魔女のヒーローアカデミア   作:陽紅

29 / 45
※ 今回、スマホ等で閲覧すると相澤先生・山田先生のやりとりで違和感のある部分がございます。


MP24 開会式

 

 

 

「カメラ、全機確認」

 

「一番、問題なし」「二番、大丈夫です」【〜中略〜】「十番、OKです」

 

「十一番も異常無し。了解です。全機オンラインを確認。続いてインカムのテストを、各自本体からの──」

 

 

 

「話聞けやゴラァ!?」

 

 

 ついに……ではなくともブチキレた爆豪による爆破。会場へ向かう狭い通路の中なので、かなり危険だ。

 それを物ともしない総勢十一人の天魔による一糸乱れぬ回避行動は、中々に見応えがあったそうな。

 

 

「「「「「ちょ、 危ないですよ爆豪さん! いくら雄英高校の備品とはいえ、このカメラも結構高価(たか)いんですよ!?」」」」」

 

「ンなこと知るかこのクソ男女! てめえ何トチ狂った行動してんだあ"あ"ん!? つか心配なのはカメラだけか!? いい度胸だテメェ!

 

 

 天魔の胸ぐらを掴もう……にも、どれが本体かわからない。

 

 そんな爆豪の発言に対して、しかし『なにを言っているのかわからない』とばかりに首を傾げ、天魔同士でアイコンタクトを取り合うが、やはりわからないので首を傾げ続けた。

 

 話が進まないと判断した切島が、おそらく爆豪が……そして全員が聞きたいだろうことを代表して問う。

 

 

「落ち着けって爆豪! えっと早乙女? お前、体育祭参加しない、ってことなのか。その格好」

 

「あ、そういう話ですか。ええ、選手としては参加しません。よほどのことがない限り、私は裏方に徹するつもりです」

 

「そんな……相澤先生も仰っていたではありませんか! 一年に一回しかないチャンスだと、それを棒に──……いえ、もしや、なにか理由がお有りなのですか?」

 

 

 不参加の何故、を問おうと百が詰める。緑谷同様、個性訓練においてアドバイスを貰い、手助けしてもらった恩を感じているのもあるが……純粋に彼の将来を案じての行動だ。

 雄英体育祭は全国規模、直接にしろ映像中継にしろ、見ない者は殆どいないと言っても過言ではない一大イベントである。それは当然現役のプロヒーローも同じであり、むしろプロだからこそ真剣に観戦するのだ。優秀であれば卒業時、その生徒をサイドキックとして迎えようと争奪戦が巻き起こる。その時の本腰具合の殆どが、在学中の体育祭で決まるのだ。

 

 

 その一回を不参加。体調不良というわけでもないのならば、理由があるはずだ……と。

 

 

 ──そこまで考えて、思い至る。

 

 

 高校の備品だというカメラを担ぎ、明らかに用意された『特別臨時広報部』という帯……何より、『自分勝手に動くような人ではない』という人物考察から。

 

 

 相澤……いや、雄英高校側は、すでに天魔の行動を認めているのだろう。むしろ……。

 

 

「──とりあえず、私たち。カメラで各入場門まで移動して下さい。A組の入場は私が撮りますから」

 

「はい、了解です」×10

 

 

 虚空からいつもの黒棒を取り出し、十人の魔女は通路を飛翔していく。残った、恐らく本体だろう天魔も、黒棒を取り出していた。

 

 

 

「……勿論、相澤先生や根津校長先生たちは知っています。これでも結構話し合ったんですよ? ……お互い、結構譲らず平行線でしたから」

 

 

 

 通路を進みながら語る──先生側の悩みは、大きかった。

 

 

 まず、『早乙女 天魔は留年生である』という点。

 

 本人に一切不備が無いとはいえ、その『経歴』が世間で快く思われることはほとんどないだろう。それが全世界に中継される体育祭の中で公開されるのは、余り良い選択とは思えない。定員20名なのに21名いることを指摘されれば、情報の公開はまず避けられないだろう。

 

 

 次いで、『どの学年で出ても何かしらの不公平が生じる』という点。

 

 天魔が在籍しているのは一年生だが、当然その実力は既に一年生の枠内にはない。雄英高校に入学して未だ二月と経っていない緑谷たちと、雄英高校がほぼ総力でバックアップした八ヶ月という黄金の期間を過ごした天魔では、どうしたって公平になるはずがないのだ。

 だからと言って、本来の二年生の部に参加すればいいのでは、という簡単な話でもない……三年生の部では逆に()()()()()()

 

 

 上記の二点。そして先立って起きた襲撃事件で明らかに天魔個人が敵視されたことを考慮すれば、天魔は体育祭に参加しないほうがいいのだが……それでは逆に、『全生徒に平等にある自己アピールの機会』が、天魔だけ失われることになってしまう。

 さらにプロヒーローたちには一年生の時のデータを各自で保管するだろうから、二年生三年生になった時、『あの生徒は誰だ!』と騒がれるだろう。そこから不要な憶測をされるのもあまりよろしくない。

 

 

 

 

 なお、夏休み前に留年したのなら、()()()()()()に出ているのではないか? ──という当然の疑問だが……答えは、『出ていない』だ。

 

 天魔の万能性が極めて高い個性『魔女』の唯一のデメリット。『一日四度の不幸』だが、その詳細は『周囲の不幸を集めて四度に振り分けられる』のである。……十万人規模の人間が集まる場所でかき集められる不幸の大きさは、猛スピードで突っ込んでくるトラックの比ではないだろう。

 

 尤も、体育祭の時点で数名の除籍処分が出ていたため、天魔一人の欠席は全く目立つことがなかったのだが。

 

 

 

 だからこそ、根津たち教師陣は悩みに悩んだ。やっと巡ってきた活躍の機会を奪いたくない。しかし、不要なレッテルを貼らせたくも無いし、生徒たちに平等にしなければならない。

 

 

 悩みに悩んだが……しかし結論が出せず。結局、体育祭二日前にして本人に『どうしたいか』と聞かなければならなかったのだ。

 

 

 

 

 

「そ、それで、カメラ……?」

 

「はい♪ 私は空を自由に飛べますし、このカメラならドローンよりもずっと鮮明に皆さんの活躍を撮れますよ。

 ──それに、本音を言うと、私、あんまり目立ちたく無いんですよ」

 

 

 そういう天魔の表情には僅かに影があったが……先頭を進んでいたお陰で、誰にも見られることはなかった。

 

 

「ヒーロー志望なのに?」

 

「ヒーロー志望なのに、です。──魔女はコッソリ影ながら、ってことで」

 

 

 ヒーロー志望なのに目立ちたがらない。ある意味特殊だが、そもそも担任がアングラ系だ。特殊なだけでおかしくはない。

 

 ──違和感は拭えないが、本人が良しとして、さらに雄英としても認めているなら緑谷たちが何を言っても今更だろう。

 やがて、通路も終わりが見え、差し込む逆光に目を細めていく。

 

 

 地面にできた光の境を目前に天魔が立ち止まり、耳のインカムに触れた。

 

 

 

「──こちら、『ウィッチマザー』。A組スタンバイ。HQのコールを待ちます。over」

 

『こちらHQ! ……く、くっはぁ、一回でいいからこーいうノリやってみたかったんだYO! 感謝するぜ『ウィッチマザー』!』

                \山田はらめぇ!/

『ふざけてないでさっさと進めろ山田。  ……早乙女も、態々馬鹿に付き合ってやらなくていいぞ。──はあ、over』

 

 

 インカムの音声が周囲設定なのか、HQ……放送席にいるプレゼントマイクとイレイザーヘッドの声が聞こえてくる。

 そのやりとりを見て、後ろの少なくない人数の男子が目を輝かせた。

 

 

 

「ウィッチマザー、魔女の母……か。十人の魔女を『子』とするなら、安易ながら今の早乙女に相応しき通り名だ」

 

「いや、本当に平行線でしたよ。ウィッチは割とすぐに決まったんですけど、その後の『ボス』とか『アルファ』とか、もう日付跨いで議論が白熱しちゃって」

 

「「「「「平行線(はなし)の内容そっちかよ!?」」」」」

 

 

 一同の揃ったツッコミを受けて、魔女は笑う。

 

 ──どこかピリついていた雰囲気は、もう、どこにもなかった。

 

 

「ふふ……さて、程よく緊張も解れましたか?

 

 ……では、たった一年ですが、お兄さんから皆さんにアドバイスです」

 

 

 

 

 

 失敗してもいい。──失敗を恐れてなにもしないよりは、ずっと。

 

 敗北してもいい。──挑むことから逃げ出してしまうよりは、ずっと。

 

 立ち止まったっていい。──進むことを諦め、後ろへ下がってしまうよりは、ずっと。

 

 

 

 

 ──『さあ、お待ちかねだろマスメディアども! なんだかんだ言って、お前らのお目当はこいつらだろぉ!?』

 

 

 

 背筋を伸ばし、胸を張り、ゆらぐことなく進み行け。未だ若き、未来の英雄たちよ。

 

 

 

 

 ──『本物の悪意と対峙し、しかし決然と立ち向かった期待の新星ッ!

 

 

    ── 一年、A組だろぉおおおお!?』

 

 

 

 

 ***

 

 

 

 大歓声が鼓膜を震わせる。その音量は押し潰してくるかのような圧力さえ持っていて、ゲートの一つから進んできた20名に容赦なく降り注いだ。

 

 ──が。

 

 

 

「……へぇ」「おいおい」「あれが期待の、ね。なるほど」

 

 

 気圧される者はなく、浮き足立つ者も、またなく。

 

 獰猛な笑みを浮かべる者。凛とした表情でただ進む者。一様に顔はそれぞれだが、足取りも姿勢も、なに一つ揺らいでいないのだ。

 

 

 期待の新星が、期待通りの……いや期待以上だったのだろう。歓声の爆発は、さらに威力を上げて降り注いだ。

 

 

 

『Yahaa! 天地揺るがすこの大歓声! オレも負けてられねぇZE! 続いて同じくヒーロー科、一年B組の入場だ!』

 

 

 

 

 

『そして普通科C、D、E組! サポート科F、G、H組! 経営科I、J、K組も入場ぉ!! ……おっとぉ、扱いが雑? 対応に差がある? って?

 

 ──有って当然! むしろ無きゃおかしい! 不満があるならのし上がれ! 不当と憤るなら上がってこい!

 我が雄英高校は開校当初から弱肉強食の実力主義! 下克上等の年次編入システムが健在だ!

 

 『Plus ULTRA(更に向こうへ)!』 世界を変えたきゃ自分で変えろ! 来年はどうなってるか、誰にもわからねぇんだからな!』

 

 

 

 熱い。熱過ぎるとさえ言えるマイクパフォーマンスは、その熱を持って会場の温度差を払拭した。

 

 

 

 そして、放送室に解説役として半ば強制的に連れて来られた相澤は、耳に栓をして忌々しそうに隣を睨んでいる。……睨むだけで、止めはしない。その言葉が間違っていないからだ。

 

 そのまま、視線を横から前……会場の、上空へ向ける。目を凝らし、カメラを担いでそこら中を飛び回っているはずの教え子を探す。

 

 探すのだが──十一人いるはずのその姿を、見つけることができなかった。カメラからの映像はちゃんとモニターに映されているので、撮っていることは間違いないのだが。

 

 

 

「……おい、早乙女。お前まさか分身状態で個性を……ッ」

 

『──大丈夫です。姿は隠してますが、『魔法は使ってません』。……まあその……また新しい分野が、開拓されてしまいましたけど』

 

 

 

 それを聞いたマイクと相澤が、座っていた椅子の背凭れに体重をかける。高校からの付き合いだからだろうか、片手で額を抑えるような仕草が見事にシンクロしていた。

 

 

「……まあ、無理してないなら、いい。──over」

 

「HAHA、諦めやがった。……いや、気持ちはすっげーわかるけどよ。なにをどうしてんのか、見当もつかねぇな」

 

「見当もつかんが……ちょっとは自粛してほしいもんだ。服やら装備やらも纏めて隠せるとか、もう完全に葉隠の上位互換じゃねぇか」

 

 

 目立たないために空を飛んで撮影係になったのだが、よくよく考えれば、同じ顔が複数人もいて空を飛びまわっていたら普通は目立つだろう。競技が始まれば観客は選手に意識を向けるだろうが、現場で活動するプロヒーローがその特異性に食いつくのは火を見るより明らかだ。

 

 

『こちら『スリーププリンセス』。もう開会式始めちゃっていいかしら? HQ』

 

 

 ──こう、眠れる森の美女的に!

 

 と、何やら興奮して自分で考案した自分のコール名をやたら推していた美術教師がいたなぁと思い出す。あと、そのコール名が満場一致で却下されたことも。

 

 

 却下された理由が、学生がマザーなのにいい歳した大人がお姫様ってどうよ、というなんとも無慈悲なものだった。

 

 

 

「……こちらHQ、開会式を始めてくれ。『ナイトクィーン』 over」

 

『overさせないわよ!? そのコール名可愛くないじゃない! 天魔ちゃんがウィッチなんだから、合わせた方がいいでしょ!?』

 

「その童話、確か魔女は悪役でしょう。早乙女が悪役になるので却下です。over」

 

「つか自分のヒーロー名の半分使ってんのにディスり過ぎんのもアレだろ。over」

 

 

 ──18禁ヒーロー『ミッドナイト』。早乙女 天魔という魔女に関わってきたからか、少女時代に抱いたヒーローとは別の憧れを思い出しているのだろう。そういうことにしておこう。

 

 

「よし、こちらHQ! 開会式と選手宣誓の撮影は『マザー』に任せ、ほかの十名は第一種目の指定撮影ポイント向かってくれ! over!」

 

『『ウィッチマザー』、了解です。over ……選手宣誓。あ、爆豪さんでしたか』

 

 

 

 

 

『せんせー。一位は俺がなる。だから精々二位を争い合ってろ雑魚モブども』

 

 

 

 歓声に負けない、二百人を超える選手一同からの大ブーイング。それを物ともせず、というか見向きもせず、カメラに向かって首を掻っ切るジェスチャーを向ける。

 当然設置された巨大モニターにドアップでそれが映し出されるのだが……十中八九、カメラを意識してはいないだろう。それを担いでいるだろう、見えないはずの魔女に向けてだ。

 

 

 マイクと相澤が先ほどと同じように額に手を当て、片や仰け反り、片や背を丸める。

 

 

「……どーしよ。今の爆豪見て『ある女』が脳裏を過ぎったんだけど」

 

「奇遇だな、俺もだよ。……やべぇな、今回の早乙女の件、誰もアイツらに連絡してないだろ」

 

「……や、やばくね? 俺やだよ? もう長距離からの狙撃連射とかやだよ?」

 

 

 

 ──硝煙とタバコ。そして、それに隠された微かな薔薇の香り。雄英高校の長い歴史の中で最たる問題児と言われた男嫌いの戦争女。

 

 

『私の位置、なんでわかったんでしょうか……あ、HQ。紅華姉さんたちのことでしたら、昨日私から連絡入れてるので大丈夫ですよ?』

 

 

 審判であるミッドナイトが、第一種目が『障害物走』であることを宣告した同時刻。放送席では静かなガッツポーズと盛大な歓声がこっそりと上がっていた。

 

 

 

 

 ─おまけ─

 

 

 

「……おい紅華。お前倉庫からなに引っ張り出し……」

 

 

 『アンチマテリアルライフル』ガチャガチャ

 

 『M134(ミニガン)』ガチャガチャ

 

 

「……ん? おー、ちょっとOHANASIにな」

 

「どこの国に攻め込むつもりだお前は。……せめて実弾はやめろ。軟性ゴム弾にしておけ」

 

「えー。……じゃあグレネードは?」

 

「スタンまで」

 

「ちっ……!」

 

 

 

 ──話は聞いたが、『納得した』とは言っていない。

 




読了ありがとうございました!

とてもとても拙い絵ですが、天魔のイメージ画がありまして……

  • 構わん。晒せ
  • イメージ崩れる。秘せ

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。