進撃の飯屋   作:チェリオ

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 またも遅れて申し訳ありません。


第74食 祭り④:お好み焼き

 賑やかな祭りも最終日を迎え、食事処ナオも露店での営業を切り上げて打ち上げを行おうと準備に勤しんでいた。

 打ち上げに当たって提供される料理は総司が担当していた鉄板焼きの屋台で行われるので、他の三つの露店を解体して馬車に乗せては食事処ナオに持って帰るを繰り返す。

 今回の露店は少人数ずつで展開させたために疲労は大きかったが、それを上回る利益が出たので従業員の懐は潤いに潤っている。なにせ材料費など露店をするにあたって必要なお金を除いた売り上げを人数で割ったお金が懐に入るのだから。

 店の利益になるのは総司の屋台のみで正直に赤字であるも、古参新人含めた従業員のスキルアップ、満足そうに舌鼓を打って帰っていくお客の表情、店以上に忙しく料理に没頭した日々を味わった総司はそれ以上にご満悦である。

 そもそもリーブス商会との契約で儲けた資金がそのまま残っているので、赤字になった分はそこから補填すればいいので店的にも問題はない。

 打ち上げに向けて急ぎ片付けが行われ、あっという間に多くの客を魅了し続けた露店は片付けられ、残った鉄板焼きの屋台に大勢(・・)が詰め寄せる。

 

 「なんでお前が居るんだよ!」

 「いいじゃあねぇか。けちけちするなよ」

 「これは食事処ナオの打ち上げなんだ。従業員でもないんだから帰れよ」

 「こんな良い匂い漂わせておきながら帰れは酷いんじゃないですか?」

 

 打ち上げには食事頃ナオの面違いにも常連客が集まり、残していた椅子やベンチに腰かけて料理が出来るのを心待ちに待っている。

 エレンがそれに対して抗議するもジャンはヘラヘラ笑って受け流し、サシャは匂いに釣られて涎を流しそうな勢いで調理を行っている鉄板へ釘付けとなっており、飛び掛りそうな雰囲気からアニが視線を光らせる。

 

 「良いだろ総司さん。俺達も食べても」

 「構いませんよ。皆で食べた方が美味しいですし、材料も多めに用意していたので」

 「ほら見ろ。総司さんは良いって言ってるぞ」

 「甘過ぎですよ」

 「甘いと言うかただ作りたいだけじゃね?」

 

 笑いが起きる中、総司は微笑ながら料理を作り続ける。

 打ち上げで作ろうとしているのは“お好み焼き”だ。

 以前も露店で作り、店では特別メニューとして扱っている料理であるも、店で作ると小さな鉄板で焼くことになるのでどうも物足りない(・・・・・)

 

 まず鉄板にだし汁に小麦粉、山芋を混ぜた生地を円を描くように伸ばして焼き、上に千切りにしたキャベツにネギに豚肉を乗せて、玉子を落として生地を垂らす。

 熱で下の生地が十分に焼き上がると左右よりヘラを入れて一瞬で持ち上げて空中で上下をひっくり返す。

 豪快に回ったお好み焼きは真っ逆さまに鉄板に落ちて、上に垂らした生地と生卵がアツアツの鉄板に触れてじゅ~と音を立てる。その派手な見た目と音に引き攣られて料理が出来るまで談笑していた皆の視線が集まる。

 上になった焼き上がった生地にソースをたっぷり塗り、マヨネーズを網目模様に垂らし、青のりとかつお節を振り掛ける。

 生地より鉄板へと垂れたソースが湯気と共に香ばしい匂いを撒き散らし、お好み焼きの上でかつお節が熱で舞い踊る。

 誰だか知らないがゴクリと唾を呑み込む音が漏れる。

 

 「さぁ、どんどん焼いて行きますから。どんどん食べて行ってくださいね」

 

 総司の言葉を合図に地位も年齢も関係なく、集まった者は順番に並んで皿に乗せて席で味わい始める。

 

 

 

 ニコロは人の多さから後で並ぼうと席に座っていたら、サシャが皿を二つ持って対面に腰かけた。

 皆が視線を向けて生唾を呑み込んでいる辺りから並び、一番目にお好み焼きを獲得しに行く様子を眺めていただけに呆れてしまう。

 

 「食い意地の強さは知っていたが、二枚も取って来るか普通…」

 「だって並んでなかったじゃないですか」

 

 今にも喰い付きそうなのを我慢して言った言葉に今度は驚いてしまう。

 二枚食べる気で取ったのだと思いきや、俺の分まで取って来てくれたなんて…。

 妙な感動にも似た感情に胸が高鳴る。

 

 「いつも美味しい物食べさせてもらってますからね」

 「あぁ、そう言う事か…」

 

 何を…とは書かないが期待していた内容と違っただけに落胆するも、サシャに関して食の事で誰かに渡すなんて事は珍しい。

 そう考えれば悪くはないのだろうな。

 差し出されたお好み焼きとサシャの手元にある分を目検で比較し、小さい方を差し出したと解って笑ってしまう。

 

 「どうしたんですか?」

 「いいや、サシャらしいなと思ってな」

 「私らしいですか。ま、兎も角早く食べましょう。折角のお好み焼きが冷めてしまいます」

 

 それもそうだとサシャに礼を言って、持って来てくれたお好み焼きに食べるとしよう。

 店では小さなヘラで食べるようになっているが、今回は人数が多くて間に合わないのもあってかスプーンが用意されている。

 一口含むとハフハフと口に籠った熱を吐き出しながら、熱いうちに食べようと噛み締める。

 香ばしく食欲をそそるソースに滑らかで濃いマヨネーズの風味。

 海の気配を漂わせるかつお節と青のり。

 生地の包み込むような味わいと柔らかな食感。

 豚肉とネギの旨味が溢れ、熱が加わった事でしんなりとしたキャベツに絡み合う。

 口の中で爆発的に熱さを耐えながら、広がる味わいを大いに楽しむ。

 

 「あー、美味いな」

 

 お好み焼きは店でも提供しているが、鉄板の小ささからかあのように豪快に焼けない為に具材と生地を混ぜたものを蒸し焼きする形をとっている。

 無論それも美味しいのだが、今日のタイプを初めて食べた事に加えて仕事終わりの解放感かつ外で食べたことでそれ以上に美味しく感じてしまう。

 …後、誰と食べているかでも異なるのだろうな。

 

 ちらりとサシャを伺うと熱さに苦戦しながらも豪快に、そして美味しそうに頬張っていた。

 

 「おぉ、なんじゃ。飯より女子に夢中とは青春しとるの」

 「―――ッ、ゲホッ!」

 

 突然の発言に咽て咳き込んでしまった。

 落ち着かせながら振り返るとニヤニヤと笑みを浮かべるピクシスが近くの席に腰かけていた。

 同じ席にはキースにゲルガー、ハンネスの常連酒飲み組にマガト戦士隊隊長まで居り、結構カオスな席になっていた…。

 

 「そりゃあ色気のほうが大事でしょうよ」

 「俺は色気より酒だな」

 「呑み過ぎは身体に毒だ。特に身体を酷使する調査兵団はそうだろうに」

 「キースの言葉には強く同意するな」

 「この前揃って病欠した二人に言われたくないんですけど」

 

 すでにアルコールが周っているのか大声で騒ぎながら食べている様子を見て、これはあまり関わらない方が良さそうだなと思う。酒を入れるとどうも周囲に絡む割合が増えるので、出来れば席を移動したいが埋まっていてもう手遅れかと気付く。

 酒臭い息を吐き散らしながら、こちらを…というか俺をどう揶揄って肴にしようかと企んでいるようだ。

 苦々しく思うもお好み焼きを含み、ビールを流し込む様子にどうも惹かれた。

 視線に気づいたゲルガーが笑みを浮かべる。

 

 「お前も飲むか?美味いぞ」

 「お好み焼きとビールも合うのか?」

 「何言ってんだ。美味い飯ってのは大概酒との相性も良いもんだと相場が決まってんだよ」

 「酒が駄目でも炭酸系で食べても良いじゃろこれは」

 

 そう言われては気になってしまい、離席して炭酸系を取りに行く。

 人数が人数だけに焼くことで手一杯なので飲み物はご自由にお取りくださいとなっている。

 氷水の中から瓶コーラを二本手に取って戻っていく。

 一本をサシャに渡し、もう一本をお好み焼きを食べた後に含む。

 冷たいコーラが一気に冷やし、炭酸が濃い目のお好み焼きの後味を爽やかに流し込んでいった。

 これは良いなと頬が緩む。

 「合うだろう」とドヤ顔されたのは癪だが、美味いもんは美味い。

 二人して炭酸片手にお好み焼きを味わうのだった。

 

 

 

 

 

 

 至る所で騒ぐ連中を「うるせえなぁ…」と感情交じりの視線でリヴァイは眺める。

 同じ調査兵団所属から所属が事なる憲兵団に駐屯兵団の連中に、数か月前まで敵対関係にあったマーレ軍所属の奴ら。

 所属も人種も国も違う連中が争いではなく、楽し気に馬鹿騒ぎに興じている。

 喧しいと感じる反面、しみじみ「悪くもねぇな」とも思う。

 さすがにわざわざ馬鹿騒ぎに割って入る気もないが、多少苛つくも慣れて来てはいるのだ。 

 リヴァイが座っているテーブルにはオルオ・ボザド、ペトラ・ラル、グンタ・シュルツ、エルド・ジンのリヴァイ班の面々が集まっており、それぞれ別の種類のお好み焼きを置いていた。

 最初は一緒に食べましょうと集まって来たのだが、途中でいろんな種類があるから分けて楽しむ事になった。

 並んだ五種類のお好み焼きが切り分けられて皿に移されていく。

 

 「兵長、分け終えました」

 「あぁ…」

 

 短く答えて早速その中の一つを口にする。

 濃いソースやマヨネーズ、旨味たっぷりの豚肉にキャベツなどの味わいに紛れ、スッキリとした酸味が広がる。

 覚えのある味に断面を覗くと合間合間に紅ショウガが混ざっていた。

 混ざり合う味の中でしっかりと己を主張し、けれど他を殺さずに引き立てる。

 見事な立ち回りを行い、さらにはさっぱりとしているので食べ易い。

 これは美味しいなと紅ショウガ入りのお好み焼きを頬張る。

 

 「さっぱりとして美味い!」

 「紅ショウガって牛丼とか丼物に乗っている印象でしたけど、お好み焼きとも合うんですね」

 

 口々の好評を述べている中、ペトラは悪戦苦闘していた。

 わたわたと困ったようで何してんだと視線をやる。

 ペトラが食べようとしていたのは焼きそばが間に入ったお好み焼きだった。

 焼きそばが挟まっている分、分厚く食べ応えがありそうだが、さすがにペトラの小口に収まるサイズではない。

 仕方なく焼きそばを出して単体で食べていると周囲がおいおいと顔を顰める。

 

 「別々に食べたら普通にお好み焼きと焼きそばじゃないか」

 「口に収まらなくて」

 「何やってんだ。こうやってだな――――ッ!?」

 「ごめん。それは真似したくない」

 

 食べ方を見せてやると言わんばかりに大口を開けて噛み締めたオルオは、お好み焼きだけでは飽き足らずに舌まで思いっきり噛んで血が噴き出した。

 本当に何やっているんだとジト目で眺めながら、焼きそば入りのお好み焼きを含む。

 同じソースを絡める料理だけあって味は非常に馴染、食感は異なるも不快ではなく寧ろ良い。

 十分すぎる食べ応えを味わい、ゴクリと飲み込むと胃へと落ちていく。

 さて次のはと口にしたところで疑問符を浮かべた。

 

 お好み焼きの中に違う食感を発見したのだ。

 それも二つ。

 一つ目はクニクニと弾力があり、もう一方はプツリと噛み切れる。

 異なる噛み応えながら噛めば旨味と海の香りが漂う。

 これは…。

 

 「海老とイカか?」

 「海老!?」

 

 中身がシーフードと気付き、口にすると近くのテーブルで食べていたニファが反応すると、つられてハンジ班が反応して立ち上がる。その瞳に驚きと歓喜が映り込んでおり、言葉など無用であった。

 そしてもう一人立ち上がる男が見え、動く前に口を開く。

 

 「カレーは無かったはずだぞ」

 「―――!…そうか」

 

 ミケが大人しく座るも、漂う雰囲気から残念がっているのが鬱陶しいほど伝わって来る。

 無視してシーフードを平らげ、次のチーズ入りのお好み焼きを食らう。

 通常のも山芋が入っていて口当たり滑らかであるが、チーズも中々に滑らかでとろりとする弾力のある食感と、ソースやマヨネーズに負けない濃い風味が堪らない。

 これはエレンも満足だろうと視線を向けると、相も変わらずジャンと言い争いをしていて、ミカサとアルミンが仲裁を行っていた。

 まったく大人しく食べれないものなのかアイツらは…。

 残っていた五つ目のお好み焼きは、中に牡蠣が入っていた。

 食中毒にならないように熱を加えられ、生牡蠣ほど柔らかくないがそれでも十分に柔らかく、噛み締めれば中にしっかりと詰まった牡蠣の旨味がじわりと溢れ出る。

 それらが含んでいたお好み焼きの味わいに深みをもたらす。

 どれも美味しかったなと余韻を楽しむにはお腹に余裕がある。

 それは班員も同じで代表してグンタが「取って来ます」と総司の下へと向かって行った。

 グンタと入違う形で通り過ぎ、リヴァイの背後にあるテーブル席にジークが腰かける。

 

 「よぉ、楽しんでるか?」

 

 振り返ることなく放った言葉にジークが反応し、同じく振り返らずに返す。

 

 「俺はこれからだがそっちは十分に楽しんでいるようじゃないか」

 「今のうちに存分に噛み締めておくんだな」

 

 政権奪取に尽力したジークの功績は高く、マーレ現政権を担う人材として担ぎ上げられるだろう。

 そうなればエルディアに訪れる事はあっても、毎日のように通うなんて事は不可能。

 会えなくなることを惜しんで…ではなく、味わえない事を不憫に思っての同情が大きい。

 

 「こっちに来るかなんて年に数回だろう」

 「いやはや、こちらでの駐在員を希望したからね。それが通ればまた通うかも知れない」

 「駐在するなら王都だろ。王都からトロスト区までは遠い。諦めるんだな」

 「そうとも限らないんだよなぁ」

 

 ニヤリと含みのある笑みを浮かべちらりと横顔を覗かせるジーク。

 対してリヴァイは殺気込みで睨み返す。 

 

 「…何をする気だ?髭面ぁ」

 「そう睨むなよリヴァイ。小便ちびったらどうしてくれんだ?」

 

 二人の視線が交じり合う事で、周りに緊張が走る。

 一触即発の状態だと思い込んだ周囲とは異なり、冗談交じりの言葉に何事も無かったようにため息を漏らして表情を緩めた。

 睨みが緩んだことで緊張が解けたのと、先ほどの会話に何やら思い出した様子のエルドがニヤリと笑う。

 

 「大丈夫ですよ。こちらには初陣で撒き散らした二人が居ますんで」

 「ぎゃああああああ!」

 

 クツクツと嗤うエルドに対してペトラが悲鳴を上げ、オルオが抗議するもどこ吹く風といった感じだ。

 両手に大皿を持って帰って来たグンタは何やってんだと呆れたような視線を向けていた。

 

 「まぁ、悪い事はしないよ。ただ待つだけだ」

 

 ぽつりと小声で漏らしたジークは遠目にライナーを見つめるのであった…。 




●現在公開可能な情報
 
・持ち込んだ機械類
 食事処ナオが使用した機械類。
 他には存在しない物なだけに動くものが続出してしまった。
 リーブス商会は勿論アズマビトにダイバーなどがどうにかして得る、またはそれに関しての契約を取れないかと総司に交渉を申し出た。
 自分が発明した物ではないので断ると、三人とも交渉に出した値段が気に入らないのかと判断しオークションのように上がり、王宮が建てれそうなほどの金額を提示され、それは駄目だと話を白紙に戻して先送りにしたのである…。

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