魔女のヒーローアカデミア   作:陽紅

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MP11 考える魔女

「……///////////

 

「あの……蛙吹さん。寒さはもう大丈夫ですか?」

 

「大丈夫よ? ええ。大丈夫。寒いどころかちょっと暑いくらいよ? だからお願い、ちょっとだけ、放って置いて……///////////

 

 

 訓練の場となったビルの最上階。核の置かれた部屋に、梅雨と天魔はいた。移動時、未だ冬眠状態だった梅雨をここまで運び……目が覚めたと思ったら、いきなり部屋の隅っこで蹲ってしまったのだ。

 個性ゆえか、女子の平均より少し大きな掌で顔を覆い隠し、外界との接触を全力で拒んでいる。

 

 

 

(……わ、私ったら寝ぼけてるとはいえ、なんてことをしてしまったの……!?)

 

 

 地下から最上階の核が設置されている部屋まで。梅雨の体温的なことを考慮したのか、天魔が縦抱き(子供の抱え方の一つ)に近い形で彼女を搬送したのだが……実は、地下を出た辺りから梅雨の意識は薄っすらとだがあった。

 

 目覚めこそしたが、いい感じの温もりと落ち着く匂いのダブルコンボで完全な覚醒に至らず、むしろ心地良い微睡みの中で……。

 

 

 

 めっちゃ、クンクンスリスリしていた。

 

 

 

「〜っ……けろぉ///////

 

 

 

 真っ赤になっているだろう顔を隠すべく、頭を抱えるようにして膝に押し付ける。

 

 

 ……恥ずかしい。それはもう、滅茶苦茶に恥ずかしい。

 

 なぜよりにもよって天魔の首元にグリグリと頭を擦り付けてる時に完全覚醒してしまったのか。温まったはずなのに頭の中がフリーズ。そして一気に沸騰した。

 

 ……ここに来るまでの無意識下で、自分が『どれだけ』のことを『どれほど』やってしまったのか。……想像もしたくないが、事実としては知っておかねばならないだろう。もしかしてモニターされている映像は録画されていたりするのだろうか。

 

 

(私、変な子だって思われてないかしら……)

 

 

 その上、その直前くらいにも結構変なことを聞いてしまっている。──梅雨としては思ったままを告げたつもりだが、周りの反応を見れば……まあ、恋愛事のそれだろう。

 

 

 『どうしよう、どうしたら』と、そんな考えばかりが頭の中をグルグル回る。授業に集中しないと、と冷静な部分もあるにはあるが、だからこそ、余計に混乱してしまう。

 

 

 

 ……恥ずかしい、よりも。

 

 変な子、と思われて嫌われてしまったのではないか? という焦りの方が強いことにも気付けない程に

 

 

 

 

 

 

 そんな梅雨の頭に……ポンと、手が置かれた。

 

 

 蹲る梅雨が少し見上げれば──そこには案の定、中腰になって梅雨の頭に手を伸ばしている天魔がいた。

 ……揃えた膝に片手を乗せて支えにする中腰姿勢が、容姿だけではなく性格も相まって大変よく似合っている。黄色のエプロンでも着せたら、どこの幼稚園・保育園でも即採用クラスの若い保母さんだろう。

 

 

「──大丈夫。その、これまでのことなら、蛙吹さんは何も悪くありません。

 

 ……むしろ、この件に関しては全て私が悪いんです。まだ皆さんに教えていない、魔女()の個性の、特性──いえ副作用と言えば良いのでしょうか……」

 

 

 苦笑をわずかに浮かべ、すぐに真剣な顔へ。

 

 

「……後で必ず、説明します。だから、今は訓練に集中しましょう?

 

 私のせいで蛙吹さんに低い採点を付けられてしまうなんて絶対に嫌ですし……そんなこと、絶対にさせませんから」

 

 

 そう言って、頭に乗せていた手を離して、そのまま下へと少し下げる。

 

 差し出されるように向けられたその手を取れば、華奢な体からは想像できない力強さで引っ張り上げられた。

 

 

「けろ。わかったわ。それと……ごめんなさい。みっともないところ見せちゃったわ。

 

 ──早乙女ちゃん。『絶対にさせない』って凄い自信だけど、何か作戦があるのかしら」

 

 

 

 その問いかけに、魔女は静かに微笑みを浮かべる。

 

 それは、目の前にいる梅雨を始め……モニター越しに見る一同にもゾクリと変な感覚をさせるほど──妖艶な笑みだった。

 

 

 

***

 

 

 

「作戦会議、はっじめっるよー♪」

 

「「YEaaaaAH!」」

『YEAaaaaaaaAH!!』

 

 

 ビルの外。ノリで掲げた拳をそのままに、三人は大音量を伴った衝撃波が天へと登っていくの目を瞬かせながら見送った。

 

 

「……。コホン、何かいまマイク先生っぽい絶叫が遠くから聞こえた気がしたけど、華麗にスルーして」

『コイツはシヴィィイイイイイ!! ……ぎゃあ!?

 

 

 沈黙。──誰に、とは敢えて言及しないが、恐らく狩られたのだろう。

 

 仕切り直しと言わんばかりに咳払いを一つ。

 

 

「……スルーして! 作戦会議始めるけど……どうしよっか?」

 

「作戦会議っつうか、まず何よりも、最大の障害について話し合わなきゃだろ。ぶっちゃけ、『早乙女をどうするか』じゃね?」

 

「No problem☆ ボクのネビルレーザーで華麗に一撃さ☆」

 

 

 そしてこちら、芦戸・上鳴・青山組。今回の戦闘訓練における唯一のトリオチームである。その様子は巫山戯てこそいないが、緊張感はほぼ皆無と言えるだろう。

 

 それが、三人という数の利からくる余裕なのか、それとも三人のもともとの性格なのかはわからないが、モニター越しのオールマイトが苦笑していることを考えれば、宜しい事ではないことは確かだ。

 

 そんな様子のまま一分、二分とあーでもないこーでもないと議論を続けるが、実になりそうな案は一つとしてない。

 

 開始までの時間が迫る中、上鳴が絞り出すように『一番簡単な作戦』を口にし、それが採用となってしまった。

 

 

 

「『三人がかりで早乙女をどうにかする!』もうこれっきゃねぇぜ。……弱音吐きたくねぇけど、一人で戦って勝てる気がこれっぽっちもわかねぇもん。

 つーか、早乙女が反則すぎだろ。なんだよ魔法って」

 

「オッケー! なにが出来るのか、正直わかんないもんね。頭も良さそうだし」

 

 

 三人は、天魔への警戒を高めていく。その警戒は確かに正しく、その一点に関してはオールマイトも……それどころか、相澤でさえ認めただろう。

 

 

 だが、彼らの警戒を認めこそすれ……決して、及第点を出さないだろう。

 

 

 

『──ヒーローチーム、スタート!』

 

 

「よっし! 行くよ! 早乙女に当たって砕けるつもりで──」

 

 

 

 

 

   

「──けろ。私がいることも忘れないでほしいわ」

 

 

 

 

 

 突撃だー、という芦戸の言葉は続かず……拳を高く突き出した姿勢のまま、油が切れたブリキ人形のようにギギギ、と振り返り、そちらを見た。

 

 

 

 今越えたばかりの、出入り口の真上。その壁と天井の境の角に張り付き、灰色の布で体を隠していた梅雨が、無防備な三人へとある物を投げつけた。

 

 ソフトボール大のそれは誰に当たるよりも先に大きく()()()、三人を飲み込むように覆いかぶさった。

 

 

 

「なんっ、だぁ!?「あす、蛙吹さん!? え、いつの間に!? ちょ、上鳴動かないでよー「ふ☆ 二人とも☆ ボクの上で暴れないでっ☆」

 

 

 三位一体。いや、三人一塊。ジタバタともがく三人の前に降り立ち、梅雨は自分が成した結果に、気のせいレベルのうっすらとした笑みを浮かべた。

 

 

 

「けろ。あんまり動かないほうがいいわよ? 網が絡まりすぎると、手足の血管が圧迫されたり、最悪首がしまって窒息死とかもあるみたいだから」

 

 

 

 ピタリと止まる三人。

 恐る恐る、目の前にカエル座りする梅雨を見上げた。

 

 

「……けろ。色々聞きたそうな顔ね? 『いつから隠れてたのか』っていうのは『ほんの二、三分前から』よ。早乙女ちゃんが静かになる魔法と、カムフラージュとしてこの布を貸してくれたの。

 ちなみに、その網も早乙女ちゃんが作ってくれたのよ。本人も名前を忘れてしまったみたいだけれど、頑丈性に特化した特殊繊維らしいわ。増強系の個性で思いっきり引っ張りでもしない限り、まず切れないそうよ?

 

 そして……」

 

 

 ヒーロースーツの腰にあるポーチから、掌に収まる大きさの石を取り出し、三人の目の前に放り投げる。

 

 なにこれ? と三人が問う間も無く、梅雨はカエルの跳躍力で一気に離れてしまった。

 

 

 呆気に取られること数秒。訓練中だということを思い出し、芦戸が酸を使って一気に網を溶かそう……として、密着している二人から上がった悲鳴で出来ず。一本一本を溶かし、一分程かけてやっと三人は自由になった。

 

 嫌な予感がする。……それでも立ち止まっているわけにもいかず、ヒーロー達はヴィランを追って駆け出した。

 

 

 

 

***

 

 

 

 そして、場所は移ってモニタールーム。

 無数にあるモニターに映し出される光景をひとしきり眺めたNo1ヒーローは、苦笑を浮かべて、小さく呟いた。

 

 

「……前回もワンサイドゲームだったけど……こっちもこっちで、また凄いね」

 

 

 早乙女天魔は数あるモニターの一つ…… 最上階にある一室から、一歩も動いていない。

 ヴィラン側で動き回っているのは梅雨だけだ。そして、それを必死に追い掛けるヒーロートリオ。生徒達はそちらに熱中しており、天魔への注意を払っている者は殆どいない。

 

 

 

 

「……一方的、じゃねぇか」

 

 

 そう呟いたのは、果たして誰だったか。だが、この状況をこの上なく、的確に表現している。

 

 追い詰められているヴィランは余裕そうで、確実に上へ上へと追い詰めているはずのヒーローは……三人の誰を見ても疲弊しきっていた。

 

 

 勝利条件にないからこそ訓練は続いてるが、ヒーロー側はすでに最初の網に捕らわれた時点で詰みの状態だった。開始数秒の電撃決着である。

 

 

 ……三人は、恐らく気付きもしていないだろう。

 

 もしこれが訓練ではなく実戦で、あの時投げられた石ころが……例えば、手榴弾の類であった場合──勝負は最悪の形で決していたことを。

 

 

 

 そして、そこから始まったのは、多数の罠を使った蛙吹 梅雨の独壇場だ。

 

 

 

 カエルという個性。高い跳躍力と、壁すらも足場にできる機動力。最大で20メートルは伸びるという舌……その全てを十全に用いた罠とのコンボで、追いかけているはずのヒーロートリオをどんどん追い込んでいく。

 

 

(蛙吹少女の冷静な判断力は素晴らしい。だが──)

 

 

 例えば階段。段を一つとして踏むことなく越えて待機。階段にまた罠があるのかと警戒して三人が注意深く足元を確認……しているところを、天井に設置した落下系トラップを舌で発動させ、三人の頭上にトリモチのような粘着玉が降り注ぐ。

 

 例えば廊下。床一面に撒かれた油のような液体で走ることが出来ない三人を尻目に、壁から壁へ跳ぶことで突破。そこに再びポーチから使い捨てのライターを取り出し、慎重に地面に立てる。余裕で着火できるだろう時間をその場で待って、また上階を目指して走り出した。

 

 

 

 そんな感じの攻防が、もう五回は超えているだろう。

 

 『次はどんなトラップが』と警戒してしまい、ヒーロー側の速度はどんどん落ちていく。さらには警戒しまくりな三人にフェイントを仕掛けることでプレッシャーも与え、梅雨は面白いように時間を稼いでいった。

 

 

 先に行った二回の訓練とは別の意味でレベルが高い内容に、殆どの生徒の視線はその四人に釘付けだ。ヒーロー側を応援する生徒や、梅雨の行動や罠のあれこれを真剣に考察したりする生徒がいて──。

 

 

 そして、その殆どに含まれていない生徒が、二人いる。

 

 ……鋭い目で天魔を見定めるように見る轟焦凍と、悔しそうに歯を食いしばりながら天魔を睨む爆豪勝己だ。

 

 

 最上階の一室にただ突っ立ったままの天魔だが──……決してサボっているわけではない。

 すでにお察しかとは思われるが、梅雨が作動させている罠の全ては天魔が魔法を使って用意したものだ。

 

 普通に作れば数十分は掛かるか、そもそも一人では到底作ることすらできないような罠の数々を二、三分の間に作り上げたのだ。彼のサボタージュを叫ぶ者はここにはいないだろう。

 

 

 ……むしろ、為すべきことを為し、梅雨を信じて泰然と待ち構えているように見える。

 

 

 

 

「はっ。クソが……全部、あのクソ男女の掌の上ってことかよ。舐めやがって……!」 

 

 

 『男女だと最終的に女ではなかろうか』──という、どこかズレた感想はさておいて。

 

 初戦以降どこか消沈していた爆豪が、静かに、だがしかし獰猛な笑みを浮かべていた。それにびくりと反応する緑谷も、倣って天魔が映るモニターを見上げる。

 

 

(──だが、なによりも。早乙女少年の戦術眼と引き出しの多さだ。このレベルじゃあ、彼は教える側だね。しかし、建物内で実際によくヴィランが使ってくる罠をいくらかグレードダウンして実践するなんて……)

 

 

 ……留年決定後の8ヶ月。その期間、多くのプロヒーローである教師たちが、彼に知識と技術を叩き込んだという。実際に誰が名を連ねてるのかオールマイトは知る由も無いが……この訓練では少なくとも二人のヒーローの姿が脳裏にチラついていた。

 

 

 

 

 そして、天魔は終ぞ動くことなく。ヒーローチームは最上階にすらたどり着くことなく。

 

 

 終始梅雨一人が三人を翻弄し続け、タイムアップを迎えた。

 

 

 

 


 

 

 

 

「はいお疲れ様! 早速講評を始めようと思うんだけど……ぶっちゃけヴィランチームにこそハンデつけた方が良かった……?」

 

「「「…………」」」

 

「HAHAHA! ……返事する体力も気力も無いね。まあ、最後にあんなの見せられちゃったらね、うん。よく頑張った!」

 

 

 タイムアップの宣言を受け、トラップ三昧からやっと解放された三人は『せめて天魔に文句を言ってやろう』とヤケクソ気味に最上階まで上がり……。

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()を見て、絶句。

 

 モニター越しに見た、確保対象である大人よりもでかい核爆弾がどこにも無く、問い質せば『二階の隅部屋に移した』という天魔の言葉に崩れ落ちた。

 

 

 

「さて、心苦しいけどヒーローチーム! 減点ポイントいっぱいあるからちゃんと聞いてね!

 

 まず、『警戒心ゼロでヴィラン拠点に突撃しちゃったこと』『目の届く範囲で逃げる蛙吹少女に誘導されちゃったこと』!

 逃げたら追いかけたくなるのはわかるけど、ヴィランのアジトなんだから当然ヒーローや警察に対しての罠があって当然! 周囲警戒がおざなりだったぞ! チームに索敵に適したヒーローがいなけりゃ自分達でやらないとな!

 

 さらに、二回の前例で『核爆弾が最上階にあるという先入観を持っちゃったこと』だね。あとは、『数の理を活かせなかった』のも減点ポイントかな?」

 

 

 指折り数えて早四つ。すっかりしょぼくれた三人の顔を見て、オールマイトは笑う。

 

 

「でも、うん。ガッツはあった! 最後の最後まで決して諦めずに蛙吹少女を追い掛け続けたそのガッツは素晴らしかった! 今日いっぱいやっちゃった失敗を忘れず、一つ一つ改善していこうな!」

 

「「「〜っ、はい!」」」

 

 

(逆に言うと『それ以外の良いところは一つもなかった』ってことだよね?)

(葉隠さん、しー。上鳴たちがそれでいいんだから、言わないでおこう。……っていうか、それを言ったら俺たちなんてガッツすら見せられず負けてるからね?)

 

 

 

「うん! 良い返事だ!

 

 さて、お次はヴィランチーム……なん、だけど」

 

 

 

「…………」※メッチャニコニコ

「けろけろ……////

 

(すっごい素敵な笑顔(ドヤ顔)してるね早乙女少年)

 

 

 ……恐らく人生で初だろう。見ていてこんなにも心がホッコリするドヤ顔を見るのは。……あんまりにも純粋すぎるせいか、なんかキラキラしたものまで浮いているように見える。

 

 そして、そのキラドヤ顔を浮かべる天魔が、後ろからその両肩に手を置いてそっと前に押しているのが梅雨である。──ちょっと恥ずかしがっているのがまた愛らしい。

 

 

「コホン! まずは今回のMVP、蛙吹少女からだ!」

 

 

 ──天魔、小さくガッツポーズ。

 

 

「何よりも、狭い屋内にも関わらず個性を活かしきった素晴らしい機動力だ! 今回はヴィランとしてだったが、ヒーローの立場でも十分な武器になるね! そして、冷静な判断力。即席のチームかつ、急遽作られた罠をほぼ完璧に活かしきっていてとってもグッドだ!」

 

 

「開始前のは〜まあ、女の子だし不意打ちだしで、ぶっちゃけ蛙吹少女のマイナス評価ではないね! 早乙女少年の考えた作戦もただ聞いてただ実行、じゃなくてちゃんと意見も言えてたから、問題はなし!

 ……こう言う時、本当は減点ポイントを教えて改善点を伝えるべきなんだろうけど、ゴメン。先生思いつかないんだ」

 

 

 高評価も高評価。個性で一気に蹂躙した轟とはまた別の……いわゆるテクニカルな面で最優秀である。

 再び小さくガッツポーズをする天魔に苦笑する。……喜んでいるところに水を差すようで心苦しいが、しかし言わなきゃなぁ、と咳払いをした。

 

 

「そして、早乙女少年は、えー、そのなんだ。

 

 

 

 

 ──ゴメン。君だけ、評価外だよ」

 

 

 

 オールマイトの予想外の言葉に、天魔を除いた全員が静まり返る。そして天魔だけは、その評価を聞いてニッコリと笑った。

 

 マイナス点やプラス点がどうのこうの、という、そんな程度の低い話ではないらしい。

 

 

「先生! それは一体どういうことでしょうか!? 早乙女君は訓練中こそ微動だにしていませんが、開始前に建物内に設置したトラップが勝敗の重要な要素になったと愚考いたします!」

 

「その通りだ飯田少年! その通りなんだよ!

 

 実際、あの量のトラップをあの精度で、かつ短時間で配備するなんて、プロでもほんの一握りいれば……いるかなぁ?

 ……しかも早乙女少年。君、『考えられるルートごと』に罠をしかけたでしょ?」

 

「はい、頑張りました♪」

 

「頑張りすぎだよ!? 君だけやってることが高校生レベルじゃないの! これ一年生の最初の実技だからね!? しかもその笑顔! わかっててやったね!?」

 

 

 返事はない。その代わりに、輝かんばかりの笑顔が何よりの返事となった。

 

 

「まったくもう──『評価しようがない』って意味で評価外だよ。悪い意味じゃなくて、ね。とりあえずそんなわけで……えっと、何か質問のある子はいるかな?」

 

 

「はい! 早乙女さんに質問ですわ。……どうして早乙女さんは最上階に残ったのですか? 常識的に考えて、核爆弾の近くで守ってたほうがより勝率は高かったと思うのですけれど……」

 

「はい、勝つことに拘るなら八百万さんが正解なのでしょうが、私も『男』ですから──……あの、『そう言えばそうだった』って顔をシンクロさせないでくださいね?

 

 コホン。女の子一人に危ない役をやらせておいて、自分は安全な場所で待っている、なんて格好悪いじゃないですか。

 それに、今回の訓練の設定上、ヴィラン側は離脱も考慮しないといけません。最上階なら合流は簡単ですし、万が一上ってくる蛙吹さんに何かあったらすぐに駆けつけられますし」

 

 

 その必要はありませんでしたが、と、目の前にある梅雨の頭を軽く撫でる。撫でられた側はケロケロと喉を鳴らして気持ち良さそうだ。自分に何かあるのが万が一の可能性である、と信頼されていることも上機嫌の理由だろう。

 

 

「私の中の流れとしては、

 

『蛙吹さんと合流』

『上ってきたヒーロー三人を行動不能にする』

『拠点から空を飛んで離脱』

『核爆弾の起爆タイマー起動』

 

 ちなみに、直線でしか動けませんが、数分もあれば核爆弾の被害範囲から十分に離脱可能です。

 まあ、その前にタイムアップになってしまいましたけど」

 

「さらっと完全犯罪じゃないか。しかもヴィラン側だけ無事で核爆発とか、世界史に載るレベルの大惨事だね」

 

 

 

 オールマイトが考案した設定に現実味を加味し、さらに発展させた形だ。

 

 一定時間核爆弾を守れば勝ち、でもその後は? 後続のヒーローや周囲を包囲する警察への対処は? などなど。出てくる天魔の大量の後付け設定。

 

 ……流石に考えすぎではないか、と思われるだろう。実際、上鳴や切島は小さく呟いていたし、全員の顔には同様の感想がありありと浮かんでいる。

 

 

 

「あはは、昔から考えすぎってよく言われます。……でもまあ、身に染み付いちゃった癖、ということで」

 

 

 そう言って苦笑する。

 

 『考えすぎ』──表現を少し変えるだけで慎重と良い様にも、臆病と悪い様にも捉えられるのその癖。ヒーロー界でもそれはかなり古くからある議題であり、未だに答えは出ていない。

 彼がいずれヒーローになれば、この優秀さだ。長年続く議題に、大きな波紋を作る一石を投じるだろう。だが……。

 

 

 

(早乙女少年のそれは、なんかちょっと違う気がするんだよなぁ……)

 

 

 説明は難しく、ほとんど直感でしかないのだが。

 

 自分の訓練が終わり、真っ先に緑谷に詰め寄って純少年にアタフタさせている魔女の後ろ姿を眺めながら、『考えるよりまず体が動く派』の筆頭ヒーローは首を捻るのだった。

 

 

 そして、残り二組目の訓練は大きな山場は特になく、各々の個性の得意と幾らかの改善点を残して終了した。

 

 

 

 

 

 




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