魔女のヒーローアカデミア   作:陽紅

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MP15 嵐、来たる

 

 

 広大な敷地を誇る雄英高校。しかし、広大すぎるが故に徒歩での移動では時間があまりにもかかり過ぎるため、敷地内には無数の大型バスが用意されている。

 

 ……といっても、経費削減のため型落ちした国営のバスを安く買い取ったり、廃車寸前のものを引き取ってサポート科の生徒・教員によって修理修繕(たまに魔改造)したものを再利用しているのだが。

 

 

 

「「はあ……」」

 

 

 そんな、生徒のために用意された車両の中で。

 

 生徒が吐き出したため息は二人分。ものの見事に重なった。

 

 

「早乙女ちゃん、最近ため息が多いわね。なにか悩み事かしら」

 

「……蛙吹さん。私もそうですが、飯田さんも今ため息してましたからね?」

 

「ああいや、俺は些細なことだ。……学級委員長として動こうとして、盛大に空回っただけだからな。バスがこういうタイプだったとは……!

 それよりも! 蛙吹くんのいう通りだ! この数日、ため息が多いぞ早乙女くん! 悩みがあるならば、俺でよければ幾らでも聞くぞ!」

 

「けろ。二人とも、梅雨ちゃんと呼んで?」

 

 

 両の手刀をカクカクと……ヒーローコスチュームが騎士調のロボであるせいだろうか、これがたまに聞くロボットダンスですか、と見当違いな感想を抱いていたりする。

 

 ──『マスコミ侵入事件』の直後、何故か緑谷が委員長を辞退し、その上で飯田を委員長に推した。聞けば、あの大混乱の食堂を鎮静化させた云々……本人たちが納得しているようなので、天魔には意見も文句も無いのだが。

 

 

 ……ため息の理由が何かしらの悩みではないため、心配そうに見てくる梅雨と意気込んでいる飯田に苦笑を返した。

 

 

「私も、飯田さんと同じですよ。空回りしちゃって……緑谷さんの個性訓練、先生方に掛け合ってみたんですけど、まだ暫くできそうにないんですよね。あれだけ偉そうに言っておきながら……」

 

 

 再び、はぁ、と物憂げなため息。……片手を頬に添える無意識な仕草が、なんとも色っぽかった。

 

 そして、そこまで大きな声ではないが、そこまで広くないバスの中。それほど離れていない位置に座っていた緑谷にも、その言葉とため息は当然聞こえた。

 

 

「あ、あの、早乙女さん。そんなに気にしなくても……! 訓練が出来なくなったのは早乙女さんのせいじゃ無いんですし、っていうか『個性を使うイメージのアドバイス』だけで今の僕には十分有難いくらいで……!」

 

 

 申し訳ない、と思う反面、そこまで考えてもらえて嬉しいとも思う。顔色が青くなったり赤くなったりと忙しい所は違うが……やはり、師弟はどこかで似てくるものなのだろう。感想がオールマイトとそっくりであった。

 

 

「けろ。そういえばそんなお話していたわね。……その緑谷ちゃんの個性だけど、掛け声のせいもあるのだろうけれど、なんだかオールマイトに似てる気がするわ。超パワーとか」

 

 

 

 ──若干前のめりになっていた緑谷が、なぜか切島の個性『硬化』を体現する。ビシリ、という効果音まで聞こえそうだ。

 

 ……いきなり深過ぎるところにぶっ刺さった梅雨の指摘に、脳が肉体の操作を投げ出して思考に集中しているのだろう。

 

 

「いやいや、緑谷とオールマイトは似て否なるもんだぜ? 超パワーは確かに近ぇかもしんねぇけど、緑谷は使うたびに腕なり指なりボロボロになっちまってるし。

 正直……見てて辛ぇから『あんまり使うな』って言いてぇけど、使わねぇと練習にも訓練にもなんねぇしなぁ。かと言って、じゃあどうするってわけだけど……ぬぅ」

 

 

 そう言って、唸りながら本気で悩む彼は、周囲のクラスメートたちが向ける好感の視線に気付いていないのだろう。長らく無個性ゆえに差別を受けていた緑谷なんて、硬化が解けて若干涙目だ。

 

 

 

「けっ、デクはデクらしく無様晒して這いつくばってろクソナードが」

 

「いや空気読め爆豪! クソを下水で煮込んだ性格を何もここでブッパする必要なくね!?」

 

「んだコラのそのボキャブラはクソ電気! ブチ殺晒されてぇか!?」

 

「『ブチ殺晒す』って何!? お前本当にヒーロー科のヒーロー志望!?」

 

 

 

 車内後方でギャーという悲鳴が上がるが、特に問題はなさそうなので放置一択。一人被害に遭っている上鳴には内心で合掌を送った。

 

 

 

「ええと、今切島さんの言った『じゃあどうする?』の答えは一応出ていまして──それが『出力の調整』なんです。現状、緑谷さんはオン/オフの切り替えしかできていませんので……

 

『個性の反動で身体が損傷しない程度』かつ『その状況に必要なパワー』

 

 この二つを考慮した出力の調整が、今の緑谷さんの最優先課題になります」

 

 

 天魔が左右の手で指を一本ずつ伸ばし、それを合わせるようにピースサインを作る。

 

 ……やってから気付いたのだろう。慌ててすぐにやめたが、少しはずかしいのか顔がわずかに赤い。

 

 

「一つ目はわかるんやけど、二つ目はどういう事なん……? あと、車内のお客様の中にカメラ、もしくはカメラ機能付きの何かしらをお持ちの方はおらへんでしょうか? ……おらん? おらんの? マジで?」

 

 

 

 天魔の言葉にいまいちピンとこないのは、お茶子と他数名……主に個性の性質上オンかオフしかない面々だ。なお後半はがっつりと無視してほしい。

 

 緑谷に伝えた時にも同様の質問をされたことを思い出しながら、(真顔を意識してから)お茶子の疑問に答える。

 

 

「すごく簡単に例えるなら『落ちてくる瓦礫』と『生身のヴィラン』……ヒーローならば、どちらもどうにかしないといけませんが、瓦礫ならまだしも、ビルを半壊できるような威力を人に向けたらダメですよね? ってことです。

 

 

 えっと──あの、爆豪さん? ダメですからね? 本当にどうしようもない不慮の事故だったとしても、ヴィランの方が亡くなられたら居合わせたヒーローは厳密に審査されて、最悪相応の期間で活動停止とかの処分を受ける可能性がありますからね?」

 

「う、うるせぇわボケが! ん、んな常識知ってんに決まってんだろうが舐めんなやゴラァ!?」

 

「待ってぇ! 今の爆豪ヒートアップさせないでぇ!? 襟首掴んでる手がバチバチいってんのぉぉ! 誰か助け……って誰もいねぇ!?」

 

 

 すでに二人の席に近かった面々は避難を完了していた。天魔にガチな心配を向けられたせいか、ボルテージが上がって細かい破裂から本領の爆発になろうとして……いたのだが、その細かい破裂すらも突然止まり、当事者たちも何事か、と。

 

 

 

 視線を前に向ければ──ザワリと逆立ち波打つ黒髪と、鷹の如く鋭い眼光が。

 

 

「オイ。爆豪、上鳴。……ちょっと騒ぎすぎだ。大人しく座ってろ」

 

「っ、ちっ」「あの、俺完全巻き添えなんすけど……? あ、はい、すんません」

 

 

 

「あと、もうそろそろ到着するから全員用意しておけ。……再度言うが、これから行うのは実践式の救助訓練だ。先日行った戦闘訓練とは全く別物で、救助活動は人命に直接関与してくる。こればかりは得意不得意関係なしに、全員余すことなく自分の糧にするように」

 

 

 程よく緩んだ空気を、さらに程よく引き締める。窓から雄英でも最大クラスの巨大さを誇るドームが見えてきた。

 

 

 

―*―

 

 

 

「で、早乙女。お前、緑谷にどんなアドバイスしたんだ」

 

「『電子レンジに卵をそのまま入れちゃいけませんよ』っていうのと……そうですね、『お水は大切に』ってアドバイスです。……まさか、身体強化系の個性のイメージで電化製品が出てくるとは思いませんでした」

 

「……いや、どっち聞いても台所でしか聞かないような会話だぞ? 個性についてのアドバイスだよな?」

 

 

 

―*―

 

 

 

「外から見てもわかってたけどやっぱでけぇ!」

 

「ドームの中にさらに建物とか! USJみたいっ! まあ私USJ行ったことないけど!」

 

 

 

「はい、芦戸さんそれ正解です」

 

 

 驚きやら感嘆やらで興奮を隠せない一同が、正解って何が? と首を傾げる。

 

 その答えは天魔ではなく──ゆっくりと歩いてきた、その人からきた。

 

 

 どこか連想させる……なんてレベルではなく、どこからどうみても宇宙服である『ヒーローコスチューム』は、数多くいるヒーローの中でも、スペースヒーロー・13号──日本中探してもこの人だけだろう。

 

 

 

『ようこそ! 1年A組の皆さん! ここは雄英高校でも最大の『災害救助訓練専用施設』、その名も』

 

 

 

 嘘の()

 

 災害や()

 

 事故ルーム()

 

 

 

『通称、『USJ』へ!』

 

 

 

 

「「「それでいいのか雄英高校!?」」」

 

 

 

「なあ早乙女……真面目に、大丈夫なのか?」

 

「ふふ、奇遇ですね、障子さん。丁度一年前に私も同じことを聞きました。

 それで、真面目に返答しますと……まあ、大丈夫だと思いますよ? 所詮はイニシャルが三つ並んだだけですからね。『ユニバーサル』から始まるほうを完全にコピーしちゃうと偉い人たちが偉い人たちや怖い人たちにお呼び出しされちゃいますけど……」

 

 

 苦笑。ここだけではなく、似たようなのがまだいくつかあるので、その都度リアクションがあるのだろう。

 なお、一年生で『大丈夫なのか?』と不安になり、二年になると『ルームじゃなくてドームじゃね?』と疑問を抱くようになり、三年に至ると最早何も感じなくなるという。

 

 名前に若干ふざけはあるが、その内実は相当なものである。火災現場、土砂災害、水難事故、山岳救助などなど、あらゆる救助現場を完璧に再現した設備は、正しくヒーローを育成するために用意されたものだ。……建築費用など、正直考えたくもないレベルである。

 

 

 

(……おい、13号。オールマイトはどうした? 今日は俺とお前、それにあの人の三人で見る予定だったはずだが)

 

(先輩。それが、また通勤中にヒーロー活動しちゃったみたいで。本人は大丈夫だと言っているみたいなんですが、『訓練中にマッスルフォームを維持できるかわからないから』と校長先生が)

 

(……新米教師のために補佐が二人(俺とお前)がついて、なのにその肝心の新米教師の本人が欠勤って……どういう不合理だこれ)

 

 

 USJに着いて早々、相澤が頭痛を抑えるように手を額に当てる。

 

 何やら手違いでもあったのか、彼にしては意外と長く数秒ほど唸り、しょうがないと切り替えて、13号の肩をポンと叩く。

 

 

 最優先は、もちろん生徒達の授業だ。……幸いというかなんというか、今回の訓練に最適な教師がそもそもいるので授業自体にはなんら問題はない。

 

 

 

 

 

 

 

『コホン。さて! 早速救助訓練を始める……その前に。みなさんにお伝えしたいことが一つ。あ、いや、二つ? 三つ四つ……』

 

 

 増えていた数字が不意に止まる。……コスチュームゆえに視線はおろか、表情さえ伺えない13号だが、その視線を、天魔ははっきりと感じた。

 

 

 

『──あるんですが、早乙女くんには以前伝えたし、君自身もうすでに重々承知しているだろうけれど……もう一度、聞いてくれるかい?』

 

「一度と言わず、何度でも、聞かせてください。それだけ大切なことですし……それにこれは13号先生だからこそ『深く響く言葉』ですから」

 

『―──……はは、うん。ありがとう』

 

 

 良い子だなぁ、とか、先輩ずるいなぁ、なんて感想を、内心でちょっと思いながら。

 

 では、と呼吸を一つ。

 

 

『一年A組の皆さん。君たちはここ、雄英高校のヒーロー科に入学しました。多くのライバルたちがいる中で狭き門を通り抜けてきた君たちは、現時点でも一般の人たちより遥かに優れた実力を持っています。そしてそれは発展途上であり、雄英高校を卒業するころには、さらに高みへと登っていることでしょう』

 

 

 その言葉に、二十名全員が──温度差云々の違いはあれど──例外なく笑みを浮かべる。

 

 入学のために相当に努力し、その努力が実った結果だ。褒められて悪い気がするはずがない。

 

 

『ですが。どうか、忘れないでください。君たちの持つその優れた力──個性は、使い方をほんの少しでも間違えてしまえば、容易に人を傷付け、最悪……『その命を奪って有り余る』ほどの脅威を秘めていることを』

 

 

 

 それは──錯覚であることに間違いはないだろう。

 しかし、13号が放ったその言葉は、明確な重量を持って弱冠15歳の少年少女たちの肩にのし掛かった。

 

 

『わかりやすい例えがこの僕です。僕の個性は『ブラックホール』……あらゆるものを吸い取り、塵に変えることができます。その個性を活かして主に災害現場など、人命救助をメインに活動をしていますが……この個性(チカラ)を人に直接向ければ、大勢の命を短時間で奪うことができます』

 

 

 指先を向けて、個性を発動するだけ。それだけで、最低射程数十メートルだ。この場で唯一それに抗える者がいるとすれば、おそらく相澤だけだろう。空中を高速で移動できる術を持つ天魔でも、ギリギリ逃げられるか否かだ。

 

 

『これからの三年間。君たちは心身と個性を鍛え、強くなっていくことでしょう。ですが同時に、自分たちの持つ『力の怖さ』を忘れないでください。

 

 そして、その上で──』

 

 

 

 伝えたい。危険な個性だからこそ、かつて孤独であった自分の経験を。

 

 誇りたい。それでも腐らず……何度挫折しても、この道を違えず歩んできた自分を。

 

 

 教えたい。『誰でも誰かを救える、ヒーローになれるんだよ』と、自らをその確固たる証拠として。

 

 

 

『一つでもいい、欠片でもいい。ここで学んでいってください。誰かを守る術を、誰かを助ける術を。そして、誰かを救う術を。ここで学んだそれらは、君たちがいずれヒーローとなった時、黄金以上に光り輝く財産に変わります。

 いつか来る未来で、守れた笑顔。助けられた命。救えた未来を。どうか、今の君たちが掴み取ってください。

 

 ──以上! うるさい先輩からのお節介助言、ご静聴ありがとうございました!』

 

 

 最後の一礼を見届けた一同は、13号の話の途中から溜まりに溜まった心の熱を盛大に爆発させた。それは拍手であり、雄叫びである。

 

 例外は熱意を燃やして爛々と目を光らせる爆豪と、静かに目を閉じて余韻に浸る天魔と相澤くらいだろう。

 

 

 

 生徒たちの意気は高い。このまま訓練に移れば、身の入った有意義な時間になるだろう。そう判断した相澤が、号令のために声をあげる。

 

 

 

「それじゃあ気合も入ったところで、各グループに……」

 

 

 

 

 その言葉は……唐突に前を通過した黒い魔女に遮られる。

 

 

 『嫌な予感』というものを、誰もが一度は経験したことがあるはずだ。

 

 科学的根拠を始め、明確な証明など一切できないそれを信じるか否かは、その者のそれまで人生での『的中精度』や『経験』によるだろう。

 

 ならば……。

 

 

「相澤先生、13号先生。救助訓練は……後日になりそうです」

 

 

 

 年間にして約1000件以上。その的中精度、百発百中(むしろ外れてほしい)を誇る彼の、迷うことない断言に向けられる信頼性は、一体如何程のものだろうか。

 

 

 

「……警戒を! ヴィランです!」

 

 

 プロヒーローがその言葉に臨戦態勢になった直後。一同の前方にある広場を、真っ黒な霧が覆い尽くした。

 

 

 




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