進撃の飯屋   作:チェリオ

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 投稿遅れて申し訳ありません。

 クーラーの効いた一室で脱水症状でダウンしておりました。
 皆様もまだ暑い日が続きますのでお気をつけください。


第67食 シュトルーデル

 休日の食事処ナオ。

 街ではやれ戴冠式だのお祭りをするだの浮足立っているが、ここは路地裏と言う事もあって静寂だ。

 カウンター席に腰かけたユミルはグラスを傾け、いつもと違って静かな店内をぼんやりと眺める。

 こうして一人だけ店内に居るとあの日を思い出す。

 ちょうどテーブルクロスも仕舞われている事でさらにあの時と同じだ。

 懐かしいなと思いながらカウンターに置いていた柿ピー(柿の種とピーナッツ)をひょいひょいっと摘まみ、グラスに注がれていた黒ビール―――ではなくコーラを傾けて含む。

 ピーナッツと柿の種(あられ)が噛み締めればポリポリ・パリパリと音を立て、絶妙な塩気や辛味が味覚を刺激して、シュワっと炭酸の効いたコーラが一気に口内の後味を流して甘味と独特の味わいを残して行く。

 誰かに見られていたらおっさんくさいと言われるかもしれないが、幸いにして店内には自分一人。

 「――プハァ!」とグラスを口から離すと勢いよく息は吐き出した。

 

 確かに店内には誰も居なかった。

 居住スペースの方にも用事やらでほぼ誰も居ない。

 食事処ナオは居住スペースから店内までを考えると結構広く、用がかち合わないと出くわす事はまずない―――筈だった…。

 ガチャリと運悪く現れた総司に見事の大きく吐いた息を聞かれ、自身がおっさんぽいかなと思った光景をまんまと目撃されてしまった。

 カァーと顔が恥ずかしさで熱を持ったのを感じて悔しそうに俯く。

 見られただけでも恥ずかしいのにあたかも「私、気にしてませんよ」と微笑まれると余計に恥ずかしく感じる。

 傷口に粗塩を練り込まれたようなダメージを負ったユミルはコホンと咳払いし、そっぽを向きながら体勢を立て直そうと起き上がる。

 

 「アニが居ないからって調理してたら言いつけるよ」

 「……そ、そんなわけないじゃないですか…」

 

 仕返しとばかりに言ってみると顔をヒク付かせ、言葉は棒読みで動揺がもろに出ていた。

 本当に作る気満々だったとは。

 解かり切っている分、呆れはなく普通に料理に対しては本当に強欲なほど真剣なんだなと感心する。

 やり返せたので少し余裕が出て、頬の熱が下がっていつものように余裕のある笑みを浮かべる。

 

 「そう言えばユミルさんは行かなかったんですね」

 「行って欲しかったみたいな言い回しだな」

 「いえ、そういう意図はないんですけど…クリスタさんやヒストリアさん関係になると無条件でついて行くと思っていたので」

 「ストーカーか何かと思ってたのか?何時でも何処でもって訳じゃないんだ私も」

 

 …と、強がって言ってみたものの、本来ならばついて行くのだからそこまで否定できないのだが…。

 休業日と言う事で食事処ナオの従業員メンバーは思い思いに過ごし、いつもなら住居スペースに居るのだけど予定が入って皆で払っている。

 アルミンとファーランはマーレとの関係改善により規制が外された“エルディア国の外”の本を買いに本屋へ。

 それにエレンが興味を持ち、エレンが行くなら私もとミカサまでも付いて行った。

 ライナーはある目的(・・・・)の為にニコロの自宅で料理研究に参加し、イザベルとアニはクリスタに誘われて(アニは半強制的に)服屋へ行ったのだ。

 勿論クリスタに誘われはした――が、今回は遠慮させて貰う。

 アルミンのせいと言うか、彩華がきっかけで誰かを着せ替える事の楽しさを知ってしまったらしく、クリスタと服屋に向かうと着せ替え人形みたく色々と試着させられるのだ。

 それも時間単位で。

 クリスタの喜ぶ顔が拝めると思えば良い気もするが、さすがにフリフリのフリルが付いた服などはご免被る。

 ああいった可愛い系の洋服はクリスタやヒストリアが着るならまだしも、私なんかは似合わないだろう。

 

 鼻で笑いながら柿の種を摘まむ。

 それにしてもユミルさん(・・)か…。

 ようやく苗字呼びから名前呼びに変わったというのに、さん付けだけは変わらないな。

 

 何となく寂しさを感じてしまったユミルは珈琲を淹れる総司をそっと目で追う。

 すると足元がさわさわとくすぐったくなり、下を見てみるとナオが身体を摺り寄せていた。

 頭をひと撫でしてやると「ナォウ」と鳴いて、膝の上に飛び乗って顔を見つめて来る。

 もっと撫でろってか…。

 意図を察して苦笑いを浮かべながら思いっきり撫でてやる。

 わしゃわしゃと撫でても決して逃げ出すことなく受け入れるナオ。

 

 「今日の昼食は何が良いですか?」

 

 ゆったりとした時間を味わっていると、昼時も近い事もあって空いたお腹を刺激する言葉が投げかけられた。

 あの日の事を思い返していたのもあって、速攻でサバの味噌煮と答えそうになったのをグッと堪える。

 

 「少し作りたいもんがあってさ、今日は私が作るよ」

 「それは楽しみですね」

 

 自分が作らなくなった事を悲しむのではなく、私が作る料理に興味津々な総司は厨房からカウンター席に腰かけた。

 観察する気満々の総司に「あんま見んな」と苦笑い込みで軽く言っておく。

 料理に関わる件だから見ない事はあり得ないと解っているから。

 

 今日作ろうとするのは店で提供していないシュトルーデルという料理だ。

 これは具材を生地で包んで焼く料理で、中身を果物にするか肉類にするかでデザートにもメイン料理にもなる。

 エルディア国内でも一般的な料理であるが、ユミルにとっては(・・・・・)馴染みは無い。

 アルミンやファーランみたいに文字ばかりの書物を読み耽る気は無いが、短い時間でもさっと読める漫画は暇潰しに読んでおり、その漫画の中に成人男性が死後異世界に幼女として転生して戦争に参加する作品―――のスピンオフの料理作品を読んで初めてシュトルーデルを知って、美味しそうだったし、興味もあったのでこれは作ってみようと思っていたのだ。

 

 まずは小麦粉(薄力粉と強力粉)に卵に油に水に塩を混ぜた生地を一時間寝かせるのだが、すでに生地は練った上で寝かせてあるので冷蔵庫から出すだけだ。

 取り出した生地をクッキングシートにくっ付かないように撒いた少量の薄力粉の上に置き、麺棒で紙のように出来る限り薄くなるように伸ばしに伸ばす。

 にしてもこの麺棒は扱いやすい。

 一般的に売っているのはつるつるな木の棒なのだが、食事処ナオで使うのは端に棒状のハンドルが付いていて、中央部分がころころと転がる仕掛けになっていて、非常に伸ばしやすいのだ。

 伸ばしきると銀杏切りにした林檎に砂糖、シナモン、アーモンド、レーズンをふんだんに乗せて香り付けも兼ねてラム酒を少し垂らす。

 他のレシピ本では生地をパイ生地にしたりするものもあったが、何事も初めてはアレンジを加えたりせずに基本に忠実に作った方が良い。何も解らぬうちにアレンジを加えたら折角の味わいを殺したり、大きな失敗に繋がる事があるからだ。

 形を整えるべく具材を乗せた生地を筒状に丸めて行き、予熱しておいたオーブンに入れて焼き始める。

 

 寝かせたり、よく伸ばしたりと手間はかかるが焼く時間がそれほどかからないのは良い。

 まず十五分ほど焼くと取り出して溶かしたバターを塗り、もう十分オーブンで焼き上げる。

 合計二十五分と言うのはパウンドケーキの半分ほどの時間だ。

 焼いている間はナオを撫でたり、柿ピーとコーラを楽しんだり、総司と会話していたらあっと言う間に過ぎて行き、時間が経ったオーブンより取り出し焼き加減を見て確認し、皿に乗せて総司と自分の席に一つずつ置く。

 

 「召し上がれ」 

 「では、頂きます」

 

 総司は大きく香りを吸い込み、微笑を浮かべてナイフとフォークを綺麗に使って一口分を切り分ける。

 くるくると巻かれた生地の間より形を残しつつも、熱が加わってトロッとしているリンゴが顔を覗かせた。

 その様子をしっかりと観察し、パクリと口に含んでゆっくりと咀嚼する。

 食べている様子を見守っているだけのユミルは緊張からゴクリと生唾を呑み込む。

 あれはただ味わっているのではなく、私が作ったシュトルーデルがどのレベルかを判断しているに違いない。

 店のデザート類を任されている時点で、腕には多少の自信があるのだがさすがに初めて作った物が総司が求めるレベルに達しているかは未知数だ。

 ひっそりとしていた不安が徐々に濃くなり、脳内に酷く漂ってくる。

 

 「凄く美味しいですよ。食感も味わいも非常に良い」

 

 不安が強まっていたユミルに総司は優しく答えて、不安が一気に安堵に変わった。

 安堵しながら自身も一口食べる。

 さくりとした焼き上がっている外側の生地を破ると中よりシナモンやラム酒の香りがふわりと舞い上がる。

 鼻孔に香りが充満する中で、シャクシャクと心地よい音と食感を与え、熱せられた事で深みと甘味が増した林檎が口いっぱいに広がる。

 砂糖が少なかったかなと思っていたが、リンゴの甘味が増した事で程よい味わいになっていて、やはりレシピ通りに作って良かったなと一人頷く。

 

 「これ苺でも出来るかなぁ」

 

 クリスタとヒストリアを想いながら呟いた一言は、バッチリ総司に聞かれてニヤリと笑みを浮かべられた。

 

 「食べてくれる相手が居ると言うのは幸せな事ですね」

 「まだ何も言ってないんだが?」

 「言わずとも顔に書いてあります」

 

 微笑ましい視線を向けられるのは癪だが、当たっているだけに強く反論できない。

 とあれ、苺で作るのはまたの機会にして今は目の前のシュトルーデルを二人で味わう

 食べるにつれて時間が経ち、内側の生地はトロッとした林檎の果実によってふやけ、舌触りが柔らかく滑らかに変化する。

 果実もどこかジャムのような感じな所もあるのですごくクリーミーだ。

 

 「本当に美味いなコレ」

 「そのまま店で出しても良いかも知れませんね」

 「太鼓判まで押されちまったな。まぁ、私なんかは兎も角クリスタやヒストリアが食べるんならもうちょっと見た目良くした方が良いか…」

 「なんか(・・・)?」

 

 特に深い意味は無かった。

 自分であれば味が良ければ見た目が酷過ぎなければ気にする事が無いが、クリスタやヒストリアには見た目も良い物を食べて欲しいじゃないか。

 なにせあの二人は可愛い。

 料理もそれなりしないと失礼ってもんだろう。

 その意図と今日買い物に行かなかった理由も含めて「がさつな私と違って女神の様に可愛いんだからな」と言うと、キョトンと困惑した様子で首を傾げられた。

  別段可笑しな事は言っていない筈なのだがと思っていると、総司は目と目を合わせて答えた。

 

 「そうですか?ユミルさんって確かに乱暴な言動はありますが、周りへの気配りも出来ますし、人が言い難い事をあえて汚れ役を買ってはっきりと伝えたり、他人を気遣える優しい女性だと私は思いますよ」

 「…へ?」

 

 真っ直ぐな瞳を向けられてごく当たり前のように言われた言葉にユミルは呆けた。

 言葉は耳に届いても脳が理解し切れない。

 否、理解したら平静を装う事が出来ないと自然に脳が情報を弾いたのだ。

 しかし総司はさらに続けようと口を動かそうとし、ユミルは「それ以上言わすか」と背後よりチョークスリーパーで軽めに絞める。

 …背後に周ったのは何も言わさないように絞めるだけでなく、純粋に褒められたことによって真っ赤に染まる顔を隠す為でもあった。

 

 

 

 じゃれるようにしていたユミルであるが、早めに戻って来たクリスタに“総司に背後から抱き着いていた”と誤解されてしまい、その誤解を解くのと同時に二人だけデザートを食べていたと膨れられ、二重の意味で大変な目に合うのであった…




●現在公開可能な情報

・アニ半強制の理由
 最初はアニのスタイルからカッコいい系から普段は見れない可愛い系を着させたいというクリスタの目論見があったのだが、現在持っている衣類を見せて貰うと普段着はフード付きのパーカーばかり。
 それもほぼ同色で変わり映えしないもの。
 さすがにこれはと無理やり連れだすことにしたのだった。

追記
・変わる事の無い呼び方
 総司は今までいろんな人を苗字呼びして来ました。
 例を上げるとミカサ・アッカーマンの事をアッカーマンさんなどと。
 最近はミカサさんと呼び方を変えているのを自分がさん付けされた事でユミルが反応しましたが、元々苗字の無いユミルだけは変わる事がないのだった。
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