来週は月曜日に投稿したいなぁ…。
エルディア新王の戴冠式を前に開催された祭りにて、とある劇が催された。
豊富な資金とマーレで一流と評される舞台俳優達にて織り成される“真実”を語る物語り。
企画から資金提供、人集めに台本まで全て“ダイバー家”が用意した連夜執り行われる大舞台。
“ダイバー家”とはエルディアが大陸を支配していたエルディア帝国時代の貴族であり、マーレが大陸を支配してからも広大な敷地を持つ豪邸で変わらぬ生活を過ごして来た一族。
人種はエルディア人であるも、エルディア王らがパラディ島に逃げる羽目になった争いにて、真っ先に反旗を翻した事でマーレ内では英雄の一族として扱われ、“名誉マーレ人”の称号を得ているがエルディア人とマーレ人を区別する腕章の着用義務は免除。さらには収容所に強制収容される事無く広大な敷地を持つ豪邸で貴族と変わらず生活している。
これはマーレ政府により優遇されている訳ではなく、彼らダイバー家こそマーレを実質裏側より支配している一族だからこそである。
本来ならエルディア新王の戴冠式に来賓として呼ばれただけだったのだが、マーレとエルディアが新たな関係を取り持つことから現当主である“ヴィリー・ダイバー”からの提案で行われることに。
ダイバー家はエルディア帝国の歴史を
マーレでは巧みな情報操作を行いエルディア帝国を同士討ちさせた“英雄”へーロスとダイバー家が手を組み、エルディア帝国フリッツ王をパラディ島に退かせたとなっている。しかし実際は争いを避けたフリッツ王が自らの意思で退いたのに過ぎない。
つまり今のマーレを作り上げたのはフリッツ王の平和思想にあり、マーレ人の英雄へーロスとは実際には実在しない架空の人物。いうなればフリッツ王こそ英雄へーロスであった。
ダイバー家はフリッツ王と取引してその手伝いを行ったまで…。
長い年月でマーレでは嘘は真実とされ、エルディアではその歴史そのものが忘れ去られていた。
そこでエルディアとマーレが新たなつながりを得た今、正しい歴史を知ってもらう為という建前の下、ダイバー家の保身のために祭りで大掛かりな劇を催した。
これが目的であり、彼を精神的に追い詰めている…。
真実を公表すると言う事は今まで受けていた思いに先祖が築き上げた人脈に個人の人間関係全てを壊す事に他ならない。
しかしここで公表しなければ真実は何時までも埋もれたままだし、エルディアとマーレの行き来が自由となればエルディア人をパラディ島に追いやった裏切者の一族としてダイバー家は愛国的エルディア人に襲われる可能性が出て来てしまう。
公表すればエルディア人からは売国奴や裏切者ではなくフリッツ王の意思に従った者達であり、マーレからしても今までの偶像が崩れるぐらいで命を狙われるほど恨まれることは無い筈だ。
家族や子孫達にずっと怯えながら暮らさせる事を考えれば、これぐらいの重責なんてことない―――なんて思っていたのにな。
実際は語り部をしている最中は冷や汗を流し続け、舞台裏に引っ込めば水を飲まねば脱水症状で倒れそうなぐらい精神的に追い詰められてしまっていた。
「何なんだこれは…」
そんな彼はヒイズル国より交渉で来ていたキヨミ・アズマビトに誘われ、とある露店にて食事と言うかお菓子を口にしていた。
どう見ても木の棒に綿を巻いたようなお菓子―――“わたがし”を口にした瞬間、驚きの余り訪ねてしまっていた。
ふんわりと軽く、口に含めば溶けだして濃過ぎず薄すぎない甘味が優しく広がる。
今まで食べてきた一流の料理の数々には勿論劣るも、この値段でこの味と食感は美味しいし面白い。
「美味しいでしょう。私はここの店を大変気に入りましてね。連日通っていますの」
「確かにこれは面白いですね」
嬉しそうに語るキヨミ・アズマビトの言葉を聞きながら、内心苦笑いを浮かべる。
キヨミ・アズマビトは大多数のマーレ人の様にエルディア人だからと言って差別する事は無い。
人の好さそうな笑みを浮かべながら冷静で常識の有る人物。
ただ財閥の長と言うのもあって強欲さも非常に強い。
特に非常に旨味のある儲け話となると興奮気味になり、唇の端に涎が溜まって垂らす事があったりする。
注意はしていないが貯まり始めているので多少はそういう目でこの店を見ているのだろう。
「あ、あら?これはお見苦しいものを」
自分で気付いたのかハンカチで拭きとる。
彼女の様に儲け話だからと言う訳ではないが、この店は大変気になる点が多い。
ヴィリー達が居るのは総司の鉄板焼きの露店隣のフードコート。
そこ奥には調理場など一切ない受付のような小屋が置かれている。
しかし今食べているわたがしはその小屋で作り置きではなくて作り立てで提供された品。
小屋の奥には数台の機械が並んでおり、それらがメニューに並べられた品を作っては店員が客に渡すのだ。
驚くべき事だ。
ボタン一つで自動的に量を図って調理を行う機械など狂気の沙汰である。
エルディアはマーレに比べて科学技術は格段に落ちているのにマーレの技術力を軽く超えるあれらは一体何なのだ!?
キヨミの感じからヒイズル国もあれ程の自動で調理を行う機械など無いとの事。
付け加えて電気などが普及しておらず、電線や電柱もないこの地にて電気を必要とする機械が使用可能と言う点も気になるところである。
よく観察したところ、調理を行う機械達は奥に隠されたようにひっそりしている
それにしても最近精神的に大分参っていたせいか甘いものが身体に沁みる。
「兄さん」
「あぁ、どうし―――」
キヨミ・アズマビトとの話やわたがしにばかり気をとられて、一緒に訪れた妹を放置していた事を呼ばれて思い出し、すまないと表情に浮かべながら振り向く。
妹はいつもピナフォアドレスを着用し、感情が顔に出にくいのか無表情に近い。
そんな妹が目を輝かせて口角を僅かながら上げている。
驚いて膠着する私に妹は持っていた品を突き出す。
「これ凄く美味しいです」
突き出されたのは同じ小屋で売っていたカップ上の
共感を得たいという意思がビシバシ伝わってきて、小さなスプーンで少しすくって含む。
アイスクリームより柔らかく軽い。
けどそれ以上に驚かせるこの濃厚なミルクの味わいはなんだ!?
後味を引き摺るほど濃厚さと濃い甘みながらも、ひんやりと冷えている事でさっぱりと感じる。
「これは凄いな。同じものを―――いや、メニューに書かれている物を全部頼む」
「畏まりました」
ダイバー家の当主であることから周囲には護衛に長年仕える執事などが待機しており、指示を受けた数人が小屋に並ぶ。
すると誘った本人はニンマリと微笑みを浮かべ、見るからに「良い店でしょう」問いかけている。
そこまでどや顔されると否定もしたくなるも、今のところ言い返せないのは事実。
認めつつも認めたくない思いから苦笑いして肩を竦ませる動作で意思を伝えた。
注文した品々が届くまでの間にダイバー兄妹はそれぞれわたがしとソフトクリームを平らげる。
「お待たせいたしました。言われた通りにメニューの品を買って来たのですが…」
存外早く注文しに行った者達が戻って来た。
これは別段辺りを貸し切りにしたり、ダイバー家の特権を駆使して割り込んだとかではない。
機械による調理が秒または数分単位なので回転率が非常に高く、長蛇の列が出来ていても他の店に比べると数倍も早く順番が巡って来るのだ。
なんにせよ早く届いたのは良い事である。
振り返って品を確認しようとしたヴィリーは、歯切れの悪い理由を深く理解した。
先ほど食べたソフトクリームとわたがし以外は、“うどん”に“キャラメルポップコーン”に“焼き鳥”、そして色とりどり“かき氷”が数種類並んでいたのだ。
頼んだのは自分であるがこれは失念していた。
かき氷自体は知っていたがまさかこれほど種類があるとは思いも寄らない上に、本当に食べれるのかと不安を感じさせる彩の物もあって手が付けずらい。
それは視線を向けた妹も同じで青色のかき氷などより疑いが強くなる。
「かき氷だけでも結構な種類ありましたからね」
「―――ッ、キヨミ様も如何です?さすがにこの量は二人には厳しいので」
「あら?そういう事でしたらご相伴に与らせて頂きましょうか」
内心良しとガッツポーズを決める。
量的に厳しいと言うのは嘘ではないが、それ以上に色合いに臆していた自分達では手が出しずらいが、誰か一人が動けば自ずと動きやすくなるもの。
今回の劇で自分に脚本家の才能があった事に驚いていたが、
案の定キヨミ・アズマビトは濃い緑色のかき氷を手にして、スプーンでパクリと一口含んだ。
凝視するのは失礼なので何気なく反応を伺う。
「これは美味しい。独特の風味に苦みが良いですわ」
「緑色と言う事は葉物か何かですか?」
「いえ、これは抹茶のシロップですね。抹茶らしさをハッキリと残しつつ、甘くてかなり食べ易くなっています。一緒に掛けられた小豆がまた良い味を出してますよ」
本当に美味しそうに“抹茶のかき氷”パクリパクリと食べる様子に釣られて先に妹が動いた。
彼女が手にしたのは橙色のかき氷で、抹茶とは違って小豆の代わりに橙色の果実が四角くカットされて乗せられていた。
「何と言う果実でしょう。まったりとした甘さに果実らしい酸味。初めて食べましたけどこれは美味しいです」
何時になく表情をころころと変えながら、“マンゴーのかき氷”が徐々にスプーンで削られ、口の中に収められていく。
二人してパクパクと食べる様子に出遅れた事を公開しつつ、ヴィリーは赤いかき氷にスプーンを突っ込む。
この赤いかき氷には添え物はないものの、赤いシロップの上から山頂の雪のように白い粘着質な液体が垂れていた。
パクリと口にして一番に感じたのは食感だった。
氷を砕いて盛り付けたのがかき氷だと思っていたのだが、氷の荒い粒の感触は一切しない新雪のように軽くふわっと口当たりの良さは驚愕ものだった。
さらに追い打ちをかけるのは溶ける事で広がるシロップの味わい。
そのまんまとは言い難いそれらしい苺の味にシロップの甘さと、上から掛けられていた白い液体の正体である練乳のねっとりとした甘さにミルクの深いコクが加わり、口の中が幸せでいっぱいにさせられる。
“苺味のかき氷”を食べて確かに二人が称賛するわけだと納得する。
唇に付いた練乳をぺろりと舐め取る。
同じようにスプーンを動かして味わいながら食べていると、二人の手は動いたのが視界に映る。
動きに釣られて視線がそれを追うと、先に食べ始めた分だけ早く食べ終えた二人が次のかき氷に手を伸ばしていた。
ゆっくり味わっていてはかき氷が解けてしまうし、二杯目を手にする前に食べられてしまうのではと言う焦燥感が遅い、慌てて掻き込んでしまった。
キーンと頭に響く痛みにこめかみを押さえる事で耐え、焦る心を落ち着かせる。
キヨミは柑橘系の酸味が非常に強く、尚且つ甘いと言う黄色いさっぱりとしたかき氷“レモン味”を楽しみ、妹の方はメロンの風味のシロップにソフトクリームが乗せられた“メロン味のかき氷”を味わう。
最後に残っていたのは問題の“青”のかき氷。
しかしもはや味を疑う事は無く、ヴィリーは躊躇う気持ちなど皆無で一口食べた。
さっぱりとした何種類かの果物の風味が混ざり合い、かき氷に混ざっている粒をかみ砕けば粉っぽさと一緒に清涼感のある酸味と刺激が広がる“ラムネ入りブルーハワイ”。
苺のかき氷が甘かった分だけこのさっぱりとした感じが口直しに持って来いだ。
今度は頭痛を引き起こすことなく食べきって、満足気に息を吐き出す。
落ち着いた所でかき氷を二杯も食べて身体が冷えていた事に気付き、温かい物があったなと視線を向けるもすでに“うどん”も“焼き鳥”も食べられている最中。
ほかほかと湯気と共に出汁の香りを漂わせ、コシのあるうどんをふーふーと冷ましながら食べる様子が実に温かそう。
焼き鳥も温かいのだろう。うどんほどではないが湯気が出ており、冷たく甘いかき氷を食べ続けた身としてはあの温かさと振り掛けられた塩気は非常に有り難いだろう。
羨ましく眺めるも臆した上に策を弄した罰なのだろうと諦めるほかない。
残っているのは“キャラメルポップコーン”。
ポップコーンはマーレにもあるので想像に容易いが、それにキャラメルが掛かっているというのは初体験だ。
かき氷にソフトクリーム、わたあめなどでこの店で間違いはないだろうと理解した事もあり、期待して一粒口の中に放り込む。
ポップコーンの柔らかくもパリッとした食感にキャラメルのぺとっとしたべた付きが加わり、噛み締める度に軽い音が鳴って歯にくっ付く。
香ばしいキャラメルの味はしっかりとして、ポップコーンの塩気が程よい。
この香ばしい甘さと塩気が癖になる。
マナー違反とは思うも掌いっぱいに掴み取り、口いっぱいに頬張る。
一粒で満足出来る味わいが口いっぱいに広がる。
充分に噛み締めてから飲み込むと、あれほど詰め込んだというのに手と口は次を求めてポップコーンが入っている器と口を往復する。
もうこの手も口も止める事は出来ないだろう。
うどんや焼き鳥に比べて量が多いのと、食べ遅れたことで食べきった二人の視線が向く。
二人からすれば一心不乱に食べ続ける様子に美味しそうと思ったのだろう。
「兄さん。私も欲しいのですけど…」と焼き鳥を食べきった罪悪感交じりに告げられ、一瞬だけだけど断わろうとしたけども美味しさを共有したい気持ちもあって快く快諾した。
色んな種類を食べたのだけどどれもこれも軽くてお腹に溜まるには少ない。
それにやはり身体が冷えたままなので温かいものが欲しい。
食べれなかったうどんを注文させ、ヴィリーは最近圧し掛かっていた重責を一切忘れてこの一時を楽しむのであった。
――――その夜の劇でもナレーションをする筈だったヴィリーは
●現在公開可能な情報
・カーリーの露店
食事処ナオ新人のカーリー・ストラットマンは、露店を手伝うのではなく露店の一つを任されていた。
任されたのは“うどんの自販機”に“わたあめ製造機”、“かき氷機”など短時間で料理を提供できる機械を並べた露店。
これならば注文を受けて、ボタンを押し、出来た品を渡すのみ。
任せた理由としては調理をしない分簡単で、カーリーが今までの経験上手先が器用で理解が早い事にあった。
明るく誰にも嫌な顔を見せないカーリーはお客からも大変親しまれていた。
…ただ不評があるとすれば彼女に機械や料理の説明を聞くと、化学的な解説が入り混じった呪文のような説明文をペラペラと長文で語られるので、聞いていて訳が分からない以上に混乱する客が続出した事だろうか。