ラーメン。
食事処ナオで提供している麺料理の一つで、絶大な人気を誇る料理の一つ。
スープ作りなどの下準備に多くの時間が掛かるものの、逆に下準備さえ出来ればラーメン用の丼にスープを注ぎ、湯がいた麺を入れて具材を乗せるという手軽に提供できる。
料理は熱いスープに麺が浸かっているので冷まして食べたいところだが、時間が経てば経つほど伸びて食感も味も落ちてしまうので、誰もが熱さと戦いながらも啜り食う。
急くように食べる為に客の回転率も速く、スープ類が場所を取る為に特別メニューとなって食べれる日が限られるのと、人気があるので平日の昼食頃でも多くの人が列を成す。
カウンター席もテーブル席も埋まるほど客が押し寄せる中、先に予約しておいて席についている者がいる。
メモ帳にペンを用意し、食べながらでも記録できるように準備しているイルゼ・ラングナーだ。
以前のラーメンの日に食べたのだが、スープも飲み干してしまったが為に一杯で満腹になって、色んな種類を味わう事が出来なかった。
平日メニューなら毎日違うものを注文できるが、特別メニューとなると結構待たされることになる。
そこで少しずつ食べて種類を味わおうと考えたのだ。
ただミニラーメンも二杯または三杯食べたら満腹になってしまうのでその手は使えない。
…スープまで飲まなければ良い話なのですけど、美味しくて飲まずにいられないんですよねぇ…。
と、いうこと
同じく種類を味わいたかったサシャ・ブラウス。
スイーツの時に情報を提供したミーナ・カロライナ。
所属が同じ調査兵団所属で声が掛けやすかったペトラ・ラルとニファ、ナナバの自分を含んで六名。
すでにテーブルには五種類のラーメンが並び、今日使わないとの事で丼物用のミニ丼などを含んだ合計30にもなる器。
味を混ぜたくないのもあって人数分分けれるように用意して貰ったが、正直申し訳ない気持ちでいっぱいである。
総司さんは良いと言ってくれたが周囲の目のほうが気になる。
視線を受ける中、サシャなどはまったくもって気にもせず、他の皆は気にしていたら伸びてしまうと言う事でせっせとラーメンを分けて行き、それぞれに五つずつ配っていく。
早速味わおうとフォークに手を伸ばして、器の一つを手にする。
最初に手にしたのは醤油ラーメン。
黒っぽい茶色いスープに沈んだ麺が顔を覗かせ、上には刻みネギにメンマ、ナルトにチャーシュー、完全には黄身が固まっていない半分に切られたゆで卵が乗せられていた。
麺を食べる前にレンゲでスープをすくって口にする。
豚やキャベツにネギの旨味が含まれた醤油ベースのスープにごま油が利いて香ばしい。
スープを味わって続いて麺を食べようとフォークで持ち上げて、吐息で少し冷まして啜る。
気にすることなく音を立てて豪快に啜り、麺と共にスープが口の中に飛び込んで、単体では濃い目の味わいだったが一緒なら程よいスープの旨味とすっきりとした塩気で食べ易い。
そして啜れば舌の奥に醤油の風味が残る。
あー…美味しい。
醤油は食事処ナオでは良く使われるので、馴染みが合って凄くに落ち着く。
ちゅるちゅると笑みを浮かべながら麺を啜り、具材にも手を出す。
メンマのコリコリとした歯応えとナルトの柔らかくむにむにした食感を楽しみ、ゆで卵を噛み締めると白身の淡白な味わいと黄身のまったりとしたまろやかさを噛み締める。
黄身の後味が残っている内にそこで麺を啜ると醤油の濃さにまろやかさが加わってガラリと変わる。
薄くも大きいチャーシューに齧り付くと、浸み込んでいる甘じょっぱいさと豚肉の旨味が詰まった脂身が広がった。
身体に熱が籠り、冷やそうと汗が薄っすらと浮かび上がるも、美味さゆえに決して食べるのを止める事は無い。
それは他の皆も同じで黙々と食べ続けている。
一杯目を食べきると次に移る。
味を確かめるまでもなく鼻孔の奥を突くような味噌の強い香りに、沈んでいるであろう麺を覆い隠すような茶色く濃いスープから味噌ラーメンであることが解る。
黄色く明るいコーンに白いもやしの山、レタスや白菜など彩り鮮やかな具材の数々。
スープの茶色さが加わってよく映える。
まずはスープを味わう―――と、思ったが香りだけでもこれだけ濃ゆいのだから、スープだけではきついのではと思って麺を口にする。。
麺に絡んでいるだけというのに濃厚な味噌の味。
無論含まれている野菜の旨味がより深みを持たせているが、それらを圧倒する味噌…。
これだけ濃ゆい味わいなのだ。
本当にスープだけ口にしなくて良かったと思う。
ずるずると麺を啜りながら、時折具材を口に含む。
シャキシャキと歯応えのあるレタスや白菜。
時間が経てば温かさでしんなりとするもやし。
噛めばぷちぷちと潰れて仄かな甘味をもたらすコーン。
味噌の味わいに変化を齎しながら、止まることなく食べ続ける。
一杯を五つに分けているので二種類食べてもまだまだ余裕がある。
やっぱり人数を揃えていて良かったと過去の自分を褒めながら三種類目を手にする。
澄んだスープから漂う湯気に塩気が混じって食欲が刺激される塩ラーメン。
具は醤油ラーメンと同じであるが、先の醤油ラーメンの時に具材を多く入れてあったので今回は無しだ。
レンゲではなく丼を持ち上げて口に近づけ、直接スープを口にする。
塩味と言っても塩気がただ濃ゆいだけでなく、塩の旨味と風味が引き出され、主役であるもスープに含まれる肉や野菜の旨味を引き立てる。
ふぅ…と小さく吐息を漏らしてさっぱりした塩気と旨味が絡んだ麺を啜る。
豪快に―――ではなくちゅるちゅるとゆっくりと含み、咀嚼して飲み込むとまたも息を漏らす。
美味しいなぁと頬を緩めながら、しっかりと記入しているとサシャで視線が止まる。
サシャの器には具材が乗っており、ゆで卵を口にしていた所であり、ゆで卵と塩の相性は抜群である事から塩ラーメンのスープに浸かっていたゆで卵もまた最高である。
パクリと齧り付いて満面の笑みを浮かべて美味しそうに食べる様子に羨ましさが胸中を過る。
羨ましさを噛み締め、次回はそれを絶対注文しようと心に決め、塩ラーメンを食べきった。
味を色々食べられて満足感は出て来た。
けどまだ胃には余裕があり、二種類残っている。
塩ラーメンでさっぱりしたところで、次はまた濃い目のラーメン―――豚骨ラーメンに視線を向ける。
味噌ラーメンも濃い目の味であるが、あちらは塩気が強い。
対して豚骨ラーメンは脂分が非常に多くてねっとりとした味わいが特徴的なラーメンだ。
脂漂う真っ白いスープを口にして滑らかで後味を引く味わいと脂が口内を満たす。
ニンニクとゴマ油の香ばしさが混ざり、匂いまでも後を引くように鼻孔に残る。
この脂っこさが堪らない。
麺を啜れば濃厚な味わいと共に唇に脂が撫でて行く。
それと豚骨の臭みがまた良いアクセントで癖になる。
速度を落とすことなくずるずると麺を啜り続け、食べきったところで器を持ち、口を付けてスープを一気に飲み干す。
小さくても三杯食べていれば自然と温度も下がり、飲み易いとまではいかずとも飲める程度にはなっていた。
脂が固まり切らない温かさのあるスープが脂を擦り付けながら喉を通って胃に溜まっていく。
醤油に味噌に塩に豚骨を味わったイルゼは一旦食べる手を止めて、食べながらでは書ききれなかった捕捉をメモ帳に素早く書き足し、最後の一杯へと手を伸ばす。
最後の一杯は海鮮ラーメン。
魚や貝などの海鮮類を使用したラーメンだけに、香りから磯の…海の香りが漂う。
具もわかめに小海老、イカなど海鮮に合わせた食材が乗っている。
視界の端でニファが嬉しそうに小海老を口にしている様子が伺え、ほっこりとして笑みを零してしまう。
スープを口にすればアサリの香りが鼻を突き、出汁で使われた魚の優しい旨味がふわりと広がる。
濃厚な豚骨を食べた後だからか余計に魚の旨味が浸み込み、ホッと安心感にも似た落ち着きが訪れる。
ゆるりと麺を啜り、具を挟みながら食べる。
蒸された小海老の淡白な味わいに小さくとも弾力のあるイカの食感、薄っすらとながらも塩気を帯びたわかめ。
海鮮ラーメンを食べながらイルゼは事前調査した際にファーランから聞いた彩華の海鮮ラーメンに想いを馳せる。
総司の海鮮ラーメンも美味しいらしいのだが、これだけは彩華の方が美味しかったと絶賛していたのだ。
彩華という人物とは会った事がないだけに、今度紹介して貰わないととメモ帳の海鮮ラーメンの欄に重要な事と位置付けて二重丸で囲っておく。
五杯を六人で分けたとあって少しばかり胃には余裕がある。
それは集まって貰った皆も一緒で、メニュー表を開いて何かしら注文する気でいるらしい。
速攻で動いたのはサシャで、注文したのは豚骨ラーメンでチャーシュー増し増しにゆで卵追加などがっつり食べる気らしい。
さすがにそこまでは入らないのでミニラーメン一杯を注文しようと決め、どのラーメンにするかを悩む。
すると食事処ナオで良く耳にする喧騒が飛び込んでくる。
「塩だ!」
「醤油!」
喧騒の方へと視線を向けると休憩に入って賄いを食べようとしているエレンと客として訪れたジャンが、相も変わらず口論の興じていた。
内容はどうも追加オプションでバターを頼むならどのラーメンが良いかだ。
確かに醤油バターも塩バターも想像するだけで美味そう…。
ただでさえ悩んでいる最中だと言うのだからこれ以上悩みの為を増やさないでほしい。
悶々と悩みが深くなる中、それも流れと言わんばかりにアニまで加わった。
「トッピングのチーズは推さないんだね?」
「それは既に入れている」
本当に毎回ながら何故第三者が他の選択肢を投入して議論の幅を増やしていくのか…。
エレンが
「なら、良い」と言わんばかりのその場をあとにしたのだが、止めなくても良いのかと内心だけで突っ込みを入れておく。
…まぁ、時間が経てば経つほど麺が伸びるのは承知しているだろうから放っていてもいずれ鎮火するだろう。
そんなこんなしていたら議論がどれがラーメンに合うかに切り替わり、徐々に人も声も増えていって収拾が付かなくなってきた。途中途中でファーランが選択肢を投入していたようだが、さすがにアニが仲裁(実力行使)に入る秒読みが開始されていると雰囲気的に察して、もう口を挟む事はなさそうだ。
どんな結末を迎えるのかなとメニュー表と睨めっこしていると、新たにクリスタが議論に参戦していった。
「やっぱりラーメンに合うって言ったらこれでしょ」
そう告げると彼女は真っ直ぐ何処のテーブルやカウンターに置かれている、磨り潰し機にニンニクを装填していた…。
ラーメンの日には「ご自由にお使いください」とニンニクとニンニクを磨り潰す機器が用意されている。
しかしこれを使う者は少数だ。
ニンニクを投入すれば香りだけでなく、味もガツンとした強みを持つ。
好き嫌いは置いとくとしても好きな者でも手が出し辛い。
メリットを得るにはデメリットが大きい。
生のニンニクを加えて食べた場合、大なり小なり臭いが発生するのだ。
量を食べれば食べるほど周囲に与える影響も大きくなる。
まして今日は平日の昼食時。
食事を済ませたら職場に戻る者が大半で、その中でニンニクを食べて行こうとする猛者は少ない…。
特に女性となると口臭を気にして手が余計に出し辛くなる。
だというのにクリスタは手にし、躊躇う事無く潰してラーメンに入れた。
この様子に皆が絶句して、喧しいほど騒がしかった店内は一瞬で静寂に包まれた。
「ちょっ、クリスタ!?」
驚きの声を挙げたユミルに逆にどうしたのと言いたげな視線を向けながら、クリスタはちゅるりを麺を啜る。
頬が小さく動いて咀嚼している事を理解し、問いたい気持ちを抑えてゴクリと飲み込むのを待つ。
待っていたユミルにクリスタは心底不思議そうに問いかける。
「どうしたのユミル?そんなに大きな声を出して」
「どうしたじゃなくてニンニク!」
「ニンニク?……あぁ」
きょとんとしたクリスタだが、ようやく意図を察したのか頷きポケットからケースに入った錠剤を見える。
ジャラリと音を立てて中で転がった錠剤を皆が注視する。
「総司さんに買ってきて貰ったんだけど、これ一粒呑み込むだけで臭いを抑えれるの」
クリスタの一言を耳にした全員―――特に女性陣の鋭い眼光が総司に注がれ、向けられた総司は何事かと肩を震わした。
その後、イルゼは総司より錠剤を一つ貰い、ラーメンにニンニクを入れて味わうのであった。
●現在公開可能な情報
・種類の追加要請
ラーメンの日はかなりの客数を稼ぐほどの人気を博したが、その分要望が多く寄せられることになった。
カレーでラーメンは出来ないのか?
辛くも美味いラーメンはないか?
もっと野菜たっぷりのラーメンはないか?
などなど多数の要望を貰い総司は種類の拡充で悩むことになる。