投稿ペースを何とか戻さないと。
新エルディア王就任を国内外に伝える戴冠式。
エルディア国内の貴族と言う貴族に大なり小なり政財界に影響力を持つ者、他国より招いた代表たちが集まり、新たな世と新たな王を迎えた新生エルディアがここに誕生したのである。
式は見事なもので優雅でありながら豪華絢爛を極める事無く、質素でも無ければ程よい気品を全体に包んでいた。
その後は食事会が盛大に開かれて新政権側が食事で持て成す。
他国の凡その認識としては食糧難にて芋ばかり食べていると思われていただけに、知らない食事や知っている食材であっても無かった調理法などで皆を驚愕させ、肥えた舌を喜ばして胃袋を鷲掴みにした。
純白のドレスに身を纏ったヒストリアの堂々とした立ち振る舞いに民衆は若いながらも新たな王を受け入れ、同期だった連中はヒストリアが遠い存在になったのだと寂しかったのだとか。
祭りを終え、戴冠式を済ませたエルディアはまだその余韻を残しており、何処かそわそわとした空気が漂っている中、食事処ナオ周辺には大層な人数が気配を隠しつつ潜んでいた…。
緊張感漂う食事処ナオに常連でも寄り付けず、店内は数名の客しか居ない。
「ごめんなさいね。食べに行くと言ったら皆聞かなくて…」
「わりぃな。この姫さんが行きたいって聞かねぇもんでな」
件のエルディア王となったヒストリアとケニーが並んで片や申し訳なさそうに、片や悪びれた様子もなしに謝罪を口にする。
以前と変わらない一般流通している手頃な普段着を着て、女王ではなくただのヒストリアのつもりで来店したかったのだが、国家の最重要人物を一人で出歩かさせる訳にはいかず、護衛として癖は濃いが実力も指揮能力も高いケニーが護衛の隊長として付いて来たのだ。
ちなみに周囲にはバレないようにするために最少人数かつ腕利き、尚且つ急に食事処ナオに向かうと言う事で時間制限がある中で常連という条件で部隊は組まれ、ケニーを隊長に据えて副長はトラウテ・カーフェンが務め、マルロ・フロイデンベルク、ヒッチ・ドリス、ジャン・キルシュタイン、マルコ・ポット、コニー・スプリンガーで編成された。
彼ら・彼女らにとっては災難だったろう。
たった七名で女王陛下を護衛するという大役を任されたのだから。
ケニーに限っては隊長の権限で飯を食いに来たつもりなのでヘラヘラと嗤っているが…。
「正直営業妨害だよねコレ」
「ヒストリアが食べたいっていうんだ。良いじゃねぇかよ」
「すみません総司さん」
「そんな頭を下げないで下さい。わざわざ来て下さって良くないと言う事はないですよ」
女王だろうと溜め息を漏らしつつアニは抗議するも、ヒストリアの来店で上機嫌なユミルによって掻き消された。
正直迷惑だったかなと思っていただけに変わらぬ微笑で返されたことに生まれた罪悪感がほんの少し和らいだ。
役柄からしてこうして訪れる事は稀になる。
無論王宮には専属の料理人が居るには居るが、ここで舌が肥えてしまったのだろう。
王宮の調理場にもない調味料や材料を用いる食事処ナオの味に慣れ親しんだ結果、どうも物足りなさをあの戴冠式後の食事会で感じてしまい、食事処ナオの味を味わいたいという欲求を満たす為、当分味わえないので食い溜めしておこうかと思い来店したのだ。
「注文は如何なさいます?」
「そりゃあイチゴパフェだよな」
「勿論頼むのだけれど、その前に作って欲しい料理があるの」
イチゴパフェは一番思い入れのある料理で、ユミルが作ってくれるのだから頼まない筈はない。
けれど今日は他に食べたい物がある。
食事処ナオでしか味わえないご馳走は多くあるも、今回頼む料理は在り来たり過ぎてあるかどうかわからない。
「訓練兵団でよく食べたスープが久しぶりに食べたくて」
「あんなのが飲みたいのか?」
そう…あの厳しい訓練を仲間と共に頑張った訓練兵団時代。
所属した者は誰もが口にするであろうスープだ。
限られた資金の中で訓練生に提供する食事は兎も角安くて腹に溜まる物が望ましい。
大量生産されて安い芋や豆、余った野菜類を適当に煮た野菜スープはそんな訓練兵団の要望を叶えており、ほとんど…というか毎日出されて飽き飽きしていた者が全員だったろう。
かくいう私も飽き飽きしていたし…。
だからこそなのかこれからの食事を考えると無性に食べたくなってしまった。
あれ程飽きていたというのに。
同様の思いを抱いていたエレン達もその注文に首を傾げる。
中でも食べていなかったのだろう総司さんはそれ以上に首を傾げている。
「ふぅむ…どのようなスープだったのですか?」
聞かれて皆が一瞬戸惑った。
知らない事もそうだが、あのスープは置いてある食材によって中身が異なる。
芋や豆はレギュラーだが、ゲストでキャベツや人参が加わる事も有り、たまにだが少量であるものの肉類が混ざる時だってある。
説明に悩むも少しずつでも伝えようと皆が口を開く。
「どのようなつっても普通の野菜スープだよ」
「ジャガイモとか豆とかとりあえずあった野菜を鍋にブッ込んでたっけ」
「たまに肉やヴルストが入ると争奪戦が始まったな」
「確かアイ…なんだっけ料理名?」
「あー、野菜スープでアイ……あー、ポトフですね。分かりました」
そう言って総司は早速調理に移った。
冷蔵庫よりベーコンにヴルストの肉類に、人参にジャガイモに玉葱などの野菜類を並べる。
どう見ても訓練兵団時に食べたものより材料が豪華なのだが、そこは突っ込まないで期待を抱きながらジッと眺める。
玉ねぎはくし切り、他の野菜はだいたい一口大に、ヴルストとベーコンは2センチ程度に切る。
肉類はオリーブオイルを垂らしたフライパンに一緒に、玉葱は別のフライパンで炒める。
ベーコンから脂が溢れ出て、底を濡らしてパチパチと脂が跳ね始め、軽い焼き揚げのようになってヴルストとベーコンがカリカリに焼き上がり始め、そこに刻んだニンニクを投入。
肉の焼ける匂いに強烈なニンニクの香りが混ざって漂う。
一方玉葱はあめ色に変わって見ただけでしんなりと柔らかくなったのが解る。
頃合いを見てベーコンとヴルストを炒めていたフライパンにジャガイモに人参、豆に炒めた玉葱を入れ、ローリエを乗せたらコンソメスープを注ぐ。
一度野菜に蒸してからゆっくりと煮込む。
途中途中水を足したり、灰汁を取ったりしながら、お玉ですくったスープを小皿に移して味見し、胡椒や塩などで味を調節する。
納得出来たら皿に盛りつけてパセリをぱらりと撒くいて完成。
「こちらで宜しいでしょうか?」
差し出された野菜のスープは量もさることながら彩も香りも訓練兵団のとは段違いであった。
…けど何処かあの訓練兵団時代を思い起こさせる面影がある…。
ゆっくりと木製のスプーンでスープをすくい口の中へと運ぶ。
肉や魚の旨味が十二分に溶け込んでいる優しい味わいが、温かなスープと共に身体に染み渡る。
ほわぁ~と心が緩むと頬まで緩んでしまい、気付いて周囲を見るとユミルを始めとして皆がニヤついて眺めているのに咳払いして、何事も無かったように頬を引き締めて食事を続ける。
ごろっと大きめのジャガイモは噛めばほろりと崩れ、舌触りのよい食感が口を撫でて、素朴で馴染みのある懐かしい味が広がる。
豆もしっかり煮こまれてしっとりと柔らかい。
硬い人参も簡単に解れるばかりか噛めば浸み込んだスープの味が溢れて来る。
美味いなぁと野菜とスープだけで胃も心も温まり満たされていく。
なら肉はとベーコンを口に含む。
酒のつまみに注文される厚切りベーコンと違って小さく食べやすい。
噛めばカリッと香ばしい食感の後にベーコンの旨味が脂と一緒に出て来て、スープの優しい味わいに合わさって舌が喜ぶ。
正直ここのベーコンは好まなかった。
エルディアでは珍しくしっかりと脂がのって分厚く、人気が高いのは知っているけどどうも脂っこ過ぎて苦手だった。
けどこのスープのベーコンは焼いた時に脂分が出て、コンソメスープに混ざった事でベーコン単体の脂分は減って程よい感じになっている。
次にヴルストを頬張ると同じくカリッと切った断面が焼けており、噛むと中に封じ込められた肉汁が噴き出て来る。
手間も味も段違い。
でも根っこは一緒なのか味にも懐かしさが灯っている。
「美味そうに食うじゃあねぇか。俺にもひとつくれや」
「畏まりました」
懐かしさに心温まり、知らず知らずに優しい微笑を浮かべているとそれが注目していた皆に伝染し、ケニーですら注文し始めた。さすがにエレン達は仕事中なので注文出来ないので物欲しそうに眺めるばかり。
その様子にクスリと笑って「賄いに用意しておきましょうかね」と呟き、対して物欲しそうにしていた事に気付いて赤面するのだった。
食べ続けていたヒストリアは一度スプーンを置いて真っ直ぐ総司を見つめた。
「美味しいです。やっぱりここにきて良かった」
「ありがとうございます」
「‥‥‥また来ても良いですか?」
感想を述べると恐る恐る問いかける。
今回もそうだが女王が訪れるとなると同様に客を止めるなど迷惑が掛かってしまうに違いない。
人が良い総司さんでもそんな日が続けば生活や営業にも影響が出るだろう。
不安と期待がせめぎ合う中、総司はにっこりと笑って答える。
「いつでもお待ちしておりますよ」
社交辞令とも受け取れる一言であるも、総司さんの表情から本音を言っているのが伝わり、聞いた側であるもその人の好さに別の不安を抱いてしまう。
そしてその不安を表情に出してアニは抗議しようとしているのを見ると、これからも大変そうだなぁと苦笑いを零して、ユミルにイチゴパフェの注文を行う。
苺とアイスやホイップクリームによる紅白のコントラスト。
透き通ったグラスに零れ落ちんばかりの山を築きながら、見た目は繊細で美しい。
見た目だけではなく甘くも苺の酸味を利かした甘酸っぱさが濃厚な甘味をさっぱりと浄化してくれて食べ易い。
最初訪れた時は常連になるとは露とも思いもしなかった。
ユミルがここに居たという喜びと総司に対する嫉妬や怒り、大きな音を立てたお腹の音で恥ずかしくなったりとあの時は感情がころころと変わったのをよく覚えている。
勝手に出来ないと思い込んで意地悪にイチゴアイスの注文をしたらイチゴパフェを進められてあっさり返り討ちにされてしまったっけ。
思い出すと「何やっているんだ私…」と恥ずかしさで悶えそうになる。
けどその出会いがあったからこそ今の私が居ると思えば良い思いになるのだろうな。
懐かしい思い出を振り返りながらペロリと食べ終えたヒストリアは、「また来ます」と一言を残して、フード付きの上着を羽織って帰路へ着く。
途中で隠すように止めてあった馬車に乗り込む際、ケニーがある事に気付いて口を開いた。
「なぁ、女王さんよ。どこぞの
「――――あ…」
小さく漏れた短い声に、護衛として急ぎ集められたジャン達は呆れ顔を見せ、大声で笑い合った。
●現在公開可能な情報
本作“進撃の飯屋”ですが2020年12月または2021年一月末までに完結予定。