魔女のヒーローアカデミア   作:陽紅

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MP18 それでもなお

 

 

 

「あんのクソ靄がぁ!」

 

「お、落ち着け爆豪ぉ! 爆破すんなってほら見ろお前のせいで火事起きて……いや、なんかおかし──あ、ここまだUSJか!? 火災現場的なやつか!?」

 

「うるせぇぞクソ髪! わかりきった事いちいち抜かすな! さっさと雑魚どもぶっ殺してあのクソ靄共もブッ殺ぉす!!」

 

 

「……あれ、ここに飛んでくんの雄英の生徒って話だよな。あれ、どう見てもヴィラン(こっち)側じゃね……?」

 

「あ"あ"!? んだこら文句あんのかクソカスチンピラヴィランが! 群れてねぇとなんにもできねぇクソどもがいい気になってんじゃねぇぞおらぁ!」

 

「「「お前ほんとにヒーロー科なの!?」」」

 

「……。あ、やっべぇ。今ちょっとヴィランと意見合っちまった」

 

 

 

 

─*─

 

 

 

「ここは、岩場……いや、山かな?」

 

「上を見てください耳郎さん。あのドーム状の屋根、おそらくまだUSJの中ですわ。戦力分散……そしてこの後考えられるとしたら……」

 

 

「ちょお、待った! いま掠った! 何で俺一人……ああああ!! よかった味方いたしかも女子二人!」

 

「……おーけー、状況最悪なのは理解できたわ。頼れるのは八百万さんだけってことか」

 

「辛辣ぅ!? いや、俺も頼っ……いや、まあ、うん」

 

 

 

─*─

 

 

 

「俺は一人か。……見た感じ、山崩れ……土砂崩れか? まあいい。で、お前らが俺の相手ってことでいいんだな?」

 

 

(……私もいるよ! って言い出せない雰囲気だコレ。どうしよ)

 

 

 

─*─

 

 

 

「嵐……災害再現の場か? ここに飛ばされたのは、俺と口田だけか」

 

『オレモイルゼ!』

 

「……。!?」

 

「ふん。招かれざる客か……どうやらやるしかないようだ。行くぞダークシャドウ!」

 

 

 

─*─

 

 

 

「くそ、一人一人はそこまで大したことないけど数が多い……! 他の皆も一人だとしたら、結構キツイんじゃないのかこれ」

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 そして、水難災害。

 

 巨大な湖の中、一隻のクルーザーがポツンと浮いている。恐らくは、『エンジントラブルで航行不能になった船』というシチュエーションなのだろう。

 

 

「……ここに飛ばされたのは、僕と峰田くんと、つ、ツユチャンの三人みたいダネ」

 

「自分のペースでいいわよ緑谷ちゃん。……他の皆も心配だけど、まず私たちが自分たちのこの状況をどうにかしないといけないみたいね」

 

「ど、どうにかって……いや、ここは助けを待つべきだろ! 少し待ってりゃ、ほら、校舎の先生も気付くだろうし!」

 

 

 峰田が焦りながら言った言葉に、しかし二人は表情を固くする。

 ……希望的観測が過ぎる。確かにそうなってほしいが、現状そうならない場合の可能性の方が高い。助けを待つにしても、最低限この状況を打破しなければならないだろう。

 

 

「けろ。私もそうなってほしいけど、正直期待できないわ。私たちを狙っているあのヴィランたちが、その『少し』を待ってくれるとは思えないもの」

 

(出来れば、早乙女さんの教えてくれたイメージでワンフォーオールがどれくらい扱えるのか。一回でいいから試しておきたかった……!

 

  でも、やるしかない……この土壇場で、最低限の制御を……!)

 

 

 

 船の周り……水中に潜むヴィランを警戒しながら、出久は思い出していた。

 

 個性を使うときのイメージ。本来、個性は幼少時に発現するため、理屈や原理の一切を無視して感覚で個性を使用する。鳥が飛ぶ際に浮力やら空気抵抗や羽の構造などを意識することがないように、『こうすれば使える』と感覚で覚えるのだ。

 

 

 だが、出久はその前提条件からして違う。

 

 

 だからこそ、『電子レンジで生卵を割れないように温める』という、いろいろとツッコミどころのあるイメージをしてしまった。

 尤も、提供元である某No1ヒーローも『ケツの穴をギュッと──以下略』という、何言ってんのアンタ? なイメージなので、ある意味で師弟揃って似た者同士なのだが。

 

 

 

 ──いいですか? まず、基本的に卵を電子レンジに入れちゃいけません。爆発します。そして庫内に凄い卵の臭いがこびり付いて大変なことになります。絶対にやめてください。お願いしますから。

 

 

 人差し指を立てつつ、苦笑とともにそんな注意。やたらと真面目(遠い目でも可)に言っていたので、恐らく被害を受けたことがあるのだろう。

 

 

 そして、そのまま連れて行かれたのは……校内の、どこにでもある水場。

 

 そこで小さな……それこそ、手のひらに収まるくらいに小さなガラスの器を渡されて……『この器が貴方です』と。

 

 

 

(水の勢いが、個性──ワンフォーオールの力。そして、脆いガラスの小さな器が、僕の許容限界……!)

 

 

 全開にされた蛇口から勢いよく放出された水は、器に溜まるどころか盛大に跳ねて周りを水浸しにし……そして、勢いに負けて手から転がった器は、床に落ちて、あっけなく割れてしまった。

 天魔がサッと水を乾かして何事もなく、器も直して元通り──正しく、今の出久の現状を再現していた。

 

 

 

 目から鱗とはまさにこのこと。そのイメージはストンと出久の中に収まり、急速にイメージを固めて行く。

 

 

 器を大きく、頑丈にしていくのは……一朝一夕では難しい。だが、水道の蛇口を捻るのは簡単だ。少なくとも、レンジの電圧や時間で卵が爆発しないギリギリを求めるよりは、ずっと遥かに。

 

 何度も出したり止めたりを延々と、それこそ十分以上繰り返した出久を『流石に水が勿体無い』と天魔が止めたのは余談として。

 

 

(イメージするんだ……大きな、巨大な蛇口を、それを少しずつ解放して……小さな器をゆっくり満せ……!)

 

 

 

 ぶっつけ本番。本当なら褒められたことではないのだろうが……。

 

 

「けろ。……緑谷ちゃん、それ……!」

 

「お、おいおい、いきなり暴発させる気かよ! 待てって早まんな──あれ?」

 

 

 

 時間をかけて集中しなければならない。

 

 一瞬でも緩めたら暴発しそうになる。

 

 

 それだけやって、やっと──右腕の肘から先の一部でしかないが……。

 

 

「……でき、た……!」

 

 

 淡く光り、時折緑色の静電気のようなものが走る力の具現。

 

 強大かつ圧倒的な力の、極々わずかな片鱗だが……それでも、ぶっつけ本番で得たそれは、出久にとって大きな大きな一歩であった。

 

 

 

「(これなら……!)峰田くん! 蛙吹さん! 僕に考えがある! 二人の力貸してほしいんだ!」

 

 

 

***

 

 

 

「っ!」

 

 

 

 咄嗟。あともう少しで処置が終わる13号を跨ぎ、跳んでくる体に向かってこちらからも跳ぶ。

 

 ……一目で受け身が取れる状態じゃないと分かった上に、もう一度地面をバウンドしようものなら、それだけで命を落としてしまうとわかったからだ。

 

 

 ──受け止める。成人男性一人分。意識のない肉体は、重量の数値以上の重さでのし掛かった。

 

 

 

「相澤先生!」

 

 

 右腕は全壊。手首・肘・肩……あと少しの衝撃で、どこからでも捥げてしまいそうだ。そして、恐らく右腕で庇っただろう顔の右側も輪郭がおかしい。頭蓋は当然として、脳へのダメージも十分に考えられる。

 

 ──迅速かつ、適切な処置をしなければならない。

 

 

 それを成しただろう元凶は……無造作に振り抜いただろう腕をそのままに、無感動・無表情な目をこちらに向けている。腕には無残に破れた捕縛布が巻き付いている。【抹消】を受けていたことを考えれば……『個性無しで肉体強化個性持ちを上回る膂力を持っている』ということだろう。

 

 ──迅速かつ、的確な対応をしなければならない。

 

 

 

 一人で両立は不可能。しかし、自分以外に処置も対応もできそうにない。

 

 躊躇は……なかった。

 

 

「……『分身』」

 

 

 天魔の体が、二つに分かれる。相澤を受け止めた天魔が、新しく現れた自身の分身体にその身を預けた。

 

 

「──行きます」

『……わかりました。こっちは、任せてください。』

 

 

 分身体の方が両手に淡い緑色の光を灯し、意識のない相澤の頭部に集中させる。

 

 それを確認し、本体である天魔は前へと飛んだ。

 

 

「……早乙女が二人、この前飯田たちが言っていた分身か。それより……!」

 

 

 障子が周囲を触腕の先端に作った目で索敵しながら……自身の目で相澤を見る。横になっている体は、意識はおろか、呼吸さえ怪しかった。

 

 嫌な予感が、体の奥の方でゾッと、冷たい重りとなって体を苛む。

 

 

『……大丈夫。心臓は動いています。傷は派手ですが出血も少ないですし……流石というか、ギリギリのところで打点をずらして脳へのダメージを逃してます。その代わり、頭蓋骨がかなり複雑化しちゃってますけど』

 

 

 冗談のような言葉を、汗の滲む真剣な顔で告げる。脳は無事だが、眼球まわりの頭蓋がバラバラだ。視神経もろもろの治療がギリギリ間に合うかどうかだ。相澤の個性は見ることで発動するので眼球や視力に後遺症が残れば、ヒーロー生命が断たれてしまう。

 

 

『──指示を、変えます。相澤先生の応急手当てが終わり次第、麗日さんは私以外の全員に個性を使ってください。瀬呂さんはテープで全員を固定。私が飛んで牽引、ここから一気に離脱します』

 

「ほ、ほかのみんなは!? まだ、USJに残ってるかもしれないんだよね……?」

 

『無事を祈るしかありません。……残念ながら、一番危険なのが私たちです。あの黒靄も、大男も、それに手沢山もですか。一人一人がプロの方々がチームで対応するレベルです。

 ヴィラン連合──でしたか。彼らの目的がオールマイト先生の殺害だとしたら……私たちが人質になるような状況は、絶対に避けなければいけません』

 

 

 

 ……だから、どうか。

 

 頑張ってください、私。 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

(強化魔法による『筋力』『骨格』『表皮』の強化……)

 

 

 肉体的な強化。その強化倍率は、他者に施すソレとは比較しようもないほどに高く──それぞれが個性で特化できる砂藤や切島を軽々と越えていくだろう。短時間であれば現役ヒーローのランキング上位陣に食い込むことも可能だ。

 

 

(でも、それだけじゃ……足りませんね)

 

 

 空を駆けていく。速度はさらにさらにと上がっていき、彼我の距離は瞬く間に埋まっていく。……その中で、天魔は自身の手札の不足感を抱かざるを得なかった。

 

 

 相澤の負傷──あれはおそらく『一撃で負わされたモノ』だろう。現に、防御に使った右腕と狙われた顔面右側以外にほとんど負傷が見られなかった。

 彼ほどのヒーローが油断していたとは思えず、それどころか警戒すらしていたはずだ。

 

 ならば……。

 

 

(『意識を超えた速度で接近して攻撃された』……あの巨体で、速度技量特化の相澤先生を。考えたくもないですが)

 

 

 

 反射神経、動体視力……思考速度。さらには状況に応じて最適解を選択できる瞬間判断能力など、天魔と相澤では経験差に比例した、かなりの差がある。それをどうにか補えなければ、いくら身体能力を強化したところで相澤の二の舞になることは、火を見るよりも明らかだ。

 

 

 

 ──そして、天魔にはそれを補う手段が──……

 

 

 

 

 

 

 

(……あるん、ですよねぇ)

 

 

 

 

 それも、思い付きではない。ぶっつけ本番でもない。

 

 練習として何度かこなし、十分な成果も効果も出している。現状における最適解だと胸を張って言える。言える、のだが……問題は──分身状態で行ったことがないのだ。

 

 

 というよりも……入試試験以降、分身状態で魔法を使ったことがないのである。

 

 もはやトラウマと言っていいレベルの忌避感。唯一の救いは分身を解くまであの頭痛は来ないので、戦闘中に痛みで戦えなくなることはないのだが……それも大した気休めにしかならないだろう。

 

 

 

「……それでも、やるしかない」

 

 

 

 込み上げそうになる何かを気合いで押し込め、牽制の魔法。

 

 地面が隆起し、巨大な岩の槍が巨体へ突き進む。

 

 膨れ上がった筋肉が迎撃し、岩槍は呆気なく破壊されるが……細工により広く砂塵が生じた。

 

 

 

「──『全力強化/全項目(エンチャント・フルバースト)』」

 

 

 

 筋力・骨格・表皮。

 

 内臓耐久性・血管強度・呼吸器性能。

 

 

 現在天魔が行える、肉体の限界ギリギリ一歩手前の強化。三日は筋肉痛で苦しむだろう。頭痛も合わせれば億劫なことこの上ない。

 

 そして、その強化を()()とし──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──『時限加速(タイムアルター)』/『二倍加速(ダブルアクセル)』……ッ!」

 

 

 

 世界から色が消える。

 

 黒白の濃淡で縁取られた視界の中で……黒き魔女は、音速へ迫った。

 

 

 




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