞いたディモはすぐさま行動を開始。
女性男性に分けた更衣室の設置に出店となる総司から聞いた“海の家”を建て、溺れる等の緊急時を考えて監視員を配置、ごみのポイ捨てを考えてゴミ箱もこまめに用意。
夏限定ではあるものの、エルディアにとっても海は皆が集う遊び場となったのである。