『なんでもあり』でも、さすがにこの展開は読めませんでした……
「はい♪ というわけでやって参りました『雄英高校第27個性訓練場』! ちなみに隣は第15で逆隣は第8です。良い加減整理し直した方がいいんじゃないかと思っているんですが、長年の増改築の繰り返しと、時折いる高火力の個性の方が『ヒャッハー』して訓練場が吹っ飛んだりして欠番だったり修理中だったりで、整理する暇がないそうです!」
「あ、あの……早乙女さん?」
「私も慣れるまで結構かかりました! 訓練場の使用申請をして場所指定されて、いざ行こうと思ったら迷子になるんです。何回かたどり着けずに利用時間過ぎちゃいました。校内案内板には番号振られてませんから、皆さんもその辺は注意してくださいね♪」
一般的な小中学校にある体育館と同程度の広さの空間。地面は板張りではなく、コンクリートが打ちっ放しとなっている。そのせいで転べば結構痛そうで、さらに慣れない内に動きまわれば足首や膝に中々な負担がかかるだろう。
いつもより若干テンション高めな魔女──早乙女 天魔(雄英ジャージver)は、そんな説明と注意事項を一通り済まし……『目の前の五人のメンバー』を嬉しそうに眺める。
……自分が訓練場を使う場合は基本的に一人か、もしくは相澤とのマンツーマンだ。そこに時折手の空いている(空けた)他のヒーロー教員が加わることはあるが、それでも三人なので極めて少人数である。
個性の関係上、個人で広い空間も使わなければならない時もあり……わかってはいるのだが、その寂寥感に押しつぶされそうになったりするのだ。
だからこそ、『誰かと一緒に訓練できる』というこの状況が、とても嬉しかった。
「さて──それでは、以前からお話していた通り、緑谷さんの個性訓練を始めたいと思います」
「は、はい! よろしくお願いします!」
「まず色々と説明を──していく、前に」
やや緊張気味の緑谷に苦笑し、その苦笑のまま、視線を横へ。
そこには、二人と同じように体操服に着替えた、梅雨・お茶子・常闇・百の四人がいた。
「えっと、その……参加する気満々の皆さんには大変申し訳ないんですが、設備を使えるのは私と緑谷さんだけですよ……?」
天魔が事前に提出していた『施設使用申請書』。使用人数とその名前、そして主な訓練内容を明記し、その為に使用したい施設を第三候補まで希望する。
天魔が言ったように、今回施設を利用できるのは申請書に名前のある二人だけである。それ以外の飛び入り参加は原則認められず、無理を通そうとすれば申請無効の上に注意される可能性すらあるのだ。
学生からすると『融通が利かない』と嫌気が差すかもしれないだろうが……自主性と安全性を考慮した結果である。
「けろ、大丈夫よ。最初から見学のつもり。着替えたのは、制服のままだと二人の気がそれちゃうと思ったの」
「うむ。我らは見学だ──賢しき魔女の采配……闇に属するものとして、実に興味がある故に」
そう返す梅雨と常闇。若干の落胆が見られるので、『もしかしたら』くらいには期待していたのだろう。それでも、見るだけでも十分に訓練になると判断したらしい。
「「…………////////」」
(麗日さんと八百万さんは……そっと、しておいてあげたほうがよさそうですね)
反面──顔を赤くして目が泳ぎまくっている女子二人は、ガッツリとやる気だったようである。
幸いにも集まった面々が『気遣いができる』or『見て見ぬ振りができる』生徒だけだったので、追い打ちはまず無いだろう。
ちなみに。
本日の昼休みに、天魔はお茶子に対して『全力肩入れ宣言』しているわけだが、流石にその日の放課後からいきなり開始できるわけがなく、さらにはお茶子に対して『個性の詳細を聞いてから始めますので』としっかり伝えている。
(『ちょっと我を忘れるくらい嬉しかった』っていうのなら、嬉しいですね)
さて、と呼吸を一つ置いて、意識を切り替える。
訓練場に来る途中で聞いた、緑谷からの『朗報』の意味を再度吟味する。もし、それが事実ならば──……。
「それじゃあ緑谷さん。もう一度確認のためお聞きますが……『個性の制御に成功した』んですね?」
「あ、は、はい! 一昨日の襲撃の時に……たった一回だけなんですけど、それでも意識して制御できました! その、早乙女さんが教えてくれたイメージが凄い嵌って……」
「けろ。それなら私も一緒にいたわ。凄い威力だったけど、特に怪我はしてなかったわね」
湖面をぶん殴り、弾け飛んだ大量の水が一気に元に戻ろうとする。そこに峰田のモギモギを投下し、水中特化のヴィランたちを一網打尽にした──とのこと。梅雨の話にはなかったが、彼女の跳躍力で離脱できるからこその力技だろう。
それを聞いた天魔は、若干の
「ふむ……」
(一番厄介な問題は突破できましたが、だからこそ、ちょっと面倒ですね)
それは、優先順位の問題だ。
緑谷の場合は、兎に角『個性を使うことに慣れる』ことが最優先だった。個性の発現が入試前後という話なので実質半年も経っておらず、強大な力の制御が出来ずに暴発して自壊する──が、彼の問題点だった。
故に、当初の計画としては天魔による魔法の治療と痛覚の鈍化を用い、とにかく個性を使うことを体に覚えさせるつもりだった。
だが、彼は火事場の土壇場でそれを一発成功
「んー……」
もちろん、それは悪いことではない。むしろあの状況で成功させたことは、彼がヒーローとして『持っている』証拠と言えるだろう。
「──すみません。ちょっと……三分ほどください」
「へ? あ、はい。どう……ぞ!?」
緑谷の返事の途中で、天魔が六人に増える。そして顔を付き合わせるように円を組み、身振り手振りを交えた会議を始めた。
「……。なんと言うか、異様──な光景だな。魔女裁判ならぬ、魔女会議か」
「全員が早乙女さんであるのに、話し合う意味があるのでしょうか……いえ、意味がないことをする方ではないのでしょうけれど」
「こう、自分の中の天使と悪魔が喧嘩する感じ? のリアル版のゴージャスバージョンやね」
「そういえばこの前も食堂で分身していたけどその時も一人一人が別々の作業していたし言葉を交わしてやり取りもしていたっていうことは思考はそれぞれ独立している?だとしたら冗談でも比喩でもなく『一人で多角的な考察』ができるってことだしかも元々が一人だから方向性や目的は絶対にぶれないししかも前は八人まで分身していたはずだからまだ余裕があるってことでつまり『現場で求められる高度な判断』も行動しながら冷静に対処できるってことで」
「けろ。ねぇ緑谷ちゃん。あなた今そのノートどこから出したの? あとどこでもいいから呼吸を挟んだ方がいいわ。顔が青くなってきてるから」
急遽開催された六天魔会議は白熱……することもなく、しかし交わされる言葉が尽きて止まることもなく。意見を出し合い、考察を重ね、少しずつまとまり、形を明確にしていく。
そして、全員が同時に頷き、会議は終了。分身を解除しようとしているのか、五人の天魔が手を振ったりして別れを告げ──
「あ、そうだ」
「「「「「どうしました? 私」」」」」
(息ぴったり合い過ぎや……っ)
一人の天魔──おそらく本体と思われる天魔──が、ポンと手を叩く。それに応じた五人に、なにやらツボったお茶子が噴いた。
「このまま残って、麗日さんの訓練の方向性とか決めちゃいませんか? 放課後せっかく残ってもらったのに見学だけっていうのは勿体無いですし、それに、ほかの皆さんにもアドバイスくらいはできるかもしれません」
どうでしょう? と尋ねる本体に対し、五人の天魔も同じように手をポンと叩き……
「「「「「ナイスアイデア♪」」」」」
〜特別強化プログラム〜
「それじゃあ、緑谷さん。本当ならこの放課後の訓練は『個性の制御』が目的だったのですが、それができてしまったみたいなので、次の段階に進みます」
「まず目下の目標としては──『個性使用の速度を上げる』……です」
「聞いた感じだと『器が壊れないように慎重に水を出す』ことで制御が出来たようですが、正直五〜十秒はちょっとかかり過ぎです。特に、緑谷さんの現在の戦闘スタイルは格闘戦──その間棒立ちになるのは致命的です」
「目標は大きく『一秒を切る』──いや、そんな絶望的な顔しないでください。むしろ、本当なら個性を使う際にタイムラグなんてそもそも無いんですよ? 爆豪さんしかり、切島さんしかり。『使おうと思った瞬間には使えてる』んですから」
「はい♪ それじゃあ絶望的な顔がやる気に満ちたところで……とにかく『個性を発動させる』をなるべく時短を意識してやっていきましょう」
***
「…………」ソワソワオロオロ
訓練場の出入口。大きな扉に隠れるようにして覗き込むのは、『隠密行動が絶対に向いていない』ことでもNo1なトップヒーロー、オールマイトその人である。
明らかに挙動不審で訓練場の中をチラチラと覗き込む姿は、市街であれば通報一歩手前の怪しさ抜群だった。
(な、なるほど。個性の制御が上手くいった反面、制御のための時間がかかるのか。それを意識じゃなくて感覚レベルで制御するために……それに、今までの緑谷少年の場合『個性を使う=自爆』だったから、内心でどこかストッパーとか緊張とかしちゃってたかも……! 早乙女少年の治癒魔法なら万が一にも対応ができるもんね!)
驚き七割感心三割で天魔の説明を聞く。そして、次の光景を見て……驚きが十割を占めた。
緑谷が意識しているのは、おそらく利き手である右腕だろう。左手を右の手首に添え、集中しているのが見て取れる。
そして数秒ほどして、右腕の肩から先に薄らと緑色のスパークが走り、個性……【ワンフォーオール】が発動した。緑谷の表情は集中しているようだが苦痛は見られず、制御の成功を裏付けている。
思わずガッツポーズを──しようとしたその矢先。右腕は抑えられたまま何もせず……光は消え、元に戻ってしまった
(え、あれ? 打た、ない……? え?)
──「あ、あの……言われた通りにしましたけど……これってなにか意味があるんですか?」
──「ふふ、もちろん意味はありますよ。
まず、今の方法なら『いつでもどこでも練習ができる』という事……その確認ができました。緑谷さんの場合、発動速度ももちろんですが……同時に『個性に慣れる』こともかなり重要です。高校内と自宅、あと、本当はいけませんが、人目の付いていない場所でも訓練ができるようになりました」
細心に細心を重ねた注意が必要ですが、と付け加えて。
(そ、そこまで考えて……? あれ? 『まず』──?)
──「そ、そこまで考えて……? あれ? 『まず』──?」
師弟の脳内とセリフが見事に一致し、「まじかよ」という表情すら一致させて──どこか、小悪魔めいた微笑を浮かべる魔女を見た。
──「次……の次くらいですか。その段階での必要条件みたいなものがあったんですが……一緒に確認させてもらいました。さ、時間もあまりないので、続けましょうか」
そして──腕を光らせては消してを何度か。そして、実際に数度ほど打って、制御がちゃんとできているのかどうか。さらに、緑谷が編み出したデラウェア……指で弾く時にも制御できているのか、などなど。
時折制御が甘くなって失敗し、顔が苦痛に歪むが、その表情も五秒以上続く事はない。
無駄なく、無理なく。
飽きなく、焦りなく。
止まる事なく、順調そのもの。
「す、すご……っていうか、これ……もしかしなくても、私がやるより綿密で正確なベスト育成プラン組んでないかい早乙女少年」
『名選手が名監督になるとは限らない』
……残酷な話だが、この喩えが恐ろしいほどに当てはまるのがオールマイトなのである。擬音と感覚に支配された表現のオンパレードではどうしようもなかった。
さらに、本人が経験した特訓が『地獄の特訓。血反吐風味』かそれと似たり寄ったりの苦行だったので、『適度適切な鍛錬』というものを経験していないのもマイナスに働いている。
『自分がやるよりも……』──そこに物悲しさや遣る瀬無さがない……と言えば嘘だが、それを理由に緑谷 出久の成長を妨げては本末転倒である。彼にとって、それだけ『後継者の育成』は重要案件なのだ。
「……本当に、師弟揃って迷惑かけっぱなしだなぁ……」
苦笑する。
先日の、お昼の約束をすっぽかしてしまった事の謝罪も、『心配しました』というちょっとの苦言と『何事もなくてよかったです』の殆どの安堵で済まされてしまった。
諸々のお礼についても、あれやこれやと考えるが……情けないことに、どうしても金銭が絡む即物的なものしか出てこなくて、正直なにをどうすればいいのかわからなくなってしまった。
苦し紛れに直接聞いてみれば、『後遺症を完全になんとかできるようになったら考えます』と……確実に健康的になっているはずなのに、思わず頭を抱えてしまった。
(いっそのこと財産の半分とか、っていうかもう全額いっちゃう? だって内臓摘出の後遺症なんだから実質一生ものだし、もう大きな出費なんてほとんどないし、身内だっていないんだし)
そんな荒唐無稽な案を、十分以上本気で考えてしまうくらい、本気で悩んでいた。
「……ほんと、どうしたらいいんだろ」
──ええ、全くです。本当に、どうしたらいいんでしょうかね。この新米教師は──!!
地獄の底から発せられたような声が聞こえ、そして終わるより先に、捕縛布ミノムシ・オールマイト風が完成する。一切の抵抗ができずにゴロンと横に倒れたそのミノムシを、まるで忍者のように天井から降ってきた相澤が、絶対零度の視線で見下していた。
「……生徒がやるべきことをやっている中で、『教師としてやるべき仕事を放置している教師がいる』らしいんですが……その辺どう思いますか。オールマイト
「い、いや、これは! その……HAHAHA! 相澤君、すごいね! 私全然気付かなかっイダダダごめ、すみませっ!」
「……『今日中に』ってお願いしていた仕事は?」
「え、えっとぉ……は、半分……?」
……一応──もう、全面的にオールマイトが悪いのだが、一応だけ弁護しておこう。有罪は免れないが、執行猶予やら情状酌量の余地が……ある、かも。
クラス担当ではないオールマイトは、当然担任である相澤よりも早く放課後を迎える。その時間を利用して頼まれていた仕事をやっていたのだが……放課後になって訓練場の鍵を取りに来た天魔と緑谷を偶然見かけてしまったのだ。
半分ほど終わっていたので小休止も兼ねて……という言い訳もして、ストーキング開始。訓練場と職員室が離れていたこともあり……抜け時を見失ってしまったのである。
……生徒の、完全下校時刻に近い時間になるまで。
「……はあ……で、どうでした? 生徒たちは」
「……あ、うん。……正直、ちょっと舐めてたよ。『生徒の自主性』って、そんなレベルじゃないよね、あれは」
「でしょうね。まあ、アイツが殊更に特殊なんですよ。
魔女の魔法と一言に言いますが、実質、早乙女は複数の個性を持っているのとなんら変わりません。言うなれば『魔法を思いついた瞬間に個性が発現している』ようなもんです。それを十日足らずで実用レベルに持ってくるんですから……」
「弱点を見つけるのが早く、かつ、その改善点なんかもすぐ思い浮かぶ、と……」
吐息を一つ。相澤が向けた視線の先には、緑谷以外の四人が熱心に天魔の分身のアドバイスを聞き入り、八百万が創造した紙とペンで必死にメモを取っている光景だ。
特に、全力肩入れすると決めたお茶子と、ペンが動くたび、紙の枚数が増えるたび顔を輝かせていく八百万。……この二人はおそらく化けるだろう。
「……さて、生徒が頑張ってるんですからオールマイトも仕事はしてください。 ……っていうか、なんで
「その前に引きずらないでね! いや、反省はしてるヨ? ……その、早乙女少年のお陰で活動限界が延長されたんだけど、実際にどんなもんなのか確認しようかなって。あ、そうだ! 体重もちょっと戻ったんだぜ!」
「ちっ。引きずれないなら転がすか……」
「あ、わかった! 相澤君いまかなり怒ってるな!? いや怒らせた原因は私だけど! あれ……? ちょっとまって、こっちって確か階段……っ」
──転がったか否か。それは、ご想像にお任せします。
─おまけ─
「あら、オールマイト。物件探し? ……ってこれ全部新築の庭付き一戸建て!? うっわ、これなんか軽く億飛んでる……流石はNo1ヒーロー、お金持ってるわねぇ……」
「あ、これ? 私じゃなくて早乙女少年のお礼にどうかなって……やっぱり土地付きの方がいいかな?」
「……全員集合! オールマイトがご乱心よ!」
読了ありがとうございました!
次回、雄英体育祭まで一気にとびます。