魔女のヒーローアカデミア   作:陽紅

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ハーメルンの機能が色々追加されているようなので試験的に取り入れてみました。


MP1 入試試験の裏側で

 

 

 きんぐくりむぞん!

 

 ……マイク先生。いきなり『読め!』って言われましたから読みましたけど、これなんですか? 王紅……果物の銘柄かなにかですか?

 

 

 あと、なんでそんなにボロボロなんですか? え……リカバリーガール待ち? 今相澤先生が見てもらってるって……喧嘩でもしたんですか?

 

 

 

***

 

 

 

 ――八ヶ月。

 その時間が長いか短いかは人それぞれ異なるだろうが、濃密な内容を熟せば、基本あっという間に過ぎ去っていくだろう。

 

 一月一月を思い返す度に、遠い目と乾いた笑みを浮かべるほどの時間が、果たして『濃密』程度で済ませて良いのかどうかは定かではないが。

 

 

 

 

 

 

「一週間後の入試試験に参加……? え、私そこからやり直さなきゃいけないんですか?」

 

「ああ、違う違う。参加とは言っても受験生としてじゃあないよ。今のアンタが受験生に紛れ込んだら、本来の合格者が根こそぎ落ちちまうじゃないかい」

 

 

 言い方が酷い……と肩を落とすのは、最近雄英高校でもちょっとした話題になっている準生徒であった。

 

 美しい漆黒の髪は長く、後頭部に拳大の団子を作りながら太腿の半ばまで届いている。風に揺れればサラサラと靡き、櫛を通しても決して止まることはないだろう。

 黒曜の瞳は憂いと潤みを湛え、長い睫毛は艶めかしく。そして肌はきめ細かく、それこそ誰もが手を伸ばし触れたがるだろう。

 

 

 『美』を求める女たちが望むモノが、完璧な形で調和していた。

 

 

 ――『生まれる性別絶対に間違えてる』

 ――『男の娘の超進化系』

 ――『唯一勝てるのは胸の大きさ』

 ――『総受(意味深)』

 

 

 などなどなど。それを聞くたびに膝と手を突いて見事な『orz』を体現し、しかし不屈の魂で立ち上がってきた強者である。

 ……ならばせめて男らしい身体つきを、と結構ハードな筋力トレーニングを敢行し……クビレがより艶めかしくなっただけで再び『orz』。ミッドナイトが女として嫉妬すればいいのか教師として慰めればいいのか切実に悩んでいたのは余談でいいだろう。

 

 

「あの寝袋ミノムシや他の教師じゃなくて『保健医』のアタシがこの話持ってきたんだ。大体わかるだろう?」

 

「ええ、まあ……負傷した受験生の治療、ですよね? でもリカバリーガールがいるなら、それこそ必要なさそうな……」

 

 

 尤もな指摘に、しかしリカバリーガールは首を横に振る。

 

 

「実技試験に関しては雄英も可能な限りの対策はしてるけどね、やっぱり戦闘前提の試験さ――完全な対策は土台無理って話だよ。

 それに、受験生にとっちゃ今後の人生を決める大きな分岐点だ。大体毎年、しなくていい無茶やしちゃいけない無理をしちまう学生が数十から数百……ってね」

 

 

 そう言われ、昨年のことを思い出す。骨折やら裂傷やら、数十人が決して浅くはない怪我をしていた。

 

 

「そこで、アンタの出番さ」

 

 

 倍率300倍は伊達ではない。ヒーロー科は2クラス、約40席。単純計算でその一席を12000人が狙うのだ。競争は熾烈を極めるだろう。

 特に筆記試験で手応えのなかった者は、余計我武者羅に高評価を得ようと無茶をするのだとリカバリーガールはため息を零す。

 

 

「アンタには、受験生の中に紛れ込んでもらって『そういう無茶』をする生徒のサポートをしてほしいんだよ。

 試験終了後にはアタシも勿論出張るけど、流石にもう歳だから、あの無駄に広い試験会場は走り回れんさね。その点、アンタは空飛んだり瓦礫持ち上げたり色々できるだろう? 搬送ロボや救助ロボが行って戻ってくるより、ずっと手取り早い」

 

 

 歯に衣着せぬ物言いに苦笑を浮かべる天魔を見ながら、リカバリーガールはこの一年を思い返していた。

 

 

 留年判定を受け、高校内の色々な施設に入り浸り、様々な教師たちにマンツーマンでしごかれる毎日。

 少年が面白いように成長していくので教師共が加減を忘れ、割とガチな大怪我をしてリカバリーガールの元へ緊急搬送されてきたのは……いまから大体半年くらい前だったか。

 

 その時に回復魔法という個性応用が発動され、割とガチな大怪我から軽い大怪我にランクダウン。見事リカバリーガールも特別講師に名を連ねることになったのだ。

 

 

 ……全ヒーロー科教員(校長含む)を校門前に正座させて、二時間ほど説教したのはまだ記憶に新しい。それ以降『雄英の影の首領(ドン)』と要らぬ二つ名がついてしまったのは余談だろう。

 

 

 

(しかしまあ……難儀な個性さね)

 

 

 中国で発現した『全身が光る赤ん坊』。それを発端に世界へ瞬く間に広がった超常の力。それはここ日本でも例外ではなく、長い月日の中で多様な個性が報告されている。現在に至っては全人口の八割弱がなんらかの個性を持っているほどだ。

 

 その中で、リカバリーガールはおばあちゃんと言ってもおかしくない年齢であり、さらに『治癒』という個性から、普通の者よりもずっと多くの人と関わってきた。

 

 

 地形を軽く変えるような強力な個性から、そよ風を起こすのが精一杯な個性。体に動物や昆虫、神話上の生物の特徴を発現させる個性などなど、一つ一つ思い出していては数週間はかかるだろうくらいには関わってきた。

 

 

 そのリカバリーガールが、重いため息をついてしまうほど『難儀な個性』。

 

 そんな個性の持ち主が、この隣を歩くどう見ても傾国の美女にしか見えない少年なのだ。

 

 

「……?」

 

 

 だと言うのに、当の本人は平然けろりと日々を過ごしている。

 

 

 

 ……だからこそ、余計に気にかけてしまうのだろう。

 

 彼の人生が、あまりにも熾烈極まりないものだったが故に。

 

 

 

 万能な強個性。それを殺して有り余るデメリットとでもいうべき不幸集中体質。

 

 ……生みの親は愛する我が子を守ろうと……する素振りも見せずに海外へ失踪した。

 

 その後数年間、日本中の孤児院を転々としている。長くても半月――短ければ、わずか三日で移らされていたという記録が残っている。

 「200を超えてから数えてませんよ」と本人は軽く笑っていたが、聞いた側は苦笑すらできなかった。

 

 さらに、強個性とその美しい容姿も相まって、人攫いや人身売買の組織に狙われたことも一度や二度ではない。

 

 

 

(よく擦れもしないで、これだけ真っ直ぐに育ったもんだよ)

 

 

 

 ――16歳。

 

 多感な時期で、反抗期になっていてもなんらおかしくはない年齢だ。

 

 しかも、親に捨てられ、社会からも爪弾き同然の仕打ちを受けて、大人たちの理不尽な悪意に晒されてきたのだ。にも関わらず、それでもなおヒーローを目指そうとしている。

 

 

 ……基本お人好しなヒーローが教員になっているのである。親身になりまくるのも、まあ致し方ないだろう。

 

 

 

 

 

 ……その上、と。顔色を若干青くしながら数年前を思い出す。

 

 多くのプロヒーロー、及び業界関係者を卒業生にもつ名門、雄英高校。世界的に有名な現No1ヒーロー、オールマイトの母校でもある。

 

 その輝かしい歴史の中で真逆――『最たる悪童』と呼ばれた、一人の女生徒。

 

 

 現役プロヒーロー『クリムゾンローズ』

 

 『薔薇』を個性としながら、硝煙と紫煙と血の匂いをばら撒くヒーロー界随一の戦争屋。「個性を大っぴらに使えるから」という理由でプロヒーローの資格を取り、フリーのヒーローとして敵を蹴散らすアングラ系ヒーローだ。

 

 そんな彼女の古巣であり、そして卒業後の支配下である『月見園』の出身者。

 

 一般では受け入れられない孤児を一手に引き取る孤児院、と言えば聞こえはいいかもしれないが、彼女が在学中に巻き起こした騒動を知るリカバリーガールがそれを鵜呑みにできるわけがない。

 

 

「……どうしてそんな人生でこんなマトモに育ったのかねぇ」

 

「……どうしていきなり人生否定されたんですかねぇ」

 

 

 シミジミ語る老婆にシミジミ返す魔女。リカバリーガールの呟きはいきなりだが、もう何度ものことなのでいいかげん慣れていた。原因もわかっている上に納得もしている。

 

 『上の兄姉がヤンチャやりまくってた学校に弟妹が入って微妙な空気』の重症版である。教員も基本的に雄英高校のOBやOGなので、ある意味で他人事じゃあないのだ。

 

 

 

「――とりあえず、入試試験の参加に関しては了解しました。あ、コスチュームとかの使用は?」

 

「使えるわけがないだろう。受験生に紛れ込むんだよ? どこにサポート会社が本気で作ったコスチュームを持ち込んでくる受験生がいるってんだい」

 

 

 ですよねー、と軽く返し、しかし思考を早める。

 

 猶予は一週間……頑張れば間に合う、と結論を出した天魔は、今日のノルマに向かうのであった。

 

 

 

 


 

 

 

「hahahahaha! 私がー……っ、畏まりつつ来た!

 

 あ……失礼しました。私、新年度から教鞭をとる事になりました、オールマイトと申します。教育者として至らぬ点ばかりでしょうが、精一杯勤めたいと思いますので、御指導御鞭撻のほどをよろしくお願いいたします」

 

 

 そしてやってきた試験当日。受験生が筆記試験会場で神経を尖らせている中で、ヒーロー科教師陣は最終準備を終えてその時を静かに待つ――

 

 

 

 

「……あ、あの、すみません。私は先生じゃなくて、生徒です」

 

「……え?」

 

 

 ……はずだった。

 

 

 身長220cmの筋肉の巨人が、腰を九十度近く曲げて礼。

 

 その先にいたのは、近代的なサブカルチャーのそれではなく、古来の伝承に描かれていそうな重厚な黒のローブを纏った早乙女 天魔であった。

 

 

「……オールマイト? 君、僕の話を聞いてなかったのかい? 説明したよね、『試験中に治療関係で協力してもらう生徒がいるよ!』って。彼がその早乙女 天魔くんだよ」

 

「す、すみません! いえ、勿論聞いていましたし覚えてもいましたが、その、随分大人びていたもので、若手の先生かと! ん……彼? いや、彼女ではないのですか……?」

 

 

 

 ――ドサッ。

 

 

 

「ああっ、さ、早乙女が鬱に!」

「気を確かに! 自分をしっかり持つんだ早乙女君!」

 

「……No1ヒーローに、女子扱い……? つまり、女子として、全国認定されちゃった……? ふふ、ふふふ、あはは……」

 

「マズイゾ重症ダ! リカバリーガール! リカバリーガールハドコダ!?」

 

「オールマイト! この子を女の子扱いはガチでNGなのよ!? はい、リピートアフターミー! 『早乙女天魔は男の娘』!」

「い、イエス、マム! 早乙女天魔は男の子!」

 

 

「なあイレイザー……ミッドナイトの言い方にそこはかとない違和感を感じんのは俺だけかYO?」

 

「気にすんな。気のせいだ。……初対面で紹介無し、しかもあの格好なら誰でも間違えるだろ」

 

 

 ちなみに、彼がコスチューム作成の際に要望書に書いたのは『露出は最低限・体のラインが出ないように』だけ。

 

 後は、3Dスキャンで測った大まかな体型と顔写真だけ。デザイナーはその難題に逆にやる気を滾らせた。そして、そのデザイナーは大の少女漫画愛好家であったのだ。

 あとはもうお分かりだろう。性別をガン無視したデザインは、見事に『少女漫画に出てきそうな麗しき黒の魔女』を作り上げたのである。

 

 体のラインを隠すための豊富な布量は、しかし高い位置にある腰の上で幾重にも巻かれたベルトがクビレを作り、全身の細さとしなやかさを見るものに妄想させる。

 肌色が見えるのは広い袖の中からギリギリ見える指先と、首から上で、要望はしっかりと守られているが……チラリと見えた鎖骨に親指を立てたミッドナイト曰く『敢えて見せない事で逆にエロスが溢れている』とのこと。デキる女の上級テクニックらしい。それを聞いて天魔はまた鬱った。

 

 

(……これが見た目だけだったなら、要望を密に書いて交換すればいい話なんだろうけどな)

 

 

 残念ながらその黒魔女のローブ、見た目以上に性能がいいのだ。

 

 対◯◯な耐久性の糸を幾重にも幾重にも複雑に編み込んだ布は、デザイナーの個性と屈指の織布技術で滑らかな上質な絹を思わせるほどの手触りと上品さを実現した。

 性能に比例して製作費がとんでもねぇことになったが、幸か不幸か、デザイナーが所属する会社の社長も少女漫画愛好家だったのでゴーサインが発令。一着で最上級のお着物が購入できるヒーローコスチュームが完成したのである。

 

 

(……値段聞いた後の早乙女の回避能力が格段に上がったからな。一概に不合理とも言えん)

 

 

 「早乙女天魔は男の子っ!」「早乙女天魔は男の子! Hey!」と手を叩きながらコールし始めた教師一同を白い目で見つつ、ノリ出したマイクの背中に一撃を入れる。

 

 

「暴力反対ぃ!」

 

「そろそろ実技試験の説明だろうが。お前はさっさと会場行け。

 ――早乙女も『認めろ』とは言わないが、もういい加減慣れろ。個性に『女』が付く異形系である以上、外見で女性と判断されるのはしょうがねぇだろうが」

 

「不意打ちは、まだちょっとキツイです……」

 

「『Plus Ultra』だ。乗り越えろ。あと、お前もそろそろ準備しておけ。

 ――オールマイト。実技試験は相当慌ただしくなります。数百人いる受験生一人一人の行動を精査していくわけですから。……和気藹々は、試験終了後にお願いします」

 

「は、はいっすみませんでした!」

 

 

 ズバズバと気持ちがいいほどに言葉のメスが切り込まれ、場に程よい緊張感が出てくる。

 

 そして相澤はチラリと視線を根津に送り……察した校長は満足そうに頷いた。

 

 

「それじゃあ皆、各自持ち場についてくれ! 未来のヒーローたちを、しっかりと見極めようじゃないか!」

 

 

 

 

 

 

 

「ところでイレイザー。早乙女くんだけど、コスチュームは良かったのかしら」

 

「本人曰く、『まず問題ない』そうです。一週間もありましたから、何かしら()()したんでしょう。あいつは不確かなことなら言いませんから、問題はないはずです」

 

(つまり……とくに確認しないで許可したってことよね? 教師と生徒の揺らがぬ信頼関係……っ! こういうのもいいわ好み!)




読了ありがとうございました!

ヒロインアンケート改 深く考えずに直感で

  • A組女子
  • B組女子
  • ヒーロー科じゃない女子
  • 前提が違う。天魔がヒロインで皆ヒーロー
  • 八木先生(ネタですヨ?)
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