進撃の飯屋   作:チェリオ

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 最近遅ればっかりで申し訳ありません…。
 リアルが忙しくて打つ暇がなく…。

 現在明日投稿文を打っている途中で間に合うかどうか…。
 出来上がり次第投稿しようとは思います。


第71食 イザベルの祭り初日

 エルディア王が偽物であると公言し、新たなエルディア王として元々王家だったレイス家(フリッツ家)よりヒストリア・レイスが即位する。そして新王が即位した事を国内外に知らしめる戴冠式が予定される中、それらを祝ってエルディアでは大々的な祭りが催されている。

 その催しに参加すべく開催地であるウォール・シーナ王都ミットラスに食事処ナオの面子が勢揃いしていた。

 場所はエルディアとマーレの露店エリアが接している“緩衝地帯”。

 両国のいざこざを避けるべく誰も取らなかったために、他に比べてかなり広めという事で、食事処ナオは三つもの露店を余裕を持って設置している。

 早朝よりアニのおかげで借りれたマルレーン商会の馬車により食材に衣装、露店の部品などが運ばれ、リーブス商会に依頼した人員によって総司指示の下ですでに組み立てられていた。

 

 「本日より七日間の開催と長めですので、あまり気を張り過ぎず、事故などが無いように頑張りましょう」

 

 並ぶ様子の違う露店の前に集まった面々は総司の言葉に短く返事を返すと各々の持ち場につく。

 あまり気を張り過ぎずにと総司は言ったが、それは無理だろうとイザベルは思う。

 何しろこの露店は平日より多い休日出勤ではなく、売り上げから材料費などを経費を差し引いたお金が給金とすると総司が言ったのだ。

 つまり売れれば売れるだけ自分達の給金が増えるのだ。

 ファーランやクリスタなどはこれにやる気十分で、アルミンは売上向上のために前回同様女装させられそうになるという騒動が起こったほど。

 

 「ほら、ジッとして」

 「くすぐったいって」

 

 イザベルの持ち場はカフェをイメージした露店で主にケーキ類などの洋菓子を扱い、飲食スペースは中ではなく外にテーブルと椅子を十組ばかり用意している。

 担当しているのはユミルを料理長に補佐をエレン、接客をファーランにイザベル、アニの五名が受け持ち、全員が彩華が用意した執事服を着こなしていた。

 アニとユミルが散々総司の反応を楽しんだメイド服だが、動きづらいのと冷静になって恥ずかしくなって執事服を着ている。

 ほぼ彩華監修と言っていいカフェエリアでは、最後の仕上げと言って彩華が自然な感じでメイクを施している。

 化粧など全くしないイザベルにとっては未知の体験であり、塗る為に頬を触られるたびに擽ったくて仕方がない。

 

 「もうすぐだからね。皆、元が良いから少しメイクするだけで助かるよ」

 

 元が良いと褒められて「ニヒヒ」と満面の笑みと共に笑い声が漏れた。

 初日である今日は彩華さんも休日と言う事もあって応援にと来てくれたのだ。

 店から出た時に「こっちは(・・・・)こうなっていたんだ(・・・・・・・・・)」と何故か納得したように呟いたのがちょっと気になるけど…。

 メイクが終わった事でイザベルはアニと入れ替わり、仕事が始まる前に朝食を済まそうとニコロの下へと向かう。

 ニコロはイザベル達カフェ班とは違い、和風茶屋をイメージした露店を担当している。

 露店の壁には土壁や木枠を描いた壁紙が張られ、屋根には藁の屋根が描かれ、入り口には暖簾と団子類が並ぶショーケースが置かれている。

 茶屋班の料理担当であるニコロは一人露店内で調理を始めており、イザベラが笑みを浮かべてやって来たことに苦笑いを浮かべる。

 

 「朝食食べに来たよ」

 「早すぎるだろ。まぁ、良いけど」

 

 ため息交じりに白玉団子をお椀に数個入れて、鍋より大量に作り置きしているこし餡を水で溶かした汁を注ぐ。

 

 「服に零すなよ。それと化粧したんだから口元べったりでし直しも気を付けろよ」

 「解ってるって。心配すんな」

 「どうだかなぁ…」

 

 早く早くと表情で訴えかけ、受け取ったお椀と箸を持って外のベンチに腰掛ける。

 茶屋の方はカフェと違って飲食スペースとして赤色のシーツが掛けられたベンチが並べられている。

 腰かけたイザベルは早速と汁を口に含む。

 とろりとした汁が口を濡らすとしっとりと薄くも濃い餡子の甘さが押し寄せて来る。

 熱過ぎず、冷たくない程よい温かさが身体をじんわりと温める。

 ゴクリと飲むと次は汁に浸かった白玉を口に入れた。

 噛むともちもちとした弾力が伝わり、呑み込むときにはつるりと流れるように胃に落ちて行く。

 

 「おしるこ、うめぇ」

 

 汁を啜ってぷはぁと息を吐き出すと感想を口にする。

 じわりじわりと胃に溜まっていく感じを味わいながら、イザベルは白玉も好きだけど餅も良いのにと思い、即座にその考えを追い払う。

 最初はおしることぜんざいの両方を提供しようと思っていたのだが、餅は年齢によって喉に詰まり易く事故が起きやすい。

 毎年総司の故郷では餅による事故が年始に多発するとか。

 なので今回は安全をとって、餅を使うぜんざいは扱わない事にしたのだ。

 

 説明を受けた事をうっかり忘れかけていた。

 でも口に出す前で良かったと安堵していると、ファーランがクツクツと嗤っていた。

 

 「お前ってやつは期待を裏切らないな」

 「なにがさ?」

 「口周り凄いことになってんぞ」

 

 先ほど啜った時に口周りについてしまったのだと分かったイザベラは慌てて袖で口元を拭おうとして、衣装を着ている事をギリギリで気付いて止め、ハンカチを取り出して拭う。

 危うく汚す所だったと安堵し、気を付けながらおしるこを食べきる。

 食べきるとぺろりと唇を嘗め、器と箸を流しに置いてカフェへと戻る。

 

 祭りが始まるとイナゴの大群が押し寄せるかのように人の波が通りを埋め尽くす。

 エルディア人は勿論ながら、マーレやヒイズルから訪れた者も居るので人数が凄い事になっている。

 

 以前調査兵団の露店に協力した際に、見せ方重視の調理方法と過程で漂う匂いを利用して客を惹き付ける手段を用いたが、今回はあまり意味がないようだ。

 何しろ他の店もその手法を目撃しており、研究してか似通った手法を用いている店が多いからである。

 が、そんな中で食事処ナオの露店はまたも人の注意を惹き付けていた。

 

 カフェ風に茶屋風の露店を展開している食事処ナオであるが、もう一店総司が担当している露店があり、その横に軽快な音楽を流しながら自動的にポップコーンを作る機械を始めとした料理を提供する摩訶不思議な機械達が並んでいるのだ。

 

 「なんであんなもの買うかな」

 

 客を惹き付けている大きな要因である機械らを溜め息混じりにアニは呟いた。

 ポップコーンを作る機械など自分よりも大きいので置き場に困るだろう。まして食事処ナオ店内には騒がし過ぎるのもあって置けないし、外に置けば「どうぞ盗んで下さい」と言っているようなものだ。

 使い道の無さそうな物を買った事にアニは心底呆れていたが、イザベルは面白いし美味しいのだから良いじゃないかと存外気に入っている。

 

 そんな要因に美味しいと口コミが広がって時間が経つにつれて客が増えて来る。

 多くの客が来店する中、彩華に叩き込まれた執事としての振る舞いに、“旦那様”や“お嬢様”などいつもは使わない呼び方をお客によって使い分けて対応する。

 何故呼び方を変えるのかはあまり分かってないのだが、彩華曰く「それがらしい(・・・)から」と力説するのでそうなんだろうなとなんとなく納得して使っている。

 甘いケーキ類を扱っているだけに女性客が多く、男性客などかなり珍しい部類に入る。

 しかしながらそんな事は気にせずに訪れる猛者は存在し、それらは周囲に大きな波を立てた。

 

 堂々として、真顔でチーズタルトを存分に味わうニック司祭。

 怒っている訳ではないのだが目付きの悪さから睨んでいるようにしか見えないリヴァイの兄貴。

 

 正直周囲の机を女性陣が囲んでいる中でぽつりといた彼らを見て、笑いを堪えるだけで精いっぱいだったのは内緒にしておこう…。特に兄貴には。

 

 忙しくも働いたイザベルであったが、時間が経つにつれて発生した空腹感には抗えない。

 お腹が食事を欲して音を発して訴えかけ、身体は空腹感から力が入り辛い。

 

 露店では客の混雑により決まった時間に休みがとり難いので、メンバー同士で話して一人ずつ休憩を取るようにしている。

 気付いたファーランがアニに伝え、イザベルに先に休憩を取るように言ったのは良い判断だっただろう。

 戦力として半減しつつあるイザベルは礼を言って、まかないを貰おうとユミルの下へと向かう。

 いつもなら総司の下に行くのだが、今回祭りでは露店が三種類あるのだからまかないは好きな所で食べていいと言われているので、イザベルは朝は茶屋で食べたので今度はカフェで食べる気なのだ。

 

 「お腹減ったよぉ…」

 「そろそろだと思って作ってたよ、エレン」

 「これだよな」

 

 裏口より顔を覗かせたイザベルにユミルは鼻で笑い、エレンは言われるがまま用意されていた箱を渡す。

 受け取ったイザベルは客に見えない露店裏のスペースに用意されていた椅子に腰かけ、箱を開けて中身を拝見する。

 箱の中には六種類のドーナッツが収まっていた。

 そういえばと新たに仲間入りしたカーリー・ストラットマンが持ち込んだドーナツにアニが偉く気に入り、ユミルにメニューに作ってくれとストロベリードーナツを作ればクリスタたちも喜ぶと持ち掛けていたのを思い出す。

 商品として並んでいなかった事を考えるとこれらは試作品なのだろう。

 露店をしている時でも新しい料理の試作を行う……ユミルも中々に総司に毒されている(料理馬鹿)のではないだろうか。

 なんにしても自分にしては良い事なので言う事は無いが。

 

 まずは粉砂糖が振り掛けられたドーナツを口にする。

 ふわっとしながらもほどほどにずっしりとした食感。

 唇に付着する油分と粉砂糖。

 ドーナツの味に油の混じった粉砂糖の溶けるような甘さが疲れた身体に染み渡る。

 バクリバクリと大口で齧り付き、飲み物として持って来たミルク(牛乳)で流し込む。

 ぺろりと一つ目を食べきった事に多少の惜しさはあるものの、まだ五つもあるのだからと気分を変えて次のドーナツに手を伸ばす。

 次に手に取ったのはドーナツにチョコレートのコーティングが施されたもので、食べればしっとり滑らかなチョコレートが溶けだしてくる。チョコの味にこの脂っぽさは癖になる。

 けど油っぽさは美味しさにも繋がるが、多すぎると油が回って気持ち悪くなる諸刃の剣。

 途中であるもさっぱりしたものが欲しいとストロベリーチョコレートでコーティングされたストロベリードーナツを齧る。

 ぷつぷつと苺らしい食感を残し、甘味交じりの酸味がさっぱりとさせてくれる。

 さっぱりしたのと別の味により飽きずに口が進む。

 手は止まる事を知らず、三つ目を食べきったイザベルは四つ目の最初に食べたドーナツに似ていたが、口にしてその違いがはっきりと分かった。

 味は粉砂糖ではなく砂糖に蜂蜜を混ぜた特製の甘味があり、食感がふんわりだけではなくてもっちりとしているのだ。

 まるで朝食べた白玉に近い。

 ドーナツでありながらこの食感は面白いと頬を緩ませる。

 満足そうに四つも平らげたがまだ余裕があり、無理なく五つ目と六つ目に手を付けた。

 五つ目と六つ目はオールドファッションで、手にした時から他とは違う硬さを感じていた。

 口にするとそれはより一層強く伝わり、噛む度にザクザクと香ばしい食感が伝わる。

 食感を楽しむ度に片やチョコレート、もう一方は苺チョコレートが半分ずつ浸み込まされているので、口の中に濃く広がっていく。

 

 満足気に食べきったイザベルは疲れと満腹感から眠気に誘われ、休憩時間いっぱいまで仮眠をとる事にして夢の世界に旅立ち、エレンに起こされるまで爆睡してしまうのであった。

 運よくギリギリで気付いて起こしてくれたので、怒られることはなかったけど次から気を付けるようにと注意は受けた。

 頬をパチンと叩いて眠気を払って気合を入れ、午前以上に忙しいであろう午後の仕事に戻る。

 やはり午後は客が増えたのだがこれを稼ぎ時と喜ぶべきか、ただ単に忙しいと嘆くべきか。

 

 カフェも忙しいが茶屋も忙しく働いている中、ミカサ目当てにキヨミ・アズマビトが訪れた。

 客と店員の筈なのだがミカサが“様”付けで呼ばれ、キヨミは“さん”付けで呼んでいる様子に周りも苦笑いを浮かべている。

 彼女達の関係性を考えれば可笑しな事では無いのだけど…。

 

 茶屋班はミカサにニコロ以外にクリスタとアルミンが居り、別でライナーも含まれている。

 “別で”と言うのが彼一人だけ敷物の上でお茶(抹茶)を立てているからだ。

 総司は故郷の作法を持ち出したそうだが、どうもヒイズル国らしい(・・・)と言う事で物珍しさから体験してみようと興味本位で結構訪れている。けれど敷物は広くないので一回に四名ずつで、ゆったりとした時間を提供するのもオプションなので急ぐ必要がないのだ。

 ただお茶菓子と一緒に楽しんでいるとは言え独特の苦みのある抹茶は好みが分かれ、中にはミルク(牛乳)や砂糖を入れて抹茶ミルクにして飲む者もいた。

 

 短くも知り合いが訪ねてきた事に言葉を交わすも、こちらにも同様に会いに来た客が来て状況が一変。

 なんでもジーク経由で話を聞いて会いに来たという長身の少女(イェレナ)がエレンに声をかけ、それを見てしまったミカサが「その女は誰?」と凄い剣幕で迫って来たのだ。

 長身の少女は臆することなく笑顔で対応していたけど、見ていたこちらが気が気ではなかった。

 ミカサを宥めながら手伝ってくれと茶屋付近で寝っ転がっていたナオに視線を向けると、巡回で回って来たヒッチに捕まって撫で繰り回されていた…。

 客への対応で忙しい中で仕事を増やさないでほしいものだ。

 色々あったが何とか夜まで凌いだイザベルは疲労と空腹から休憩に入ると今度は総司の下へと駆けこんだ。

 総司の露店は鉄板焼きで、飲食スペースのテーブル以外にカウンター席が完備されている。

 大概の客はお持ち帰りするのでイザベルはあっさりとカウンター席につけたのは、立ち仕事で足に疲労が溜まっていた身としては本当に有り難い。

 

 「総司さんお腹空いたぁ」

 「賄いですね。少々お待ちくださいね」

 

 材料を選び始める総司を見つめ、何が出て来るんだろうと期待を向ける。

 

 「ほとんどのやつが休日だったりする中、楽しむ側でなくて提供する側とは酔狂な奴らだな。食事処ナオのやつらはワーカーホリック(仕事中毒)ばっかなのか?」

 「良い事ではないか。そのおかげで儂らは美味い飯をありつけているのだろう」

 「ちげぇねぇな」

 

 声をかけられて振り向くと右側の席にはケニー・アッカーマン、左側はダリス・ザックレーが座って食事を楽しんでいた。

 一応ザックレーは身元がばれないようにロングコートに帽子にサングラスを着用しているが、代わりに怪しさが凄い事になっており、夜道で見かけたら不審者認定待ったなしだ。

 …いや、夜道でなくてもこれは不審だった…。

 ケニーを挟んだ席には副官のトラウテ・カーフェンが僅かに頬を緩めて(ほぼ無表情)、豚バラと野菜たっぷりの野菜炒めを黙々と食べている。

 もしかしてカウンター席が空いていたのはお持ち帰り云々だけでなく彼らはいたからではと、あながち間違いではないだろうと確信めいたものを感じる。

 

 「結構儲かるからね。あって困るもんでもないし」

 「そりゃあそうだ」

 「ふむ…あり過ぎて困っている奴が眼前に居るがな」

 

 ケニーに同意されたがザックレーの一言ですぐに自らの発言を撤回する。

 総司は色々あってリーブス商会より多額のお金を得たことがあるが、料理関係以外にお金をかける事が極端に少ないので、そのお金をどうしたものかと悩んでいたのだ。

 贅沢な悩みだと思っていると、料理が決まったのか材料を調理台において、早速調理を始めようとしていた。

 

 「初日ですし少し豪華に行きましょうか」

 

 そう呟いた総司が焼き出したのは小振りながらもステーキ肉だった。

 じゅわ~と音を立てて焼ける様子に戸惑いながら視線を向ける。

 賄いにステーキ肉が出されるなんてという驚きと、大きさから豪華だけど量的に物足りないなぁという残念感。

 複雑な視線を向けているイザベルの前で総司はざく切りのキャベツと薄切りにした玉葱を炒め、しんなりと火が通ったところで生卵を混ぜたホカホカご飯を投入。

 塩コショウをしつつヘラで豪快に混ぜ合わせる。

 ステーキと焼き飯かと納得した矢先、総司はキャベツや玉葱と混ぜたご飯の上にタレをかけ始めた。

 ご飯の上と言えどタレは浸み込んで熱せられた鉄板に触れ、蒸気となって周囲に香りを撒き散らす。

 ゴマの香ばしさを含みスパイス特有の刺激のある匂いに食事中であった客まで反応させられる。

 ゴクリと生唾を呑み込み眺める中、再び豪快に混ぜ合わせて真っ白なご飯が赤茶色に染まり、水気が完全に無くなったところで皿へと移される。

 そして仕上げに一口サイズに切り分けられたステーキが焼き飯の上に乗せられた。

 

 「本日の賄いですよ」

 「―――ッ!いただきます!!」

 

 元々お腹が減っていたのに対し、音と匂いで責め立てられたイザベルの我慢は限界だった。

 カウンターに置かれるや否やスプーンを突っ込んで食べ始めた。

 ステーキは焼き加減が絶妙で硬すぎず柔らかすぎずで、塩コショウのみの味付けなので肉本来の美味しさが引き立つ。

 そして焼き飯の方はタレが相性が良すぎる。

 香ばしいゴマ油の香り。

 ガツンと響くように来るニンニク。

 ピリッとする豆板醬の辛味。

 ごま油を結構入れている感じなのにさっぱりとさせる生姜。

 砂糖と長ネギにより甘味も混ざった複雑なタレは、ご飯との相性だけでなく肉とも相性抜群であった。

 ステーキも焼き飯と一緒に書き込むと辛みのタレと肉が混ざって、お互いを引き立てながらまた違う味わいをもたらす。

 焼き飯だけでも最高なのだが、ステーキが混ざるともう手が止められない。

 しんなりと柔らかい食感のキャベツと玉葱を噛み締めるとさらに個々の旨味まで追加してくるので味わいがさらに深くなる。

 食べる事に夢中で「美味しい」と一言も言えずにかっ喰らう様子に総司は笑みを浮かべた。

 

 「オイオイ、美味そうに食うじゃあねぇか」

 

 様子を見ていたケニーが片目を吊り上げながら言うと、危険を感じてさっと皿を隠す。

 「別に取りゃあしねぇよ」と鼻を鳴らすが、あの目は確実に何かしらで奪う、もしくは分けて貰おうとする目だった。

 警戒しつつ睨んでいるとトラウテがケニーを見つめる。

 

 「大人げないですよアッカーマン隊長」

 「だからちげぇって…ったく、こうも信用がないものかね…俺にもそれを一つ」

 「え?賄いですけど」

 「構わねぇって」

 「というかそこまで美味しそうな匂いをさせておいてお預けというのは酷ですよ」

 

 言動からケニーだけでなくトラウテも賄いを求めている事に戸惑う総司が困った表情をこちらに向けるも、気が逸れた隙にと口いっぱいに掻き込んだ為に飲み込むまで喋れない。

 すると隣のザックレーに視線を移すも「儂はステーキでなくホルモンで頼む」と言われ、苦笑いを浮かべつつ作り始める。

 自分の分を掻っ込む中で、コレおかわりって言ったら作ってくれるのかなと食べながらも想ってしまうイザベルであった…。




●現在公開可能な情報
 
・謎の焼き飯…。
 祭り初日よりとある料理の話があがった。
 なんでもピりりとした辛みに深い味わい、ガツンと食欲を刺激する香りを発する肉の乗った焼き飯。
 何処で提供されているかは分からないが話の出所はザックレー総統と憲兵団の一部との事。
 彼らは決して提供元を口にする事は無いが、近しい者にはその料理を絶賛して伝え、伝えられた者はまた誰かに伝えるので、直接出ないにしろたまたま耳にした者も含めて急激に広まって行った。
 話を聞いて興味を持った者は探し回り、食べて回った者も居ると言うが焼き飯をメニューに掲げている露店でそれらしいものは未だ発見されてないらしい…。

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